第4話 破壊者から冒険者へ...

 絶望、悲しみ、怒り、孤独感。せっかく失っていたのに少しの暖かさに触れた気分になっただけで帰ってきてしまった。子供の大して変わらないそれはアローンに破壊衝動を与えるには十分だった。怒った子供がものに当たるように、アローンもまた破壊者を殺そうと思ってしまった。冒険者になるのはその言い訳にすぎない。「冒険者になって破壊者を殺す」という建前があれば残虐な行為も許される。そう言い訳しているだけだ。罪悪感を感じたくないから、ただそれだけだ。今までしてきたことだって十分に人道から外れていると思うだろうがそれは彼にとっては違う。セラサニア、イーコールの人間にとって冒険者を殺すのは家畜である豚や牛を殺すことと同じ。生きるのに必要なこと。今まで感じてこなかった殺人に対する罪悪感、同じ国に生まれた者たちを殺すとどう感じてしまうのか、それを知るのが怖かった。怒りのままに行動しようとするくせして、自分のことは正当化したがる。最低な人間だ。

 さて、冒険者になると言っても元敵元破壊者を冒険者として認めるなど普通はありえないだろう。しかしながら、俺は最上級の破壊者。あっちで言う狩人ハンター級の冒険者ぐらいの強さはあるはず。元破壊者、交渉が決裂すれば襲ってくると思われているに違いない。だが、交渉が決裂したとして俺はあちらと戦うつもりはない。もし戦ったとすればあちらには多大な損害が出る。俺を冒険者にするだけで損害はゼロで済み、強大な戦力が確保できる。あちらにとっていいことしかないはずだ。ならば俺を受け入れてくれる見込みは十分にある。それにスパイでないことの証明として破壊者の首を10個ほど持って行けば話は早く済むだろう。スパイでないことの証明に殺すんだ、俺は悪くない。さて、以上のことから推測するに十中八九、俺は冒険者になれるだろう。というわけで、サラセニアを出る前に破壊者狩りをすることにした。

 だが破壊者を狩ると言っても、下位の破壊者を殺して持って行ったところでなんの証明にもならない。最低でも中位、できれば上位の首の方が信頼度は高いだろう。普段なら破壊者プレートから救援要請、パーティ募集等で場所、階位が分かるが、指名手配され破壊者としての権限を失っている今それをすることができない。探知系魔法で探すしか方法はなさそうだな。

「ディテクション。」

魔力反応から生物の位置を特定する。魔力反応から判断するに人間は5人か。ディレクションでは魔力反応の大きさより、魔者が何人か、魔者の強さはどれくらいかを知ることができる。それ以外の戦力についてはストレングスカウントで調べる必要があるが、ディレクションほど広範囲で使用できないため、近づく必要がある。魔者の強さから判断するにその距離に近づく前に気づかれるだろうから、「陽炎」で魔力反応を消して近づくか。

「陽炎。光速。」

魔者1人、攻者2人、護者1人、疾者1人、いわゆる近距離特化型のパーティか。この手のパーティの魔者は1人で回復、遠距離攻撃をしなければならないから優秀だ。逆に言えばそれ以外は魔者に頼ることが多いからか魔者と比べレベルが低い。

カウントした結果からも魔者は上位、その他は中位辺りだ。1人で制圧可能。

魔力60000、マギア。のエストブレイズで十分だろう。

「エストブレイズ。」

アローンの手のより生まれた炎がそのまま破壊者たちを包み込む。

「敵襲!敵襲!」

その声を最後にしてパーティは壊滅。

死体を回収しに見に行ったがなにもなかった。どうやらこの温度だと骨までなくなってしまうか。少しやりすぎたな。気を取り直して別の反応があった方向へ向かうか。そうして力の調整を間違えつつも順調に破壊者たちの首を集めた。

結局集まった首は上位の破壊者の分を13個。

これだけあれば冒険者協会も受け入れてくれるだろう。眠たいが今日中にアグレドには行っておきたい。それに一度訪れてしまえば転移が使える。

「超感覚。不絶光速。」

サラセニアを出たとしても行動範囲はサラセニアを囲む森のみ。それより外に出たのは初めてで新鮮な景色しかなかった。しかも、サラセニアに比べ綺麗だった。血の匂いもしないし、死骸も転がっていない。これがここの普通なのか。サラセニアは一個の都市に人間が集中していて住んでいて小規模の村は少なかったが、小規模の村の数もとても多かった。安全なのだろうな。アグレドの人口はサラセニアの5倍はあるらしいし、母数が多いのだから冒険者の数も多い。安全地域を広げるのも比較的楽ということか。一番気持ちいのは明るいことだな。森に出たときも思ったが外の世界は明るい。サラセニアが普通だと思っていたが、サラセニアはここより少し暗いって感じだ。空気感がきれいだと自分も浄化された気分になるな。あと数分もすればつくだろう。

 その頃フォースの城門では...

