第2話 心死してなお...

冒険者側では、アローンのことが話題になっていたが、破壊者側では誰も彼を認めていなかった。目を覚まし、本部へと足を進める。

その間色々なことを考えていた。

「誰からも愛されない」とはなんなのか。そもそも、自分が破壊者の名家から追い出されたから、他人に変な目で見られるのではないか。だとすれば、門で会った人間に行きは何も言われず、帰りに馬鹿にされたことに説明がつく。さらにあいつはあの時噂を聞いたと言っていた。ということは、愛されない=嫌われるは間違いではないのか。家族に捨てられたのは俺が出来損ないだったからだ。家族愛という物がなければ俺はもっと昔に捨てられていたか、出来損ないは捨てようと思っていたところに丁度愛を失わせる呪いが働いたからだろう。噂が流れていないところに逃げる、噂を覆すほどの偉業を成し遂げる等をすればきっと普通の生活は送れるはず。逃げるのは癪だ。俺は戦う。偉業を成し遂げてみせる。

本部に着くと、人だかりができていた。名家を追い出されたにも関わらず、元名家という立場を利用して上位破壊者になったと思われている男。そいつがこれから本物の上位破壊者に潰される。

本部の一角にでかい文字で「破壊者アローン」と書かれた看板が見えた。大衆の前で俺を晒しものにしたいのか、恥をかかせたいのか、そのための宣伝か、様子を見に行ってみると違った。俺専用の受付だった。

「アローンだ。試験を受けろと言われて来た。」

その瞬間、受付の中から刃が飛んできた。

「お前、何者だ。」

中から出て来たのは、男。俺より二回りは大きい軽装備の双剣使い、愉快そうにニヤニヤこちらを見ている。腰のベルトには金のプレートが輝いている。

「お前、まさか俺の試験相手か。」

「いかにも。それより、お前よく避けたな。実力詐称の雑魚が来るって聞いてたもんだから暇だと思っていたが、お前なら少しは楽しめそうだな。」

それと同時に攻撃を仕掛けてくる。

縦横無尽に駆け回り死角をついて攻撃しようとしてくる。

疾力は俺より遥かに高く目で追うのがやっとだが、ステータス変更、攻力、疾力極振り、これで追いつける。

加速し追いつくアローン、剣を振り攻撃しようとするが相手は強者簡単に当たるはずがない。

「お前なかなか速いじゃないか。ではこれではどうだ?」

その瞬間体がブレた思うと姿が消えた。無詠唱魔法なのか?

姿が消え、それに対応することができないアローンは滅多切りにされる、護力へステータスを振っていないがために一発一発が大ダメージを与える。あわててステータス変更をし護力、攻力に極振り。相手の動きを分析する。

先ほどからこいつは俺の背中を狙っている。攻撃と攻撃の間にも一定の間隔がある。

今ッ!!

後ろを振り向き剣を叩き下とすが、響いた音は金属と石がぶつかる音だった。

「浅はかだな、何のためにわざわざ背中を狙い続けていたと思う?」

剣を振りバランスの崩れたアローンの背後に黒い影が迫る

「ダークトラスト。」

アローンの背中に二本の刃が突き刺さる。

「ヴゥ...」

刺された、刺された、刺された...

どうする、どうすればいい。

「お前はあれだ、戦闘経験がクソだろ。力だけは一丁前にあるが使い方がそこら辺のガキと変わんねぇよ。だから、こうなる。」

剣を引き抜く。

「うぐぅ。」

痛みに耐えかね情けない声を上げる。

こうなれば魔法だ。ステータス変更魔力最大。

爆破魔法で消す!

