第5話 プレデター級冒険者へ...

 「ここでわたくし、オエンから冒険者についての説明といたしまーす。」

冒険者として活動を始めて一週間、宿に戻るとオエンが急に言い出したのがアレだ。なぜこのタイミングで言い出したのだろうか。

「まずは階級についてだ。」

「階級はビギナー、アマチュア、プロの三段階だけではないのは知っているが...そういえば受付でハンター級とキラー級と言っていような。」

「ザッツライト!冒険者の約半分はアマチュア、4割はビギナー、1割がプロといった感じだ。強さの順は言わなくても分かるな。んで、プロの中でさらに上位の者がハンター、キラー、プレデターとなっている。ハンターはプロの上位200人、キラーは50人、プレデターは10人が選ばれている。順位の基準は簡単、強ければいい。プロ級の中でステータスを参考に順位付けされる。不満があれば戦って順位を奪えばいい。もっとも、プロ級の冒険者は多忙でそんな戦いはほとんど起きないが。んで、お前のような者は造反者と呼ばれる。造反者はどこまでいこうと造反者、たとえ反抗する意思がないとしてもだ。ビギナーは銅の、アマチュアは銀、プロは金、ハンターは空、キラーは藍、プレデターは黒のプレート。そしてお前たち造反者は鉄でできた赤色の腕輪、これで識別できる。ちなみに審問官は白色のプレートだぜ。」

なるほど、受付から説明がなかったのは昇級することがまずないからなのか。だとしたらなぜ、オエンは俺に説明した。

「普通はな...。」

ずっと黙っていたトューンが口を開いた。

「トューン、どういうことだ。」

「俺たち兄弟はキラー級の冒険者ほどの実力があり、二人合わせればプレデター級とも均衡をとれる。ようは最強の審問官ってことだ。そんなのが二人がかりで審問を任される、わざわざ階級の話をする。この意味、わかるな?」

いや、分からん。

「お前なら例外イレギュラーになれる、お前ならプレデターにだってなれる。」

「史上初の赤い腕輪のプレデター、カッコええやん。」

なんで俺が?今までにいなかったのか?そもそもどうしてこいつらは俺に?疑問符が溢れてやまない。

「なにも善意でこんなこと言っているんじゃない。兄者、説明よろ。」

オエンの雰囲気が重々しくなる。いわゆる真面目な雰囲気だ。

「俺たちは審問官。俺たちが審問するのは造反者たちだけではない。腐っている上層部に新しい風を吹かせるんだ、造反者という風を。今までの行動からお前が悪人ではないことはもう分かった。俺はお前のことは嫌いだし、したことを許すつもりは一生ない。だが実力を信頼しないほど馬鹿じゃないし、好き嫌いで物事を判断をするほど間抜けでもない。正直飽き飽きしてるんだよ。力をひけらかすプロ級にも金にしか目がない上層部にも。」

「捕捉だが、全員が全員ではないからな。ちゃんとしてるのもいる。」

「そこで俺達審問官がお前の後ろ盾となる。冒険者協会も審問官たちがバックにいるとなればそうそう文句は言えまい。」

なんで俺がプレデターになると新しい風になるんだ。聞いてみるか。

「どうして俺なんだ。」

「強い、悪人ではない、死神として名前を知られている。そして誰もやりたがらない依頼を進んでやる。しかも安価で。忌み嫌わている者が一番頼りになる、一番強い冒険者となってしまったら他の奴らはどうなる?」

「力を誇示する意味もなくなる、大金で依頼を受けることもできなくなる。」

「そういうことだ。少しは腐敗もマシになるはずだ。俺達審問官はお前を利用する。代わりに不当な扱いを受けないように根回しなどはする。お前にとっても悪い話ではないはず。」

「さあ、どうする?」

別に悪い話ではない。協力するにしろしないにしろ俺がやることは変わらない。

「協力だ。」

「これからお前には最難関レベルの依頼を受けてもらう。昇級試験はこれから二週間後。時間は短いがそれまでに功績を立て受験資格を得る。」

「了解。」

二週間、さらっと言ったが短すぎないか?

