第18話

「おばさん! 早く来て!」


 玄関を開けて、知らない子が叫んだ。


 母と一緒のに聖も出て行ってみると、泣きじゃくる恵理香を庇うようにして、つり目の華奢な女の子が立っていた。


「恵理香が酷い目に遭ったの。知らない男の人達が、恵理香を連れて行ったの。無理やりよ。そして、恵理香が帰ってきたのだけど、酷いことをされたっていうのよ」


 見ると、恵理香の浴衣はひどく乱れていた。


「なぶりものにされたのよ!」

 怒ったように恵理香の友人は涙をためて叫んだ。


「恵理香。ちょっとママが見るから、お風呂場に行こう。あなたはもう帰って良いわ。ありがとう」


 友人を帰し、母は、恵理香を風呂場に引っ張っていった。

 聖も何が行われるの知りたくて、ついていこうとしたが、母に怖い顔で睨まれ、目のまで扉が閉まって、聖は廊下に締め出された。

 聖は扉に耳を当てて、中の様子を探ろうとした。


「何をされたの? 服を脱いで。傷がないか見るから」

「……触られたの。あちこちよ。手を入れてきたの。痛いことしたの。気持ち悪い顔の男よ! 大嫌い! 本当に気持ち悪い顔の男なの! でも、あたし、そんな人に体を触られたの。とても痛かった……! 男の人のあれがあたしのなかに無理やり入ったの。すごく嫌だった!」


 聖はなんだかよくわからなかった。しかし、姉が酷い目にあったというのはわかった。


「ねえ、あたし、赤ちゃんできるの? みやびがそう言うの。あれを入れたら出来るって。いやよ! あんなキモイ男の子を産むなんて。酷いわ! どうしてあたしがこんな目にあうの! 怖いわ!」

「落ち着いて。恵理香。病院に行きましょ。ちゃんと処置すれば、赤ちゃんなんてできないの。それにあなた、生理もまだでしょ」

「ママ、あたし、シャワー浴びたい。早くこの汚いの落としたい」

「駄目よ。病院に行って、証拠をとって、警察にも行って犯人を見つけるの。ちゃんと法でさばかなきゃ」

「もういいの、いいの! あたし、もう嫌。警察に行って、また話聞かれるんでしょ? もう思い出したくない。もう嫌」

「駄目よ。他の女の子も被害にあっているかもしれないし」


 姉が激しく泣きじゃくる。

 やがて、二人は出てきて、そのまま聖に留守番を任せ、病院に行った。


 母たちより早く、父の明が帰ってきた。すでに事情はメールで知っていたようで、嫌に優しく聖をかまった。


「聖。お姉ちゃんは酷いことされたんだから、お前はお姉ちゃんにうんと優しくして、お姉ちゃんの心の傷をいやしてやらなきゃいけないんだよ」


 父は、夕飯に素麺を作った。昼も食べたが、こんな時に文句など言えない。一日くらい続けて同じものを食べてもへいちゃらだ。

 それよりも、聖は恵理香のことが気になった。そうして、父に聞いた。


「お姉ちゃんは何をされたの? 叩かれたの?」


 潤んだ眼を瞬いて、父はそうだよ、と言った。


「男の人のあれが入ったって言ってたけど、何が入ったの?」


 父は怒ったように、

「誰にそんなこと聞いた!?」

と言って、口からかみ砕いた素麺を飛ばした。


「ママと話しているのを聞いたんだよ。ねえ、あれって何?」

「足だ」

「足がどうして入ってくるの?」

「いや、手だ。手が入ったのさ。服の中にね」


 それを聞くと、聖は、自分でも遠慮してできない恐ろしくいやらしいことを男が姉にしたのだと思うと、ゆだるような嫉妬の苦しみに襲われた。それと同時に、胸の中にころりと鈴のように爽やかな音を鳴らしながら転がる何かを感じた。それは不快な感情の中で、ただ一瞬、聖を心地よくさせた。


「誰かがお姉ちゃんの体に触った。手であちこち触った」

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