魔王と勇者と幹部共④
そんなロルデウスに、ルルヴィゴールが険しい顔を向けた。
「ロルデウス。まさかとは思うけどあなた、魔王様のことを疑っているの?魔王様が自分の意思で人族を招き、自ら椅子とテーブルを準備し、お茶とお茶菓子まで用意して、楽しい小話に華を咲かせていたんじゃないかと、そんなことを思っているんじゃあないでしょうね?」
まさにその通りなのだが、なぜそこまで考えることができるのにあえて間違えてしまうのか。
「え、あ、いや、べべ別にそう言うわけじゃぁ……」
言葉でじわじわ追い詰めてくるルルヴィゴールから逃げるように背を向けると、ガルゼブブの胸の中に飛び込むロルデウス。
「が、ガルっちぃ!胸デカ冷血雪女がイジメてくるよぉ!」
「誰が尻デカ性悪糞女ですって!?」
「まぁまぁ、ルルヴィゴール。落ち着いてください。いいではありませんか。ロルデウスにも、悪気はまったくないのですから。それに、人族がこのような場所に迷い込むことはない、という意見は、至極もっともなものだと、わたくしも思いますよ」
ロルデウスの頭を優しく撫でつけながら言うガルゼブブに、デルゼファーが口を挟む。
「それじゃあ何か?ガルゼブブは魔王様が自分で人族を招き入れたって言いてぇのか?」
「そうではありません。何か、もっと別の、特別な理由があるのではないでしょうか」
バチバチにやり合う幹部達。
それにしても、どうして予想ばっかりして俺に直接聞いてこないんだろう。
疎外感あって結構寂しい。
まぁ魔族達の前ではボロが出ないようあまり喋らないようにしているので聞きにくいのかもしれないが。
すると、ガルゼブブが目をうっすらと細めて、エリスのことをじっと見つめる。
「あ、あの、わたしは……」
わたわたと慌てるエリスをゆっくりと眺めた後、
「なるほど、なるほど。そういうことですか」
と、妙に意味深な言葉を口にした。
まさか見ただけで何かわかるとも思えないが、得心に至る何かをガルゼブブは見つけたらしい。
さすがにエリスが勇者だなんてことがわかるわけもないだろうが……なんだか凄く不安だ。
ガルゼブブは幹部の中では最も穏やかで親しみやすいタイプだが、時折何を考えているのかわからないところ――というか、心を見透かしたような言動をすることがあってちょっと怖かったりする。
前にトイレの紙がなくて困っていたところをガルゼブブが突拍子もなく届けに来たときはさすがに肝が冷えた。
本人はなんとなくわかったとか言っていたが、どこまで本心なのか読めないところもまた、ガルゼブブの不思議さに拍車をかけているところだ。
ガルゼブブはエリスの前に両ひざをついて座ると、優しく語りかけた。
「わたくしは、魔王様の忠実なるしもべ、光魔ガルゼブブと申します。あなた様のお名前を、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
まさか普通に話しかけてくるとは思っていなかったのか、エリスは焦りながら答えた。
「は、はい。わたしはエリ――じゃなくて!あっ、エ、エリィです!エリィと言います!」
エリス……!焦っているのはわかるがもうちょっと捻れなかったのか……!
割とまんまだぞ……!似合ってるけど……!
しかし、ガルゼブブは特に気にした様子もなくうんうんと頷くだけだった。
「エリィ様。ええ、ええ。とても、可愛らしいお名前ですね。よろしくお願いいたします」
「名前なんて聞いてどうするつもり?」
「どうするも何も、これから、我らと共に働く同志の名前を知ることは、当然のことではありませんか」
「「「「「共に働く?」」」」」
ガルゼブブを除いた五人全員の声が重なった。
「ま、待ちなさいガルゼブブ!人族と一緒に働くなんて、一体何を考えているの!?そんなことできるわけないでしょう!?」
「わからないのですか?ルルヴィゴール。魔王様の、深く、気高い、慈愛の心が……」
何それ。
ガルゼブブは一体何を言ってるんだろう。
困惑しか浮かんでないよ今の俺の心には。
「慈愛の、心……?ま、まさか……!?」
しかし、ルルヴィゴールには心当たりがあったらしく、またもやはっとした顔をしていた。
絶対わかってないと思う。
「そ、そうか!そういうことだったのか!へへ、さすがは魔王様!オレ達に想像できないことを平然とやってのけやがる!」
デルゼファーもルルヴィゴールの隣で訳知り顔で頷いていた。
こっちも絶対わかってないと思う。
「ガルっちガルっち!仲間ってどーゆーことぉ?ロルちゃん全然わかんなーい!」
ぴょんぴょん飛び跳ねるロルデウスに、ガルゼブブは優しく語り掛けるように説明を始めた。
「いいですか、ロルデウス。魔王様は、人族であるエリィ様に魔王城で働いてもらうことで、魔族と人族は共生できるということを、学んでもらおうとしているのです」
どこから出てきたのそんな話……。
想像力が豊かとかいうレベルじゃないんだけど。
しかし、勘違いにしてはまともな考えのような――いや、むしろ素晴らしい考えなんじゃなかろうか。
できるかどうかは別としても、魔族が危険なだけの存在でないという事を人族に伝えるというのは確かに有効な手段のように思える。
俺と同じことを思ったのか、エリスと目が合うとうんうんと嬉しそうに頷いていた。
ふとガルゼブブを見ると、嬉しそうに微笑みを浮かべ、「わかっております」と言うかのようにゆっくりと頷いてみせた。
ま、まさか……!
ガルゼブブは俺が人族と争わずに済む方法を模索していることに気付いてこんな提案をしている、のか……?
だとしたらすまないガルゼブブ。
『何考えてるかわかんなくて不気味だなぁ腹黒い所がありそうでちょっと怖いなぁ』なんて思っていた俺を許してくれ。
間違いなく、幹部の中でお前が一番俺のことを理解してくれている。
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