「というわけで夜ではあるが、冒険者協会へ行こう。あ、ちなみにこの計画は俺がお前に同行している間に思いついたものであってまっっったくもって公的なものじゃないから交渉には骨が折れるぜ~。」

「勢いだけで生きてるよな、兄者は...」

 一番効率がいいのは未踏破迷宮の攻略らしいが...そんな簡単に受けられるものなのか。

「あ、あった。」

都合よすぎて怪しいな。これももしやオエンの計画なのでは。

ジロりとオエンの方をにらむ。

「いやいやいやいや、さすがにこれはノータッチ。運が良かっただけよ?本当に。いやいやマジで。」

「完ッ全に信用失ってて笑う。」

目が笑ってないぞ、トューン。

「深夜は受付いないから、この紙に書いてここに置いておけばOK!!というわけで~、レッツゴー!!」

行先はアルノス迷宮。つい最近フォース近辺で発見されたらしい。

 今のところ探索が完全に完了しているのは21階層まで。アマチュア級冒険者たちが攻略したらしい。そこにワープスタンプが置かれていて、地上からすぐに21階層までおりれるらしい。オエンは大槌を使う護者、トューンは大斧を使う疾者、アローンは大剣、大鎌を使う万能者。バランスのよすぎるパーティ。未踏破迷宮完全踏破ならば普通プロ級十数人単位で挑む者だ。3人で挑むなどありえないが単品でも踏破できるであろう者が集まればそれはもうものすごい勢いで進んでいくだろう。

—21階層

石造りの遺跡のような造り。典型的なダンジョンって感じか。

この階層を見るにこのダンジョンは戦闘型。謎解きは苦手だが戦うだけなら話は早い。

—22階層

いよいよ未踏破領域。敵を見て表層か深層か判断ができる。

エスト級ゴブリン数十匹。一匹でもアマチュア級冒険者と十分にやりあえる強さ。この程度の魔物ならここはまだ表層だな。階層は100以上あると思ったほうが良い。

なんて考えているうちに殲滅を完了させ次の階層へ向かった。

—23-29階層

色んな種類のゴブリンが出てくるだけの大した事のない部屋ばかりだった。10階層ごとにボス部屋があるはずだがこの次はどうだろうか。そうして29階層を降りた先の扉は今までとは違うものだった。

—30階層

エストダークゴブリネスト、エストライトゴブリネスト。

上位ゴブリンであるゴブリネストのエスト級。2体でプロ級1人と互角といったところ。

まあ中層手前としては妥当な強さだろう。

まあ、一発で終わるが。

スパンと両手の武器で首を飛ばし、次の階層へと足を運ぶ。

—31-40階層

ゴブリンがオークが変わっただけで大した違いはなかった。彼らにとってはだが。

—41-50階層

トロールバージョン。別に面白さを求めているわけではないがこうも簡単に進んでしまうとつまらない。ただ50階層でオエンがトロールと相撲をし始めたのは少し面白かった。

—51-60階層

懐かしのアーマーガーディアン。

エスト級の軍隊を見たときはあの時のことを思い出して少しヒヤッとしたが、まあキュクロプスの魂があったわけでもなかったのでさっさと済ますことができた。

—61-70階層

今までのオールスター。幸いここまで魔法関連の敵がいなかったため脳筋ふたりにとっては戦いやすかった模様。

ボスはアーマーガーディアンを装備した、トロールたちだったため少しばかり手こずった。アローンのアーマーブレイカーとオエンの大槌があれば余裕で終わった。

—81階層

ノーマルドラゴン。滑空、魔法、爪や牙による斬撃、体表の鎧のごとき鱗。魔物版の万能者と言ったところ。この階層のドラゴンはファイアドラゴン、ウォータードラゴン、ウィンドドラゴン、サンダードラゴンの4属性。プロの冒険者が大量に必要な理由はこのような階層の攻略が困難だからである。どの迷宮にもドラゴンは発生するもの。謎解きがメインの迷宮だとしてもだ。ドラゴンの弱点属性の適性を持つ魔者、スキル等が必須となってくる。ここからは油断をしていると少しばかり危険だ。今までの無双状態とは違う。ビギナー級にとってのノーマルスライムがアローンたちにとってのノーマルドラゴン。油断すれば少し危険である。ここからは気を引き締めていく必要がある。

