第1話 孤独な破壊者...

守護の国メスディににその男はいた。

「仕事完了」無機質な声とともにそれをかき消す魔物の断末魔。今日も今日とて仕事である魔物退治、敵はエストファイアドラゴン。強い冒険者でも数十人で倒すような厄介な魔物だ。それをたった一人で倒したのが「最強の嫌われ者」アローンだ。彼は「たった一人にしか愛されない代わりに、どんな力でも扱える」という一種の呪いのような力を持っており、それが理由なのか、誰からも嫌われている。報酬をもらうために冒険者協会へ行く道中も、嫉妬や妬み、あらゆる罵詈雑言が飛んでくる。しかし、アローンは何を言われても無反応。無視しているわけでもないし、我慢しているわけでもない。ただ無反応。彼の心には何も届いてないのだ。アローンが冒険者協会に入るとすぐ、睨まれたり、嫌な顔をされたり、コソコソと陰口を言われる。これもいつものことだ。

「おいおい、アローンじゃねぇか。なんだぁ?その角、今日もドラゴン倒してきたって自慢してんのか?毎日毎日ひけらかすようにしてウザいんだよ!!どんな力も使えるからって調子に乗るなよ」

おっと、今日は珍しく直に文句を言いに来る輩がいるようだ。きっと彼以外が毎日ドラゴンを倒してきたところで向けらるのは尊敬の念や賞賛の声だろう。しかし、彼は違う。どんなことをしたって、文句を言われる。そしてそれがこじつけであったとしても皆が同調し彼を責め立てる。

「討伐の証は?」受付嬢がめんどくさそうに聞く。

「...」黙ってドラゴンの角を受付嬢に渡す。受付嬢ひったくるように角を取ると

「報酬」とだけ言い金貨一枚を投げ渡す。相場なら金貨10枚は払われるのだが、嫌われ者の男に払う金などないといった考えなのだろう。

金貨一枚で今日の飯を買い家に帰る。釣銭である銀貨のみが彼を向け入れてくれる。常人なら耐えられないような生活だが中身が空っぽの彼にとってはどうでもいいことだった。

ただ魔物を狩り、飯を食い、寝るのみ。なにもアローンは最初からこんな人間だったわけではない。人並みに笑い、泣き、怒り、楽しみ、様々な感情を持っていた。すべては半年前の暴虐の国でサラセニア始まった。

23年前、サラセニアの貴族のもとにアローンは生まれた。生まれたときには呪われた力はなく、家族や周りのみんなと楽しく暮らしていた。彼の家は優秀な破壊者デスロイヤーの家系で父から指南を受けていた。

訓練の途中でアローンは破壊者とは何なのか気になり父に聞いた

「破壊者って何をするお仕事なの?」

「破壊者っていうのはな、簡単に言うと人や魔物を殺すお仕事さ。」

そのあとの説明を要約すると、暴虐の神イオレンスの加護を受けているサラセニアでは毎日供物として、攻の国アグレド、守護の国メスディ、疾の国白露、魔法の国バーベナの四国の人間を殺して捧げたり、魔物の殺して捧げたりするということだった。

この国では他国の人を殺す、集落を荒らすというのはどこの子供でも知っている常識だった。それを行う人が破壊者というのが知られていないだけだ。

アローンは訓練の中では如何なく破壊者としての才能を発揮し、5歳のころには将来は国のトップ級の破壊者になると。一族の誇りになると、みんなに期待されていた。

5歳にはその期待は重く、少しずつ自分を追い詰めるようになった。期待にこたえられるか不安だった。

「お前、最近無理してないか」周りにどんなに心配されても不安だと言えるはずもなく

「大丈夫、大丈夫気にしないで」と笑顔で言っていた。

その後、アローンは血反吐を吐くような努力をした。自分よりも出来のいい奴がいると必死で追い抜こうとした。そしてだんだん自分に自信が持てなくなり、自己肯定感が下がり、精神的に不安定なっていった。

