第17話
ある日の夜、聖は居間でくつろぐ姉のスカートから伸びた白い足に見とれていた。
恵理香はソファに座り、お菓子を食べながら、漫画を読み、おもむろに足を組んだ。スカートが少し捲れ上がり、白い太ももが見えた。
聖は、どくどくと、急激に心臓へ血が送り込まれるのを感じた。彼は赤くなり、涎で唇が濡れた。彼は姉の下着が見たくなった。それは、親しみの慣れあいとも、恥をかかせて、焦った顔をみたいという愛しさと、尊敬の気持ちからであり、聖は、姉の足の前に陣取り、しゃがみ込み、頭をくねらせ、その隙間から、今にも見えそうな三角形の布地を探した。
ふいに、恵理香は漫画を放り投げた。
そして、憎悪と嫌悪に顔を歪め、不愉快だと言わんばかりに、聖を、薄目でじとりと睨みつけた。
「キモイ」
姉は怒り、立って行ってしまった。
一人、居間に残された聖は、恥辱を感じた。しかし、姉の怒った顔も可愛いと、嬉しく、いやらしい、なんだか惨めで、しかし、誇らしいような、いじけていながら、下品な興奮に身体が火照った。
この身を激しく燃やす何かを、聖は姉に感じた。
「お姉ちゃんを見ていると、僕、あれだなあ……」
聖は独り言を言って、疲れ切ったように小首を傾げ、息を漏らすように笑った。こんな自分に酔ったような動作を隠れてすることで、姉に対するやましい気持ちを抱く後ろめたさを吹き飛ばしていた。
僕は困ったちゃんだ。聖は自分が愛しいとすら感じる。
いくつかの姉の私物を聖は自分の机の引き出しに隠していた。それは、丸い球の付いたヘアゴムや、ヘアピンだった。聖は一人になると、それらを引き出しから出して、鼻の穴に入れたり、しゃぶったりしながら、とろりとした目で、ぼんやり時間を無駄に過ごす。それらは、聖の唾がしみて臭かった。臭いけれど、汚いとは思わなかった。
夏の終わり、祭りがあり、夜、浴衣を着て、下駄をひっかけ、恵理香は友達と出かけた。聖も浴衣をきて、姉にしがみついていこうとしたが、
「もうそいういう齢じゃないでしょ。自分に近い齢の子と遊んだら」
と言われ、断られ、聖が癇癪を起すと、恵理香は軽蔑したような冷たい目で見てきた。
聖は自分が馬鹿に思え、姉の気に入るようにするのが、自分の最善に思えた。
黙り込むと、姉は、
「アンタ、友達いないの? だから、あたしと行きたがるのね。友達作らなきゃだめよ。一人で行くのが嫌ならママと行けば? 行かないの? あら、そ。いじけちゃって。そうだわ。綿菓子買ってきてあげるわ。たこ焼きも。良いでしょ」
そう言って、行ってしまった。
お団子頭にした姉の可愛らしい浴衣姿が目にしみた。
「ママと行こうね」
母の由美子が聖のご機嫌を取るように言うと、聖は、
「行かないよ」
と弱弱しく呟いた。
「ママとなんて恥ずかしいもの」
夕飯の素麺を食べながら、恵理香の帰りを待っていると、それは突然訪れた。
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