第27話 本音は

次の日。小梅はこっそり遊びに行き、楽しい時間を過ごした。

そして、朝方。バス停で尚也と2人、始発を待っていた。

「小梅、なんか元気ないね」尚也は膝を抱え、隣に座っている小梅に声をかけた。

小梅は「兄と喧嘩した」と素直に言った。

すると、尚也が目を丸くした。「如月家兄妹って喧嘩するんだ」「まぁ、頻度は少ないよ。1年に1、2回くらい。」いずれも軽い喧嘩と付け足した。

すると、尚也は察したのか「今回は、ちょっと違うんだ。原因はなに?」と聞いた。

小梅はぎゅっと膝を抱えつつ、喧嘩の原因を、ポツリポツリと話した。

尚也は黙って聞いていた。

「尚也くんは、兄が過保護で嫌だって思ったことある?」小梅の質問に、尚也は少し考えた。

「特にこれと言ったことはないかな。上手く言えないけど、年齢が近い兄として接してるんじゃなくて、両親と思って接してるから。だから…」小梅も両親のように…と続けようとしたが小梅を見た瞬間、後悔した。

小梅は顔を上げ、目尻を下げ、朝の風に長い髪を靡かせ、微笑んでいた。

今にも泣きそうな表情。

よく見たら、微笑みを作っている唇が震えている。

唇だけじゃない。瞳も手も、今にも泣きそうに震えていた。

どうしたらいいかわからなかった。

小梅の辛さをどうしたらいいか。

せめて、手だけでも握った方が良いのか。

そう思い、手を伸ばすが勇気が出ない。

結局、握れずに手を引っ込めた。

小梅は俯いた。

髪が邪魔して、表情が伺えない。

尚也は少し考え、近くの自動販売機でココアを買うと、小梅の頬に当てた。

小梅は驚いた顔で尚也を見上げた。

「飲んだら?」尚也の言葉に我に返ったのか、小梅はココアを受け取り、1口飲んだ。

ココアの暖かさと優しい甘さが、体中に響き渡る。

手に雫が落ちる。

小梅は自分が泣いていることに気がついた。

尚也の目の前なのにと涙を止めようと、するが溢れて止まらない。

すると、尚也は小梅を隠すように、小梅の顔を胸に寄せ、腕で顔を隠した。「泣いたら?こうして、顔は隠しておくし、俺は姪っ子の泣き顔何回も見るから、慣れてる」と頭上から、彼らしい言葉を言ってくれた。

そして、頭にある手で優しく撫でてくれた。

小梅は落ち着く感覚がし、涙を拭うのを辞めた。

尚也の暖かい体温に、もう少し身を委ねたくなる。

泣いているからと、思春期学生特有の甘えたいと言う感情が、混じりあったのだろう。

そんな感情をグッと押し殺し、ひたすら泣いていた。

尚也は何も言わずに、小梅の頭を撫でて、腰に当てている手をリズム良くトントンとした。


◇◇◇◇


「た…だいま…」小梅はゆっくりと、家の戸を開けた。

多分、流星や貴美子は寝ているだろう。

小梅はホッとし、靴を揃えた。

すると、「おかえり。小梅」と頭上から声がし、身体を震わせた。

「りゅ…流星兄ちゃん?」小梅は流星を見上げると、バスタオルと着替えを渡された。

「お風呂、温めておいたから、入ってこい。その後、話そ」流星は目を合わせずに、言った。

小梅は頷き、すぐにお風呂に入った。


◇◇◇◇


入浴後、縁側に肩を並べていた。

朝日は完璧に上り、夏の朝の温かさを感じた。

「小梅、悪かった。縛るような真似して」流星は頭を下げた。

小梅は「大丈夫だよ。でも、束縛紛いなことは辞めて欲しいけど…」と本音を言った。

流星は「ごめん…。小梅も大人になってるんだもんな…」と苦笑し、小梅の頭を撫でた。

「そうでしょ?もう、17になるから。あの頃の私とは違うの。」小梅の言葉に、流星は頷いた。

「そうだな。ごめんな。小梅…」ひたすら、謝る流星に小梅は胸が痛くなった。

「私の方こそ、ごめんなさい。流星兄ちゃんには、沢山心配かけて…」「兄ちゃんが勝手に心配してるだけだ。」流星は小梅の頭を優しく撫でた。

小梅はふふっと笑った。


◇◇◇◇


しばらくして、2人の様子を見に来た、貴美子は微笑ましくなった。

小梅と流星は寄り添って眠っていた。

小さい頃と変わらなかった。

喧嘩した時は、縁側で仲直りをして、寄り添って眠ってしまう。

貴美子はそっと、2人にブランケットをかけた。

2人の寝顔が、幼い頃と重なり、貴美子は2人の頭を優しく撫でた。











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