「魔鎧!」

手を地面に向け

「エクスプロージョッ...」

「だから戦い方がガキくさいって言ってるだろ。」

構えた手に剣を突き立てたられる。刺された衝撃で詠唱が止まる。

勝てない。ステータス改変をもってしても勝てない。

「上位の破壊者ってのは嘘じゃねぇみたいだし、今日はここまでにしとくか。安心にしろ、お前の実力は本物だって伝えとくからよっ。」

双剣使いはアローンの腹を蹴り飛ばし、本部の建物内に消えていった。

痛い、痛い、痛い。

訓練とは違う。木刀ではない、真剣だ。切られれば傷付く。だが彼はまだ子供だ。人生においての経験も戦闘においての経験も大人にはかなわない。だから負けた。当然の結果。

そして当然のことながら痛みに悶える彼に救いの手を差し伸べるものはいなかった。治癒魔法をかける力もなく薄れゆく意識のなかでさえ、考えていることは愛についてだった。

 記憶が浮かんでくる。家族の皆と友達の皆と仲間の皆と楽しく過ごしていたはずの日々だ。劣等感になんか押しつぶされそうになっていない、周りの期待になんか押しつぶされそうになってない、弱い自分を肯定してくれる人なんて渇望していない日々だ。俺は幸せだった。俺は周りの機嫌を取るためになんか努力していない。楽しかったはずの日々に幼少期から抱えていた小さな闇が広がる。本来の自分、実力がなくても、すごくなくても、一位じゃなくても認めてほしい、無意識に遠ざけていた本音が頭の中を埋め尽くしていく。何者でもない自分を愛してほしい。名家生まれのアローンではない、ただのアローンとして、あの兄のように強くなるよう期待されていたアローンではない、ただのアローンとして誰かに認めてほしかった。いつも心の中で誰かに助けてともう嫌だと思いながらも必死に抑え込まれていた思い、俺ではない僕が抱え込んでいた気持ち。

「呪いにかかる前から俺は独りだったな。」

「誰からも愛されない、もうそんなことはどうでもいい。」

「どうでもよくないだろ。」

「どうでもいい!」

「どうでもよくないだろ!!たった1人を見つけるんじゃないのか!お前はそこで何をしている。前から一人だったと気づいたならなおさらやる意味があるんじゃないのか!」

「俺に指図するな!俺は俺だ。俺は僕じゃない!お前にみたいに淡い希望にすがらない。たった1人を見つけてどうする。裏切られたら、俺が原因で殺されたら、どうするんだ。そいつが俺と一緒に居続けてくれる保証は!」

「...」

「ないだろ。」

「これ以上俺の邪魔をするな!」

俺は吐き捨てように言った。

「本当は愛されたい」

なんて本音は聞こえてないふりをして

 そしてどれくらい経ったのか目が覚めた。倒された場所のままだ。太陽がまぶしい、昼か。のっそりと起き上がる。

周りがざわつく。

とりあえず治癒魔法。

「霊妙なる治癒」

体が一気に癒されていく。これからは戦闘経験を積む。理由はない。理由はない。断じて理由などない。

起き上がって、冒険者破壊の任務に足を運んだ。




 頭を使って戦う、感情任せに戦わない。ステータスでは補うことができない「知力」これがなければ格下にだって負ける。攻撃を喰らってもダメージがないよう護力を上げ、最低限の攻力・疾力で頭を使って戦う。悪戯に力を振るうのではない、魔法だって効果的に使えなければ意味がない。まずは武器だ。俺に1番適正の

ある武器を見つける。今までの戦闘で分かったが片手武器という武器種は俺には合わない。双剣もリーチで言えば片手剣と変わらない。片手というよりリーチの問題だな。そうなると両手で使う武器、大剣、大鎌、槍、大斧、大槌あたりがいいだろう。

 今のステータスでもプロ級1人なら勝てる、想定より多ければ引き返す。前回のように調子に乗って大人数を相手にはしない。任務で要求されていることだけをするようにしろ。

 街の武器屋で、自分の背丈ほどの槍を買い任務を選ぶ。まずは双剣使い、あいつがどれだけ強いのかは知らないが、苦戦した武器種には間違いない。速さに翻弄され見事に背後を取られた。まずは対双剣使いの訓練だ。そして双剣使いを目標ターゲットにしセラサニア国境付近へと足を運んだ。

