第4話 既視感の正体
あれから数日が経った。
教会を後にした僕は、何とか閉門までには学園に間に合い、そのまま入学手続きを済ませた。
で——今は……
「そして、教会は女神アテナ様を祀り……各地には……」
教室で授業を受けている。聞いてわかる通り『歴史』と『宗教』にまつわる授業を聞かされている。
が——僕は、特に辛抱する神などいないので、人生において一番無駄な時間を過ごしている気分である。
だが……
数日前に抱えた既視感についてだが……1つ気づいたことがある。
「……それでは、ここまでで分からない点がある生徒は居ますか?」
「は〜い! センセ〜〜!」
「……! はい、ウィリア君——何でしょう?」
「ウィリア……君??」
「……? どうかしましたか?」
「…………いえ、何でもありません」
僕は、その答えを聞き出すために挙手をして教師に質問を投げ掛ける。
「あの……アテナ・オリーブの名前ってご存知でしょうか?」
「あら? その名前をどこで?」
「ちょっと昔本で……」
そう、僕が気になっていたのは、教会のおじぃの会話の時点から気になってた。
——女神アテナ様——
についてだ。
僕は、『女神』と言う大多数の人類が崇めている神の存在は知っていたが……正式な名前までは知らなかった。だって、僕の暮らしてた場所は“超”のつくド田舎だよ? 神への信仰が例え大事だったとしても、そんなものにお祈りを捧げているほど、ド田舎の人間は暇じゃないんだ。そもそも興味もなかった。
村には一応小さく簡素な教会モドキは存在したが、あんな掘立小屋を教会だと思う奴なんておらず、第一……僕もあんなのに近づくつもりは毛頭なかった。
それに、僕の父、母、さらに妹2人からも……神についての話題に花を咲かす機会もなかったしな。神について知る機会なんてなかったんだよ(だから、こうして勉強してるんだけど)。
補足だが……妹達には“超”がつくほど嫌われていた。特に何かしたわけでもないんだけどな……?
と——僕の昔話はさておくとして……
今は女神の話だ。
僕は「アテナ」との名前を聞いた瞬間から既視感に襲われていた。で——数日そのことを考えて思い出したのだよ。
僕は、この名前を知っていた事を……
「アテナ・オリーブ……それは女神様の
「——真名?」
「ええ……大昔、女神様はアテナ・オリーブと呼ばれていました。詳細は省きますが歴史が移りゆく過程で“オリーブ”の部分が呼ばれなくなり、“女神アテナ様”と呼ばれるようになったのです。ウィリア君——こんな一般に知られない女神様の『真名』を知っているなんて良く勉強してますね」
「い、いえ……それほどでもありません」
「皆さん——ウィリア君を見習うように!」
オイ——別の生徒を煽んなや! ただでさえ『田舎者』って肩身狭いのに。余計な事しやがって——この教師……
だが……おかげで、僕の疑問が1つ解消した。少しはスッキリだ。しかし、同時にもう一つ疑問が生まれた瞬間でもあるんだよな。
その時——
——ゴォ〜〜ン!! ゴォ〜〜ン!!
空気を震撼させる大きな鐘の音。
これは、丘の上の教会から響いてくるモノだ。しかし、これは街の人々の時間指標であると同時——学園の授業の終わりを告げる合図でもあった。
「では皆さん——歴史の授業はここまで! 次の授業に遅れないようにしてくださいね」
「「「「は〜〜い」」」」
そして……
教師は教卓に並べた本をひとまとめにすると、脇に抱えて教室の扉に向かう。
「あの……先生!」
「——ッ!? 何でしょうウィリア君? まだ何か?」
僕は、彼女がこの場を後にする前に駆け寄って声をかけた。
「もう一つ質問が……」
「あら、勉強熱心なのね? この場ですぐ答えられるモノだったら聞くけど……」
ここまで急いで質問を畳み掛けるのは、僕の既視感と好奇心が関係してる。このままではモヤモヤして頭の中が気持ち悪いのだ。
それに……今からの質問が一番重要なのである。
「先生はアテナ・オリーブ著者の冒険譚をご存知ですか?」
「…………?」
最初の僕の質問にも関わってくるのだが、僕が抱えた既視感の正体——それは昔、母から読み聞かせられた冒険譚——しかし、今気になっているのは物語の内容より……著者の名前だ。
そこには……
【光の冒険譚】 著者 アテナ・オリーブ
と、あった事を思い出していたのだよ。
気づくと、僕は堪らずこれを質問していた。
「…………聞いた事ないですね」
「……え?!」
「女神様の冒険譚ですか〜〜興味のそそられるお話ですが……女神様が本を書く? 荒唐無稽としか思えませんね」
「実は……小さい頃、アテナ・オリーブ著者の冒険譚を母から読み聞かせられたことがあって……」
「それは……記憶違いってことは?」
「——えっと……それは……」
「ただ、仮にそんな本があったとしたら、話題作りの為に女神様の名前を使ったと言う可能性はありませんか?」
「——え、でも……」
イヤ——そんな筈は……! だって……実際僕は神器を……!?
「もし仮に——女神様が書を認めるとするなら……それは預言書ぐらいではないですかね?」
「——ッ!? よげんしょ?」
「では……ウィリア君? これぐらいでいいですか? 私はもういきますね?」
そして、先生は踵を返して教室を後にした。
「——よげんしょ……」
ただ、僕はしばらく放心状態でこれを呟いていた。
真実はどうあれ……既視感と虚構の物語が、より真実である確信が……
僕の中で増えた。
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