第30話 体育祭の匂わせ

9月1日の放課後。

いつもの9人のメンバーはグラウンドに出ていた。

今日から体育祭の練習だ。

「そう言えば、小梅ちゃんってどれくらい走れるの?タイム計ってみてもいい?」と朱莉が、髪を一つに結っている小梅に聞いた。

小梅は髪を結いながら「いいよ。まだ、走れると思うから」と答えた。

すると、翔は得意げに「小梅は、全国大会出てたから、めっちゃ速いよ?」と笑った。

みんなが『え〜!!』と驚く中、小梅は苦笑した。

「本当?小梅」隣でメガネを外していた、尚也が目を丸くさせた。

新学期の事があってからか、メガネを外す尚也を見ると、心臓が高まる。

小梅は頬を赤らめつつ「本当だよ。勝っては無いけど」と答えた。

そんな会話を聞いていた、悠真は不思議そうに首を傾げた。「そんなに、実力あんなら、高校強い所推薦で入れたんじゃねーの?」悠真の疑問に小梅は苦笑した。

やはり触れられた。

全国大会まで出場したのにも関わらず、陸上部が無い高校に入学するのは、誰もが思う疑問だろう。

小梅は笑顔を作ろうとすると、「悠真。無責任にも程があるよ。」真心が鋭い目付きで悠真を見上げた。

悠真は肩をすくめ「如月、悪かった。」と呟いた。

小梅は慌てて「別に、気にしてないよ。」と笑顔で答えた。

「さて、みんな練習始めよう〜」朱里の言葉に、みんな歩き出した。

小梅は髪を結い終わり、みんなについて行こうとすると、優しく腕を掴まれた。

「小梅、あまり心の中で抱えないでよ」尚也は優しく微笑むと小梅の頭に手を置いた。

小梅は頬を赤らめ「尚也くん…最近変わったよね」と呟いた。

尚也は「そう?」と楽しげに笑った。

すると「おーい。2人共〜練習するよ〜」とみんなが手を振った。

小梅は「今行く〜」と明るく答えた。


◇◇◇◇


少しして、小梅は100メートルのトラックの上で軽くジャンプをするなどの準備運動をした。

陸上は限界を超えて走るものだ。

小梅はスターティングブロックに足を乗せ、合図を待った。

すると、合図の笛が鳴ると共に旗が上げられた。

小梅はスタートを切り開き、爽快に走り出した。

やはり、風を受ける時は、陸上が好きだと心から思う。

スタートして、すぐにゴールまで走り切った。

タイムを計っていた、朱里はタイムを見ると、思わず「え!!」っと声を上げた。

それに、みんなは驚き朱里の傍に集まった。

「記録どうだった?」小梅は息を整えて、朱里の傍に駆け寄った。

朱里は信じられない物を見た目で「11秒97…」と言った。

すると、みんなは『え?!』と声を合わせた。

その姿に小梅は苦笑した。


◇◇◇◇


しばらく経ち、6時になった。みんな解散し、小梅と尚也は一緒に帰っていた。

「小梅って走るの好きなんだね」尚也は隣を歩く小梅に、優しく微笑んだ。

ちなみに、2人の手には、いちごオレが握られていた。

小梅は微笑み返し「尚也くんもサッカー部なだけあって、結構走るよね」と言うと、尚也の耳が赤くなった。

尚也は笑顔を見せてくれるようになったが、照れる時はやはり、耳が赤くなるだけだ。

その姿に小梅は、面白くなる。

夕日が2人を照らし、夏の終わりの切ない風景が描かれていた。

小梅は夕日を眺めた。

気づいたら家の前に着いていた。

「秋が来るね」尚也がひっそりつぶやき、小梅は笑顔で頷いた。

「夏の終わりって寂しいよね。」小梅は去年の事をふと思い出した。

夏の終わりを伝える頃に、優也と喧嘩して、1度も口を聞けずにいることを。

尚也はそれを察したのか、小梅の頭に手を置いた。

「いつか、仲直り出来るはず...だから」慰めの言葉をかける、尚也の声と表情が寂しさを見せていた。

小梅は尚也を不思議そうに見つめた。

2人は見つめ合っていた。

尚也の顔が近くなる。

瞳から目が離せない。

距離が近くなり、いちごオレの甘い香りが鼻を掠め、小梅と尚也は我に返った。

尚也は小梅から離れ「またあした」とだけ言うと、走早にその場を後にした。

呆然と小梅は立ち尽くしていると「なにしてんの?小梅」と流星が後ろから声をかけてきた。

小梅は振り向き、流星を見つめた。

流星は息を飲んだ。

小梅の瞳が濡れていたからだ。

「流星兄ちゃん...この気持ち...なんだろう?苦しくて...でも、幸せで」小梅が弱々しい声を発するのを、見ていられなくなり、流星は小梅を抱きしめた。

小梅は流星の服をぎゅっと握り、静かに泣き続けた。

そんな、小梅を流星は、複雑な気持ちを抱えながら、何も言わずにしっかりと抱きしめて、頭を撫でるだけだった。







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