そうした日々を送っていると突如対価と代償の神を名乗る男がアローンの前に現れる。

「お前はいま力を欲しているんだろう?俺がお前の力をしてやってもいい」

「解放?」

「そうだ解放だ。お前の中には『自分のステータスを好きに弄れる能力とこの世に存在するどんな力も扱えるという』、という力が宿っている。一つ目は、お前のステータス、攻撃力、防御力、機動力、魔力をいじれるということだ。勘違いしちゃいけないが、全部最大値とかは無理だ。お前のステータス値全部を足した値分、好きにステ振りし直せるってことだ。二つ目は、文字通りこの力はこの世に存在する力をなんでも使える。今は時を扱う力はこの世に存在しないから使えないが、仮にそんな奴が生まれたなら時を扱う力も使えるようになるはずだ。ここまでかみ砕けば分かるよな?それを開放してやろうということだ」

「わかった...けど、対価と代償の神っていうんだからなにか代償があるんだよね?」

「話が早くて助かるよ。君には、『寿命が来るまで死ねない』という代償を払ってもらう。」

この時この神はアローンに宿っている力のすべてを話さなかった。「たった一人からしか愛されない」ということだ。そんなことも知らずアローンは契約をしてしまう。

「じゃあその力の解放ってのを頼むよ。これでみんなに恥じない破壊者になれる!」

「契約成立だ。」神は不敵に笑い、指を鳴らした。

その瞬間、アローンの頭に情報が流れ込んでくる。

『オ前ハコノ世二存在スル全テノ力ヲ使エル。』聞いてた通りの力だ。やった、これで僕も

『タダシ、オ前ハタッタ一人ニシカ愛サレナイ』

え...どういうこと?タッタ一人ニシカ愛サレナイ?聞いてた話と違う。振り返ったがそこには神の姿はなく、契約した己を呪った。

けど、この世に存在する力をなんだって使えるんなら契約を破棄する力もあるはずで、それを使えばなんとかなるはず。

『神トノ契約ハ破棄デキナイ』

ダメなのか。。。


その様子を見て楽しそうに笑う影が一つ。

「俺の予想通りの反応。お前は強いが心に問題を抱えてた。それに死ねないという枷、最強の力、1人からにしか愛されないという要素を詰め合わせれば、素晴らしい玩具の完成だ。代替わりの前の遊びとしてはとても楽しいもんだ。」


タッタ一人ニシカ愛サレナイ。これはいったいどういうことなのだろう。文字通り家族のみんなからも愛されず。応援してくれたみんなからも愛されず。独りになってしまうということなのか。過度な期待は嫌だったけど、家族は家族、仲間は仲間みんな大切だったんだ。それなのに急に愛されなくなるなんて、そんなの嫌だ。

家に帰る足がどんどん重くなる。拒絶されるのが怖い。そもそも愛されなくなるなんだ?ただの赤の他人のように思われるのか、それとも嫌われるのか...

家に着いた。いつもは軽く開けれる扉が、ものすごく重い。

開けるしかないっ。

「た...ただいま~」

「アローン、今日からお前は他人だ。前から思っていたが、俺たちが期待しているのになんだよ?破壊者の優秀な血筋であることへの自覚が足りない。お前が一番でなければならないのに!家には金輪際関わるな。」

優しかった父が別人のようだ。これがあの力の影響なのか。そもそも言っていることがおかしい。父なら順序を踏んでこういうことを言うはず。急に他人だなんて言わない。本来なら絶対そんなこと言わない。言わないはずだ。出来損ないだったかもしれないけどそんなことは言わないはず?なのか?もしかしてずっとそう思われていたの?よくない!そんなことは考えるな。父がそんなこと思っていたわけがない。

