第12話

 翌日。


「いつになったら、あおちゃんのところにいくの」


 ぼくはてんこちゃんに言った。


 昨日のてんこちゃんは、


「明日になったら、教えるのじゃ」


 といって、わかったことをぼくには教えてくれなかった。うどん屋さんに行って、きつねうどんを食べ、ぼくのベッドをうばってもなお。


 朝になっても、てんこちゃんは何も教えてくれない。焼き油揚げを出したんだけど、何も言ってくれない。


「30点じゃ」


 とぼくができる最大限の料理――シンプルに焼く――に赤点ギリギリの点数をつけることしかしなかった。


「なんで教えてくれないの」


「うるさいのう……夕方になったら教えると言ったではないか」


「今教えてよ」


「イヤじゃ。いまは英気えいきやしないたいのじゃ。ちょっとでもつかれたくないのじゃ」


 なにか夕方にでも疲れることがあるような言い方。休日を前にしたお父さんのような口ぶりに、ちょっとムカつく。


 なんにも説明しないで、ぼくを追っぱらおうとしているような気がした。


 ソファに横になったてんこちゃんは、目をじ、もう眠りについている。


「食べてすぐ寝たら、ウシになるよ」


「わらわはキツネじゃから平気じゃよ……」


 なんて寝言みたいなことを――いや、寝てるんだからホントに寝言だった。


 とにかく、ぼくはもんもんとしながら、日曜日を過ごすこととなった。もちろん、あおちゃんのこと(もちろん居場所だよ)が気になって、宿題なんてできなかった。


 やっとのことで、午後3時になった。


「てんこちゃん、起きて。てんこちゃん」


 その間、てんこちゃんはずっと眠っていた。食い意地いじはってそうだったのに、本当に元気とかやる気とかをチャージしていたのかも。


 ぼくが肩をなんども揺さぶってようやく、神様の目がパチリと開いた。


「もう時間なのじゃか……?」


「うん」


 わかったのじゃ、とてんこちゃんは寝ぼけまなこをこすりながら、体を起こした。






「ぼく、何もわからないんだけど。どこにいくつもり……?」


「どこでもいいのじゃ。ただし、ゴミ収集車が向かう行き止まりにかぎるが」


 言われた通りに、ぼくは行き止まりへ向かうことにする。といっても、ぼくが知ってるところは少ない。


 というか昨日行った、あおちゃんがいなくなったタナゴ公園の近くか、おばあちゃんの息子さんがくなった場所くらいだ。


「じゃ、タナゴ公園の方に行くけど……いいよね?」


「ああ。わらわもそっちがいいと思うのじゃ。おばあちゃんの御子息むすこが亡くなった場所よりもずっと」


「どういうこと?」


「わからないならいい。ほら、いくぞ、間に合わなくなってしまうからの」


「間に合わないってなにに」


 疑問がどんどん出てきて、ぼくばっかり質問している。とにかく一度説明してほしいんだけど。


 そんな顔をぼくはしていたのかもしれない。てんこちゃんはウィンクして、


「歩きながらするのじゃ。だからとっとと歩くのじゃ」

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