第7話

 あおちゃんのおかあさんが話してくれたことは、この神谷木かみやぎ市という街で、起きている『小中学生連続行方不明事件』(おとうさんがそう言っていた)についてのこと。


 もちろん、だれにも話しちゃいけない。警察のトップシークレットだし、テレビでも放送されていないことだから。


「あおちゃんがいなくなったのは、3日前のことでね」


 ぼくはうなづく。その日は、あおちゃんに遊ぼうとさそわれた日でもある。だけど、お父さんとお母さんがひさしぶりにお仕事がお休みで、ご飯を食べに行くことになっていた。それで、いっしょに遊べなかったんだ。


 こんなことなら……と思わないでもない。今さら後悔こうかいしたって意味はないんだけどさ。


 やっぱり、そう思わずにはいられないんだ。


「夕方、あそびに行ったっきり、帰ってこなかったの」


「どこで遊んでたとか、言ってなかったのじゃか?」


 てんこちゃんが質問する。2つのグラスはとっくに空になっていた。飲むの早すぎない……?


「公園に行くって書置きがあったのね。それで警察のかたが調べたら、その公園で遊んでいるところを目撃もくげきされたのが最後で」


 ぼくは、あおちゃんのおかあさんに、その場所を教えてもらう。神谷木市のはずれもはずれにあるタナゴ公園だった。


 その公園のことなら、ぼくにもわかる。でも、ひとりで遊ぶにはさびしいところな気がする。ブランコと鉄棒てつぼうくらいしかないし。


 それに、なんであおちゃんはそんなところへ……? 近くには、すべり台とかシーソーとかたくさんある公園があるのに。あんなちいさなところにわざわざ。


 そんなことを考えていたぼくは、あおちゃんのおかあさんが涙ぐんでいるのに、すぐ気がつかなかった。


「……ごめんなさいね。ゆうくんの前でこんな姿見せちゃって」


「え、っと。ぼく、見つけますからっ!」


 思わず言っちゃった。あおちゃんの居場所がわかってるわけでもないのに。


 ――でも、ぜったい見つけたいよ。いなくなったままだなんて、あおちゃんのおかあさんがかわいそうだし。ぼくだって、ツラい。






「おぬし、なかなかやるではないか」


 あおちゃんちを出てすぐ、てんこちゃんがそう言った。


「なんのこと?」


「あの人に言った言葉じゃ。よういうた」


 さっきのことをあらためて思いかえすと、ちょっと照れくさい。


 かあっと顔が熱くなる。空からふってくる真夏のひざしのせいかな、きっとそうに違いない。


「別に……本心だし」


「もしやおぬし、そのあおちゃんとやらを――」


「あーあー聞こえない聞こえない」


「かくすの下手へたか」


 ぼくは、てんこちゃんを置きざりにして歩きはじめる。


 背後からは「すきなのか、すきなのか」という声が右に左に聞こえてくる。意識しないようにしたいんだけど、無理だ。この神様の声、頭の中にめっちゃよくひびく。


「ああもうっ黙ってくださいよ! 好きでなにか悪いんです」


「いや、むしろ、いいのじゃ。応援したくなるのじゃ」


「……本当に?」


「本当じゃ」


「からかいたいだけじゃなくて?」


「…………そんなわけないじゃろう。なにいってるんだか」


「こえ、ふるえてますけど」


「とにかく行くぞ!」


 大声を張りあげて、てんこちゃんがあるきはじめる。午前9時の街に、女の子の声がひびきわたった。ホホーホッホーと鳴いていたハトがあわてたように飛んでいく。


「どこ行くんですかっ」


「もちろん、おぬしの友がいなくなった公園じゃ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る