 国境付近で破壊者狩りをしている冒険者らしい、中位の破壊者が何度か破壊に行ったそうだがどれも返り討ちにあっている。炎属性が組み込まれた戦闘スキルが強力なようだ。標的を探すため国境付近を探し回るが疾力が低いため、いかんせん走るのが遅い。数十分探しているが、なかなか見つからない。

 今日はもう休んで、今後の計画を立てるか。そう呟いて、野営の準備をする。

 近接戦闘に関してはこれからの冒険者破壊でいい。問題は魔法だ。今の俺は体内魔力オドしか行使することができない。オド<自然界魔力マナ次元界魔力マギアの順に強いエネルギーを持つ。同じステータスでも扱える魔力階級で威力や魔力効率が変わる。オドを基準とすればマナは1.5倍とマギアでは2倍ぐらいの差が開く。それに魔法の属性にも適正がある。後天的に適正をつけるなら適正のほしい属性の魔法を習得し使い続けるしかない。が、魔法に関してはなんでも使える、習得する必要はない、使いまくればいい。属性適正は無理矢理にでも習得可能。だが、この世には俺が思いつかないような魔法も属性も存在するはずだ。それに俺があると思っているが存在しない魔法だってあるはず...ならば、戦闘をする過程で相手が使った魔法を己の技として適正を上げていく。魔法をくり返し使えば使うほど魔法に関する感覚や理解が洗練される。そうすれば階級の高い魔力も感じられるし行使もできる。時間がある限り使い倒していくしかない。

 質素な飯を食べ、眠りについた。相変わらず夢の中では「僕」がなにか言っていたがそんなことはどうでもいい。

 周りで轟音が鳴響いてアローンは目を覚ました。近辺で何者かが戦闘を行っている。おそらく破壊者と冒険者だろう。もしかすれば目標の双剣使いかもしれない、急いで様子を見に行こう。音の感じからして魔者と近接戦闘タイプが戦っているのだろう...見つけた、水の魔者と例の双剣使いだ。魔者は仮面をつけているから破壊者だ...助太刀するか。

「おい、そこの魔者!俺は破壊者だ!助力はいるか!」

『頼む、今すぐ加勢しろ!こいつは強敵だ!』

 魔者の近くに行きたいが、俺の疾力では双剣にすぐ追いつかれる。

『前後で挟むようにしろ。俺は魔法で注意を引く。その隙にお前が行け。あんた攻者なんだろ。』

 考えはわかったが敵に丸聞こえではないか。いや気づいてない、こいつ思念伝達テレパシーが使えるのか。

『全部「聞こえ」てるぞ。とりあえず、作戦は理解したな。俺は一応上位だ、お前に合わせて動く。わかったか。』

 どうやらこちらの頭の中もお見通しらしい。了解。

 双剣使いを挟むように動こうとするが、相手は手練れ。全く背後を取らせてくれない。しかし、攻めてこないということは、ある程度俺たちのことを警戒しているということだ。魔者の手の内は割れてるだろうが、乱入者の俺なら虚を突くことができるかもしれない。槍のリーチを活かして優勢に持っていきたい。

 今から突っ込む。援護を頼む。

『分かった。』

――――――――――

 破壊者狩りに来て、水の魔者と戦っていたわけだが、予想外の乱入者だ。私たちの戦いを見ていて、それでも助太刀に入って来たということは実力には自身があるのだろう。魔者と双剣使いとではリーチ的に不利なのだが、そこに槍者とは...だがすぐに私を挟めなったのは槍者の疾力があまり高くない証拠。槍者のほうは疾力は高くない...消耗している魔者をなんとかしたいが倒しやすそうなのは槍者...私の疾力で間合いの内側に潜り込み狩る。