『緊急報告!!謎の光がサラセニア方面より城門に急接近しています!!』

『光か...レーザー砲での攻撃だろう。防御障壁を張れ!!』

『了解しました。』「障壁術師、障壁の準備!!レーザー砲による攻撃だ!!」

「「「了解!」」」

「「「障壁展開、対レーザー!」」」

あっという間に街を守る障壁が展開される。障壁術師の前には護者が立ちエストガードを展開している。完全防御態勢。

そして数秒後、その光はフォースに到達した。みなが歯を食いしばり障壁を維持をしようと気を入れた。が何も起こらなかった。光は消えたのに障壁には何のダメージも入っていない。

『光の消失を確認しました。』

『障壁を張りなおせ。』

『光は確かに消失したのですが、障壁にダメージが一切ありません。』

『どういうことだ?』

『私からは何とも言えません。』

『引き続き警戒しろ。』

『了解しました。』「そこの護者、光が消失したと所にいき何かないか調べろ。」

「了解。」

騎士団の鎧を身にまとい、大盾を持った男が下に城壁から下り光の消失したもとへ向かうと奴がいた。町の冒険者や騎士団の団員なかで噂になっていた破壊者、死神。ステータス平均は60000と噂のあの死神。あの大剣に大鎌は間違いない。だがなぜ奴がここに。破壊者は普通こちらにはわざわざ出てこないだろう。目撃情報があったのはサラセニア付近の森のみ。とりあえず報告だ。

「破壊者を発見!例の死神だ!」

「「「死神だと!?」」」

困惑や恐れが急激に広がる。なんでわざわざ来たのか、自分たちは殺されるのか。

『緊急報告!!死神到来です!!』

『避難勧告はこちらで出す。それまで抑えろ。』

「総員攻撃準備!!」騎士団の団員たちがあっという間にアローンの前へと集結する。

「障壁解除と同時に攻撃開始だ。障壁...解除ォォォォ!!」

オォォォォ!!という声を張り上げ一斉に死神の元へ攻撃に行く。死神はなぜか臨戦態勢をとっていないが関係ない、街を守るのだ。


 

 どうやら襲撃に来たと勘違いされているみたいだな。俺の読みでは攻撃してこない感じだったがはずれたか。だが、このままやり返すと冒険者になれる望みは薄い。どうしたもんか。とりあえず声をかけてみるか。

「俺はぁ!!お前たちと戦いに来たわけではぁ!!ないっ!!」

一瞬どよめきが起こるがすぐに攻撃体制に戻りこちらの様子をうかがっている。

「俺はぁ!!冒険者になりに来たんだぁ!!」

上から指揮官らしきものが下りてきた。

「その言葉本当か?」

「本当だ。そうでないならとっくのとうにお前たちを殺している。それにこれ。」

そう言って破壊者のプレートと頭蓋骨を亜空間から取り出す。

「これは...お前仲間じゃないのか!?」

信じられないといった表情だ。相当驚いているな。

「諸事情あって破壊者をやめることになった。話すと長くなるがどうする?」

「総員武器を下ろし、下がれ。」

恐る恐る武器をしまい、下がっていく騎士たち。指揮官のことを心配する声が多数聞こえる。相当信頼されているのだろう。

「わかってもらえたか。感謝する。」

「だが、お前が攻撃しないとも限らない。それに我々はお前を信用していない。なにせお前はあの死神...破壊者なのだからな。とりあえず契約魔法を結べ。」

「ああ。」

「ミトラーク。さあ、手を出せ。」

手を差し出すと契約内容が現れた。許可をするまで攻撃を禁止するというものだった。もちろん答えは了承だが、俺ならこの程度の契約簡単に取り消せる。知らないんだろうな。だれも俺と約束なんてしてくれないからな。

了承なら...確か握手をするんだったよな。

「契約成立。とりあえず虚実審判官のもとへ連れて行き、お前が本気で冒険者になろうとしているのか調べる。付いて来い。」

虚像心理が使えるからそれも意味ないんだがな...まあ、嘘をつく理由もないしいいんだけど。そうして、騒動はひとまず収まり、アローンは虚実審判官のもとまで連れていかれることになった。指揮官が道中審問官協会とやらへ寄って行った。盗み聞きすると

「審問官オエンとトューンの呼び出し準備をしておいてくれ。相当な破壊者が冒険者になろうとしている。」

などと言っていた。


説明(知らなくても楽しめるけど読んでるといいことあるカモ...)