「ここからは気を引き締めていくぞ。」

「ラジャー!!」

「了解。」





 「2.1.1で行く。俺がウォーターとファイア残りは二人で何とかしてくれ。」

三方向に散らばり、各々の前にいるドラゴンを狩りにかかる。

真ん中の二体は駆け寄ってくる一人の黒鎧にブレスをお見舞いしようとするが、アローンは武器を二個持っている。片手で軽々と二体の首を切り落とす。

右のウィンドドラゴンは、風魔法のバフで速度が上がっているが、トューンの方がよっぽど速い。大斧は使わず、脳天に短剣を突き立て、そのまま頭を引き裂いた。

残ったサンダードラゴン、オエンに猛攻をかけるも全くダメージが通らない。少しずつその距離は縮まり、心臓に短剣を突き立て倒した。

「気を引き締めろと言われたけど流石に、ノーマルじゃこの程度だよな~。」

—82-84階層

属性と数が増えただけで何ら問題はなし。

—85階層

扉の前で順調に進んでいた一行の足が止まる。

「なぜここに燭台が。」

「蝋燭10本、その内5本に火が。」

「5歳の誕生日かな~、オメデトー!!なんつって。」

ニヒヒと笑うオエン。

「多分それ面白いと思ってんのお前だけ。少しは空気よめ。」

すかさずトューンが突っ込みを入れる。

「しゃーねぇ、しゃーねぇ。だってもう審問だと思ってねぇもん。無心にもならなきゃ、真面目にもならんねや。」

「ああ、そう。」

諦めと呆れが混ざったようなトューンのことなど知らず

「うん、そう!」

など、呑気なオエン。とても迷宮85階層にいるとは思えない会話。

「雑談するのは勝手なんだが、これについてはどう思う。」

燭台を指差し話を本題に戻すと、オエンも真剣に考え始めた。

「謎解かんとあかん部屋か、ボスほどじゃあねぇけどまあまあ強い敵の部屋か、この2択じゃね。確証は全くないけど。」

「悔しいけど、兄者の言う通りだと思う。」

「お前ら頭脳の方はどうなんだ。いや、オエンは答えなくていい。」

「意外だろうけど兄者の方が頭は冴えてる。昔っから地頭よくてやれば何でもできる質だった。」

「『意外にも』?一言余計だぞ。」

「俺は戦闘思考以外はからっきしでな、謎解きならオエンに任せる。」

「この天才オエンにお任せあれ。」

そうしてオエンを先頭に部屋に乗り込む。

グォォォォォォ!!

意外にも3人を待ち受けていたのはキングドラゴネス3体だった。

「これさ、完全に謎解きの流れだったよな?なんでこうなるかな~...」

キングドラゴネスト—複数属性所持の上位ドラゴン。これがエスト急になるとネームドになることもあるぐらい凶悪な魔物。1人1体ならまあ余裕を持って倒せるが、おかしい。深層とはいえまだ85階層。キングドラゴネストが出たとしても1体。85階層で急激に難易度が上がりすぎだ。

外部からのなにかしらの介入があったか、迷宮自体が特殊なものなのか。

この後の階層の様子で全てはわかる。

今はそれよりも目の前の敵。

雷、風、光の複数属性所持は属性の特徴上俊敏だが脆弱(と言っても、そこら辺のプロ級冒険者よりよっぽど硬いが。)。土、草は頑強だが鈍足。神聖、呪、特殊の万能型。わざわざ対俺たちに合わせて出現したとしか思えない組み合わせ。燭台の効果なのか、それとも燭台のある部屋がそうなのか。

「オエンは左の硬そうなやつ、トューンは右の速そうなやつ、俺は真ん中を行く。」

「しつもーん!ちゃちゃっと終わらせたいからちょっと本気出してもええか。」

「倒せるならなんでもいい、好きにしろ。」

「りょ。」「ラジャ。」

3人の空気が変わる。(1人は対して変わってない。)

「「不絶光速、ハイセンス。」」「完全装甲、アドレナリンラッシュ。」

3手に分かれて各々の目標へ突撃する。

相手も咆哮とともに自己強化を行ったようで、禍々しいオーラが溢れている。

最初に決着がついたのはアローン。

不絶光速で近づくなり斬首スカージで首を切り落とす。

相手は神聖属性持ち、もちろん自己回復手段がある。霊妙なる治癒を彷彿とさせるレベルの治癒力。瞬く間に再生していく。呪い属性持ちによる呪い体制で回復妨害魔法も効かない。しかしそれも氷魔法アブソリュートによって意味をなさなくなる。

