物語の終わりと実話の始まり

 とある病院の談話室にて。隅っこで本を読む少女がいた。








 ──パタン。

 と少女は本を閉じる。


「所詮カエルとコイ……どーせ交われない」


 表紙を見ながら少女はそう呟いた。


 こんなことを考えてしまうのは彼女が捻くれているからなのか……それとも、この病院に閉じ込められ一日三回のエサ食事を与えられ泳ぐこと本を読むことで時間を浪費する毎日を過ごす内に感情を失ってしまったからだろうか……


「どーせ、私はいつまでも同じことを繰り返す」


 そう自虐的に言い、ふと顔を上げた時。彼女は見慣れぬ顔と目があった。彼女と同じくらいの歳の男。

 名も知らぬ彼はニコッと笑うと少女に近づいてくる。そして、なんの断りもなく前の席に座るやいなや少女の方を向いてこう言った。


「俺の名前は栄瑠衣さかえるい。お前は?」

「え、あ……恋野琉明こいのるあ


 さかえるい、こいのるあ。

 今、この病院で、また別の鯉とカエルの物語が始まった。

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