魔王と勇者と幹部共⑨

 まぁそれはともかくとして、闇魔ロルデウスとは元来こういう性格なのだ。


 普段はお茶らけている様に見えるが、それはあくまで外面だけの話で、中身は非常に内気ないわゆる陰キャなのである。

 そのくせよく幹部達(主にルルヴィゴール)に口喧嘩を挑んでは返り討ちにあっているのがよくわからないのだが。

 まだ子供なのにたまに鋭い指摘が飛んでくるのは、今のように頭の中で色々なことを考えているからだろう。


 その豹変ぶりにエリスもさすがに引いていたが、そこはやっぱりエリスだった。


 未だぶつぶつ言っているロルデウスの肩に手を置くと、優しく声をかける。


「大丈夫ですよ、ロルちゃんさん。魔王様がロルちゃんさんを必要ないだなんてこと、思っているはずがありません」


「そ、そっかなぁ?でも、さっきエリっちが言ってたみたいに、まおーさま、ロルちゃんが部屋に入るの嫌がってる気がするの」


 鋭いな……。

 痛いところを突かれて若干心が苦しくなってしまう。

 しかも、


「そんなことありません。魔王様は優しいですから、ちゃんとお話しすれば、部屋に入っていることを知っても笑って許してくれますよ」


 なんてことをエリスが何の疑いもなく言うものだから、罪悪感が増し増しになってしまった。

 勝手に部屋に入られてるのは俺なんだけどな……。


 にっこり笑うエリスにつられるように、ロルデウスも笑顔を取り戻す。


「そ、そうだよねぇ!あっは!ロルちゃんったら、ちょっと考えすぎてたみたーい!ありがと!エリっち!」


「どういたしまして」


 笑い合う二人。

 平和な世界がここにあった。


 流れ的にお開きになるのかと思われたその時――。


「じゃあー、こーこのうれいもなくなったことだしぃ、まおーさまの部屋にれっつ&ごー!」


「だ、ダメですよ!れっつ&ごーしちゃダメです!」


「なぁにぃエリっち。まおーさまがロルちゃんのこときらいにならないっていったのはエリっちだよまさかうそだったのほんとうはまおーさまはロルちゃんのこときらいだってしってるのにこのばをしのごうとしてうそついたのあぁもういきてるのつらいしんどいまおーさまにきらわれたらロルちゃんもういきてるかちもないんだそうだそうにきまってる」


「違います違います!そうじゃないですから!落ち着いてください!」


「なぁんだやっぱり違うんじゃん!それじゃあ改めてぇ――ぷりーず・へるぷ・みー!」


 意味がわからん……。 


 しゃがみこんだロルデウスが扉の下の隙間に指を差し入れると、まるで部屋の中に吸い込まれるように姿を消した。


「えぇ!?ロ、ロルちゃんさん!?どこに行ったんですか!?」


 驚くエリスの問いに、部屋の中から返事が返ってくる。


「ほぉらぁ!エリっちも早くぅ!まおーさまのベッド、ばうんばうんで面白いんだよぉ!ぎっしぎっしぎっしぎっし!」


 最近やたらと軋むなと思ってたらお前のせいだったのかロルデウス……!

 初めて自分で材料から切り出して作った思い入れのある『お気に』なんだぞ……!


 駄目だ。

 勝手に部屋に入っているくらいなら許せるが、これはさすがに見過ごせない。 


「は、早くって言われても……そもそも、ロルちゃんさんは一体どうやって中に……」


「ロルデウスは存在が闇そのものだからな。少しでも暗い所があれば触れるだけで移動できるんだ」


「が、ガロンさん?いつの間にそこに――って、あ!いえ!これは!違うんです!わたしはガロンさんの部屋に入ってみたいなぁなんてことは全然、少しも、これっぽっちも思ってないですから!ほんとですよ!?」


 それはそれで『何が嬉しくて魔王の部屋なんかに入りたいと思うか!ボケ!』と言われているようで若干ショックな気がしないでもないが……今は置いておこう。

 今はベッドを破壊しようとしている不法侵入者への制裁の方が先だ。


「どうしたのぉエリっち!来ないならテストは不合格になっちゃうよぉ?」


「ほう?それは一体どんなテストなんだロルデウス。我にも教えてくれないか」


「……………………」


 一瞬で静かになる部屋の中。

 物音ひとつどころか息遣いすら聞こえない。

 まぁ悪戯を見つかった上、勝手に人の部屋の中に入っているというのもあって焦りは相当なものだろう。


 しかし、あまりロルデウスを責めすぎると後が大変だからな。

 前にも別件で叱ったことがあるが、さっきのような『独り言ぶつぶつモード』が一か月以上も続いた時はさすがにどうしようかと思った。

 かといってあまり奔放にさせすぎるのもどうかと思うし……難しい所だ。


「わかった。ロルデウスよ。今すぐに出てきて、自分が何をしたのか正直に告白し謝罪すれば許――」


 言い切る前に部屋の中から出て来たロルデウスは、流れるような動作で額を地面に擦り付けて言った。

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