アローンのステータス

 平均60000は半分本当で半分嘘。本当のステータス平均は15000だがステータス極振り時のアローンを見た者たちの噂が集まり全ステータスが60000あるのではないかと噂されるようになった。アローンの本当のステータスを知っているのは戦ったものだけだが死人に口なし。唯一知っているとすれば双剣の時の水の魔者だけだろう。


虚実判決官

 人間版嘘発見器。いい感じの役職名なだけで読心が使えれば誰でもなれる。虚像心理を打ち破れるとなると、給料がよくなったり虚実審判官っていう上位職につけたりする。虚実審判官のレベルだとこの道のプロだからアローンの虚像心理も実像心理で打ち破れる。多分。裁判とかスパイ容疑のある人間の尋問のときとかに呼ばれる。


審問官

 元破壊者、元集血者などサラセニア及びイーコール出身の人間が冒険者になったときに信頼に足るかどうかを定める者。純白の装備を身に着けている。彼ら曰く潔白の証明らしい。プロ級冒険者並みの実力がないとなれない、中々にすごい職である。




 サラセニアとはあまりにも違う風景に戸惑いながらも、指揮官について行くと目の前には大きな建物がそびえ立っていた。入口上部の看板にはデカデカと「冒険者協会アグレド地域本部」と書かれていた。破壊者協会の本部とは比べ物にならないほどきれいなその建物は破壊者と冒険者の人間性の差をそのまま表しているかのようだった。

「なにをぼけっと眺めている?お前が行くのはそっちじゃない、そっちに行くのは虚実審判の後だ。」

ついつい見入ってしまっていたようだ。

「ああ。」

そのまま右へ視線を送ると協会のすぐそばに虚実審判所があった。冒険者同士のいざこざの解決、サラセニア人、イーコール人の冒険者登録等、冒険者協会のすぐそばにあると色々楽なのだろう。

中に入ると中はなかなかにすごい光景が広がっていた。無罪を主張し喚き叫ぶもの、虚偽報告が発覚したのにも関わらず罰金を拒む者、スパイだと判明し今まさに処刑場へと連れていかれる破壊者...

この様子を見るにここに連れて来れれる者の大半は悪人らしい。ということは俺も悪人扱いされているということか。破壊者の首十数個で信頼されるほどこの世界は甘くない。まあ当然だよな。嘘をつく理由もない。正直にしておけば悪人だと思われることはないだろう。判決官の元へ連れていかれる者がほとんどの中、俺はわざわざ審判官の元へと連れていかれた。それだけ彼らにとって俺へ審判は重要なものなのだろう。

 そしてついに審判官と会合した。純白の法服を身にまとい、ヴェールによってその顔は隠されている。悪には染まらぬ、といった感じか。

「審判を受けたことはあるか?」

「ない。」

「審判でお前のすることは我の質問に対して答えを言う、それだけだ。」

なるほど、質問を聞かせることにより、聞きたいことのイメージを頭に思い浮かばせ、それを読み取る仕組みか。確かに嘘を言ったところで見抜かれる。あくまで質問と応答は手順の内。真の目的は読心の使用。

「それと、我々には虚像心理は効かん。使ったとしても無駄な足搔きだぞ。」

そうして審判は始まった。

「まず一つ。お前は何人殺した。」

「たくさんだ。数なんて数えていない。」

頭の中に今まで自分がやってきた数々の依頼が浮かんでくる。もはや殺した数など覚えていない。日常と化した冒険者破壊になにも感じなくなっていったのは。

少し間を空けて次の質問をしてきた。

「二つ。お前は何をしにここへ来た。」

「冒険者になるためだ。」

そう、破壊者を、サラセニアを破壊するために。

「三つ。なぜお前はそれを壊したい。」

まさか言及してくるとは。

「八つ当たりだ。怒りに己の身を任せ、行動しているだけだ。」

サラセニアの人間が、あの神が憎いのか、それに対して怒りを覚えているのか、希望からの絶望に突き落とされて苦しいのか、このすべてに怒っているのか、よく分からない。

「四つ。それは冒険者にならずともできたこと。なぜ冒険者になることを望む。」

「生活のためだ。」

半分はそうだが、もう半分は...

「否。嘘は我には通じぬ。再度問う、何故冒険者になることを望む。」

わざわざ聞かなくても読んでいるんだろう?なぜわざわざ聞くんだ...