己以外の全ての物質の活動を止めるほどの超低温の氷。触れた部分は半永久的に溶解することのない氷に覆われる。(クエーサーというアブソリュートと真逆の性質を持つ火魔法で相殺可能。)

スカージで落とした首は凍結し、少しの間暴れまわった後、静かになった。

ドラゴンに攻撃する余裕は微塵も与えられなかった。

 アローンが突撃すると同時に突っ込んでいったのはトューン。

普段使うことのない背中の大斧を両手でしっかりと握り縦横無尽に駆け回る。

超高速で動いて入るが、相手もそれは同じ。かろうじてトューンのほうが速いと言ったところだろう。

マルチエストウィンドカッター、マルチエストレーザー。

四方八方から飛んでくる弾幕をきれいに避ける。トューンの通った後の地面は抉られに抉られボコボコになっている。

こんな衝撃を受けても崩壊しない迷宮の耐久力は凄まじい。

雷、風、光の弾幕によって綺麗に距離を取られる。

「アヴォイドスライド、ラビットステップ」

不絶光速にさらに回避スキルを使用し、スケートのように華麗に回避したり、うさぎのように跳ね回ったりと弾幕を避けていくが、距離が詰めれない。近づけさせたがらないということは、近接は弱い。だったらやることは一つ。

「超光速、ダウンエッジ。」

光速を有に超える速度でドラゴンに一気に詰め寄り、大斧を振り下ろす。

「アクセラレーション、大車輪。」

振り下ろした大斧は更に加速し、そのまま一回転するとともに首を切り落とした。

神聖持ちの干渉で回復する可能性もある。神聖持ちはアローンのほうだが...すでに倒しているか。疾と攻のハイブリットは暗殺者が多く、トューンは暗殺者から程遠いものだった。

 視点は変わってオエン。完全装甲により防御をガチガチに固め、アドレナリンラッシュで痛みは無効化。

ウッドバインド、サンドダスト、エストフォールンロック、エストロックショット、ストーンストライカー。

様々な攻撃がアローンに襲いかかる。

「カウンター・カウンター...スタート。」

地面からは生えた枝によって縛られ、砂塵によって視界は奪われ、大量の岩がオエンを襲い、最後の一撃に硬質化した尻尾による打撃。

とてつもない衝撃波と音ののち砂塵の中にはオエンの姿がうっすらと見え始めた。ノーダメージのオエンの姿があらわになった瞬間ドラゴンは後ろへ引く。

自分の攻撃が効いていないことに困惑しているのか首をかしげている。

「そんなんじゃ、効かんねや。残念無念、どないやねん。」

これはかっこよくキマったな。フンッと鼻をならすオエン。

「それじゃあ、そろそろ終わりにしよか。」

ドスドスと走ってドラゴンに近づくオエン。

マルチエストロックマシンガン。

魔方陣5つから大量の岩弾を連射し逃げようとするドラゴン。

岩弾をものともせずズカズカと距離を詰めていく。

いよいよドラゴンが本気で逃げようとするが、

「逃げんなよ!挑発!」

瞬間ドラゴンは怒り狂いロックアーマー、森の祝福、岩盤装甲を発動しオエンに突っ込んでいく。

「カウンター・カウンター...エンド。」

今まで受けた攻撃から計算するに、俺の攻力に上乗せすれば粉砕可能。

「レッツホームラーン!!(アンガースイング)」

大槌をどっしりと構え振りかぶる。

「オラァァァァ!!」

グォォォォォ!!

ドゴォォォン!!

爆音と振動と砂塵包まれる85階層。

砂塵の開けた先にはへしゃげたドラゴンと決めポーズをカマすオエン。

「全員無傷か。」

「まあまあ、これぐらいならまだ余裕やろ。」

「そんなことより、気になるのは次の階層。」

ボコボコになった85階層を去り86階層へ向かった。

―86階層

「燭台がない...」



説ry


アローン

子供の頃に染み付いた爪を噛む癖がずっと治らない。爪がガタガタ。

趣味 無し。子供の頃は丘の上での外遊びが好きだったようだ。


オエン

自称「ダジャレキング」

カウンターが得意な護者。素の攻撃力の高さも相まって反撃力抜群。

趣味 ダジャレ研究、ゲーム(死にゲー、美少女ゲーム)

オエン曰く「俺は二次元を愛す。現実にこんな奇人好きになるやついねぇよ〜。」

頭おかしいのか、賢いのか自分でも時々わからなくなる。


トューン

オエンが言うには「神相棒サポーター

暗殺者向きのステータスだが、破壊力が高すぎて向いてない。

趣味 ゲーム(全般)

兄者のツッコミやら、散らかした部屋の片付けやらをしている。苦労人。

二面性が激しく、外の様子からでは考えられないが、家ではダラダラしている。

それでもやることはやる。


審問官

造反者の心臓を奪うために短剣を支給される。

そういう慣習らしい。回収した心臓が何に使われているのかは謎に包まれている。

リアム兄弟の短剣は特別仕様なようで...





