魔王と勇者と勇者らしさ③
俺がエリスと出会ったのは今から半年ほど前。
一世代前の勇者が寿命で亡くなると、神託によって新たにエリスが勇者に選ばれた。
齢十四の少女が選ばれたと言うことで人族達は大いに落胆したそうだが、予想に反して勇者となったエリスの力はそれはもう凄まじいの一言だった。
各地に散らばっていた魔族たちを次々と倒し、魔族が占拠していた領土も次々と解放。
その勢いのまま魔族領地まで乗り込んでくると、あっという間に魔王城までたどり着いてしまった。
先代までの勇者はせいぜい魔族の領地に足を踏み入れるのがやっとだったことを考えると、単身で魔王城までやってきたエリスの力は常軌を逸していると言っていいだろう。
勇者の魔王城来訪に対し、魔王軍としても万全の態勢で迎え撃った。
しかし、結果として幹部をはじめとした主力はエリスに次々と倒され、魔王軍は見るも無残な壊滅状態となってしまった。
残るは魔王である俺一人となり、絶体絶命の危機を迎える。
だが、エリスは俺の前までやって来ると同時にその場で剣を捨て、自らの命を差し出す代わりに人族との争いをやめてほしいと懇願してきた。
そして、これ以上人族と魔族が無為に争って誰かが死んでいくのは見たくないと涙ながらに訴えた。
もちろん敵にそんなことを言われたところで普通は信用なんてしない。
油断を誘って寝首をかこうとしてきた人族はそれこそ過去にごまんといる。
だが、俺はその時、エリスの言葉を信用してもいいと思った。
なぜなら、エリスは魔王城に来るまでの道中、魔族を一人も殺すことがなかったからだ。
魔王城で戦った幹部達も例外なく無力化するだけに留めていた。
苛烈な戦いの中、余裕なんてなかっただろうに、それでも命だけは取らないと言う選択をエリスはし続けた。
それはまさにエリスの誰も死んでほしくないと言う言葉を体現するものであり、そんなものを目の前見せられてしまったら、敵と言えどエリスの言葉を信用しないわけにはいかなかった。
そして俺は敵の命すらも尊ぶその健気な心に胸を打たれ、エリスの申し出を受け入れることにした。
もちろん命と引き換えにと言う条件は抜きにして。
当然、俺とエリスが戦いをやめると言ったところで種族間の争いが終わるわけではない。
長年に渡って続いてきた魔族と人族との間にある遺恨はそう簡単に消えてなくなったりはしないからだ。
そこで俺とエリスは作戦を練り、魔王と勇者が各種族の代表として戦い合い、余計な争いはしないようにするという休戦条約を結ぶことにした。
結果として、魔族達も人族達も戦いによる犠牲が皆無となったことから、俺とエリスが考えた作戦は大成功を収めたのだった。
ただ、俺とエリスが戦うという前提あっての条約であるため、エリスは魔王城に俺を倒す体でやってきて、俺はそれを迎え撃つ体で魔王の間へと招き、戦っている体でお茶をして帰ってもらう、というのを繰り返しているのが今の俺とエリスを取り巻く現状であった。
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