第17話 入院生活
入院生活が始まっても、食事をとる気にはなれなかった。
友達が面会に来てくれて、寂しい思いはしなかった。
だが、心の奥底で優也が来てくれないのかと願う自分に嫌気をさしていた。
その嫌気を打ち消すように、小説を書き進めていた。
「小梅、いつも何してるんだと思ったら小説書いてたんだ」病室に誰かが入ってきて、小梅は驚き顔を上げた。
病室に入ってきたのは、優大だった。
「何かメモしてる仕草はなんだろうって思ってたけど、小説のためだったんだ」優大は興味津々のように、小梅の手元を見つめた。
「優大先生、何故ここに?」「見舞いに決まってるだろ?小梅が倒れた時、以外な人が焦ってたから驚いたよ」優大は面白そうに笑った。
小梅は首を傾げた。そして、少し考えると、頬を赤らめた。「小梅、尚也といる時に倒れたもんね。だから、焦った以外な人物は…」優大はいたずらっぽく問いかけた。
「尚也くんが焦ったって事ですか?」「そう言う事。ちなみに、小梅を運んだのも尚也。」更に驚く事を付け足され、小梅は頬を真っ赤にした。
「これで、少しは元気出た?想い続けても辛いだけって事だよ。目の前の幸せに気づかなくなる」優大は優しく微笑んだ。
小梅は少し笑った。「優大先生…わかってたのですね。」勘が鋭い人だと思った。
優大はクスッと笑うと「流星に、小梅が恋したのを聞いてたから。けど、小梅の弱まるのを見て、なんとなく失恋じゃないかなってわかった。」と教えてくれた。
小梅は苦笑した。
なんとなく、優大の本性が見えた気がした。
「とりあえず、数日後くらいにメッセージみてみなよ。きっと小梅が歩く理由になる」優大はそれだけを言い、病室を後にした。
◇◇◇◇
優大が病室を後にしたすぐに、流星が病室に入ってきた。
「小梅って、この香水の匂いは、優大か…」流星はため息を吐いた。
「優大先生、さっき来てくれたの。」小梅は少し嬉しそうに言った。
流星は焦る様子で「小梅、優大に恋をするのは辞めとこう。アイツは…」と小梅の肩に手を置いた。
小梅はふふっと笑った。「流星兄ちゃんどうしたの?優大先生はかっこいいけど、恋するのは別だよ。それに…」小梅は目を伏せた。
流星には言いたくない。それに、優大の言葉を受け、少し考えようと思ったのだ。
小梅が色々と考えを巡らせていると、流星は小梅の頭を撫でた。
そして、小梅の手元に目線を移した。「小説、小梅ずっと小説好きだったよな」流星は小梅に許可をとると、そっと小梅の小説を読んだ。
「流星兄ちゃん、私…」やはり、小説を書くのもダメだろうか。
流星は「小梅がやりたい事をやれば、兄ちゃんはそれでいいよ。正直、陸上を辞めたって聞いた時は、申し訳なさでいっぱいだったよ」と言い頭を下げた。
「ごめん、小梅。陸上辞めるまで追い込んでしまって…」流星の謝罪に小梅は無理矢理笑顔を作った。
「流星兄ちゃんのせいじゃないよ。どっちにしろ、私は高校になったら陸上辞めるつもりだったし」小梅の言葉に流星はいてもたってもいられなくなった。
「ごめん。ちょっと外に出る」流星は目頭を抑え、病室を後にした。
◇◇◇◇
「流星兄ちゃんに迷惑かけちゃったな…どうしよう…」小梅は時計を見た。
もうすぐ昼食の時間。
食べられるはずがないのに、毎回来る昼食は嫌だった。
小梅は目を伏せると、「本当に、そう思うなら素直になったら?」と言われ小梅は顔を上げた。
そこには、冷たい表情をしたメガネをかけた尚也がいた。
「な…尚也くん?」「お見舞いに来た時に、話聞こえた。本当に、迷惑かけてると思ったら素直になれば?君が素直にならない事によって、君を思ってくれる人に迷惑かかるってそろそろ気づけば?」尚也の言葉は小梅の心を刺すような物だった。
「別に、君がわがまま言おうがなんだろうが、受け止めてくれるよ。だから、君らしく生きれば?」尚也は冷たくそう言った。
小梅は、少し考え尚也を見つめた。
「尚也くん、頬の傷治ったんだね」小梅はさらりと話題を変えた。
「ん?まぁ、君が手当てしてくれたおかげで…」尚也は小梅から目を逸らした。
小梅はある事に気がついた。
尚也の耳が少し赤い。
もしかして、尚也は照れているのではないかと。
小梅はふふっと笑った。「尚也くん、私が倒れた時、運んでくれてありがとう。」と言いたかったことを言えた。「別に。目の前で倒れられたから」尚也は素っ気なく言っているが、耳が更に真っ赤になり、小梅は笑いが止まらなかった。
「早く治りたいなら、食事しっかりしろよ」尚也は小梅にそれだけ言って、逃げるように病室を後にした。
尚也が病室を後にする時、流星とちょうど入れ違いで入ってきた。
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