第8話 欲に満ちた僕の野望
「……あの、ウィリア君? 正気ですか?」
「はい。僕は至って正気です」
「で、ですが——」
僕は教師に1枚の紙を突き出し、教師はその紙に書かれた内容を見て酷く動揺した。
「だってね——冒険科を希望って?! あなた戦闘の経験は?」
「え〜と……棒を振り回した事があるぐらいですかね?」(嘘は言ってない)
「…………」
夢境で神器の試運転を試みてから約2ヶ月——ついに学科の選択に迫られる時期がきた。
そこで、僕は平々凡々と普通科を突き進むだけだった……が……
あろうことか必須科目を除いて、他全てで冒険を学ぶ道を選んでいた。
「あのねウィリア君——冒険者に憧れる気持ちは凄くわかるの。あなたみたいに冒険に憧れて冒険科を選択する子がいるのだけど……冒険者は命を張る仕事よ? 君は戦闘経験がまったくないのよね? それだと辛い目に合う日がきっとくるわ。もう一度よく考えてくれないかしら?」
当然、教師は猛反対だ。ド田舎から出てきたシミったれたクソガキンチョが、いきなり「冒険者に俺はなる!」と言い出したのだ。反対されるのは仕方ない。
この教師が熱血系でなくて本当によかった。「殴ってでも止めてやる!」とか暑苦しいタイプだったらどうしてたことだろうか?
ただね。これは、我ながらも愚行だと思う。それは重々承知だ。
それに、教師である彼女に心配されることは凄く嬉しいんだ。
でも……
これは、僕の野望を叶える為に仕方のないことなのだ。
それはこの2ヶ月間、よ〜く考えての答え。この選択に悔いはない。
だから……
当然、教師のこの反応は予想していた。よって、しっかりと言い訳は考えてあるのだよ。
「実は僕——将来、冒険者ギルドで働こうと考えているんです!」
「冒険者ギルドで?」
「はい!」
「……? ウィリア君——勘違いしてるのかしら? 別に冒険者ギルドで働きたいと思うのは構わないのだけど……別に、冒険科を選択しなくてもいいのよ?」
「それも分かってます」
「……では、何故——?」
「冒険者ギルドで働くなら冒険者の事は分かってないといけないと思うんです」
「……ふむ」
「冒険科で冒険者の実際を体感して、彼らが何を必要としているのかを知りたいんです。そうすれば、自ずと冒険者と向き合う姿勢が形成される。僕は学生であるうちにそれを身につけたいんです」
「なるほど……」
まぁ『嘘』である。
ただ、冒険者ギルドで働くのは少し魅力を感じるんだよな。だって……給料がいいんだもん。でも……昨今は冒険者で溢れてるし、残業が辛そうだな〜〜うん……やっぱ無し。まだ、パン屋の方がいいや。
「あくまで僕は後方支援に徹して、みんなのサポートに回ります。決して無理はしないと誓います」
「……分かりました。あなたがそこまで考えているのなら、もうとやかく言いません。ですが、無理だと感じたらすぐに相談してください。いいですね!」
「はい。分かりました」
僕がこれだけ熱弁すれば、教師の眉間の皺はすぐさまほぐれてしまった。教師の説得に、僕の向上心をアピールできる。一石二鳥の一時であった。流石は僕だ。
それで……
なんで、否定的だった冒険者の真似事に興じようかと考えたのか? だが……
ふと、思ったのだよ……
冒険者は一攫千金を狙える夢のある仕事である。
しかし……冒険者はダンジョンに足を踏み入れモンスターと戦う必要が求められる。そうして、その傍らで素材を採取し、手に入れた資源を売って儲けを出す。
でだ……これは命を張る『ハイリスク・ハイリターン』な仕事である。だから、僕は否定的だった。
だけど……
じゃあ、僕の場合は……?
彼ら(冒険者)が命を賭けて
だが、僕には【神器】がある。この力を使えば簡単にあんな初心者迷宮なんて余裕でクリアできるはず——なら、この事実を隠匿して、僕は簡単に資源を集めて売っ払えば億万長者になれるのでは? と考えついた。
そして……重要なのが、僕だけがこの事実を知っていなくてはならない。
もし仮に周りの人間が【神器】の存在に気付いてしまえば……【チュートリアルダンジョン】は文字通りの場所と成り果ててしまう。そうすれば、チュートリアルダンジョン産の資源は安く取り扱われてしまうはず。その時点で、僕の計画はパァーだ。
僕は定期的にダンジョンに足を踏み入れ資源を売り払う。そして、しばらくダラダラと惰眠を謳歌する。これの繰り返し……
これは——
「——なんと素晴らしい人生設計だろうか!!」
「…………ウィリア君?! いきなりどうしたの!!」
思わず拳を天に向けて突き出して叫んでしまったが……これが僕に芽生えた野望なのだ。
そのためにも、学園にいる内にある程度貯蓄はしたい。できれば、家ぐらいは買いたいかな?
いずれ、田舎の父さん、母さん、ついでに妹2人も呼んで、都会で家族全員で暮らすでもよし。
——うん! 素晴らしい!!
その為にも、まず……
僕は冒険科では目立たない立ち位置にいよう。神器を持ち出してしまえば、現状でも学生程度ならアリンコ同然だし、力を知られるわけにはいかない。
力をセーブして……“ジミーちゃん”でいるだけなら余裕だろう。
と……
思ったんだがな……
——ザバァアア!!——
「…………」
何故か、僕は同学生から水をぶっかけられている。
「——オイ! 貴様! 調子に乗るモンじゃないぞ田舎者がぁあ!!」
と、罵声もぶっかけられている。
大盤振る舞いだな。
「——授業1日目で……なんで、こうなった?」
さて、どうしたものか?
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