第24話
ある日、恵理香は我慢できなくて叫んだ。
「何ニヤニヤしているの? アンタ、あたしを馬鹿にしているわね?」
「そんなことない。僕はお姉ちゃんが好きだから」
「それならほっといて。ジロジロいちいち見てこないで。空気になってよ。あたしを見つけたら顔を伏せなさいよ」
それは嫌な注文であった。姉の姿を見るのが好きなのに、それをやめろと言われると、それは、拷問である。
「ねえ、お姉ちゃん。僕を嫌いにならないで。どうしたら家族と認めてくれるの?」
「あら、家族だわよ。だから好き勝手あたしも注文できるんだわ。遠慮なくね。あたしは毎日快適に生きたいの。ちっとも辛い思いをしないのが理想よ。あたしね、アンタの顔を見ているムカムカするの。いつも思うの。アンタを見るたび、一歩踏み間違えたことをしやしないか。あたしがよ。胸騒ぎがするの。破壊的な衝動が頭をいっぱいにするの。勿論、アンタは悪くないわ。言ってしまえば、あたしの方が異常なのよ。口がむずむずするわ。言ってはいけないことを言ってしまいそう……あたしだって、苦労しているんです。心でいっぱい考えた上で、我慢できずに出てくるものなの。雨みたいに容赦なく降り注ぐわ。防ごうたって防げないの。それをぶつけているの。あたしのせいじゃないわ。あたしはなんとかしようとしているの。でも心が弱くて、イライラが零れ落ちて形となるの。ええ、あたしだってね、イライラしたくないわよ。でも、むかつくの。アンタの全てが嫌なの。見ていたくないの。あたしも優しくしたいわ。だから、あたしから離れてほしいの。あたしのナイフが届かないところまで。そうしたら、優しくできる気がする……」
恵理香は涙ながらに語った。彼女は語りながら、聖の苦痛に帯びた表情を見ていると、過去に受けた傷がうずいて、痒みとなって胸に下り、淡い快楽となるのだった。恵理香は聖が苦しむと嬉しかった。復讐を達成したような、清々しさがあった。彼女は両手で顔を覆って、泣きながら、口元はほころんでいた。人を踏みつけることで、幸福な甘い汁が彼女の喉を下る。過去への復讐である。
「わかった」
聖はそう小さな声でつぶやくと、立ち去った。
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