 燭台がないということは86階層は先ほどよりも難易度が下がるのか、それとも燭台より先は難易度が急激に高まっているのか。これから先15階層あることを考えると後者であってほしくはないが、この世は不条理だ。想定はいつも最低を。それより良ければラッキー程度に構えておくのべきだ。

「この先もなにがあるか分からん。魔法しか効かない敵がでればお前たちは使い物にならないし、未確認生物など出ようものなら死を覚悟したほうが良い。」

使い物にならないとアローンが言った瞬間オエンがピクッと反応した。

「使い物にならないとは心外だなぁ。心のひろーい俺じゃなかったら流石に怒だぜ?一応これでも護者やってるんし、タンクの役割ぐらいできる。それにトューンも速いから囮ができる。ワンマンプレイを続けてきて協力が苦手なのは理解してる。だがもう少し俺達を当てにしろ。冒険者たるものそうあるべきだし、そうじゃないと死ぬ。例えお前が『嫌われ者』だとしてもな。お前はもう破壊者じゃないんだ。」

破壊者の頃に孤立していたことも知れ渡っているとは...

俺達を当てにしろか...今まで味方のことは駒程度にしか考えていなかったし、俺一人で解決すればいいぐらいにしか考えていなかった。

だが、彼にだって理由はある。

破壊者になってすぐの頃は例の噂を知っているものみが彼のことを嫌っていた。彼のことを知らない状態で出会えば「呪い」によって意味もなく嫌悪を抱かれる前に共闘はできる。信頼だって同業者なら少しはある。

だが最上位になってしまえば同業者で彼のことを知る者はいなくなった。ならば、会う前から嫌われているのは当然。信頼関係もくそもない。いつ後ろから刺されるかもわからない状況で背中を預けるなんてできはずもなく、独りで戦ってきたのだ。そんな者が協力して戦うのは少し難しいのだ。

サラセニア人は性格が悪い。嫌いな奴には平気で嫌がらせをするし、殺したりする奴もいるぐらいには。どれだけ性格が良い奴でもだ。実力も正しく評価しないし、物の売買だって正規の価格じゃ行ってくれない。それが彼にとっての普通の人間。オエンたちはアローンのことをどれだけ嫌っていようとも、実力、利用価値の高さから彼をぞんざいには扱ったりしない。それが理解できればいいのだが、疑心にあふれた脳みそにはどうにも響いてくれないらしい。

「そうか。善処する。」

今考えんのはこんなことではなく、目の前の扉を開けた先だ。本当考えいるのだろうか...

「んじゃもういっちょ気合入れていきますか~。」

85階層の時同様警戒して中に入る。

中いたのは...

「こりゃあただのエストファイアドラゴンだな。くそ雑魚じゃねぇか...。しかも1匹。」

「雑魚ではないけど...ちょっとがっかり。」

なんだが少し残念そうなオエンたち。

「楽に進めるに越したことはないだろう。さっさと終わらせるぞ。」

「まずは、俺が。」

ササっとオエンが二人の前に立ち

「挑発。」

怒ったドラゴンはオエンに向けて火球を放ちながら突進。

ドラゴンの爪がオエンを捉え、ちょうどぶつかる瞬間、大槌の柄の部分を使い攻撃を受け流す。攻撃を受け流されバランスが崩れたところをオエンが打撃によって転倒させ、その隙をついてトューンが脳天めがけて大斧を振り下ろす。

アローンの出る幕もなくドラゴンは沈んだ。

一呼吸をおいてオエンが一言。

「燭台=強敵って認識でよさそうやな。」

コクコクと頷く二人。

「この先は燭台がなければいいな~。」

「兄者、それフラグ。」「オエン、それはフラグというやつだ。」

「1級フラグ建築士オエンここに見参!!」

歌舞伎のような見得を取るオエン。

やれやれといった感じで完ッ全に二人はあきれている。

彼らはここが迷宮だと分かっているのか...