「さっさと失せろ!」武器と金を投げつけられ追い出された。

さっきはパニックで頭が追いつかなかったが、どんどん悲しみがこみ上げてくる。

「僕は..俺は.これからどうしたらいい?!」




「僕は..俺は.これからどうすればいいんだ?!」家を追い出されてからも夜になっても玄関の前で突っ立っていたが、家の中からドアを蹴られ、本当に家を出ていく覚悟を決めた。正門をくぐって出ていく時には、2度とこの門をくぐることもないのだなと思ってしまい止んだはずの涙が溢れてきた。そんなアローンを嘲笑うかのように、空には満月が鬱陶しいぐらいに綺麗に輝いていた。


そして朝はやってきた。もう朝か。荷物は...奪われてないな。寝床がなかったとはいえ、路地裏で寝るのはいかがなものかと思ったが杞憂だったか。「さて、これからどうしたものか。金はこの袋の中の銀貨10枚、武器は剣一本だけ。一日、銀貨半枚分で最低限生きていけるとして、もって20日間か。仕事をするしかないか。」銀貨が入った袋をジャラジャラ鳴らしながら、ブツブツ独り言を言いながら歩いていく。そういえば俺、昨日はあんなに泣いたのに今日は妙に冷静だな。なんだか少し気持ち悪いな。それはさておき、やるか破壊者しごと。だいたい俺は破壊者としての生き方しか教わらなかったんだ、働くならそれしかない。そうと決まれば行動だ。

雇用掲示板を探して歩くこと、数十分。この国では破壊者はいつでも必要とされている、それはもちろんアローンがいるこの町でも同じで、破壊者募集中の紙が真ん中にドカンと

貼ってあった。

採用条件

・成人(15歳以上)であること。

・採用戦闘試験に合格すること。

※試験料銀貨5枚

ゆるくないか?採用条件。面接とかはないのか。いや、人や魔物と戦うんだ、死者だって少なくはない。そりゃあこのぐらい緩くないと人手が足りなくなるな、納得納得。場所は、町役場か。俺のダッシュ、5分くらいか。ちょうどいい、機動力極振りで移動してみるか。アローンはステータスをいじろうとした。

この世界での一般人のステータス平均値(攻、防、疾、魔、の四つの基礎ステータスの平均値)を「1」とすると下位の破壊者のステータスは7あたりであり、最上位の破壊者となると9000越えである。生まれてからの能力がこの世界は全てであり、赤ん坊が大人より強いことなどよくある話だ。また、家系も大きく影響する。

アローンのステータス平均値は大体1000といったところだ。良い家系の生まれで、才能に恵まれ、努力を怠らなかった結果15歳という若さで、かなりの強者となっていた。

呪われた力を使いステータスを変更する。疾力4000。5分かかる道が、大体1分と少しでついた。呪いの対価が思いだけあって、確かにこの力は強いな。この力なしでも、試験には受かるだろうが他の使い方も試してみるか。

町役場

破壊者試験用窓口

あれが受付か。本当に人手が足りていないんだな、いつでも募集中って雰囲気が強い。それといまさら気づいたが、周りからの視線が痛いな。呪われた力のせいなのか、破壊者の名家から俺が追い出されたっていう噂がもう広がっているのか。どちらにせよ俺には破壊者になる以外に道はない。それに、大きな破壊者になればきっと多くの民衆の目につくことになる。そうすれば「たった1人」が俺のことを認知してくれるかもしれない。色々考えながら、歩き回っているとさらに視線が鋭くなる。そろそろ試験を受けにいくかと肩に力を入れ、受付窓口へと歩き出した。

「すみません。破壊者の試験を受けにきたんですけど。」

「あぁ、あなた、噂の『アローン』ってやつですよね。破壊者の家から追い出された落ちこぼれなんですよね?人手が足りないから、採用するとは思いますが、どうせあなたは下位の破壊者止まりですよ。」

蔑んで目で見ながら、受付嬢は大儀そうに試験用の書類を渡した。名前、家、年、性別の記入だけで案外簡単に終わった。家のところは空欄のままだったが。

「これ、書けました。」

少しばかり気まずそうに紙を差し出すアローンだったがそんなことはお構いなく、ひったくるように紙を取ってから一言

「実践試験会場はあちらです」

指を指した方には、別の試験官らしき人がいた。受付嬢の人ですなすだけは絶対に外さなかったな。流石の営業精神!!なんて皮肉めいたことを考えながらついたところは、訓練場のような場所だった。