「そ...それは...。破壊衝動に駆られ行動する自分を正当化するため..だ..。」

いざ、口に出してみるとその理由は反吐が出るほど気持ちの悪いものだった。せっかく見ないように、考えないようにしていたのに審判で突きつけられるとは思わなかった。

手のひらに汗が滲み、体に小刻みに震えている。動揺している。先の質問で次になにを聞かれるか分かってしまった。答えたくも考えたくもない質問が...

「五つ。冒険者を殺すことに罪悪感を感じたことはあるのか。」

「えっ...えっと...そ..それは。」

視線が揺らぎ、呼吸は荒くなる。体の震えが止まらない。

『こ...殺さないでくれ。』『家族がいるんだ。』『どうか、仲間だけは。』『最後に恋人に...』『結局弱者は奪われるだけなのか!!俺が...俺がもっと強ければ...』『死ねや!破壊者ぁぁぁ!』『なんで...なんで俺が死ななきゃならねんだよ!!』日常と化したわけでも、なにも感じなかったわけでもなかった光景が、死を前にして生を渇望したものの最期がフラッシュバックする。

なにも感じなかったなんじゃない、なにも感じないようにしていただけだ。

「人並みかそれ以上に罪悪感を感じている。それにそれを考えないようにとする姿も実に人間臭い。お前はまだ人間をやめていない、サラセニアからの諜報員でもない。」

「そして、心と言葉に乖離はない。」

少しの間をおいて審判官が判決を下す。

「判決。冒険者としての活動を許可する。加えて数週間の審問官を同行を科す。」

審判が終わると指揮官がドアを開けて入ってきた。

「退出だ。」

入室時と比べ明らかに違う様子に少し驚いていた指揮官だったが、すぐに気を取り直しアローンとともに退出した。

 無慈悲になれたつもりでいた。親とはぐれた子猫を助けたり、近所の自分より年下のこどもに菓子をわけてやったり、家事の手伝いをしたり元来の性格が優しかったのだから簡単に変えることなどできない。そもそも優しすぎたがゆえに、自分が弱すぎるのではなく周囲の期待が高すぎることに気づけなかったのだ。なにがあっても自分が悪い。自分の力が弱いから、頭が悪いから、心が未熟だから、努力不足だから。周りの期待は当然のことだと信じて疑わなかった。ゆがんだ自責思考を抱えていた。

愛の亡者となってもなお、自責の念は心の隅で肥大化していた。

「お前、審判で何があった。様子がおかしいぞ。」

「...。」

「たった一人」を見つけたとて今までの自分の|人殺し《罪》が消えるわけでもない。そもそも血にまみれた人生を送ってきたものを愛してくれる人などいるのか?

破壊者として有名になり「たった一人」を見つけるという計画が最初から間違っていた?だったら俺が今までしてきたことの意味は?己の今までの行動に苛々し、|優しさ《弱さ》を捨てきることができなかった自分に苛々する。それに比例してどんどん増していく破壊衝動。

あの審判官よりも、神よりも、なによりも自分が憎い。でも自分で自分は殺せない。

苛々が収まらない。感情が爆発したらまずい...

「そんなときのための俺達だぜ☆」

後ろから声が聞こえる。振り返るとそこにはおそろいの純白の鎧を着た者が二人いた。

「リアム兄弟、やっときたか。こいつが例の奴だ。」

「こいつが噂の死神ねぇ~。破『壊者』っていう『会社』で働いてたっていう解釈『かいしゃ』くでオーケー?」

沈黙。ついでに少し寒くなった気もする。

「兄者、おもんないし、意味が分からんダジャレはやめろ。」

「トューン、そこは苦笑いでもいいから笑ってくれよ~。」

こいつらが審問官。ふざけてるようにしか見えないが。監視される側とはいえ本当にこいつらで大丈夫なのか?その瞬間アローンはハッとした。こいつ、俺の心を読んで気を紛らせるためにわざと...。思ったより頭の回る奴らだったか。

そんなことはいいから冒険者になって破壊者を殺したい。

「ここからはお前たちに任せる。」

「|乙curry summer《おつかれさまー》!!あなたがこの任務に『採用』してくれたんですからあとは我々に任せてくだ『さいよう』!それと夏野菜カレーうまいよな?」

キリッとした顔で本人はばっちり決めたつもりだが誰も笑ってない。

「しょーもな。ライオさんもう帰っていいですよ。自分はちゃんとしてるんで。」

そうして指揮官は帰って行った。

指揮官の名前はライオと言うのか...初めて知ったな。もう会うことはないだろうが。

冒険者協会へはすぐにたどり着いたが、周囲の視線が急に痛くなった。審問官がいるから皆がそういう視線を向けているのか、いや違う。罪悪感のせいで気にしてしまうようになったのだ。

