第5話 僕だけが知るチュートリアル

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


チュートリアルダンジョン!


そこは 全ての冒険者が初めに通過する冒険の始まりの場所だ。


丘に聳える教会で 女神様からの祝福『神器』を携えた冒険者は……


始まりにしては 壮大で……豪華絢爛とした城と一体化するダンジョンに 初心たる心で恐る恐ると足を踏み入れるのだ。


その頂を目指して……


ただ その目的は 冒険を知る為の通過儀礼!


チュートリアルダンジョンの頂上の先には幾千ものダンジョンがひしめき合う天空世界。


その挑戦への練習の場と言えばいいだろうか——だが 恐ることはない。


女神様から賜った『神器』の力を借りれば……


チュートリアルダンジョンなど……数日の内に攻略なんてできる。


冒険者よ——!!


本番はそこからだ——!!


さぁ〜〜天空に広がる色とりどりの迷宮へと向かうのだ!!


そこからが——真の——


冒険の始まりだ!!


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 これは、僕の知る冒険譚の一節だ。



 学園を目指して、この街に足を踏み入れてからの既視感の正体はここから始まった。


 そこに補足されたのは教師から聞かされた『女神アテナ・オリーブ様』の事実と、そんな彼女の名前が著者として記された冒険譚。


 そして『予言書』との発言——


 あの教師は荒唐無稽だと言っていたが……


 それでも、僕の頭の中にある仮説は真実である信憑性が高く、そう確信できるほどの材料は揃っていた。



 その材料の1つ——



 僕は寮の自室で勉強机に座り一本の『黒い刺突剣』を見つめていた。



「う〜〜む。普通に取り出せたよな〜〜僕の——」



 これは教会で女神の像に正しい祈りを捧げた者が授かるである。天空のダンジョンを目指す冒険者は必ず自分自身だけの神器を授かり、初めてチュートリアルダンジョンに足を踏み入れる資格を得るのである。


 僕は、心の中で「来い!」と——願うと、寮室内に突如紫紺しこんの輝きに満ちる。


 気がつくと手にしていたのが黒いレイピア——その剣にはつばが存在せず。両刃のブレードに持ち手のみと至ってシンプルな造り。色は漆黒——机の端に置かれたランプの灯りを吸収してしまってるのでは? と思えるほど黒々としていた。

 形状と合わせて見ればでかい真っ黒な裁縫針である。


 で、この武器が僕の手にあると言うことは、『神器』の存在は証明されたことになる。


 では次——システムについて調べてみよう。



「——神器情報開示……」



 と、呟く。すると……



——イエス>>>マスター>>>情報開示します。



 神器のブレードの上に文字が浮かび上がった。


 

 そこにあったのは……



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 神器所持者【ウィリア】 Lv.1


  攻撃  Lv.1 技量  Lv.1

  魔力  Lv.5 魔防  Lv.5

  速度  Lv.1 抵抗  Lv.1

  運命  Lv.1


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 と文字と数字の羅列が現れる。



 これは、僕のステータスだ。神器を獲得すれば誰しも確認可能となる己自身の能力値だと思って貰えばいい。

 僕は生まれてこの方、モンスターと戦った経験はないため、数値はほとんどが『1』である。人類は、モンスターを倒すことで内包する魔素を取り込みLv(レベル)との概念が上昇する。神器のレベル数値だが、コレは別の方法で上昇を促せる。だが、それらの説明は置いておこう。


 

 今、必要としてるのは情報の精査であって、おもちゃ(神器)を弄るのは後でいい。



 でだ……


 

 今、僕の手には神器が握られている。だが……数日前——教会を訪れた時、神父のおじぃは、まったく神器の存在を知らなかった。


 だが、冒険者は神器無しではダンジョン攻略なんてできない。それは、無手の状態で化け物が巣食う巣窟に足を踏み入れている行為であり、自殺行為に他ならない。


 しかし……冒険者は教会を訪れている形跡が伺えなかった。

 

 数日、学業の傍らこの街【大都市シルフ】の情報を調べてみたが……世は意外にも冒険者で溢れかえり、ダンジョン攻略は一大ブームとなっていた。

 だが……彼ら全員は、ダンジョンに足を踏み入れる資格(神器取得)を得ていない。これではダンジョン攻略はもちろんのこと、チュートリアルダンジョンですら攻略はできるはずがないのだが……



 ここで1つ——僕にはある仮説が生まれた。



 もしかすると、世の中の冒険者は弱すぎるが為に『チュートリアルダンジョン』を『ラストダンジョン』と勘違いしているのではないか——と……


 おそらく世の冒険者は神器の存在を知らない。それは神父の反応が物語る。


 で——事実を知ってるのは世界で僕ただ1人なのだろう。



 でも、ここでさらに……1つ疑問が残る。



 僕の幼い頃、母から読み聞かせられたあの冒険譚は一体なんだったのか……?



 これも、想像になってしまうのだが、昼間の教師の一言にその答えがありそうだと僕は感じていた。



『もし仮に——女神様が書を認めるとするなら……それはぐらいではないですかね?』



 あの冒険譚の著者にはがあった。そして、女神が認める書とはだと言う。



「…………」



 これ……事実なんじゃね? と思えてならなかった。


 いや、なんで田舎の僕の家に予言書そんなモノが有るのかは知らないが……きっと、女神様の落し物が巡り巡って僕の元に届いたのかな? 


 知らんけども……


 神は信じないたちだが、意外にも神に愛されてたって事か? 


 実に皮肉だな。


 まぁ、どうでもいいか……この世の冒険者よ。僕を恨むなよ。恨むなら神にしてくれ……





 でだ……





 この事実を知って僕はどうするべきなのか……と、その前に……



「ちょっと試してみますか」



 僕は、昼間の内に買っておいた地味なフードのローブを纏う。



 時刻は深夜であり、外は真っ暗であったが……神器を光の粒子に変え消し去ると寮の部屋を飛び出したのだ。

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