――――――――――

「相手は俺だ!」

双剣使いに突っ込むアローン。

「望むところだ。」

距離を詰めてくる双剣、近すぎては俺が不利。だがそんなことは魔者もお見通し、

「ウォーターバインド」

槍がちょうど届く距離で相手を拘束し

「この距離はいける。」

アローンが槍を突き出そうとした瞬間

「私は魔法も使えるんだぞ?マルチファイアショット。」

無数の火球がアローンを襲う。

『あいつはマナ、俺はコド。援護はするが相殺しきれん。避けろ!』

拘束したからと言って安全なわけでない。俺は何をしている。学んだことが活かせていない。反省だ反省。

「マルチアクアショット。」

魔者による相殺と、護力で余裕で耐えたが、このままではずっと守るだけ。同士討ち覚悟で殺りにいくか。

『ブラフだ、ブラフ。お前を水属性魔法を使えるように見せれば。、相手は簡単には火属性魔法を出さないはずだ。知ってると思うが火は水に弱い。俺が無詠唱で魔法を使う。お前はマルチアクアレーザと唱えろ。』

「マルチアクアショット。」

魔法を使うアローン。

『お前、作戦聞いて..た...か?え?!』

アローンの背後からさっきの魔者と比べれば劣るものの、いくつかの水球が。それに加え魔者のアクアレーザ。

大量の水魔法が双剣使いに襲いかかる。

「なかなかやるな。エンチャント<エストファイア>!」

双剣が赤く光ったかと思うと、炎が上がる。

「斬!」

炎の斬撃が水魔法を蹴散らした。これがコドとマナの差だ。相性不利などひっくり返してしまう。

『これ、俺ら死ぬかも。』


―――――――――――――――

説明欄

☆魔法について簡潔にまとめるよ☆

魔力というのはその人の魔法に関するステータスのことだよ。

魔力階級のほうの魔力はエネルギーとしての魔力のことだよ。

う〜ん。ややこしい。

今後は、オド、マナ、マギアとして扱うから、魔力=ステータスのほうだと思ってください。

属性はたくさんあって、相性不利・有利があるものないもの色々あるよ。

 アローン

承認欲求の塊だったが、それを押し殺して生きてきた。まわりに迷惑をかけたくないという思いのもと、特にわがままも言わず、いい子だった。愛を渇望していたが無意識下で押し殺していた。押さえつけていた感情が爆発して情緒がバグっている。

家族はアローンのことは愛してなかった。ただ破壊者の後継者として育てていただけ。呪いとは関係なく、あの日捨てられる予定だった。偶然が噛み合ってしまった。





『これ、俺ら死ぬかも。』

炎の斬撃は俺たちの水魔法を簡単に蹴散らした。

悪あがきかもしれないが、俺もエンチャントを使う。

「エンチャント<エストウォーター>」

『お前エンチャントが使えるのか。しかもエスト級。なぜもっと早く使わない?』

お前には関係ない。だが、今使えるようになったとだけ伝えておく。

エスト級とはいえ俺の魔力ではまともに対抗はできない。だが魔者もエンチャントをすれば話は変わるだろう。相手がどんなに強かろうと属性不利は覆せない。

当たり前だが敵は考える時間など与えてはくれない。アローンのエンチャントには驚いていたが、そんなことは気にしないと言わんばかりに距離を詰める。

速い、今の相手の斬られれば確実に深手を負う。

「ウォーターアーマー!これで少しは炎斬を防げるはずだ。」

防御魔法か。

炎斬は容赦なくアローンを襲う。水が蒸発する音が止まない。攻撃をいなそうと槍を構えるが、しっかりと無防備な反対側を狙ってくる。綻びを作ろうとしているのだろうか、毎度同じところに少しのズレもなく攻撃を当ててくる。すごい練度だ。もうアーマーの耐久も長くない。