アグレドの人はサラセニアの人と違って、俺のことを嫌っていたとしても話ぐらいは効いてくれる。これが国民性の違い。だが、破壊者に大切な人を殺された人たちからは当然だが罵声が飛んできた。心の中で謝ることしか自分にはできなかった。

そもそも、生贄だのなんだのと言って攻撃し始めたのはサラセニアとイーコールだ。四国は守るために破壊者を集血者を殺しているだけ。どちらが悪かなど今考えれば自明だ。

自分の正当化のために正義面をして、やることは破壊者の頃と変わらない。守りたいものがあるわけではない。殺したい。破壊したい。罪悪感を感じてなお、収まらない。やってしまえば苦しむのは自分。だが、幼い子供が今の幸福と未来の苦痛、どちらを優先するかなど明らか。アローンは冒険者登録のため受付窓口へ一直線に突っ切った。


説明(知らなくてもいいけどry)

リアム=オエン リアム=トューン

最高位審問官のうちの二人。オエンが兄でトューンが弟。

普通最高位審問官の鎧は人によって違うが、弟がどうせなら兄のと一緒がいい、とめっちゃ駄々をこねたらしい。結果お揃いに。

しょーもないダジャレが好きな兄と、まじめな弟。

でも、いざというとき頭が回るのは兄貴。休日は二人でゲームをずっとしている。仲良し兄弟。

黒髪、黒い瞳、日本人のような見た目。オエンは細目、トューンは普通。

顔と性格が逆だと同僚に突っ込まれる。



アローン

心が子供のまま大きくなってしまった。アダルトチルドレンに似ている。

ありのままの自分を受け入れてくれるものを求める。偏った自責思考。衝動的に動いてしまう。嫌なことは考えないようにする。それが行動に出てしまう。

彼は大人になれるのだろうか。





 受付の受け答えは想像とは全く違っていた。サラセニア人の性格が悪いだけであって大抵のアグレド人は嫌悪感を抱いていたとしてそれを表面に出すことはない。ましてや冒険者協会というれっきとした公共機関の職員なのだから当然だ。

「審問官がおられるということはあなたは元破壊者、元集血者ということでいいですかね。」

とはいっても、眉間のしわは隠しきれていないが。

「ああ、元破壊者のアローンだ。」

「まず、実力に関してですが...えーっとあなたは今まで4000人ほどの冒険者を殺害してきたそうですね。内訳としましてはビギナー級が567人アマチュア級が1606人プロ級が1827人さらにそのうち狩人級12人、殺者級1人...。冒険者としてですと殺者級くらいはあるかと思われます...はい。」

どんどん声が暗くなっていく。幾度も見送った、会話をしたであろう冒険者たちが目の前の男に殺されたのだ。こうして会話することさえしたくないだろうに、というか最悪の気分だろう。

そして目の前の男もまた最悪な気分になっていた。

初めて見る自分が殺した者の関係者。悲しんでいることは顔を見なくとも分かる。どんどんと締め付けられていく心。なにも言われずともお前が殺した、お前が殺したんだ、と責められている気分になる。いや、責められているに違いない。蓄積された大量の罪悪感でさえ払拭することができなかった破壊衝動。それがいま完全に消失した。受付以外にも恋人、友達など殺した者たちを愛していた、大切にしていた人は必ずいたはずだ。大切な者ができたことのない自分では想像持つかない大切な者を失う悲しみ。それも幾千もの人々の。殺したという事実以外にも大きな罪を背負っていることをいまさら自覚した。冒険者になれるだなんて驕っていた。大犯罪者、死神としてこの地に立つだけも許されることではない。今さら...

「Hey,you!!話聞いてんのか|you《よう》!」

トントンとオエンに肩をたたかれ前を見ると受付が書類とペンをこちらに差し出していた。

「すまない。聞いていなかった、もう一度頼む。」

完全に呆れた顔でもう一度説明してくれた。

書類には年齢、名前、使用武器種、使用可能魔力、属性適正、ステータス、などの情報を書くとのことだった。

年齢 21歳

名前 姓   名 アローン

得意武器種 大鎌 大剣

使用可能魔力 オド、マナ、マギア

適性属性 火、水、雷、氷、風、光、闇、神聖、呪、毒、土、草、音、精神、特殊

ステータス 攻:15000 護:15000 疾:15000 魔:15000

「ヒュー、お前やっぱ強いんやな。属性適正多すぎてビビるぜおい。」

オエンはなぜこんなテンションが高いのだろうか。まあ今は関係ない。

「書き終わった。」

「無視かーい。」

書類を提出すると受付は目を丸くした。

「これが死神が死神たる所以...。ああ、すみません。書類は確認させていただきました。それではこちらを。」

姓の空欄については何も言及なしか。鉄でできた冒険者の印。プレート式ではなく腕輪のタイプ...

