第6話
「はー立派な門がまえじゃのう」
あおちゃんちを見て、てんこちゃんが言った。
ぼくたちの前には、おおきなカギのついた白っぽい木でできた扉がある。その上には、お寺で見るようなおおきな屋根。
その屋根からは、鎖のみたいなものが下がってるけど、これにぶら下がるためのものじゃない。のぼろうとして怒られたことがあるから、まちがいない。
門の横には『天野』と書かれたカマボコ板よりぶあつい表札がかけられている。その隣にインターホンがあった。
ピンポーン。
「はい、天野ですけど」
女性の声が聞こえてきた。どことなく暗くて、疲れたような声だったけれども、それはあおちゃんのお母さんの声にちがいなかった。
「えっと、ゆうです。学校のプリントを持ってきました」
「ああ、ゆうくんね」
ちょっと待っててね、という声とともに、ブツンとインターホンが切れる。
まもなく、木の
「な、なんじゃこりゃ。
「いや、オートロックだよ」
「知らぬ間に人間も進歩しておるの」
「いつまでも門を見てないで、危ないし。ほらいくよ」
門を抜けると、
もちろん、今日はくーちゃんにエサをあげに来たわけではない。
道をまっすぐに進んで、建物へちかづく。その大きな家の玄関の扉には、先ほどとおなじインターホンがある。ぼくが押すと、はーい、という声がして、パタパタと足音がやってきた。
扉が開く。あおちゃんのお母さんが、ぼくたちを出むかえた。
「こんな暑い中に、わざわざありがとうね」
ぼくはちいさく頭を下げる。
持ってきたプリントは、すでに手わたしている。
いや、この場にいるのがぼく1人だったら、それでも家に上がらなかったかもしれない。あおちゃんがいなくなっている今、おかあさんもたいへんに違いないから。
でも。
ぼくはとなりのてんこちゃんを見る。てんこちゃんは、出されたサイダーをゴクゴク飲んでいた。大仕事を終えたお父さんみたいな飲みっぷりだ。
てんこちゃんは、あおちゃんのお母さんの気持ちちっとも考えていない。たぶん、いやきっとそうにちがいない。ジュースと聞いて、ネコみたいにそわそわしはじめたし、絶対そうだ。
「……本当にごめんなさい」
「ううん、むしろそんなに勢いよく飲んでもらえると、出した私もうれしくなっちゃうわ」
「あはは……」
てんこちゃんは、ほれみろ、と言わんばかりに得意げな顔していた。見ているだけで、ため息が
「それより、はじめて見る子だね。この辺の子じゃなさそうだけど」
あ、マズい。
てんこちゃんのこと、どう説明したらいいんだろう。まさか、神様だなんて言えないし、だからといって彼女だって思われたくはない。
ぼくはちょっと考えて、
「
てんこちゃんのネコみたいな目が、ふしゃーっと
そんな彼女の前に、ぼくは自分の分のサイダーを押す。
「ぼく、のどかわいてないからいいよ」
「本当かっ」
ぼくがうなづけば、てんこちゃんは目をサイダーのバチバチなみにかがやかせたかと思えば、ゴクゴク飲みはじめる。神様は虫歯とか病気にならないんだろうか、ちょっと心配だ……。
でもまあ、なんとかてんこちゃんの気をそらすことができた。
あおちゃんのおかあさんは、両手でグラスを抱えるようにして飲んでいるてんこちゃんをいつくしむように見つめていた。
そんなときに、あおちゃんのことを聞くのはどうかと思った。でも、気になった。数少ないともだちだし、それに――。
「あおちゃんは、み、見つかった?」
あおちゃんのおかあさんの表情がサッとくもった。それだけで、どうだったかわかってしまった。
「それがね、警察の人にも相談したんだけど、まだ見つからないみたいなの。ほかにも10人以上いなくなっているらしくて……」
言って、口に手を当てる。
「あ……あんまり話してはいけないんだったわ。でも、ゆうくんのご両親は警察官だったから、まあ少しくらいならいいわよね」
「うん、だれにも言わない」
もちろん、誰かに話すつもりもなかった。別に、友達がいないわけじゃない。いや本当に。
それよりも心配なのは、てんこちゃんのこと。言いふらしたりしそうだなって思って、僕はてんこちゃんを見た。意外と真面目な顔をしていたから、びっくり。
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