魔王と勇者と幹部共⑧
「はいはーい!次はロルちゃんのばーん!ロルちゃんのはデルちゃんみたいに甘くないから覚悟してねぇ?」
「は、はい!頑張ります!」
「あっは!いい返事!まるで王国騎士団みたいな感じだねぇ!」
「え!?あ、そ、そうなんですねー!」
みたいな感じも何もまさに王国騎士団のそれなんだが……というかなんで幹部達は返事を聞いただけで王国騎士団みたいだなんてわかるんだろう。
デルゼファーもそうだったが、実はエリスの正体に気付いているのに気づいてない振りしてるだけなんじゃないだろうな……。
ロルデウスのテストはどうやら魔王城内で行うらしいのだが、『魔王様にはぁ、ちょっとぉ、お見せ出来ないといいますかぁ』と言われてやんわり見学をお断りされてしまった。
とはいえエリスを一人にしておくのはあまりにも心配すぎるので、透明化してついて来たのだが――。
しばらく歩いて行くと、とある部屋の前に辿り着いた。
扉の前で振り返ると、ロルデウスは両手を広げて元気よく宣言する。
「じゃんじゃじゃーん!ここがロルちゃんのテストをする場所でぇす!」
「ここは……」
扉に掲げられたプレートには、大きく『魔王デスヘルガロン私室』と書かれていた。
俺の部屋じゃねぇか。
「あの、ロルデウスさん」
「あっは!ロルちゃんでいいよぉ!」
「それじゃあ……ロルちゃんさん」
「なぁにぃ?」
「ここってその……魔王様のお部屋ですよね?」
「そーだよぉ?」
「さすがに許可も取らずにこの中でテストをするというのは失礼なんじゃ……」
するとロルデウスはなんてことないように軽い口調で言った。
「だいじょーぶだいじょーぶ!テストはまおーさまの部屋の中でやるんじゃなくってぇ……まおーさまの部屋に入るためのものだから!」
どういうことだろう。
全く意味がわからない。
どうやらエリスも同じだったらしく、首を傾けていた。
「それじゃあロルちゃんのテストの中身を発表しまぁす!やることはとっても簡単!鍵がかかったまおーさまの部屋にうまーく忍び込むだけでぇす!」
大問題じゃねぇか。
そりゃ俺についてこられたら困るわけだ。
ていうか何のためのテストなんだこれは。どこで使うんだその技術。
当然のようにエリスは反対の意思を表明する。
「だ、ダメですよ!そんなことしたら!」
「えー?どーしてー?」
「どうしてって……勝手に自分の部屋に入られるのは嫌じゃありませんか?」
「そーお?ロルちゃんの部屋に魔王様がいても全然イヤじゃないけどなぁ?」
俺は普通に嫌だが。
鍵をかけたはずの部屋に誰かいるとかただの恐怖体験でしかないだろう。
その辺の怪談よりも普通に怖いと思う。
「エリっちはイヤなのぉ?」
「わ、わたしですか?わたしは……えぇっと……その……。…………」
何か言ってくれ。
それ見たことかと言わんばかりに笑顔を輝かせると、ロルデウスが茶化すように言った。
「ほらほらぁ、ぜーんぜんイヤじゃないでしょ?スキな人だったら全然気になんかならないの!」
それを聞いた途端罪悪感が胸に去来する。
いや、俺は別にロルデウスが嫌いだから部屋にいてほしくないわけではなく、誰がいても嫌なのであって――って違う。
冷静になれデスヘルガロン。
そもそも勝手に部屋に入っていること自体おかしい行為なのだ。
騙されてはいけない。
「で、でも、やっぱり駄目ですよ!」
「なぁに?もしかしてエリっち、まおーさまがロルちゃんのことキライだって言いたいのぉ?キライだから部屋に入れたくないってぇ?」
「そういうわけじゃないですけど……」
「ふぅん、そっかぁ……」
すると、ロルデウスの纏う空気が突然異質なものに変わった。
能天気そうだった笑みはにへっとした暗く濁ったものに変わり、足元の影から何やら怨嗟めいたものがゆらゆらと立ち上り始める。
それからぶつぶつと呟きにも似た言葉を垂れ流し始めた。
「まおーさまがロルちゃんのことキライなんてあるはずないんだよだってロルちゃんはまおーさまのおやくにたってるはずだしたたなきゃいけないのでもぜんぜんおやくにたてていないつまりひつようとされていないいつすてられててしまってもおかしくないなんならすでにすてられているのにきづていないだけでロルちゃんのそんざいはまおーさまのなかでなかったことになっているかもしれないだからこうしてロルちゃんはたまにこのへやにはいることでいきてるんだっていうことをじっかんしてまおーさまのおやくにたとうがんばろうっていうけついをあらたにするのそうすることでなんとかロルちゃんはじがをたもっていられるんだよわかるかなぁこのきもちわからないよねぇだってエリっちはまおーさまにきにいられてるんだもんねあははうらやましいねぇ」
怖い怖い怖い怖い。
言っていることから何から全部怖い。
ていうかたまに部屋に入るってなんだ。
今日が初めてじゃないのかよ。
全く気付いてなかったんだけど。
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