カチャ

「腕輪カッコいいじゃーん。これでお前も立派な冒険者だな。まあすぐに汚い赤色に染まるけど...」

瞬間、腕についた腕輪は赤黒く染まった。

「これは...、というか言わんでもわかるな。」

元破壊者だから、ということだな。

「っちゅー訳でこっから依頼やな。」

オエンの指さす方には依頼の紙が貼られた掲示板が。

「エセ西方訛りいい加減やめろよ。」

「いやー、エセというか父さんの影響やし、ええやん。てかこの会話何回目。」

「俺は訛り移ってないし、何回か知らん。20回ぐらいじゃねん。」

「ざんねーん、23回でした~。」

ゲラゲラ笑うオエンとあきれたように見るトューン。これが審問官というものなのだろうか...

 依頼書の張ってある掲示板は最上級破壊者用の掲示板とほとんど変わらないな。難易度が分かる星がない代わりにどの階級向けか書かれている。さっきまでやろうと思っていた破壊者殺しの依頼書を見たとて、破壊衝動が巻き戻ってくることはない。

今までの行いが許されるとは思わない。罪滅ぼしなんて都合のいいことも言わない。償えるとも思わない。どうせ「たった1人」なんて見つからない。冒険者として有名になったとて四国の人々に受け入れられる日はこない。ならせめて今まで奪った分のいや、それ以上のものをこれから守る。いやいや、守るなんておこがましいか。

「お前ならプロ級向けもちょちょいのちょいだろうし、エストアイスドラゴンでも行くか。報酬も高いぜ。」

トントンと依頼書をたたくオエン。

「いや、それは行かない。どうせプロ級が行くだろう。あまりそうなビギナー級のを行く。」

「確かにゴブリン退治、ラット退治、スライム退治、安い割にめんどくさい。誰もやりたがらんもんな。俺と兄者も駆け出しのころは結構苦労したしな。」

審問官って冒険者がなるものなのか?うーん...どうなんだ。

「ああ、それはプロ級昇級か審問官の二択で選ぶ感じや。」

?!

「びっくりした?びっくりしたよな?審問官は皆、読心使えるんやで。あんま考えすぎると丸聞こえやぞ。」

「気を付けたほうが良い。お前どうせ虚像心理焚けるんだろ。常時焚いといたほうがいい。」

—信頼関係とは相手を知るうえで最も重要なこと。信頼して気が緩んだ時こそ素が出るというもの。この手の破壊者たちは自身のことを隠すことには長けている。がしかし、虚像心理を常時発動していないし、あの感じ、悪い奴ではないだろう。こいつの性格がわからない以上色々試す必要があるが、わざわざ誰も選ばない割に合わないビギナー級を選んでいる。こいつは俺たちが付く必要あるほど危険人物ではないと思うが、なにがあるか分からない。審問官は厳しくあるべき。疑いが完全に晴れるまで油断するな。

「それと、指揮官とミトラーク結んでるだろ。解消しないと戦えないぞ。」

そういえば、攻撃禁止だった。期限は特に言われなかったし、これは解消しにいかないといけないな。

トューンについて行って指揮官とのミトラークを解消した後ゴブリン退治へ向かった。

 フォースを出て走ること数分、山の中腹あたりにある洞窟にゴブリンがいるということだった。近隣の村に忍び入っては農作物やら家畜を盗んでいるらしい。フォースからかなり離れていることもあり。新人が来るにはきつい距離なのだろう。

それにしても不絶光速をオエンたちも使えるのには驚いた。ハイセンスも必須なのに流石といったところか。それにしてもオエン、やけに静かだな...

「オエン、体調悪いのか。」

「仕事中の審問官は無心だ。そこらへんは色々とルールがある。いや少し違うか。さっきも仕事中だが普通にうるさかった。正確には『審問』がはじまったときからだ。」

オエンは答えず代わりにトューンが答えてくれた。

「兄者の中で審問というものが決まっている。これは俺も知らんけど。まあ、そういう訳で普段うるさい奴は急に静かになったりする。それもこれも好きだ嫌いだとか、情とかで審問に支障が出ないようにするためだ。お前が破壊者なのにこうして話してるのは審問官だからであって個人的なかかわりはごめんだ、だが審問は公正に行う、ということだ。」

「なるほど。」

さて洞窟に入るとするか。その前に周りに入口がないか確認。逃がすことはないだろうが万が一がある。逃げられると面倒だ。

「ロケーション。」

周りに穴のような地形なし。入口はここだけ。

「突撃だ。」

入るとすぐに曲道があり、灯りは完全になくなった。それに魔物は夜目が効くの基本。暗闇に潜むのは基本。だが、俺は夜目が効く。それにロケーションで洞窟内のマップも完全把握済み。