「試験内容は、ここで魔物や人間を何体殺せるか。と言うものです。もちろん、ここの魔物や人は破壊者たちが捕まえてきたものです。1から10体なら下位、11から50体なら中位、51体以上からは上位破壊者としての合格になります。名家出身の『アローンさん』なら中位にはなれますよね。」

受付窓口の方から「いいねぇ嬢ちゃん!!」「うまいこと言うじゃん!!」などと、大勢の笑い声が聞こえる。さっきの俺の脳内で言ってた皮肉が聞こえてたのか?

試験で、上位破壊者として受かれば俺の「人探し」も楽に始めれる。

・制限時間5分

・武器、魔法は何を使ってもよい

始めるか。

「準備はいいですか。始めますよ。」

と言った瞬間、周りに結界が張られる。脱走防止と、周りへの被害をなくすためのものだろう。実際の戦闘でもこの結界は張られる、昔父からそう聞いた。

そして、人間が転送されてくる。

「た..頼む命だけは...」

すごく怯えて様子だが、破壊者として育てられた俺に獲物ターゲットに対する慈悲などない。必死に命乞いをしているが死んでもらおう。そして剣を振りかぶり

「や...やめてくれっ...」

両断。今度は、1体の魔物と1人の人間が転送されてきた。魔物は狼型、人間の方は...さっきよりは屈強そうだ。

「俺たちは、破壊者試験とかいうやつでお前たち受験者を殺せれば解放される。だーかーら!!俺のために死んでもらうぜ!!」

魔物の囮にして仕掛けてくる。少しは頭が回るようだが、浅はか。

「遺言はそれだけか?」

アローンの一言と共に、2つの生物は綺麗に両断された。そして今度は2人の人間と、2匹の魔物が転送されてきた。おそらくだが、この手の試験は獲物数が倍になっていくタイプだ。ならば、と力を発動する。攻と疾にステータスを極振りにし少しでも多く殺す。

それからの5分間は、まさに一方的な蹂躙だった。獲物が出てきた瞬間に殺す。ピンボールかの如く結界内を走り、飛び、圧倒的攻撃力で敵を一閃。結果、撃破数は250体を越えた。

あれだけ笑ってた奴らも、今は化け物でも見るかのような目で俺を見ている。

「ざっと250体以上ってとこか?これなら、上位破壊者ってことだよな」

ニヤリと笑い受付嬢に聞く

「そうですね。正確には254体です。では、手続きを行いますので窓口まで行ってください。」さっきとは180度態度が変わったな。一部始終を見ていた周りの人間もさっきまで馬鹿にしていた男を急に恐れるようになった。

窓口に戻ると無言でライセンスを渡された。最初に来た時は、散々な態度だったが、こちらも態度急変って感じか。受けとったライセンスには最初に提出した紙に書いた個人情報と、上位を示す双剣のマークが描かれている。下位が短剣マーク、銅素材のプレート、中位が長剣のマーク、銀素材のプレート、上位が双剣のマーク、金素材のプレート。といった具合で階級分けされ、ライセンスは身分証代わりにも使える。最上位の破壊者のプレートは、骸骨のマーク、白金素材なんだとか。

晴れて破壊者となったわけだが仕事はどこで受ければいいのだろうか。などど考えていると、プレートが光り出した。名前やマークがついたいない裏側の方が光っている。そこには、破壊依頼デストロイリクエストが載っていた。星1から星10まで危険度があり、数値上俺の適正は星6あたりだがあの力があれば星8も難なくこなすことができるだろう。最初は冒険者破壊アドベンチャーデストロイ-プロ級を行うことにするか。報酬は金貨1枚。これで難易度に見合った報酬なのかは知らないがとりあえず、初仕事がうまくいけばそれでいい。