先手を打つのは疾力的に無理。喰らって即カウンター。反応力は低い、予想だ予想。

槍を体の正面に構える、後ろからくるよな?そうだような?後ろを振り向き槍を突き出すが、目の前にやつはいない、ならばさらに

「後ろに回りたくなるよなぁ!!」

相手はある程度予想はしているはずだが、空中から斬りかかろうとしているし、この距離感を考えれば避けれない。きっと技の威力でねじ伏せに来る。

あいつの援護を期待して正面からかち合うか。はたしてそれで勝てるか、おそらくこれが最初で最後のチャンス。やるしかない。どうせ思考はある程度聞こえているはず。ならば俺は、全力で穿く。

「アタックハイエンス<ウォーター>!」

「クロスエッジ<ファイア>!」

水は純度を増し、炎は温度がどんどん上がる。

武器と武器がかち合い轟音とともに激しい熱波が広がる。水と炎とが混ざり合い蒸発し消える、これの繰り返しで視界はどんどん悪くなる。

熱い熱い熱い熱い!!それに押されている。このままじゃ押し負ける。

『退け!死ぬぞ!』

槍を全力で押し、隙を見て逃げようとするが、逃げられない。それに水蒸気でできた霧が濃くて魔者の姿が見えない。離れようとすると感じる、死の感覚。というかこいつ、もう片方の剣は...

『上だ!!』

「クアドラプルウォーターシールド」

霧の外にいる魔者には上から落ちる剣が見えたのだろう。

四枚の水の結界が生み出されるが、一枚、また一枚と剣はアローンに迫る。

魔力のぶつかりで目の前が光っている今、槍を持っている俺の手元は見えない。轟音で声も聞こえない。ならばウォーターバインドで拘束、そして勢いをつけて刺突。

「ウォーターバインド」

「フレイムアーマー!」

炎の鎧が双剣使いを包み込み、水の鎖はあっという間に消え去る。残る障壁はあと一枚。ウォーターアーマーももう解ける。

『相手の剣を掴め。』

結界で剣の落下速度が落ちているが、タイミングがずれれば死ぬ。集中しろ。

『破られる、今だ!』

最後の結界が消え、剣が落ちてくる。無論、槍は構えたままだ。腹の部分に槍の柄を持ってきて、腹と片腕で槍を支える。

アローンの上に剣が落ちる。身を反らす、顔のすぐ側を剣が通り過ぎる。

今!

剣を掴む。そして、「エンチャント<ウォーター>」

剣に属性付与する。槍を先の方へ持ち換え、双剣の片割れを叩きつける。

魔者のバフと水のエンチャントの武器が2つあれば勝てる。

くたばれ!!

こちら側の勢いが優勢になり、ついに押し切る。後ろにのけぞった双剣使いの腹に刺突をお見舞いする。槍は溶けそうになりながらも相手の体に到達し、ついに貫いた。アローンは剣を振りかぶる。その剣は首に届いたように思われたが、防がれる。しぶといやつだが力が入ってない。蹴り飛ばし、槍を引き抜き、心臓に槍を突き刺した。

「エストエクスプロージョン...」

死ぬ間際に爆発魔法を唱えた。膨大なエネルギーが集まり今にも爆発しそうだ。

どうやってこの爆発を 止めればいい?

『核を潰せ!俺が見た限りだと魔力反応が一番強かったのは右手だ。右手を潰せ!』

核とは何か分からなかったが、右手に剣を刺すと確かにエネルギーは消失した。

 戦いが終わった。終わった。俺はこいつを一人で倒そうとしていたのか。魔者がいなければ確実に死んでいた。感謝だけ伝えて「アローン」だと気づかれる前にさっさと退散しよう。と後ろを振り返ると魔者がいた。さっさとバレる前に帰ろう。

「なにがバレるとまずいんだ?」

ギクッ。まずい、まずい考えないようにしよう。

「人と話すときぐらいテレパシーを解除したらどうだ?失礼だろ。」

「相手の弱みや秘密を掌握するのも一つの生存戦略だが?」

俺も使ってやろう。

なるほど、素性も知らないやつとは話したくないのが本音か。それになんだ?チョーーーー助かった!!まじありがとう...とな。なんだこいつ。変なの。

『お前に言われたくないわ。なんだよさっきから、愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたい愛されたいってよ。』

テレパシーで会話するのもおもしろいな。そういえば俺の標的がさっきの双剣使いだったはずだが、なぜこいつは戦っていたんだ?

