魔王と勇者と幹部共③
あれ、おかしいなぁ……。
絶対に戻って来るんじゃないぞと念入りに命令しておいたはずなのだが、どうして何事もなかったかのように普通に戻ってきてるんだろう。
しかも幹部四人全員で。
「ル、ルルヴィゴールよ。我は宴が終わるまでは絶対に戻って来るなと、そう言っておいたはずだが」
「はい」
「はいじゃない」
すると、ルルヴィゴールの隣に立っていたガルゼブブが一歩前に出てゆったりと告げた。
「申し訳ありません、魔王様。しかしながら、魔族一同、宴に魔王様がご不在という事で、『魔王様がいない宴をするくらいなら死んだほうがましだ』と、意気消沈しておりまして。笑顔も、会話も、何一つないのです」
重いわ。
「もちろん、ご命令に背くことは、あってはならぬこと。罰もお受けいたします。しかし、せっかくの宴を、魔王様と共に楽しみたい、魔王様にも楽しんでいただきたい、そんな魔族達の想いを、何卒、汲み取っていただければと思い、こうして幹部全員でご説明に参った次第です」
「…………あ、そう」
くそ……!そんなこと言われたら怒るに怒れないだろうが……!
「あのっ!」
見かねたエリスが声を上げると、ルルヴィゴールがエリスを睨みつける。
背後からは強い冷気が漂い、部屋の温度が一気に十度くらい下がった気がした。
すると、デルゼファーがその巨体を前に出し、ルルヴィゴールを諫める。
「まぁ落ち着けよルルヴィゴール。考えてもみろ。敵である人族と仲良くなるなんざ、過去類を見ねぇとんでもねぇ裏切り行為だ。魔王様に限ってそんなことをするはずがねぇだろうが」
デルゼファーの力強い言葉が的確に俺の胸を突き刺してくる。
その上、『ですよね!』と信頼感溢れる視線を送ってくるものだから、罪悪感が二割り増しで増えてしまった。
「いや、それはだな……」
弁明しようとすると、今度はロルデウスが体を上下に揺らしながら笑い声をあげた。
「あっは!そんなの当然じゃん!ルルっちったらそんなこともわかんないの?マジウケるんですけどー!」
「あなたは黙ってなさいロルデウス」
「はい」
しかし、デルゼファーの説得を聞いてもルルヴィゴールの怒りは収まらないようで、エリスを睨みつけることをやめようとしない。
ルルヴィゴールは魔族の中でも特に仲間意識が強く、身内には基本的に優しく接するのだが、敵だと思った相手にはとことん容赦しない。
それはひとえにルルヴィゴールの魔族を大切にしたいという想いから来るものだが、だからこそ、今のように人族が自分の縄張りに入り込んでいる状況が許せないのだろう。
それを想うと、申し訳ない気持ちが沸々と――。
「そんなこと、あなた達に言われるまでもなくわかっているわよ!私が気に入らないのはねぇ……!魔王様と二人きりでお茶だなんて……そんな、そんな羨まけしからんことを見ず知らずの女がしているってことよッ!」
全然違うじゃねぇか。
人族がいることに対して怒ってるんじゃないのかよ。
申し訳ないと思った気持ち返してくれる?
ていうかけしからんってなんだ。ただお茶してるだけだろうが。
「いい加減にしとけよルルヴィゴール。魔王様の前であんまりみっともねぇ姿を見せるんじゃあねぇぜ」
「あっは!そーだそーだー!ルルっちほんとみっともなーい!幹部の恥ー!」
「あなたは黙ってなさいロルデウス」
「はい」
ロルデウスが下がるのを見届けて、デルゼファーは続けた。
「なんにせよ、魔王様がこうして人族を招き入れているってぇことは、海より深く、そして山より高い理由があるはずってぇもんだぜ。違うか?」
違うんだなぁ……。
「海……?山……?ま、まさか……!?」
そう言って、はっとしたように口元を手で抑えるルルヴィゴール。
何か心当たりがあったようだが、一体どこから連想してんだ。
海とか山とか絶対に関係ないだろうがどう考えても。
そんなルルヴィゴールを見て、デルゼファーが『気付いたか』と言わんばかりににやりと笑う。
俺はもうお前たちが何を考えているのかさっぱりわからないよ。
ともあれ、ルルヴィゴールの勘違いは折り紙付きだ。
人体実験に使うとか、今日の夕飯にするためとか、そんなとんでもない答えが明後日の方角から飛んでくるに違いない――と、そう思ったのだが。
「敵にもかかわらず、迷子の保護を……!?」
優しい……!
「あぁそうだ!そうに違ぇねぇ!むしろそれしか考えられねぇぜ!」
こっちも優しい……!全然違うけど……!
「そーお?ただの迷子にしてはロルちゃん達の事見てもぜんっぜん怖がってないみたいだけどぉ?それにぃ、迷子だったとしてぇ、どうして人族がこんなところにいるのぉ?ロルちゃんわかんなーい!」
きゃはきゃはと笑っているロルデウスは一見ふざけているようしか見えないが、実に的を射た発言だった。
少なくともまったく見当違いの想像をしているルルヴィゴールやデルゼファーよりはずっと賢い。
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