魔王と勇者と勇者らしさ⑨

 ともあれ、この状況を作り出したであろう張本人にどうしてこうなったのか聞くしかない。


「ル、ルルヴィゴールよ。我は一人だけで良いと、決してついてくるなと、そう言っておいたはずだが」


「はい」


「はいじゃない」


 すると、ルルヴィゴールの後ろに控えていた大勢の魔族達が必死に声を上げた。


『お待ちくだせぇ魔王様!ルルヴィゴール様を責めないでくだせぇ!ルルヴィゴール様はあっしらの想いを汲み取ってくれただけなんでさぁ!』


「どういうことだ」


「お待ちください魔王様。私が説明いたします」


 魔族達を手で制すると、ルルヴィゴールは深く頭を下げた。


「申し訳ありません魔王様。このルルヴィゴール、魔王様から頂く罰ならどんなことでも喜んで受ける所存です」


 罰を受けるのに喜んでんじゃないよ。


「その話は後だ。それで、一体どういう――」


『お待ちくだせぇ魔王様!元はと言えばあっしらが悪いんです!だから罰を与えるのなら是非あっしらに!』


「いやだから罰を与える与えない云々の前にそもそもどういうことなんだと――」


「お待ちください魔王様。罰を受けるのは私一人で十分です。なんなら、ここにいる者たち全員に与える罰も全て私が引き受ける覚悟です」


『お待ちくだせぇ魔王様!ルルヴィゴール様は悪く――』


 さっきから何やってんだこいつらは。

 ていうかなんで罰の押し付け合いじゃなくて引き取り合いしてんだ。逆だろうが普通は。

 それとお待ちくださいお待ちくださいって、どんだけ俺を待たせれば気が済むんだ。日が暮れるわ。


「わかった。とりあえずお前たちが申し訳ないと思っていることだけはよくわかった。だから早く理由を話せ。端的にな」


 そう言うと、すぐさまルルヴィゴールが答えた。


「応援をしようと思った次第です」


「応援?」


 確かに最初にそんなことを言っていた気もするが。


「狡賢い人族共のことです。魔王様がお一人でいることがわかれば、必ず援軍を呼ぶはず。そこで我らが魔王様の背後に待機して見せることで、人族共も迂闊には手を出せなくなるだろうと、そう考えた次第です」


 思っていた以上にしっかりした理由を説明されて逆に面食らわされてしまう。

 実際ルルヴィゴールの言う通り万単位で待ち伏せされていたわけだしな。


 そう言うことなら怒るわけにもいかない――のか?


 確かに言いつけを破ったのは是非とも反省してもらいたいところだが、ルルヴィゴールにしても他の魔族達にしても俺を心配してきてくれたのだ。

 それを叱りつけるのは違うかもしれない。


「……そうか。皆、心配をかけてすまなかったな」


『そ、そんな!魔王様が謝る必要なんてありやせん!悪いのは全部あっしらなんですから!』


「ええ、皆の言うとおりです。悪いのは私達。そして魔王様の雄姿を是非ともこの目に焼き付けたいと、そう思ってしまった私です」


 一人だけ欲望がちらりと見え隠れしていた奴がいた気もするが、まぁいいだろう。


 エリスの方を振り返って言う。


「そういうわけだ。すまないな勇者よ。歓迎パーティの人数を増やしてもらいたいのだが、構わないか?もちろん手は出させないと約束しよう」


「え、ええ、構いません。人数を増やしていただいたのはこちらも同じですから」


 こうなったら仕方ない。

 当初の計画から色々と狂いっぱなしではあるが、本筋への影響はほとんどない。

 これ以上面倒なことが起きないうちに終わらせて早々に魔族達を連れて帰ろう――そう思った矢先。


『騙されるな勇者ッ!これだけの数を用意しておいて、手を出さないなんてあるわけがないだろうがッ!』


 半狂乱になった騎士の一人が怒鳴り声をあげる。

 どの口が言うんだ。


「待ってください!そんなことは……!」


『そうだそうだ!戦いが終わったら、そのまま人族の領地に侵攻してくる気なんだ!』

『何してるんだ勇者!早く魔王を倒せ!ついでに魔族達も全員倒してしまえ!』

『どうせ死ぬんだ!末代から続く魔族との因縁、今ここで決着をつけてやる!』


 徐々にヒートアップしていく騎士達。


 当然、そんな野次を飛ばされて黙っていられる魔族達ではない。


『魔王様を倒すだぁ?てめぇ何ふざけたことほざいてやがんだ!?あぁ!?』 

『魔王様のお顔を拝めただけでも幸せだと思わねぇのか!?あぁ!?』

『魔王様が本気出したらてめぇらなんか瞬殺だぞ!?あぁ!?』


 あーあーあーあー、凄い面倒くさいことになってきた……。


 そして当然そのしわ寄せはその場にいる互いのトップへと向かう。


『行け勇者ッ!魔王諸共、今ここで魔族を討つんだッ!』


『勇者なんかさくっとやっちゃってくだせぇ!魔王様!』


 矢面に立たされる俺とエリス。

 場が白熱しすぎていて簡単に引ける状況じゃなくなっていた。

 お互い数だけは多いから鎮静化させるのも無理そうだ。


 エリスも同じ結論に至ったのか、俺に向き直ると細剣を構え直して言った。


「もはや、この場で決着をつけるほかないようですね」


「そのようだな」


 一応こんなことになった場合のことも想定して事前に打ち合わせている。


 プランB――お互いド派手に戦ってボロボロの状態で引き分けに持ち込む、痛み分け作戦だ。

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