三章:約束
あれからもカエルは不定期だがこの池に来ていた。大体二週間に一回。たまに三週間とかにもなる。
最近はもう極寒である。そろそろ地上の動物は冬眠を始めるのてのではないだろうか? でもそうなるとカエルとも……
「珍しく暗い顔してるわね、あなた」
「意味深な二人称だね……」
あの日からアマガエルは変に「あなた」を強調してくる。それにボクがさっきみたいに返してカエルが「なんでもないわよ」って言うまでがセット。
「もうすぐ冬眠ね……しばらく会えなくなるわ」
「君は、平気なの?」
ボクの問いにアマガエルは微笑むだけだった。そういえば、最初に出会ったときは高飛車な感じだったけど、最近は角が取れて丸くなった気がする。微笑むのがそのいい例。昔はしなかったからね……
「何か変なこと考えてない?」
「考えてません」
妙に鋭い……これだから女は。とか言ったら怒りそうだなぁ。
「今日が最後よ……」
「え?」
ボクはしばらく彼女の言葉が理解できなかった。今日が最後……え、会えるのがってこと?!
「えぇ。そろそろ冬眠ですもの。安心しなさい。この近くで寝てあげるから」
ずっと近くにいるわよ──と彼女は言うとそっぽを向く。声が震えてるし水がほんの僅かに塩っぱいような……っと、気づかない方が良かっただろうか。
とりあえず言及するべきではないよな。
「暖かくなったらまた会いに来てくれる?」
「もちろんよ!」
彼女のその言葉にボクはホッとする。またいつか会えるなら、大丈夫だ。寂しくない、大丈夫。
……それからボクらは長い時間話し合った。そういえば、最近は昼過ぎにやって来ていたのに今日は朝から来たな。別れを告げるため、なのかな。
この時間が永遠に続いてほしかった。しかし別れのときは訪れてしまう。
「もう、行くわね」
カエルが、そう切り出した。日はもう半分隠れた。そろそろ行かないとこの池の中で凍死するだろう。
それは分かってるのにボクは彼女にそばにいて欲しかった。
「安心しなさいって。絶対会いに来るわ」
「ほんとに?」
「ほんとよ!」
彼女は断言する。爽やかな笑顔と共に……
今世界にはボクと彼女だけしかいないような気がした。少なくともボクは自分自身と彼女しか認識出来てない。周りを流れる水の感覚ですら今のボクには不要なものだった。
「絶対に、ほんっとに絶対戻ってくる?」
ボクはこんなにも心配症だっただろうか……
「ほんとよ! だってアタシはあんたが好きなんだか
ら!」
再び発せられた「好き」という単語。それにボクは頭が真っ白になる。だってカエルがコイに好きなんて……
「フフフ、本気よ♪ それじゃあ……来年もよろしくね!」
カエルも恥ずかしいのだろうか、池を出ていこうとする。その泳ぎの速さは魚に引けを取らない……ってそうじゃなくて!
「ぼ、ボクも君の事が好きだよ! 外の世界を教えてくれた君が好きだ。また今度、絶対会おうね!!」
彼女は振り返ることなく進む。喜んでくれたのかな……まぁ、来年聞けばいいよね。ボクらはお互いを求めているんだから……絶対また会える。
よし、ボクも越冬の準備でもしようかな!
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