「それは、歩いていたら襲われた。」

「んで、俺の助けがなかったらどうなってたんだ?」

「言わなくても分かるだろう。さっき『聞かれた』からな。」

「俺もお前がいなければ返り討ちに遭っていた。助かった。」

「じゃあ報酬は半分ずつだ。」

まあ、金稼ぐためにやってるわけではないし、いいだろう。

「じゃあな、俺は換金に行く。半額後で持ってくる。最寄りの破壊者協会に行く。ん、待て。俺が換金に行くよりお前が行ったほうがいいな。そのほうが多く金が貰える。」

「どういうことだ?」

「わざわざ話さなくても直に分かる。」

「ああ、そうか。」

協会のある街近くまで一緒に歩いて行った。街に入る前に別れて正解だった。視線が気持ち悪い。慣れたはずなのに気持ち悪い。いつかこれがなくなる日が来るのだろうか。そうこう考えていると魔者が帰ってきた。

「依頼の内容からお前のことが分かった。色々噂になっているみたいだな。お前の依頼を横取りしたんだなって盛り上がってた。なにがあった。」

「どうせお前との関わりはここで終わりだ。教えてやろう。」

そう言って今までのことを話したもちろん呪いのことも。色々考えていたようだが、テレパシーで本音が『聞こえる』から噂を真に受けずに聞いてくれるだろう思っていた。

「なるほど。それでお前にわけもなく嫌悪感を感じていたのか。お前と一緒にいると

俺に変なイメージが湧く。ほら金だ。これでサヨナラだ。」

金だけ渡して魔者は去っていった。テレパシーを試したが俺への罵詈雑言は浮かんでなく、何も聞こえなかった。やはり愛されない=嫌われるではない。きっとそうだ。

――――――――――――――――――

テレパシー


「テレパシー」

意思疎通が言葉を発さなくてもできる。ある程度、共鳴していないと使えない。今回の場合、双剣使いを倒すという目的で一時的に共鳴度が上がっていた。また、魔法操作の技量が高ければ高いほど、テレパシーをつなぐのに必要な共鳴度は下がる。

一度繋げば物質的に距離が離れない限り自然に切れることはない。

魔者→アローンへは簡単にテレパシーを繋げられる。

アローン→魔者へはテレパシーは簡単にテレパシーは繋がらない。

つまり、最後のは...


アローンさんはまさにこれから魔法を習おうという感じでした。ですが追い出されてしまったので魔法の知識は乏しいです。




 今の俺には魔法の知識がない。基本的なことは分かる。アーマー、エンチャント、ショット、バインド。これらの魔法は基本的ににどの属性でも存在する。それはわかっている。しかし、各属性固有の魔法、個人で開発した魔法などはわからない。それに「核」についてなんて聞いたことがなかった。追い出されるのが魔法を教わってからだと少し楽だったが、まあ仕方ない。それより、愛されない=嫌われるではないと分かっただけでも十分な収穫だ。どうやら俺は頭が悪いようで槍の扱いについてなにも考えずに戦ってしまった。もう少しこう、なにかやりようがあったのではないか。そもそも魔者がいなければ死んでいた。あのとき一人だったらどうしていた。答えはなにもできずに死んだ、だ。戦闘センスを磨くためにわざわざステータスを護力にふったんだ。相手の動きを見る観察眼を育てる。それが目的。強敵だの、リベンジだのそんなことを考えている場合ではなかった。敵は弱くていい。訓練ではない本番でやることに意味がある。なんど攻撃を喰らったっていい、魔法に頼りすぎるな。肉体だけで戦え。そのためのステータス改変だ。

