第18話 素直に

「メガネの男子と入れ違ったけど、誰?」流星は病室に入るなり、小梅に聞いた。

「うーん。友達?かな」小梅はそう答え微笑んだ。

流星は目を丸くした。

すると、「如月小梅ちゃん。昼食の時間だよ。一口でもいいから食べてね」と看護師さんが昼食を持ってきてくれた。

「ありがとうございます」小梅は頭を下げた。

看護師さんは優しく微笑み、病室を後にした。


ーー少しでも…


小梅は「いただきます」と言い、お箸を持った。

流星は静かに見守っていた。

小梅は震える手で白米を口に運んだ。

小梅は久しぶりの白米に思わず「美味しい…」と言葉を出した。

「小梅…」流星は驚いていたが、すぐ優しい笑みを落とし「良かったな」と言った。

小梅は少し頷き、食事をした。

入院して、初めて食事を完食した。

看護師さんが食器を回収に来る時に「やっと、前向きになったね。ちゃんと食事すれば、すぐに退院できるから」と言ってくれた。

小梅は少し間を空けると「流星兄ちゃん」と口を開いた。

「どうした?」流星は優しく小梅に微笑んだ。

小梅は落ち着かせるように自分の胸に手を当てると、息を吸った。

「流星兄ちゃん…私…本当はね、陸上辞めたくなかった。でも、流星兄ちゃんより目立つなんて如月家の恥なのにどうなんだって言われて…でも、辞めたのを後悔しない。その代わりに新しい私の生きる道を作ったから。けど、正直に流星兄ちゃんが羨ましかった。流星兄ちゃんは家族からも愛されて、大切に育てられたのに、なんで私だけと思った。なにもかも流星兄ちゃんは完璧にこなして、私の事も呆れずにそばにいてくれて…本当に感謝してる。流星兄ちゃん、素直になれなくてごめんなさい。そして、ありがとう。私のそばにいてくれて。」

小梅は話し終えると、一息ついた。

話したい事がぐちゃぐちゃになって、色々と話が飛んでいた。

でも、言いたい事は言えた。

流星はどう思ったのだろう。小梅は、流星の方を見つめた。

すると、流星は小梅を引き寄せた。

強く、強く小梅を抱きしめていた。

「流星兄ちゃん?」「小梅。気づいてやれなくてごめん。でも、あんなに小さかった小梅がこんな立派になったの、家族として、兄として嬉しい。俺も、小梅がそばにいてくれて癒しになった。」「流星兄ちゃん…ありがとう」小梅の目から涙が溢れた。

やっと本音を言えた。

そして、歩く道が出来たような気がした。

「ありがとう。流星兄ちゃん…ありがとう」小梅は溢れる涙を止めようとはしなかった。

本当は、こんな風に泣きたかったのかもしれない。

本音を言いたかっただけなのかもしれない。

そして、これを無条件で愛してくれる家族に受け止めて欲しかった。

しばらくすると、小梅のスマホが鳴った。

「なんだろう…」小梅は流星から離れ、スマホを操作した。

クラスLINEから動画が来ていた。

「動画?」小梅は動画を再生した。

『小梅ちゃん〜いいことがあってみんなで動画撮ったよ〜』と朱里から始まり、後ろにはクラスのみんなが並んでいた。

『まずは、みんなで千羽鶴作ったの。小梅ちゃんが早く治りますようにって。今日の学校終わり、送るね〜』後ろで立派な千羽鶴があり、小梅は目を丸くした。

『そして、もう1つ。体育祭の話がおりてきたんだけど。実は』朱里が合図するとクラス全員が『如月小梅を1番の盛り上がりの100m走を任命しようと思うよ〜』と宣言され、小梅は目を丸くした。

『返事は、今日千羽鶴を届けに行く時に聞くから〜考えといてよ〜。』朱里がそう言い『早く元気になりますように〜』とクラス全員が言い動画が終わった。

小梅の目から更に涙が溢れた。

「ありがとう…みんな…ありがとう」小梅の口元には笑みが零れていた。

「小梅、頑張れ。」流星は小梅の頭を撫でた。

小梅は強く頷き、早速クラスLINEにお礼のメッセージを送った。

そして、朱里が来た時の返事はもちろん決まっていた。

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