第8話 お盆の過ごし
当日。朝4時には支度が行われた。
来客は50人以上が入れ替わりできてご飯を食べたりするので大忙しになる。
小梅はお菓子の最終チェックをした。
お菓子はアレルギーやそれぞれの好み。そして、天気や季節で変わったりする。
他には、お酒のチェック。
1人1人お出しするお酒が違ったりするので間違えていないかチェックだ。
今日は小梅と流星は、来客の相手をする。
最初の方は玄関の近くの廊下で笑顔で挨拶を繰り返す。
ちなみに、本来は流星の隣には妻が立つ事になるが、流星は結婚をしていないため、小梅が立つことになっている。
ちなみに、料理を運ぶ指示などをするのは、年配のお手伝いさんの
本来はその時の当主の嫁やいない場合は当主の母親の役目だが、どちらもいないため、先代からいる年配の貴美子に頼むことになっている。
小梅は長女の役目があるので指示役はできないのだ。
そうこうしている内に来客が来る時間になった。
「おはようございます。正月以来だね〜。流星君、小梅ちゃん」「はい。お久しぶりです。」「お久しぶりです」二人は頭を下げた。
「立派になったね〜。流星君も背が伸びて、小梅ちゃんも別嬪さんやね〜」「いえいえ、そんな。」小梅は少し笑った。
「お〜流星君と小梅ちゃんか〜。おっきくなったな〜。いくつだ?」「僕は今年で23に、小梅は16になります」「若いな〜。おじちゃんにもそんな歳があったな〜。ほんで、嫁の方はどうだい?」「いえ、恥ずかしながらまだ。」「勿体ない〜。流星君身長も高くてええ男やのに〜」「ありがとうございます。」流星は少し笑った。「小梅ちゃんの方はどうだい?」次は小梅に話がふられ、小梅は笑いつつ「恥ずかしながら私にも」と答えた。
「せっかくの別嬪さんやのに〜。でも、流星君か小梅ちゃんが結婚してしまったら、玄関に出迎えてくる二人が見えんのは悲しくなるな」年配の親戚の人は豪快に笑いその場を後にした。
小梅と流星は目を合わせ、苦笑した。
少し、客足が引いた頃。
「てか、その着物は母さんの?」流星は改めて小梅を見つめた。「うん。ちょうど私の名前に合っているからって貴美子さんから貰ったの。似合ってる?」小梅は頬を赤らめた。
「似合ってる。逆に俺の着物はどう?最近買ったやつなんだけど」
流星の着物は赤と黒が混じった柄だ。
「流星兄ちゃんによく似合ってる。兄妹同士着物赤だね」「そうだな。」小梅と流星は笑いあった。
「流星君と小梅ちゃん久しぶりだね〜」また、客足が増えていき、小梅と流星は笑顔で対応した。
◇◇◇◇
「なんだ、まだ流星君彼女もいてないんか」「そろそろ結婚しないと、今年23だろ?」「小梅ちゃんもいい男捕まえんとダメだよ」「小梅ちゃん別嬪やさかいにようモテるやろ?」宴会の席。
お酒に酔った、年配の男性達が豪快に笑いながら流星や小梅の嫁や旦那の話をした。
ーー毎年同じ話を...
小梅は苦笑した。隣に座っている流星も同じように苦笑していた。
「流星君も立派になったよな〜。」「流石長男。」「生まれた時、親戚中喜んだな〜」次は流星が生まれた話になった。
小梅は親戚の人達の話を聞き、少し目を伏せた。
「そんな話は、いいですから。今日はどんどん飲みましょう」流星はサラリと話題を変えるようにお酒をついだ。
小梅は流星の優しさに胸がいっぱいになりつつも、「兄の言う通り、どんどん飲んでください」と声をかけた。
◇◇◇◇
そして、酔い潰れて寝てしまったりする人もおり、全員が帰ったのは次の日の明け方だった。
縁側で風にあたり、「なんとか終わったな。小梅」と流星は背伸びをした。
「うん。疲れたね」小梅はぼーっとしながら言った。
「お疲れ様。さっき貰った洋ナシ切ったけど、流星君と小梅ちゃん食べる?」貴美子が切った洋ナシが入ったお皿を持ってきてくれた。
「ありがとうございます。」流星はお皿を受け取った。「貴美子さん達も休んでくださいね。ずっと働き続けて疲れましたでしょ?」小梅は心配そうに貴美子を見上げた。
「ありがとう。もう片付け終わるから大丈夫だからね」貴美子は嬉しそうに微笑みその場を後にした。
「流星兄ちゃんの言う通り...来客があったからかもしれないけど、平和になったね」小梅はポツリと呟いた。
流星は少し笑い「やっぱり、1ヶ月に1回程度は避けられないけど。」と言った。
「そっか。でも、ビジネスとかする意味あるのかな。」「正直無い。父親が小遣い稼ぎみたいなもので始めたから。だから、俺は無くしたいと思ったんだ」流星は洋ナシを口に入れた。
「流星兄ちゃん...みんなの言う通り立派になったんだ...」小梅は膝を抱えた。
流星を見たら時折思う。
なんて自分が惨めなんだろう。
今日、如月家がいつもより明るかった。
ずっと嫌な如月家を変えようともしないで逃げた自分に比べて、流星は直そうとしてくれている。
周りから褒めてもらえる流星に何回嫉妬しただろう。
そんな自分が嫌いだと思った。
「小梅。洋ナシめっちゃ甘いぞ?食べよう」流星は小梅の口元に洋ナシを持ってきた。
小梅は洋ナシを食べると「美味しい...あれ?ほとんど流星兄ちゃんが食べてる」小梅はいつの間にかあまり無い洋ナシを見てクスッと笑った。「小梅が食べるの遅いから」流星にそう言い返され小梅はふふっと笑みが漏れた。
流星も笑い始めた。
暖かい朝日が差した縁側で2人は笑いあった。
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