 俺は冒険者で言うならステータスはプロ級、技術はアマ級と言ったところ。鍛えるならアマ級と何度もやり合うしかない。少しずつ相手を強くする、少しずつステータスを火力よりにする、少しずつ強くなる。これでいい。焦るなゆっくりでもいい。

――数年後

 最上級の破壊者としてその男はいた。ネームドの魔物たちを何体も倒し、依頼解決数は第三位、ステータスは平均60000を超えると言われている、左手には大剣、右手には大鎌。鎧に包まれた素顔は誰も知らない、知ろうともしない。嫌われ者。彼の腕っぷしだけが彼の存在価値でありそれ以外はゴミ同然に扱われる。孤独な破壊者。アローン。未だに彼は愛を渇望していた。呪いの効果は完全に理解している。たった一人以外と関わればみんなが彼を嫌う。初対面の人間も最初こそ普通に関わってくれるが少しでも時が経つと急に嫌悪感を抱き始め彼から離れていく。初対面の人間合うたびに、この人なら、この人ならと期待して、絶望して、期待して、絶望して...

何度も繰り返した。そして心が死んでいった。今まで感じていた様々な感情が薄らいでいき、のこったのはめんどくさいだの死にたいだの、負の感情のみ。それでもなお、体は戦おうとする。なんで戦っているのかと自問自答し続けては、愛だのなんだのが頭に浮かんでくる毎日。

あとどれくらい続くのだろうか。いつか自分を大切にしてくれる、愛してくれる人が現れるのか。そんなことを考えながら今日も依頼を受けに行く。俺の目的は金稼ぎではないどんな依頼料でも働く。最上級の破壊者だが安価でも働いてくれる、相手からしたら都合のいい奴かもしれない。だが、もしかしたら誰かは、どんな人にも手を差し伸べる優しい破壊者だなと思うかもしれない。そうやって少しでも善人の振りをするのは大事だ。そういえば変わったな依頼のシステム。ずっとプレートで依頼を受けていたのに最上級破壊者になった今ではこうやって依頼を受けに行かなければならない。面倒になったものだ。ただでさえ人と話すのは苦手だというのに。最上級専用の依頼を眺める。明らかに報酬が安いのが6つ。「アローン」ならやるからと依頼したのだろう。まあ、実際やるんだけど。はあ、受付持っていくのめんどくさい。あいつらと話をするのはめんどくさい。

無言で依頼書を差し出しめんどくさいやり取りを終えて依頼解決へと足を進めた。

一つ目は冒険者破壊。プロ級、五人。死んだ破壊者の家族からの依頼。

テレポートを利用し、即破壊。二つ目、三つ目、四つ目と終わらせ最後の依頼へ赴く。五つ目の依頼は没落貴族からだった。領地内で暴れている魔物の集団をどうにかしてほしいそうだ。

 魔物の集団はそこら辺のプロ級の冒険者とは比にならないほど危険なことがある。純粋に強い魔物の集団、例えばエスト級の魔物が集団でいればそれだけで脅威だ。集団がネームドに束ねられたものだった場合、魔物には存在しなかった「作戦」が機能してしまう。エスト級+ネームドは俺でも苦戦する。準備を怠ってはいけない。最上級破壊者への依頼なのだから、おそらくネームドかエスト級の集団だろう。依頼主に話を聞いてみるか。

テレポートして歩いていると貴族の邸宅らしきものを見つけた。

「依頼で来た破壊者かな?両手武器を二本も?!すごいですね。」

若いな。メイドか、いやそれにしては服装がおかしい。頭首の娘か。

「ああ、アローンだ。」

名乗らくとも最上級にあの依頼料だ、どうせ俺がくると分かっていたんだろう。

「依頼内容だが、敵は何か分かるか。」

「とりあえず家に上がって話を...」

「結構だ。」

貴族のくせに俺みたいな野蛮人破壊者にも丁寧な対応。珍しいな、今まであった貴族はもっと高圧的な態度だったが。

少し驚いた表情をしたが、すぐに元に戻り説明を始めた。

「エスト級アーマーガーディアンの大軍、それを束ねる一つ目の巨人『シクトイ=キュクロプス』。なんで私の領地に来たんでしょうか、ただでさえ今は大変なのに、本当にトホホってやつですよ。」

