魔王と勇者と勇者らしさ⑪
平地の部分で殴られる格好になった俺は、
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
と、大袈裟すぎる叫び声をあげながら地面へと激突した。
なるほど、これがエリスの本来の力なのか。
身体で直に受けてよくわかったが、滅茶苦茶強いし滅茶苦茶痛い。
しかも、俺に剣が当たる寸前まで力を弱めようとしてこれなので、本気で切られたら痛いだけでは済まないだろう。
この上さらに魔法まで弾き返してくるというのだから、そりゃ魔王軍幹部達が手も足も出せずに負けるわけだ。
土煙が周囲に充満する中、騎士達からは喝采が上がり、魔族からは叫び声のようなものが聞こえた。
そんな中、エリスが焦った様子で駆けて来る。
「ガロンさっ……!」
俺の名前を呼びかけたエリスを手で制し、言葉を投げた。
「やるではないか勇者よ。だが惜しかったな。あと少し剣を振るのが速ければ、我を倒せていたかもしれないというのに」
言葉の中に『俺を倒せ』と言う意味を込める。
エリスの剣をまともに受けようとしたことからも、俺の意図はエリスに間違いなく伝わっているだろう。
今回の計画の目的はエリスの『勇者らしさ』を騎士達に知らしめること、そしてエリスの名誉を回復させることだ。
そうなるときっと引き分けでは足りない。
魔族達が見ている手前、完膚なきまでに倒されるというわけにはいかないが、勇者が魔王を手負いにして撤退に追い込んだということであれば、エリスは王国から相応の評価を得ることができるだろう。
「あ……その……」
「どうした勇者よ。来ないのならこちらから――」
『ま、魔王様が危ねぇ!てめぇらぁ!俺達の出番だぁ!行くぞぉ!』
『ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!』
そんな雄叫びとともに、魔族達が一斉に俺とエリスのいる場所めがけて走り寄って来る――って落ち着いて観察してる場合じゃない……!何をやってるんだあいつらは……!
「待て、あれだけ手を出すなと――」
だが、そのままエリスに向かっていくかと思われた魔族達は、俺のすぐそばまでやって来るとぴたりと動きを止め、その場で整然と並び始める。
そして――。
『フレーッ!フレーッ!魔・王・様ッ!フレッフレッ魔王様ッ!頑張れ頑張れ魔王様ァッ!』
運動会かな?
あぁいや違う、冷静に突っ込んでいる場合じゃない。
確かにさっきルルヴィゴールは応援に来たと言っていたが、まさか『こっち』の応援だったってのか。
そしてこの応援をするためだけに十万も連れて来たってのか。冗談だろ。
案の定、エリスを含めた人族達は呆気に取られていた。
やだ、恥ずかしい……。
しかし、そんなことはどうでもいいと言うように、魔族達は大真面目に俺の応援を続ける。
『ダメだダメだこんなんじゃ!応援が全っ然足りてねぇ!見ろ!魔王様のあのお顔を!お前達ならもっとやれると言いたげじゃねぇか!』
言ってないわ。呆れてんだわ。
「ふぅ……まったく、仕方ありませんね」
『ル、ルルヴィゴール様!?ま、まさかアレをっ!?』
「ええ。ここは私の十八番――『あぁ愛しのデスヘルガロン様~好き好き大好き魔王様~』を披露するしかないでしょう」
『で、出たぁ!ルルヴィゴール様の十八番!魔族が聞けばたちまち元気と勇気が湧いてくるという伝説の歌だぁ!しかもこのイントロはフォーエバーバージョン!エターナルバージョンの次に好きな奴だぜぇ!』
何その歌初耳なんですど。
ていうか『好き好き大好き魔王様』って何?そしてそれを俺に直接聞かせようとしてるの?殺す気か?
ていうか本当に何をやってるんだこいつらは。
年末の宴会場じゃないんだぞ。
別の意味で頭が痛くなってくるが――でも、まぁ、そうだな。
こんな馬鹿なことを大真面目にしてくれる愉快で愛らしい魔族達だからこそ、俺は命を賭してでも守ってやりたいと思うのだろう。
この場でエリスに負けるとして、魔族達にどう思われてしまうのかと言う点だけが心配だったが、杞憂だったらしい。
がっかりはされてしまうかもしれないが、そこは今後の努力で挽回していくとしよう。
改めてエリスに向き直ると、右手を向ける。
「では、お返しといこうか」
魔力を集中させ、以前エリスに使った『光の刃』のさらに上、『光の双刃』を作る。
文字通り二枚の光の刃を十字型に交差させたものを放つ魔法だ。
エリスが剣を構えたのを見計らって双刃を勢いよく放つ。
一発だけでなく二発、三発と間髪入れずに撃ち込むが、エリスは難なく弾き返していた。
だが、弾いた魔法が騎士達の近くに飛んで行ってしまい、あちこちから悲鳴が上がる。
さっきまではうまいこと捌いていたのに、集中できていないのだろうか。
まぁ色々あったし仕方ないかもしれない。歌ってる奴もいるしな。
そもそも魔法を弾いている時点で相当力を使っているはずだ。
長引かせるのはエリスの負担が大きくなってしまうだけだろう。
お互いいい感じにやられた感は演出できたし、そろそろ頃合いか。
「埒があかんな。それに、さっき受けた傷もまだ残っている。このあたりで決着をつけるとしようか」
俺の言葉を聞いたエリスはゆっくりと頷く。
それと同時に、俺は再び右手に魔力を集中させた。
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