残りの銀貨5枚で、顔を隠せる面を買った。破壊者は顔を知られてしまえば、警戒されやすくなり仕事が効率的に行えなくなると教わった。面はピエロの面だ。愚か者かつ笑われ者の俺にピッタリだ。暗闇の中、サラセニアから外へと足を運ぶ影が1つ。


「今回は破壊者の撃破っつーことで、プロ級の俺達が呼ばれたってわけか。この世の秩序を保つため、必ず殺してやる。」一党のもとへと歩く影が一つ。


後にこの戦いは、アローン名を広める戦いの一つとなる。





時を遡ること数時間前、ちょうどアローンが試験を受けていた頃だろう。とある一党が冒険者協会へと足を運んでいた。言わずもがな、クエスト受けるためである。

「みんな今日は何のクエストを受けるか?」

リーダらしき男が仲間に声をかける。

「う〜ん、僕はなんでもいいかな〜」

「私はやっぱり破壊者デストロイヤー狩りがいいです。」

「私はドラゴン退治〜!!」

それぞれが各々の考えを挙げていく。

「破壊者狩りでしょ!」

「いや、ドラゴン!」

言い合いを初めたのは、魔者と聖者。いつものことだ。そして、2人の視線はなんでもいいと言った男、護者の元へと向かう。

「どっちがいいと思う?」

「どっちがいいと思います?」

2人に視線を向けられビクッとする護者。視線が2人の間を行ったり来たりしている。悩んだ末護者が出した結論は

「じゃあ、破壊者狩りで。」

破壊者狩りだ。ニコッとする魔者、ムスっとする聖者。これもまたいつものことで護者はいつも魔者の意見に合わせている。これは、護者が魔者に対して特別な感情を抱いているからだろう。

「なんなのよあんた!いっっっつもこの子の意見に合わせてさ!なに?この子のこと好きなの?」

ギクっとする魔者と護者。どうやらこの様子だと魔者も護者に少なからず好意を持っているのだろう。

「ち...違う、そんなわけないだろ!」

必死に取り繕うが慌て方で完全にバレている。

「重要なことを忘れていた。今日、俺たちには使命任務がきている。最近破壊者の活動が活発らしい、っつーわけでそれを収めるためにプロ級冒険者の俺たちが呼ばれたってわけだ。」

「じゃあそもそも私たちに聞く必要なかったじゃない!!」

「すまんすまん、忘れてたんだ。さあ、切り替えろ、仕事だ!」

リーダーの一言で、仕事モードに切り替え真剣な表情になる。

「受付でクエストを承認しに行くぞ。」

ぞろぞろと受付へと歩いていく一党。

「今回は依頼任務の破壊者狩りで頼む。」

「了解しました。いつもいつも大変な依頼をありがとうございます。この辺りで有名なプロのチームですもんね。これからもよろしくお願いします。」

笑顔で見送る受付。

「今回はサラセニアに行く。準備しろ。」

各々が必要な物質を補給し冒険者協会に再集合。転送呪紋の上に立ちサラセニアに最も近い冒険者協会を選択。青白い光に包まれ転送される。

「ここからは徒歩だ。魔法やスキルを使ってもいいが、力は温存しておきたい。」

「「「了解!」」」

彼らはサラセニアに向かって歩き出した。


ー冒険者と破壊者

破壊者はなぜ特定の等級の冒険者を倒しにいけるのか。冒険者というのは己を世間に知ってもらうことが重要だ。だから、目立つ格好、目立つ特徴を一つや二つ持っておくことは当然だ。すると、破壊者たちはどんな格好のやつがどの等級かわかる。それを物見の破壊者が殲滅の破壊者に伝える。よって指定された等級の冒険者を殺すことができる。

逆に冒険者は破壊者狩りをするだけであって、等級をして押されることはない。殺した破壊者のライセンスを持ち帰ってそれに応じた報酬を受け取る。

破壊者と冒険者は基本はサラセニアの国境付近、吸血者(冒険者教会では破壊者と呼ばれている)と冒険者はイーコールの国境付近に多く派遣される。だから、いつ行っても標的がいて殺し合いが起こる。同業者も多いため臨時でパーティーを組むことも少なくない。