-87階層

少し期待していたがやはり燭台はなく、86階層同様重々しい扉があるだけ。

「残念無念、フラグ回収ならず。」

「どうせならスリルある攻略をしたいってもんよ。」

うすうす考えてはいたが、この兄弟、戦闘が好きなのだろう。

さっきからずっと敵が強いだの弱いだのばっかり。まあ、こんな思考でなければここまで上り詰めてこられないか...。

ドアを開けた先に待っていたのは何もない部屋。

「これ入って大丈夫なやつ?」

いわゆるトラップ部屋というものかもしれない。入った途端出口はなくなり、壁や天井、床が迫ってきて圧死。床が抜けて毒沼へ、矢の雨で串刺しに...等悲惨な事故として度々報告されている。斥候者さえいればそんな罠にはかからないが、卓越した知識や技能が必要となるため、事故件数は一向に減らない。

そんなことは関係ないのがアローン。

「ディテクション。」

部屋のいたる所に魔力反応が見られる。おそらく触れたら起動する種類。

あとは魔力以外の罠。

罠部屋の定石だが、出口は幻影魔法で消されている。さらに魔力探知をはねのける結界も張られている。が、障壁術に精通しているならば、結界術など見破るのは簡単。

部屋の中央に幻影魔法と結界によって隠された通路を発見した。

普通出口は壁にあると思って探すものだから気づけないし、そもそも真ん中にはないだろうという先入観のせいで確認すらしない。そして壁に触れて罠が発動、からの死亡。よくある話だ。一通り確認を終え、ルートの構築も完了。

「俺がマークしたタイルのみ歩け。でなければ罠が発動して面倒だ。そしてオエン、背後にプロテクションを張れ。」

魔力によって創られる障壁、結界と異なり、プロテクションは護力によって創られるためオエンでも使用できる。

「プロテクション。」

三人の背後に巨大な盾が顕現する。

「さあ、走るぞ。」

勢いよく駆けだす三人。

「後ろから矢でもふるのか?」

オエンが効いた瞬間、

「いいや、槍だ。」

後ろから大量の槍が降り注ぐ。

「足元に注意しろ、マークのないタイルを踏めば十中八九罠が起動する。」

部屋の中心部につくと次に待ち受けているのは結界の破壊。

構成からするに、この3点を同時にたたけば簡単に打ち破れる。奴らには視認できないだろう。となると

「せい!!」

右膝、右拳、左拳で三点を突く。

堅牢に見えた結界はいとも簡単に崩壊し、それと同時に幻影魔法も消え、下に続く穴が露わになる。

「飛び込め。」

穴の中に三つの影が消えていった。

ドシン!!

「いってぇぇ!!けつもちついたわ。」

ニャハハと笑うオエン。

「尻もちって言えよな。」

「にしてもお前よくあんな一瞬であの部屋の構造がわかったな。俺はなんにもわからんかったで。やっぱそういうスキルとか持ってる感じ?」

「かもな。」

そっけない物言いに兜のせいで顔も見えず、一見不機嫌そうに見えるが、きっとその表情は逆上がりを褒められた子供のようなのだろう。

「『かもな』ってなに誤魔化してんねや。照れてんのか~?」

ウリウリ~と腕をツンツンと叩くオエン。

「そうかもな。」

-88階層

『終極。大罪を犯し神をここに封ずる。この封が解かれたとき、世界は滅亡するかもね☆追記 トラップ作ってみたけどどうだった?まさか今瀕死でここにいるとかないよね?え?!今にも死にそう?雑魚乙。』

苛。

「なんだこのクソ気持ち悪い石碑。しかも終極ってことはここが最終階層ってことか?てっきり100まであるもんだと思ってたんだが。」

明らかに苛々しているトューンと

「俺みたいな性格の人間がこの迷宮を作ったんだろうな。俺には分かる、人をビビらせた後煽るのは楽しい。それと☆とかつけんのもよぉ分かるで。俺はお前と友達になれそうだ。この迷宮の創造主よ。」

対照的にとても楽しそうなオエン。

アローンはというと、

「この奥に大罪を犯した神が封じられている、か。」

気配から察するにこの奥には確実に神はいる。迷宮攻略とは最深部までたどり着くこと。この神の力を知り、使うことができれば呪いの「誰からも愛されない。」ということをどうにかできるかもしれない。といっても封じられている神がどんなタイプなのか、そもそも神の力すらも扱うことができるのか、神を殺すことができるのかも分からない。