曲がってすぐに分かれ道、左は行き止まりで隠し穴がある。行き止まりだと振り返ってところを襲う魂胆だろう。人型魔物のなかでは頭が悪いゴブリン、罠がずさんだからビギナーでも見つけられる。あとから狩ってもいいが、逃げられては面倒。

「まずは左から。」

「「了解。」」

奥に木の板で隠されたいかにもって感じのものがある。床には農作物を食い散らかしたあとが残っている。俺の寝ていた路地よりは断然綺麗だな。

ベキベキと板を引きはがすとゴブリンがギャーギャーわめきながらこちらへ走ってきた。だいたい10体。イアー級もエスト級もなし。

狭い洞窟なのに、両手武器のまま来たのはミスだった。使うなら拳。

右手を繰り出し、パンチをお見舞いする。

先頭にいたゴブリンの頭をぶち抜き、その勢いのまま腕を振り抜き、巻き起こった衝撃波は残りのゴブリンを粉微塵にした。加減しなければ洞窟は崩壊するが、加減はうまくいったようだな。次は右側。

右側の穴は廊下のようになっていて、横穴がいくつもある。

ディテクションをつかってもいいが洞窟には魔力鉱石などの埋まっているから正直やったところで意味はない。だからさっきもつかわなかった。

しらみつぶしに最初のところから行くか。

ああ、そういえばオエンとトューンがいるんだ。独りに慣れすぎて協力というものを忘れていた。

「穴は左右に4つずつ、突き当りにあたる部分に大穴がある。おそらくゴブリンリーダーかイアーゴブリンだろう、頭目がいる。お前たちには各人手前3つずつ頼みたい。」

「俺たちはお前の審問のためにいる。パーティメンバーではない。が、共闘が禁じられているわけでもない。いいだろう。」

「俺は右3、トューンは左3を頼む。」

3つの方向に走る3つの影。

短剣を装備した2人、素手の1人。

風のように走り敵を切り刻む者、地面や壁をけりピンボールの如く跳ね回る。ゴブリンの首だけを器用に落としていく。

岩のように立ったまま叩き切る者、纏わりつくゴブリンを物ともせず乱暴に頭から短剣を振り下ろす。

そして歩いて殴り殺す者。衝撃波を利用してまとめて始末する。

一番の奥の部屋には、予想通りイアーゴブリンがいた。が所詮ゴブリン。周りのゴブリンとともにパンチの衝撃波で粉々になった。3つの穴のクリアリングも完了。あいつらにとっても赤子の手をひねるようなもの。殲滅完了したとは思うが、クリアリングはしているだろうか。

「「クリアリングは終わった。お前はどうだ。」」

「終わった。お前らも終わったなら依頼完了だ。洞窟を出る。」

アリvsゾウのような戦闘を終えた彼らは洞窟からのそのそと出てきた。

最強に近い男が3人ゴブリン討伐に赴くとは誰も予想しなかっただろう。完全にオーバーパワーだ。さすがにゴブリンに同情せざるを得ない。

「さて、次は下水のラット処理だ。行くぞ。」





 下水と言えば配管が通っているイメージだったがこれは巨大な水路って感じだな。魔力で駆動しているものもないし、これはすぐに終わるな。

ディレクションで特定しては退治の繰り返し。

「ディレクション。あっちだ。」

テクテク、バチン。

「ディレクション。あっちだ。」

テクテク、バチン。

3人そろってシュールすぎる。下水に降りてきた盗賊もさすがに不気味すぎてそそくさと地上へ帰っていく始末。

ものの数分で終わらせて、次に向かう。

「次は馬車の警護。正直転送ワープが一番安全だと思うのだが、護送先、お前ら行ったことあるか、ワープ使えるか。」

「もちろん、ある。ワープは...」

何か問題があるのだろうか。

「俺は攻と護の、トューンは攻と疾のハイブリッド、20000ずつぐらいあるが、魔に関してはエンチャント程度しか使えん。一応スクロールのお陰で能力はあるが魔力不足で行使はできない。普通に護衛でいいだr...」

割って入ったのはトューン。

「兄者、魔力接続コネクトは。」

「俺たちの魔力を合わせても足りん。マギアでやれば一般人は魔力酔いする。」

魔ステータスが低ければ一度に使える魔力量は少なくなる。ワープ、特殊魔法の中でもかなり高度なもので必要魔力も多い。能力があるのと行使できるのとは別物。そのためにコネクトが作られたわけだが、コネクトじゃなくとも魔力は共有することができる。