一党がサラセニア国境に向かう頃アローンもまたサラセニア国境に足を運んでいた。周りを見るとアローン以外にもたくさんの破壊者がいた。同業者が多いな。それに鬱陶しい視線が多い。さっさと国境へ向かうか。呪われた力を使い加速する。30分経った頃には国境に着いていた。国境は長い石城で仕切られて

いる。ところどころ、門があり破壊者が見張りをしている。門を通るのはどうすればいいのだろうか。

「依頼で来た。ここを通りたいのだが」

「ライセンスを見せろ」

なんだこいつは、俺のことを馬鹿にしないのか。いや、噂が届いてないだけか。

ライセンスを見せる。

ッ?!こいつ上位の破壊者なのか。全然見ないがこんなやつ昔からいたか?まあいい

「いいぞ、通って。」

「...」

ライセンスを受け取り、ついに国境を越える。ここがサラセニアの外か。石城の外はこんな綺麗なところなのか。森なんてサラセニアの中じゃ滅多に見ないし、池の水も綺麗だ。依頼にあった冒険者破壊だが、どうすればいいんだ?プロとか言っていたがどう見分ける?ん?ライセンスがまた光って...。なるほど、こちら側の物見からの情報か。今回のプロ級の冒険者は4人パーティー。攻者、護者、魔者、聖者の4人。じきにこちらに来ると。それでは、俺は肩慣らしにそこら辺の冒険者を破壊ころすか。相手がどうであれ油断はするな。なるべく不意をつけ。自分に言い聞かせながら、冒険者を探す。

小さな池の辺りで休憩している一党がいるな。戦利品を見るに破壊者俺たちを殺しに来たわけではなさそうだが、いずれ脅威になる存在だ。始末しておいて損はない。呪われた力を発動。攻力4000、そっと近づいて飛び掛かる。

「敵だ!」

リーダーらしき男が声を上げる。

それを聞いて一党は臨戦体制を取ろうとするが

「セイッ」

アローンが横に大きく剣を振ったその瞬間、轟音と共に、一党の上半身と下半身は綺麗に分かたれ、周りの木々も次々と倒れていった。池は血の色に染まり、死体や武器などが沈んでいる。音を聞きつけた冒険者が集まってくる。

「大丈夫かすごい音が鳴った...ウワァァァ!!なんだこれ死体か?!おい、みんなやばいことになってるぞ!」

なんだなんだと人が集まってくる。流石冒険者動きが速い。だがお前たちにも死んでもらう。ッ?!

「お前、その格好破壊者だろ?」

「よく気づいたな。じゃあ死ね。」

アローンの拳が男の顔面を捉える。そして次に瞬間男は池へと吹っ飛ばされた。

「あっちにいるぞ!敵は破壊者だ!注意しろ!」

対応の速さで言えば相手に手練れはいない。ならば先ほどと同じように、

「セイッ」

横の大振り。

「「「シールド!!」」」

相手は3人ほど防御結界を張ったがアローンの攻力を防ぐことができるほど強い者ではなかった。結界が割れると冒険者たちは全員死んだ。死体は11。一つ足りないか、後ろだな振り向いて一閃。断末魔と共に肉の裂ける音がした。肩慣らしにはこれぐらいして、目標を破壊しに行くか。

目標を探しているとそれらしきパーティーを見つけた。が、待て。数は4人ではないのか。なぜ8人に増えている?見間違えか?ライセンスに写っているのと見比べてみるか。いや前の4人は間違いなく目標だ。ならば残りの4人は誰だ?まあいい。殺せば4人も8人も変わらん。呪われた力をうまく利用しろ。

