魔王と勇者と幹部共②
「……そのことは気にするなと前に言っただろう?それに、休ませていたのは俺の意思でもある。あいつらは言わなければ延々と働き続けるからな。休ませる口実が出来て丁度よかったくらいだ」
「はい。でも……」
エリスには幹部達に謝りたいと言う気持ちがあるようだが、勇者である以上当然そんなことは出来ない。
一言でも何か言う事が出来れば違うのかもしれないが、それが出来ないからこそわだかまりというか、しこりのようなものとなって残ってしまっているのだろう。
どうにかしてあげたいとは思うのだが、エリスの立場が立場なだけになんとも難しい問題だ。
ともあれ、何ともならないことを考え続けても気が滅入ってしまうだけだ。こういう時は別の話をして頭を切り替えるに限る。
「とりあえず、立ち話もなんだから座ってくれ」
部屋の真ん中に簡易的なイスとテーブルを置いて座るよう促すと、いつもと違う違和感にエリスはすぐに気付いた。
「今日は【魔王の間】には行かないんですか?」
「【魔王の間】は……まぁ、なんだ。ちょっと爆発してしまってな」
「そうですか、爆発して――え!?ば、爆発ですか!?」
驚きを隠せないというように目を見開くエリス。
まぁいきなり部屋が爆発したとか言われたらそうなるのも無理はない。
「ど、どうしてそんなことに……?」
「まぁ話せば長くなるんだが……一言で言うなら幹部達のせいだな」
「幹部の皆さんのせい、ですか?」
それから俺はエリスに事故の顛末を語って聞かせた。
ここ最近、俺はチャーハンの練習をするため【魔王の間】に引き籠っていたこと。
気温が高いことから、ルルヴィゴールが気を利かせて【魔王の間】を氷で覆ったこと。
今度は寒くなりすぎたため、デルゼファーが気を利かせて部屋の内部を温めたこと。
氷で空気の出入り口が無い事に気付いたガルゼブブが気を利かせて扉に穴を開けたこと。
ガルゼブブが作った穴にロルデウスが気を利かせて魔力増幅装置を取り付けたこと。
それらの気遣いが合わさった結果、氷によって密閉された【魔王の間】に充満した魔力が増幅装置によって加速度的に増加し、逃げ場がなくなったことで大爆発を引き起こしたこと。
「それは、なんというか……なんともな話ですね……」
俺の話を聞いたエリスは、「あはは……」と困ったように笑いながらこめかみを掻いた。
悪気があって引き起こされたのなら怒ることもできるが、幹部達は俺のために良かれと思ってやったことなので強くも言えない。
まさにエリスの言うように『なんとも言えない話』なのであった。
しかし、俺は別に幹部達の抜けているところを晒すためにこの話をしたわけではない。
それはエリスにも伝わったようだった。
「……優しい方々なんですね。幹部の皆さんも」
「そうだな。色々と空回ることも多いし抜けているところも多いが、気のいい奴らなのは間違いない。魔王である俺が保証しよう。だから、あまり気にするな」
「はい。ありがとうございます、ガロンさん」
そう言うと、エリスはいつものようににっこりと笑った。
やはりエリスは笑っている顔が一番自然で生き生きしているように思う。
いつも大変な目に遭っているんだから、せめて魔王城にいるときくらいは笑顔でいてほしいものだ。
敵陣のど真ん中で笑っていてほしいと言うのもなんだかおかしな話だが……。
椅子に座ったエリスは、改めて玉座の間をきょろきょろと見回しながら言った。
「【魔王の間】が使えないのは残念ですが……代わりにこんなに広い部屋を使わせてもらっていいんでしょうか」
玉座の間は魔王城の中でも最も広い空間を有しており、かつ客人を出迎える場所という事もあって煌びやかな装飾品も数多く設置してある。
二人だけで、しかも雑談をするためだけに使うと言うのは確かに気後れしてしまうのもわからないではないが――。
「エリスは俺を何だと思ってるんだ?」
冗談交じりにそう言うと、エリスは焦ったように手をぶんぶんと振った。
「あ、いえ、そういうつもりで言ったんじゃなくて!」
そう声を上げると、広い空間に反響して何重にも聞こえてくる。
それを聞いたエリスはほんのり顔を赤くさせ、恥ずかしさからか身体を縮こまらせていた。
「冗談だ。たまにはこういった開放的な空間で喋ると言うのも新鮮でいいんじゃないかと思ってな」
正直に言えば、客を招く手頃な部屋は他にもたくさんあるのだが――多すぎて掃除するのが大変なため、使う部屋以外は基本的に全部閉鎖してしまっているのだ。
魔王城で労務費削減してるなんてさすがに格好悪すぎるので口にはできないが。
得心がいったのか、エリスはふむふむと頷く。
「そうですね。確かに、いつもよりわくわくしているかもしれません。でも、突然扉が開いて魔族の方が入ってきたらって思うと、どきどきもしてしまいますね」
笑顔で恐ろしいことを言うエリス。確かにそんなことになったら色々とまずいことになるが――。
「そこは安心してくれていい。魔族達には宴が終わるまでは絶対に戻って来るなと言ってあるからな」
特にルルヴィゴールはデモント平原での前科があるため、他の幹部達にも何かあったら必ず止めるように伝えてある。一人だけならまだしも、幹部が四人も揃っているのだから、さすがに命令違反を犯すようなことはしないだろう。
「そうですか。それなら安心――」
エリスが言いかけた、その時だった。
玉座の間の扉が『バァン!』と開き、ルルヴィゴールが部屋に押し入ってきたのは。
「魔王様……!これは一体どういうことですか……!?」
そして冒頭へと戻る。
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