第3話 被害者の正体

氷川光一警部と彼の部下たちは、警察署の会議室に集まり、捜査本部の設置準備を整えていた。白板には事件の概要と関係者の写真が貼られ、氷川は事件の進展を説明するために前に立った。


「皆さん、昨日発見された建設現場での遺体の身元が判明しました。被害者は元暴力団団員の信川康介、32歳です。彼は10年前に坂城勇次衆議院議員を銃撃し、殺害した犯人です。」


室内がざわめいた。中原淳一警部が手を挙げて質問した。「信川康介はあの事件の後、どうなったんですか?」


氷川は頷きながら答えた。「信川は裁判で精神状態の異常を理由に懲役9年の判決を受けていました。刑期を終えて出所していましたが、今回の事件で再び我々の前に現れることになったのです。」


田宮晶子がノートにメモを取りながら尋ねた。「信川康介が今回殺害された理由や動機について、何か手がかりは?」


「まだはっきりしたことは分かっていません。ただ、現場で見つかった不思議な財布が気になります。中身は空っぽで、中央に大きな穴が開いていました。財布からは血液が検出されており、現在検査中です。」


芝岡雄三鑑識が資料を見ながら報告した。「さらに重要な情報があります。信川の遺体から検出された銃弾の拳銃は、10年前の坂城勇次銃撃事件で使用されたものと同じです。このことから、犯人は何らかの理由で再び同じ銃を使った可能性があります。」


中原が再び質問を投げかけた。「信川は当時、単独犯として供述していましたが、暴力団関係者からの情報は得られませんでした。今回はどうでしょうか?」


氷川は深く頷いた。「暴力団の幹部や関係者に再度聞き込みを行う必要があるな。特に、当時の幹部脇永英二に接触するつもりです。また、信川の同期である衆議院議員の須川修也も調査対象として浮上しています。彼は坂城勇次のライバルでした。」


田宮が補足した。「捜査本部の設置により、これから情報を集め、関係者への聞き込みを進める予定です。信川康介の殺害に関する手がかりを見逃さないようにしましょう。」


氷川は全員の顔を見渡し、力強く続けた。「皆さん、これからが本番です。信川康介の過去と、坂城勇次との繋がりを解明し、この事件の真相を突き止めましょう。」


会議が終わり、捜査本部のメンバーは各自の役割を確認し、行動を開始した。氷川はデスクに戻り、資料に目を通しながら考え込んでいた。信川康介の殺害事件は単なる偶然ではなく、何か深い闇が隠されているに違いないと直感していた。


中原が資料を整理しながら話しかけた。「氷川さん、この事件にはまだ多くの謎が残っています。暴力団関係者や坂城勇次のライバルである須川修也への聞き込みが重要です。」


「その通りだ、中原。我々の仕事はまだ終わっていない。全力で調査を進め、真実を明らかにしよう。」氷川は決意を新たにし、次なるステップに向けて動き出した。

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