その前に確認をしなければ。

「おい、お前たち。プロ級か?」

「お前か。ついさっき、冒険者達を殺したのは。」

「俺の質問に答えろ。」

「そんなの答えなくても実力でわからせる。」

明らかに今までと雰囲気が違う。

「「攻力強化」」「「護力強化」」「「疾力強化」」

後方の魔者2人が攻者2人護者2人にバフをかける。

「「聖なる鎧」」「「聖なる武器」」

聖者2人も魔者2人と同様バフをかける。

「「「「行くぞ!!」」」」

4人で距離を詰めてくる。護者の後ろに攻者の陣形で二手に分かれて攻撃か。これじゃあ攻撃が通しづらいが、俺の今の疾力と攻力なら突破など造作もない。

「死ねっ」

ガキンッ!金属音が響く。クソッはじかれるか。護者であるから護力が高いと分かっていたがバフがかかっていて想像以上に固い。ならば、まず攻者から潰すしかない。

すっと姿を消し今度は反対側のタッグの背後を取ろうとするが

「さっき見た。」

行動を先読みされ目の前に大槌が迫る。ならば護力最大だ。いや間に合わない。まずい。今のステータス(攻力2000,護力50,魔力50,疾力2000)でどうすればいい。

こうなりゃ相殺だ相殺。

「オラァァ!」

おそらく上物であろう大槌とオンボロの剣。真っ向からぶつかればどちらが壊れるかは一目瞭然。

クソッ!折れた。一旦距離を取るか...

「マズイッ」

思ったように攻撃が通らず焦っていたアローンは相手の「魔法」「祈り」に意識を割くことを忘れていた。

「「セイクリッドバインド!」」「ファイア!」「ライトニング!」

手足を拘束され前から魔法、後ろからは攻者、護者が迫ってくる。

「「お前はこれで終わりだ!」」

「アンガーサイス!」「インパクト!」

やつらは俺が絶対絶命だと思っているだろう、つい先刻まで俺もそう思っていた。だが俺にはもう一つ力があるだろう。この世に存在するどんな力も使えるという力が。これを使えば逆転など容易だ。俺に攻撃が届くまであと数秒。ステータス変更は可能。魔力極振り、後は最適な魔法で潰す。




魔力極振り、後は最適な魔法で潰す!

前方には魔者、聖者。後方には攻者、護者。

前後をカバーでき、確実に仕留め切れる魔法はなんだ?

岩魔法、広範囲、上から落とす...

フォールンロックだな。この魔法は広範囲だが今の状況じゃ自分をも巻き込んでしまう。だが、魔鎧を使えば魔法防御は可能。この2つでいくか。

ステータス変更魔力最大。

「フォールンロック!」「魔鎧!」

驚いた顔をしているな。

「焦るな!これはハッタリだ!」

奴のステータスは攻力と疾力の2つが高いに決まってる。さっきの奴の動きはそうじゃないと説明がつかん。だが、なんで魔力によって作られた鎧が?いや、怯むな!

「「「うぉぉぉぉぉ!」」」

その瞬間、一同の足元には魔法陣が、上方に魔力によって作られた魔力石が。

「「魔鎧」」

護者は護力で耐えられると読んだ魔者が攻者に魔鎧を唱えるが

ドゴォォォォン!!という轟音と共に全員押し潰された。

もし、彼らが出会ったのがアローンではなければこの一党はきっと幸せな未来を歩んでいた。だがこれで終わりだ。

これで全員仕留めた。

「naught(ノウト)」

と唱え魔法石を消す。

魔力石のあった場所には、人間だった者があったがあまりにもひどい形で、冒険者プレート、装備品がないと、とても人間だと判断できる状態ではなかった。

さて、プレート、肉片、血液等を回収して一番近い破壊者協会に依頼達成を伝えるか。

それにしても、プロ級とはこんな者なのか?いや、慢心は良くない。きっと上位破壊者の中で俺が最底辺なように、あいつらもプロ級の中で最底辺だっただけだろう。

プレートは全部で8枚。プロ級のが5枚、アマ級のが3枚。おそらく俺の目標はプロ4人パーティー、おまけの4人はプロ1人をリーダーとしたチームだったのだろう。俺が起こした騒ぎで増援を求めたのだろうな。俺に増援が来なかったのは、あの呪いのせいで嫌われているからなのだろうな。そんなことを考えながら門へと戻っていった。

