第5話

 やがて、三人家族の元に、新たな命が生まれた。

 だが、その赤子は嫌に色黒で、毛深く、小さい目の離れている、頭の大きな子だった。そして、その頭の縦に長く伸びた様は異様だった。このために、頭の形を整えるようにと、赤子にはヘルメットが装着された。男の子である。


「やだわ。夢と違う子が生まれた。可愛くないの」

 恵理香は少し落胆し、それでも、自分の弟というので、口ではああ言っても、嬉しい気持ちがわいてきた。弟が身じろぎして、目を閉じて、口を開けたり、泣いたりするのを見て、なんだか、わくわくした。


 明と由美子は、子供の容姿が悪かろうが、命というだけで重みがあり、ありがたかった。しわしわになって泣きじゃくる赤子を見て、ほっこり胸が温かく満たされた。


「聖」

 その赤子は、そう名付けられた。


 聖は、あまり夜泣きはしなかった。ミルクを与えると、直ぐにぐっすりと眠りこむ。動くおもちゃが好きで、いつまでも見飽きないで笑って見ている。

 彼は母よりも姉の恵理香を愛した。

 恵理香が近づくと、喉を鳴らして、甲高い声を上げて、きゃっきゃっと喜んだ。

 姉がどこかで何かしていると、聖はその方を首をよじって眺めていた。静かに見守るように。視線に気づいて、恵理香が振り向いて、小さい子の目とはち合うと、聖は気づいてくれた事が嬉しくて、たまらず喜びの叫びをあげる。

 恵理香には、毎回律義に反応を示す弟が可愛く思えた。


「早く、頭の形がちゃんと綺麗になるといいね」


 どういうわけか、恵理香は、ヘルメットの矯正が終わると、聖の顔立ちまで輝く王子様のようになると思い込んでいた。


 それに由美子はいつも言っていた。


「聖は大きくなったら、きっと格好良くなるわ。私とパパの息子だもの。遺伝の力は強いのよ」


 母は美人である。父も太ってはいたが、美しい顔であった。そして、娘の恵理香も美少女であるとくれば、息子の聖だって美しくないわけがないのだ。


 しかし、聖は成長していくとともに、品のない顔になっていくようであった。どこか知恵の足りないような、まぬけな顔が、時に、人を苛立たせた。そして、聖には人をじっとみるくせがあった。

 すると、家族じゃない他人の場合、聖から見られると、気味が悪く、激しい嫌悪を覚え、睨み返すものもあった。

 そんなことをされると、悪気があったわけじゃない聖は他人というのは、どうやら酷い奴らしいと思い、恐れ、人嫌いになった。彼にとって、家族が全てだった。

 とくに可愛らしい姉が味方の内は、どんなことをされても幸福だった。

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