第16話 暖かい手と体調の限界

ある日の朝。

教室でいつもの5人で話していた。

すると「やっちまった」と海斗、翔、尚也、悠真が傷ついた身体を引きずりつつ、教室に入ってきた。

「ちょっと!!一体どうしたの?!」朱里は海斗の身体を支えた。

「一体何があったの?!」恵麻は翔を支え椅子に座らした。

「悠真…大丈夫?」真心は悠真を支え椅子に座らした。

「結愛ちゃん、私のカバンとって」小梅は4人の有様を見つめた。

「はい。これだよね?」結愛はカバンを小梅に渡した。

「ありがとう。」小梅は少し微笑み、中からポーチを取りだした。

ポーチの中には、消毒液やティッシュ、絆創膏やガーゼ、包帯が入っていた。

「もしかして、喧嘩した?」小梅は4人に聞いた。

「他校が喧嘩売ってきたから、買ったけど、アイツら大人数呼びやがって、勝ち目なくてやられた」悠真がイライラしたように説明をした。

「大人数って、とんだ落ちこぼれよ」朱里は怒りを隠せなかった。

「相変わらずだね。」小梅はクスッと笑った。

「小梅ちゃん、手当て出来る?」恵麻は心配そうに目で訴えた。

小梅は安心させるように微笑み「手当ては慣れてるから。」と答えた。そして、「その前に、たかっちと翔と杉山君に関しては、彼女側に許可が欲しい。一応、触れる事になるから」と朱里、恵麻、真心に微笑んだ。

真心は頬を赤らめ「私は、悠真の彼女じゃないから、大丈夫だよ」と言い返した。その姿に、結愛は微笑ましく笑った。「許可とか大丈夫だよ。小梅ちゃんにしか出来ないことだから」「そうだよ。」朱里と恵麻はお願いしますと小梅に頭を下げた。

小梅は少し笑い「そんなに、かしこまらなくても。私は慣れてるだけだよ」と言い、順番に手当てをして行った。


◇◇◇◇


そして、最後に尚也を手当てする事にした。

尚也はメガネをしておらず、メガネがこわれなかてよかったと安心していた。

「大丈夫?ちょっと染みるよ?」小梅は、尚也の頬に触れ傷口を消毒した。

尚也は痛みに少し顔をしかめたが、何も言わなかった。

消毒し終えると、尚也は閉じていた目を開いた。

小梅の心臓が高鳴った。

サラリと触れる髪から除く、綺麗な目で小梅を見つめていた。

小梅はとりあえず、ガーゼを傷に貼り、頬から手を離そうとした。すると、信じられないことが起きた。

尚也の頬に触れていた小梅の手が尚也の手に包まれていた。

尚也の手の温もりに、更に心臓の音が高鳴った。

尚也は握っている小梅の手を自分の頬に当てた。

「手…暖かい…」尚也は目を閉じ、小梅の手の体温を感じていた。

「暖かい…」尚也は目を開け、小梅と目を合わせた。

小梅は口を開こうとしたが、急に視界が周り始め、倒れ込み意識を手放した。

「小梅!!」「小梅ちゃん?小梅ちゃん!!」遠くなる意識の中で自分を呼ぶ声が聞こえていた。


◇◇◇◇


「うっうう」しばらくし、小梅は目を覚ますと、知らない天井が目の前に広がっていた。

「目を覚ましたか?!小梅」誰かが呼びかける声が聞こえ、そっと横を向いた。

流星が心配そうに小梅を見つめていた。

「待って、今ナースコール押すから」流星はナースコールを押すと、小梅の手をぎゅっと握った。

約、2ヶ月振りに見る流星は心配と不安に満ちていた。

「流星…兄ちゃん…」小梅は、こんな事になった言い訳をしようとしたが、体力が残されてなかった。


◇◇◇◇


結局、小梅の倒れた原因は疲労と少しの栄養失調が原因だった。

小梅はしばらくの入院が決まった。

流星の手配により、個室にしてもらい少しホッとしていた。

「とりあえず、荷物はこれでいいな」流星は着替えなど持ってきてくれていた。

「あ、ありがとう。」小梅は申し訳なさそうに俯いた。

流星は小梅のそばに座った。

「小梅…兄ちゃんは頼りなかったか?2ヶ月忙しくて、小梅をほっといたのはあやまる。本当にごめん!!」流星は頭を下げた。

小梅は慌てて「流星兄ちゃんのせいじゃないよ。私が…ダメだったから」小梅は自分の手をぎゅっと握った。

悔しい。結局迷惑ばかりかけて、まだ、あの時の事をズルズルと引きずっている自分が。

強く握っていた手を流星は優しく包み込んだ。

「小梅…ごめん。」流星の謝罪に小梅は自分が罪悪感に押し潰された。

もうすぐで17になる自分が、もうこれ以上兄に何も背負わせたくないと思っていたのだ。

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