第11話
お
おばあちゃんはタクシーを呼ぼうとしてくれたんだけど、家は近いですから、といってえんりょした。
そうするように言ったのは、ほかでもないてんこちゃんだった。
「どうして意外そうな顔してる」
「や、だってこういうとき、タクシーに乗りたそうだなーって」
「なんじゃそりゃ。もしや、わらわをナマケモノかなんかだと思っておるな?」
ぼくは木の枝にぶら下がって動かないてんこちゃんを想像して、思わず笑いそうになった。
次の
「めっちゃ痛い……」
「神様をバカにするからじゃ」
プリプリとおおまたで先を歩くてんこちゃん。
ぼくたちはもう夜になりかけている
「今日はなに食べる?」
「当然、きつねうどんじゃ。が……」
「どうかしたの」
「それよりも、おばあちゃんが言っていた場所に行くのがいいのではないかと思ってな」
「こんな時間に?」
「こんな時間だからこそ、なにか『出る』んじゃないか」
出る。
なにがどうやって出てくるのか、てんこちゃんは教えてくれなかった。
でも、なんだかイヤな予感がするのは、いつもよりもはだ寒いからかもしれない。
おばあちゃんの息子さんが
ネットのようなあみあみの道路、明るくてにぎやかな光を放つ
「ここが……」
そこは行き止まりだった。
包みこまれるような
暗いのは、家族の声が聞こえないだけじゃないような気がした。
ぼくはスマホをつける。画面の光をマックスにしても、消すことのできない闇。
その濃いくらやみへと、てんこちゃんが歩く。ついていこうとしたら、
「おぬしはそこにおるのじゃ」
「なんで……」
返事はなかった。
でも、てんこちゃんの声は、怒ったときのおかあさんみたいに、冷たくて、どきりとした。ぼくは動けなかった。
それでもスマホの光を暗がりへ向けてみる。
奥の方に
「あっ、ゴミを入れるやつだ」
でも、その『ゴミ箱』は今は使われていないように見えた。穴が開いている場所があったし、かなり前のものなんじゃないかな。
――ゴミ収集車に巻き込まれた。
おばあちゃんの言葉が、頭の中をはしっていく。ここが、あのおばあちゃんの息子さんがなくなった場所にまちがいない。
「なにかみつけたー?」
かすかにみえる、しろい服にぼくは呼びかける。てんこちゃんは、闇のなかを行ったり来たりしたかと思えば、しゃがみこんで。
「ああ、来てもいいぞ」
と言った。
ぼくは待ってましたと、てんこちゃんのもとへ。
となりに立って、てんこちゃんが見ているものを、ぼくもみる。
道路のはしっこ、金網の根元に花が置かれていた。キクの花だ。
「これ、おばあちゃんがもってた……?」
「ああ。ここが、あの方の
てんこちゃんは、お供え物に手を合わせている。ぼくもそれを真似することにする。
「さて」
すこしの間、目を閉じて動かなかったてんこちゃんが、ゆっくりと立ち上がる。そして、周囲を見回している。
彼女の目は、
「よくない空気がするのう」
「い、いきなりなんですか。ぼくをおどかそうったって」
「いやいや、わらわは本気でいっておるのじゃ。ここにはなにかがいる」
感じないのか、とてんこちゃんが言った。
ぼくはおそるおそるあたりを見回す。
なにもない、のっぺりとしたペンキのような闇がぬりたくられている。
「やっぱりなにもないよ」
「ふうん。おぬしは、
「れいかん……」
「幽霊とか見たことないのか」
「神様なら、今現在進行形で見てるけど……」
「今のわらわは、ありとあらゆる人の子の前に、すがたをあらわしておるからの」
「……わかったようなわからなかったような」
「とにかくじゃ」と、てんこちゃんは静かにいった。「わらわにはすべてわかったぞ」
「すべてって」
「なぜこどもたちが行方不明になったのか。そして、おぬしの友がどこに行ってしまったのかも、な」
そう言って、自信ありげに笑うてんこちゃんを、雲から顔を出した月が照らした。
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