「仕事完了」

無機質な声が森に低く響いた。

仕事を終えたアローンは門に戻り見張りにプレートを見せ、帰ろうした、が

「噂は聞いたぜ。名家の落ちこぼれ。その上位のライセンスもどうせ裏で金で買ったんだろ。役場ではすごかったらしいがそれもどうせイカサマだろ。」

つい先ほどまで自分より格上だと思っていたやつが落ちこぼれと知り相当うれしいようだ。

「そうかもな。」

思っていた反応と違い少し驚いたようだ見張りは

「おもしろくねぇ。」

とアローンに悪態をつくが、彼にとってはどうでもいいことだった。

 依頼の報酬を貰おうと破壊者協会に来たのはいいものの、落ちこぼれがのうのうと破壊者をやっているのが癪に障るらしくアローンへの視線はよりひどいものになっていた。やはり、受付に歩いて行くまでに文句は言われる。だが、そんなことはどうでもいい。

「冒険者破壊の依頼を受けていた。完了報告をしにきた。」

自分のプレートを見せ、受付に回収してきたものを渡す。

下等生物を見るかのような受付の目は一気に恐怖の色に変わった。

落ちこぼれだと思っていた人間が、プロ級、アマ級冒険者を相手しているとは思っていなかったからだ。それも8人なんて「本物」の上位破壊者でないと為し得ないのだ。

受付はずっと黙っている。まさか依頼されていない分も破壊したのが問題だったか。一応付け加えて説明しておく必要があるだろう。

「依頼されていた人数は4人だったが、他に4人いた。邪魔だったので破壊した。」

「...」

黙り込む受付。

「い..一応聞いておきますが、誰かの戦果を盗んだわけではないですよね?」

やはり疑われるか。

「俺の戦果だ。」

難しそうな顔をして考え込む受付。

なんだなんだ、また落ちこぼれが何かしたのかと人が集まってきた。

そしてやっと結論が出たらしく、口を開く

「今回の報酬は渡します。ですが、あなたの実力が本当か調べる必要があるため、本部に行き実力試験を受けて下さい。役場で行った試験で不正を行った可能性もありますので。」

追加報酬も込みで金貨2枚を受け取り颯爽と協会から出ていった。

宿をとり休息をとるか、本部に行き試験を受けるか、二択。疲れてはいないが万が一もあるだろう、今日はひとまず休むとするか。

だが、この国はアローンを休ませてくれなかった。どこに行っても帰ってくれ、出ていってくれ、近づくな、店の評判が下がると誰も相手にはしてくれなかった。そしてまたしても町の路地裏で一夜を過ごすこととが確定した。食料と水を確保したいが金貨では買い物は難しい。なにせ金貨1枚で銀貨1000枚分の価値があるからな。手数料込みでどこかで銀貨950枚ほどと交換してもらわねばならないか。両替もしているという質屋に行くがどこも銀貨500枚だと言い張り、法外な交換条件しか提示してこなかった。これもやはり、呪いのせいなのか。仕方あるまい。物を食わねば生きていけない。水を飲まなければ生きていけない。金貨2枚を銀貨1000枚と交換した後、質の悪い食料と水を、これまた法外な値段で交換し路地裏で眠りについた。

 そのころ冒険者協会では、大事件としてプロ級冒険者達の死が広まっていた。

今まで何の情報もなく、ノーマークであった破壊者が、プロ冒険者含む8人に勝つなんてことはあり得ないことだったのだ。ピエロの面、圧倒的疾力、攻力、魔力、年は20にも届かないであろう幼い風貌。このような破壊者を見かければすぐに逃げろ、という注意が出された。

突如現れた、「強すぎる」破壊者としてアローンの存在は冒険者全員に知れ渡った。

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