第19話

 夜中、姉と母が疲れて帰ってきた。

 シャワーを浴びる音がして、そして、姉の階段を上る音がした。

 聖はまだ寝ずに起きていた。そして、いきなり行って、姉の姿を目に焼け付きたい気持ちがした。しかし、そうするのは酷く下品な気がして、自分の欲を押さえつけた。彼は寝たふりをしながら、聞き耳を立てた。


 下の階で母と父が話していた。やがて、両親のすすり泣きが聞こえてきた。聖もつられて涙がこみあげてきた。



 休日が明け、登校日になっても、姉は家に引きこもっていた。部屋から出たがらず、食事も部屋でとっていた。


 学校で、先生が、祭りの日に、中学生の女の子が男たちに乱暴されたと言って、みんなに、知らない人に一人でついていかないことと注意した。

 深刻な顔をして生徒たちは聞いていたが、その中で、ませた男子生徒の岡部直留がひとり、にやにやして、聖を振りかえった。


 休み時間になると、直留は聖に言った。


「お前の姉ちゃん、レイプされたんだろ?」

「何? レイプって」聖は言った。

「チンチンを女のマンコに入れられたんだ」

「マンコって何」

「女のへその下にはチンチンのかわりに穴が開いてるんだ」

 そういうと、直留は黒板に白いチョークで、女の下半身に男根を突きさしている絵を描いた。下手でも、上手いわけでもないその絵は、ある種の圧倒するようないやらしさと不愉快さがあった。


「ここに出し入れすると、気持ちよくなって、男がおしっこを入れるんだ。すると、女の方も気持ちいいらしいぞ」

「ふーん、それはいけないことだろ。気持ちいいわけないよ。お姉ちゃんは泣いてたよ」

「気持ちよくなった自分を責めて泣くんだよ」

「そんなことないよ」

「お前の姉ちゃん可愛いもんな。犯人は凄く楽しい思いをしただろうな。羨ましいな」

「やめてよ。お姉ちゃんは傷ついているんだ。侮辱するな!」

「いつかは、こうなると思っていたぜ。なるようになったんだ。そして、犯人は良い思いをした。俺もやりたい。お前の姉ちゃんに入れてみたいけど、他の男が一回遊んだ体はちょっと嫌だなあ」

「なんでそんなことをわざわざ言うんだよ?」


 聖は直留を憎しみをこめて睨みつけた。馬鹿にされた。姉がひどく可哀そうで、聖は直留の人格を疑った。


「そんな意地悪を言う君が嫌いだ」


 直留は、そういわれると、ひひひ、と卑屈に笑い、

「犯人の男は不細工だったらしいぜ。お前よりも不細工かな? お前の姉ちゃんを相手したのが、かっこいい奴じゃなくて、ブスだったのは、なかなか現実的で、恥美的だよ」


 あざけるためか、慰めるためか、彼は聖の肩を軽くたたいた。


 熱で汗ばんでいる身体に冷水を口から注いでいるような、妙に清い、新鮮なものを感じた。聖は、はっとした。彼の股間は立ち上がっていた。背中をどつかれるような後ろめたさが襲う。


「なぜ?」聖は自分に問うた。

「なぜ?」聖は神に問うた。


 彼は授業を終え、家に帰ると、自分の部屋の中で一人、自分を慰めた。そんなことをしたのは初めてだ。ただ、触りたくなって、弄り回したくて、弄ると、なんとも言えない快感が走って、彼は倒れこんだ。

 彼は姉の事を考えていた。恵理香の意地悪な笑みを頭に浮かべ、彼女の真っ直ぐな足と、柔らかな白い太ももとその上……

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