第25話

 しかしながら、姉と離れて、聖が生きていけるものか?

 聖の幸福は姉の傍に遣えることである。

 姉に嫌われ、離れていろと言われたものの、二三日我慢して、聖は耐えきれなくなった。心はふさぎ込み、じっとりとした梅雨の雨みたいに、悲しみが身を震わせる。

 聖は姉のために、ひっそりと生きようと、なるたけ姉の視界に入らないようにしてきた。姉のためと思えばできたが、辛い拷問である。あんなに美しい人から目をそらさないといけないだなんて。行き場のなくなった迸る愛情が、胸の中でしくしく疼く。


 聖は姉に触れたいあまり、姉がトイレに行った後、すぐに自分も入れ替わりに入り、姉の残り香を嗅いで自分を慰めた。そのキツイ臭いは聖を興奮させた。


「お姉ちゃんもこんな臭いのをするんだな」


 そんな秘密の休息が度重なると、ある日、とうとう弟の挙動を姉が知るにいたった。


 用をした後、階段を上ろうとして、そうだ、ジュースを持っていこうと来た道を戻る時、恵理香は聖がトイレに入るのを見た。数秒後、水も流さずに彼は出てきた。


 何をしていたのだろう。人が入った後に入って。

 あたしの臭いを嗅いだのだわ。気味が悪い。


 恵理香は、また別の日に、用を足したあと、こっそり、弟の動きを見ていた。

 聖は罠に引っかかった。またトイレに入って水も流さず出てきたのだ。

 何をしていたか、それを考えると頭が煮えくりかえるようだった。


「気持ち悪い! もう嫌! こんな奴、家から出て行って!」


 恵理香が強く言うと、聖はびっくりした。ただ、自分が悪いのだから、早く謝って許してもらおうと、恥じらいもなく土下座した。


「ごめんなさい……僕、そんなつもりじゃ……」

「いつもあたしの後に入って、水も流さずに何をしていたの」

「用を足していたの」

「じゃあ、水を流していないのだから、物がまだ残っているはずだわ。入ってみるわよ」


 恵理香はトイレに入った。トイレの水はきれいで、微かにアンモニアの臭いがした。

 すると、恵理香は、かっとなり、聖の頬を平手で叩いた。

 聖は頬を押さえ、うずくまる。聖は恐ろしさに震えながらも、姉の強い打擲に甘く感じるものを覚えた。

 姉は怒っていた。しかし、怒った顔の美人は更に魅力的なものだ。


 聖がにたついているのを見ると、恵理香はぞっとした。同時に、自分の本気が相手に伝わらず、ふざけられたので、馬鹿にされているような、屈辱を覚えた。


「ママに言うわ。パパに言うわ。あんたなんか家に居られなくなるといいわ。出て行ってもらうわ」

「本当にごめんよ」

「謝っても無駄よ」


 恵理香は顔を真っ赤にして、涙すら浮かべていた。

 彼女はもはや、弟を持て余していた。聖が自分の平和の脅威になっていると感じた。


 それで、母が買い物から帰ったあと、恵理香は母に訴えた。

 おぞましいことをされたのだと、気持ち悪くて苦痛だと。


 母は聖を叱った。そういうことをしてはいけないと。


 聖はいやらしく舌なめずりして、傍らで見守ている姉の姿に目をやった。彼女は泣いていて、ティッシュで涙を拭いていた。鼻も赤くなっている。ぐずぐずしている。

 すると、聖の大事な下半身が硬く起き上がるのを感じた。

 それを二人の女はびっくりして眺めた。


 母は恐れた。息子が娘に何かやましいものを覚えているのではないか。禁じられた思想を持っているのではないか。

 そう思うと、母は怖かった。まして、娘は汚された身である。家族によって二度目の悲劇が起こるのではないか。不安で、顔を曇らせて、目を暗く据えた。


「気持ち悪い! サイテー! 死んでよ!」

 恵理香は叫び、自分の部屋に籠った。


「聖、いけないでしょう。お姉ちゃんを何だと思っているの。尊敬の気持ちを忘れているから、こうなんです。いけないわ。あなたの姉でしょ。性的に見ちゃいけないわ」

「僕、そんなつもりじゃ……」

「いいこと? 自分を抑えるのよ」

「はい」

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