だが、ここでやるしかない。だが、こんなところで優秀な審問官二人死なせるのは惜しい。

「オエン、トューンお前たちはここで引き返してくれ。これから先は審問官としての仕事の範疇を超えている。わざわざ俺に付き合う必要はない。」

きょとんとする2人。

「ない言うてんねや?これから人類史上初の神殺しになれるかもしれんのに、そのチャンスを易々と捨てろと?」

「冗談じゃない。」

「「俺達も戦う。」」

アローンの瞳は赤黒く、オエンとトューンの瞳は青白く爛々と輝いていた。





大罪を犯した神...。一体何をしでかしたのだろうか。

扉の奥から犇々ひしひしと感じる禍々しい空気。

「こりゃあ当然っちゃ当然のことなんだが一つ。大罪を犯したのなら普通は殺される。だが死ではなく『封印』されているということは神々はこの先にいる『神』を殺せなかったということだ。たまにあるだろ?ミノタウロが手に負えなくて、とりあえずその場凌ぎで封印する小さな村の聖職者とか。」

オエンが一呼吸置いて一言、

「こいつはバリ強い。」

「「知ってる。」」

ちょっとすごいこと言うかなと思ったが、そんなことはなかったか。

「って顔してるぞ。バレてんぞお前ら!!だから当たり前っちゃ当たり前って言ったろ?」

ただ今まで戦ってきたやつとは別格の強さ、オエンの言う通り『バリ強い』。

魔法が無効ならどうする?物理が無効ならどうする?そもそも神が殺せなかった『神』だぞ。

たかが人間の俺たちに手立てはあるのか...。

そんなことを考えながら自分が使えそうな魔法、スキルを思い浮かべる。

知っていればもちろん使える。知らなくとも存在していれば使える。

「さっき意気揚々と『戦う!!』なんて言ったのはいいが勝算はあるのか?」

「今『探してる。』」

「探すって...ドユコト?」

そうやってひたすら、神を殺す技のイメージをしていると2つの魔法が浮かんだ。

1つは神殺しの魔法、―ディーサイド。1つは神斬りのスキル、―トツカノヤイバ。


ディーサイド

動力変換同様研究だけが行われ、使われることは終ぞなかった魔法。魔法は神殺結社ヨルガンドによって数百年前に構築された。だがその結社も冒険者によって存在が露になった途端四国によって滅ぼされたそうで今は存在していないため、なぜ神に効くとわかったのか、どう構築されたのかは不明。

強化系魔法。干渉できない神にも干渉することができる。

トツカノヤイバ

神を殺した十拳剣の斬撃を模倣するために作られたスキル。疾の国の何者かが修練の末、習得。なんのためにこんな力を得ようとしたのか不明。これもまた実際に使われることはなかった。

トツカノヤイバというが、別に斬撃だけでなく打撃でも効果は発揮するらしい。武器に神に有効なエッセンスを付与できる。

ルーツで追い切れる情報にも限りがある。とりあえずここらへんで切るか。

神というのは下界に降りてくることはまずない。当然神を殺す力が振るわれることなどなかったっといった感じだから使われたことが一度もないのだろうな。

毎度毎度こうしていると思うが、人が努力して得たものをある種のズルによって簡単に使っている自分が情けないな。ため息と共に冷笑を浮かべる。

ディーサイドとトツカノヤイバ、この2つを同時使用すれば、神に干渉する且つダメージを入れることができる。ディーサイドは俺があいつらにもかけてやればいい。

問題はトツカノヤイバのほうだが、「スキル共用」で一時的に使用可能状態にすれば解決。

「神を殺す力はある。お前たちにも『貸せば』使える。後はお前たちが何をできるかが問題だ。」

「なるほど〜。ディーサイドと、トツカノヤイバね。」

油断した...。

「心の声ダダ漏れ。読んだ俺も悪いけど気をつけろって言ったぜ?ディーサイドを使うってディサイド《decide》(決心)したか。なんつって。」

「しょーもな。この状況でもダジャレが言えるその精神が羨ましいわ。」

「でもさ~、実際張り詰めた気は緩んだでしょ?」

確かに。

「んで、本題に戻るが、俺ができることはタンクだな。攻力も高いから火力も期待してくれて構わない。基本的に限界突破と護力向上で耐久力をあげ、あとは前見せた通りカウンター・カウンターでダメージを蓄積して相手にそのまま返すっていうスタイルだ。挑発と鉄壁で囮として動くことも可能だ。」

