第6話 試してみましょう♪ そうしましょ!!

「で——やってきたのはここ……!」



 と言って僕が来たのは学園の一角。


 そこは、木々の生い茂る林の中。だが、突如として開けると、そこに有るのは石のゲートだ。で……この場所のことは『夢境』と言われている。


 そして、ゲートに近づくと突然、仄かな青い光がゲートを包む。深夜だからか……仄かな光源でも、すごく眩しかった。思わず僕は顔を顰めてしまう。


 すると、アーチ部分には不思議な光景が……


 今の今までそこには、奥に見える藪の暗闇だけがのぞいていたが、ゲートが青く灯るとアーチの先には石畳が伸びていた。



「——来い。神器」



 僕は神器を取り出す。紫紺の輝きと共に右手には漆黒の刺突剣が握られる。

 これを合図に、前に歩みを進め、アーチを潜る。

 気づくと僕は……石畳の通路に立っている。視界には奥へと続く通路があり、一定間隔に設えた壁に張り付く篝火によって映し出されていた。


 実にダンジョンらしい光景だ。


 

 夢境とは——いわば、小さなダンジョンである。



 ここ【学園アルクス】に入学後、驚いたことが1つある。


 実はこの学園には幾つか学科が存在するのだが。大まかには、貴族科と一般科の2つ——これは、貴族と一般市民の区別化であり、身分差は必然的に分ける必要があるため徒然の措置だ。てか、貴族と一緒になんか勉強したくないので、分けてくれた学園には感謝しかない。

 だが……その中間——そこには『冒険科』という学科が存在した。

 希望性ではあるのだが……貴族科、一般科を問わず、皆がその学科を選択することができる。そこで教わるのは戦いのノウハウとダンジョン攻略の知識だ。世は冒険者で溢れていて、ダンジョン攻略は一大ブームとなりつつある昨今——そんな学科が存在してもおかしくはないのか? と僕は凄く関心を深める結果となった存在だ。こう言うのを『今時』と言うのだろうか? と……年寄りくさい思考が僕の脳裏に巡ったのを首を降って払拭したことは記憶には新しい。


 まぁ……今、なぜその話をするのかだが……


 ここ夢境は……冒険科の学生が練習場所として利用する場所なのだ。


 出てくるモンスターはゲートを潜った者のレベルに起因する。僕はレベル1であるため、出てくるモンスターは雑魚だけで、オマケに攻撃すらしてこないだ。


 筈——と表現しているのは、僕の中にもここ夢境の知識が備わっているからで、それは当然『冒険譚』によるモノだ。


 この世の皆は知らないと思うが……この夢境には重要な役割が存在している。


 だが、今は詳細を省く……割愛。


 なぜなら……ここに来た目的は僕の能力を試すためなのだから……



「じゃあ〜〜……ゴホン! !」



 僕はレイピアを前に突き出し一言呟く。


 すると……


 剣の柄の端からは紫紺の糸が出現し、石畳に向かって垂れていく。やがてその糸は僕の影へと吸い込まれる。


 これを確認すると、右手に力を入れて上に糸を引っ張るように剣を勢いよく引き上げる。すると……影に飲まれた糸の先から、もう一本のレイピアが……それは影の中から這い出るかのように出現してみせた。


 僕は反射的にそれを左手で受け止める。


 これで左右の手にはそれぞれレイピアが握られる形となり、二刀の柄は紫紺の糸で繋がっている。


 これが僕の神器の姿——【うつろえい】である。それぞれの刺突剣の名を……右手に持つのが【うつろ】で左手の影から出現したのが【えい】と命名した。と言うより、脳裏にそうだと叩き込まれたのが正しい表現だろうか?


 

「では——準備完了! ダンジョン攻略開始だ!」



 僕は両手にあるしっかりとした感触を確かめると、通路を奥に向かって歩みを進めた。この時、不思議と恐怖は感じず足取りは軽い。むしろ、僕はワクワクさえしていたんだよ。


 しばらく道なりに通路を進む。途中通路は湾曲こそしていたが、分かれ道は存在せず一本道だった。


 やがて……



「——通路を出る? う〜ん……広い空間……」



 空間が開けた。天井が高く、幾つもの石の支柱が規則的に並ぶ空間に出た。


 で……そこには……



『ポヨッポヨッポヨッポヨ♪』



 緑色の流線的な形を維持する生き物が居た。スライムというモンスターだ。


 ざっと見ただけで、この広い空間には4匹のスライムの姿がある。

 内、2匹は今まさに僕の前を横切って行った。襲ってくることもせず、こちらを完全無視する構えだ。



「——さて、早速実験開始か〜〜。ごめんよ。お前らに恨みはないんだ」



 とりあえず、目の前を横切った1匹に「えい!」っと掛け声……『虚』を突き刺してみる。そこは『影』で刺すところじゃないかと思ったそこの君——! それはオヤジ臭いので、その考えは払拭した方が身のためだ。もっと、若々しくアグレッシブにヤングな心を忘れるな!! っと……心の中で僕は一体誰に話ているのか疑問だが……そんなことは、どうでもいいか……


 で……肝心のスライムだが……



『ピギャア!?』



 断末魔の叫びをあげて蒸発した。その声はまるで『やられた!』とでも言うかのようだ。



「もひとつおまけに……えい!」

『——プギャ!!(無念!!)』



 そして、隣の奴にも同じく突き刺す。また蒸発した。


 うん——雑魚だ。


 そして、スライムが居た地点には一粒の煌めく石が……とりあえず、拾ってポケットに詰めておいた。



「じゃあ。次はあの遠くの2匹」



 ついで、遠くを見据える。大体10メートルぐらい先にはもう2匹のスライム。


 

「——投擲!!」



 僕は虚をスライムへと投げる。すると……



『——グギャ!?《なんですと!?》』



 見事に命中——流石は僕である。


 では……続けて……



「——スキル発動! 虚影!」



 頭の中に想起される単語を呟く。すると……身体がふわッと浮いた気がした。気がつくと、僕の身体は投げたはずの『虚』の目の前に瞬間移動していた。


 そして……



「——刺突!!」



 僕は近くに居たスライムの最後の1匹に『影』を突き刺す。

 


 

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