「能力があるならそれでいい。魔力付与グラントを使う。コネクトより効率は落ちるが俺のステータスなら事足りる。」

「お前...殺す気か。」

グラント、相手に魔力を流し込む。体の限界を超える量を流し込まれたとき発散できなければ死ぬ。これを利用した殺人を魔殺という。ステータスが低いものには強制的、ステータスの高いものは許可を取ることで可能。

魔力吸収ドレインもグラント同じ原理で使える。

「他人のステータスは分かる。だから能力があるかだけ聞いた。ワープに必要な魔力も計算できる。死ぬことはない。」

—審問としていい機会だ。やらせよう。

フォースの城門近くに馬車が止まっていた。全部で5。

「俺が依頼で来た冒険者だ。後ろの二人は審問官だ。」

やっときたかと喜んだのもつかの間、審問官がいるということは目の前の男は敵。急に空気が悪くなる。当然のことだ。

「アイツ、本当に護送してくれるんだろうな?」

「知らねぇよ。でも腕輪も赤いし、審問官いるし、ありゃあやばいぞ。」

「「今日はやめようぜ。」」

完全に、帰ろうといった空気である。

「大丈夫だ。コイツが何かした時のための俺達。そいつは信じれなくてもいい、俺達を信じろ。」

やはり民衆からの視線も痛いよな...理不尽な嫌悪ではなく正真正銘俺のせい。受け入れるべきものだ。

「オエン、ワープの準備を。」

ワープ先の大まかな場所、景色を思い浮かべると、足元に巨大な魔法陣が出現する。ステータス不足で不安定だ。

「グラント。」

アローン手はオエンに向けられその手からは、マナが送られている。

魔法陣は完全に顕現した。

「ワープ。」

あたりは青い光に包まれ次に目を開けるとそこは目的地だった。

「たかが護送に転送魔法使うなんてとんでもねぇ。こりゃあいい体験させてもらったわ。ありがとよ審問官さんよ。」

「ああ。」

オエンは大人と談笑し、トューンはこどもたちに「がち審問官?!」「カッコいー。」「剣見せて~。」と群がられている。

「はいはい。これが短剣で背中にあるのは剣じゃなくて大斧だ。もってみるか?」

「じゃあ俺から~。」「ずるい~俺から!!

子供たち(特に男の子)はトューンに興味津々だ。

「トューン、それは重すぎだろ。」

「兄者、大斧なわけないだろ、短剣だよ。」

「ちなみに、お兄ちゃんの武器は大槌だぜ~!!」

背中から取った大槌を高らかにかがげるオエン。

「「「槌はダサい。」」」

「ガーン。」

膝をついてお手本のようながっかりポーズ。

「あっちのお兄ちゃんは大鎌と大剣、大きい武器なのに片手でもってたたかうんだぜ~。かっこいいだろう?」

オエンの指さす方にはアローン。みんなの子供たちの視線がアローンに集まる。

トューンがオエンの肩をつかんで

「兄者、さすがにそれは性格悪すぎ。」

と耳打ちした。

「審問官って悪い冒険者を倒す人なんでしょ?赤い腕輪は悪者。カッコよくなんかないよ。なんでお兄さんはあいつを倒さないの?人殺しでしょ!!人殺し!!」

少年は言った。

周りも同調し「人殺し!人殺し!」声をそろえて言っている。周りの大人も混ざりこそしないが咎めることはしなかった。

「別に俺もお前を苦しめるたいからやったわけではない。アローン、これが破壊者から冒険者になるということだ。」

「ああ。」

「じゃあ、お兄ちゃんたちは帰るからな~。」

「「「審問官のお兄ちゃんバイバーイ!!」」」

護送先の村からはなれトューンから一言。

「続けられるか?」

「もちろんだ。」

戦闘センスだけでなくこういった状況をあえて作り出し人を試す力。おちゃらけた奴に見えていたがやはりすごい人物なのだな。

「帰りは俺がつなぐ。ワープ。」

3人はフォースへと戻った。



説明ry

 魔力量 その人が一度に扱える魔力の量。ファイアショットでも魔力が10なら一発だけど100あれば10発撃てるてきな感じ。基本的にステータスが高ければ魔力量は多い傾向がある。


 能力はあるけどうんたらかんたら

スクロールと呼ばれる魔法とその使用法について書かれた巻物をつかうことで適性関係なく魔法を扱える能力が得られるってこと。スクロールはレアものだけどワープのは数が多いほう。審問官は皆貰える。それぐらい重要な職なのです。



今回ちょっと短いです、すみません。。

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