「俺は基本的に背後を取って切る。それだけだな。スキルは不絶光速、斬撃スキル諸々。オエンが注意を引き付ける、俺が後ろから殺す、今までずっとそうしてきた。今回も変わらない。一つ変わるとすればお前いるかいないか、だけだ。」

典型的な護者と疾者。なら俺がなるべきは魔者。バフをかける、デバフをかける、治癒する、攻撃する、今回はサポートに徹するのが適策。オエンが攻撃を全部引き受けると信じて魔力全振りで。

「そしてもう一つ。俺達二人の切り札。」

そう言うオエンたちが手に握っていたのはいつも使っていたあの『短剣』だった。

「時限魔法って知ってるか?」

低い声で真面目に話し出すオエン。

「ああ。現時点では存在しない、時間を操る魔法。」

なんでこのタイミングで時限魔法の話が...

「そう。現時点で『時限魔法』は存在しない。『ドラゴン魔法』なんて魔法もないし、『クラーケン魔法』だって存在しない。」

まさか...

「だが『ドラゴンのエッセンス』や『クラーケンのエッセンス』は存在する。」

そんなことがあるのか...。

「そう、この二本の短剣—『時限の刃』は時のエッセンスを持つ武器だ。」

確かにこの世に時間という概念が存在する限り時のエッセンスは存在するが、それを如何にして武器に落とし込んだというのか。本来なら全世界に広まっていないとおかしい次元の話だ。

「手に入れた経緯についてはひ・み・つ、だぞ☆」

苛。

やれやれといった様子でトューンが説明の続きを行う。

「兄者が持ってる方が『時限の刃・長針』、俺が持ってる方が『時限の刃・短針』。長針短針ってのは名前だけで見た目に大した差はない。重要なのはレイジだ。長針ならレイジを発動すれば刺した者の時が加速する。短針その逆、時が減速する。んで以て長針で自分を刺し、短針で相手を刺す。どうなるかは言わなくとも分かるだろう。」

速度バフとデバフ、それは減速魔法、加速スキル、加速魔法でも再現可能。時限魔法の恐ろしい所は疾力的な減速だけではないというところだとされている。

思考速度、魔法発生速度、スキル発生速度、あらゆることが速く、又は遅くなる。

「そして必殺技は『時間停止』だ。」

「見せたほうが速いかな。」

そういうと2人は謎の小瓶を取り出し、それをそれぞれ時限の刃に塗った。そうすると刀身が白く輝き始めた。

「ああ~、これはレイジを封じ込める瓶ね。審問官って色々貰えるから便利だぜ。全然もったいなくないよ?レイジって結構溢れてるから。」

「じゃあ、いくぜ。」

お互いの顔を見合わせ呼吸を整え、次の瞬間オエンが宙に投げた岩に一瞬のずれもなく、二人同時に剣を突きたてた。もちろん、その岩は空中で停止した。

「加速と減速、同時に与えて時を止める。」

「謎の制約で一人で一対は使えない。息が合わなきゃ同時に刺せない、そしたら真価は発揮できない。だから息ぴったりな俺達天才兄弟が使ってる。」

ボケとツッコミ、兄と弟、審問官と審問官。この刃はこの二人に使われるべくして生まれたのではないか、そう思わせるほどに彼らに馴染んでいるように見える。

「まあ、神に時限魔法が効かなかったらただの切れ味のいい短剣なんだけどな。」

そういってニャハハと笑うオエン。それを怪訝そうな目で見るトューン。

付き合いは浅いがいつも通りだ。変に緊張せず、いつも通りにやる。

「オエンが囮、トューンが火力、俺が支援。これで行く。トューンが火力不足だと感じれば俺も攻撃に回る。」

「ラジャー!!」「了解。」

「一応やってく?」

そういってオエンは手を差し出し、そこに手をかざすようにトューンとアローンに目配せをした。

「がんばるぞ~!!」

「エイエイオー...。」

幼児かよ...。というトューンの悪態は聞こえなかったことにして、ついに三人は神の元へ通じる扉に手をかけた。

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