シクトイ=キュクロプスか。一つ目巨人キュクロプスだったかなんだか、破壊者の誰かが話してたな。巨人のくせに鎧も武器もしっかり装備している。そして、巨人ほどでないがそこそこの大きさのアーマーガーディアン。死んだ戦士の装備をゴーストがかき集め巨大な鎧を形どったものだ。盾持ち、槍持ち、弓持ちさまざまな種類がいる。ネームドに束ねられているとすれば相当厄介。魔物の集団をどうにかしてほしい?もっとこうなんか書きようがあっただろう。受けてしまったから仕方ない。

「分かった。場所は。」

「ここから北へ行けば分かるはずだよ。ところで、一応聞くんだがなぜ私の依頼を受けてくれたのかな。」

こいつ、俺の噂を知らないのか?安価で働くことで有名だったはずだが。

「逆に聞きたいんだが、なぜあんな依頼料で最上級に依頼した。」

「それはお金がなかったからだよ。先代の時に色々あってね。」

なるほど。

「それで、どうして君は受けてくれたのかな。」

「特に理由はない。強いて言うなら俺以外なら受けない依頼料だったからだ。」

「良い人ですね。ダメ元で出して正解でしたよ。」

清々しい笑顔だな。昔はこういう笑顔で喜んでたっけ。どうせ嫌われるのに。

「そうか。」

読心を使ったが、これは本音か。まさか俺の噂を本当に知らないとは。

「それじゃあ俺は出る。三日もすれば戻ってくる。そうでなければ、破壊者協会に通達しろ。最上級が死んだ依頼ならすぐに討伐隊が来る。」

「お気をつけて。」

「ああ。」

優しいし、いい人なんだろう。領民の様子も他より幸せそうだった。だが、期待するだけ無駄だ。どうせ三日後には嫌われている。

テレポートすると目の前には大量のアーマーガーディアン、奥の方にはキュクロプスが。さすがネームドが束ねているだけある。盾、弓、近接武器の順に配備されている。まずはキュクロプスをつぶす。そこからは対アーマーガーディアンの集団。司令塔がなくなればエスト級の鉄塊集団だ。キュクロプスは強い。一対一でやりあわなければきつい。障壁を張ってやりあう。障壁を張り続けながら戦うとフィジカル用のステータスが足りない。耐久性はやや下がるが魔力最大で設置型障壁を張り、中で戦う。障壁効果を付与したいが耐久性優先だ。制限時間は10分強。あいつには完全魔法耐性を持っている。攻、護、疾、基本は4対2対4、様子を見て変更。行くぞ。


―障壁術

「障壁術」

魔者でも聖職者でもどちらでも張れる。適性があるのは聖職者。障壁術師という障壁術のエキスパートもいる。結界術(シールド)の上位互換。障壁効果を与えると耐久性が下がる。大きければ大きいほど、硬ければ硬いほど消費するコド、マナ、マギアの量が増える。


「障壁」

発動者がずっと張り続ける必要がある。障壁の密度、大きさ、耐久性、形、効果を常に変更できる。


「設置型障壁」

発動者が一度張れば一定時間存在できる障壁。障壁の高度を基準として、設定した展開時間に比例して展開される設置型障壁の高度が下がる。結界の密度、大きさ、耐久性、形、効果は事前に設定するしかない。後からの変更は不可。


汎用型の障壁術を使うのが普通。アローンのは障壁術師を含むパーティとの戦いで知った特殊な障壁術である。障壁貫通系統すら防ぐことができる。


魔力に関する豆知識

三種類とも扱える人はマギアを攻撃用、マナを防御用、オドを回復用に使うことがある。しかし、常人は魔力階級の切り替えは瞬時にできるものではない。研鑽をつんでこそ行える芸当だ。

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