舞台裏の天才と秘書

 「・・・何であんなアップデートしたんですか?」


 壁一面にプラモデルの飾ってあるショーケースが並べられ、プラモの空き箱が隅に詰まれている部屋。

 その中央に陣取り、パソコンで〈起動戦討記アファム〉を流しながらプラモデルを弄っている青年に、若い女秘書、犬飼は問いかける。


 「んー?あんなってー?」


 「〈リアルプラモ〉の性能強化とスキルシステムの実装ですよ」


 「何か問題あったの?」


 ニヤニヤしやがって・・・っと秘書は歯噛みする。


 「どうもこうも・・・、お気持ちメールからSNSまで大変な騒ぎですよ。炎上一歩手前です。」


 「ほーう!それは大変じゃん!具体的には!?」


 「まず、〈ゲーム内プラモ〉に対して何もないことに不満意見が多数です。・・・まあ、実際は的ハズレなんですけど・・・今まで支えてきたユーザーの多くは〈ゲーム内プラモ〉を愛用していたゲーマー達という認識になってますから、当然かと。」


 「えぇ・・・プラモゲーとして作ったんだから〈リアルプラモ〉強化は当然だと思うんだけどなぁー」


 「ゲーマーとかプラモデラーとかは関係ありません。ゲームを遊んでくれるなら等しくお客様です。」


 「わかってるさぁー、でも〈ゲーム内プラモ〉にだって追加要素はだしているよ?」


 「おいっ!・・・失礼、そんなの聞いてませんけど?」


 「サイレントだからねー、あ、これは告知したらダメだよ?平等じゃなくなっちゃうから、ハハハ!」


 プチっ、と何ら悪びれた様子の見えないバカのせいで頭の中の何かが切れる。


 「・・・レイドボスの件と言い、我々にも隠れて好き勝手やられると困るっつたよなぁ?」


 「え?ちょっ!元ヤンが顔出してる!!お、落ちついて!!」


 「平等じゃないってのはどういうことですかぁ?」


 バカの胸ぐらを掴みながら、眼鏡を外す。

 割れたら危ないし、余計な費用がかかるから。


 「リ、〈リアルプラモ〉は現実の世界で労力をかけて完成される物だろう?だから、〈ゲーム内プラモ〉にもゲーム内でそれなりの労力を払って貰う必要があると思って!!」


 「告知無しもその一環だと?」


 「そう!それに自分で見つけた方が嬉しいじゃん!?」


 「我々開発サイドにも情報を秘匿する必要は?」


 「それは単純に忘れてただkぇぇぇぇぇ?!!!」


 コブラツイストっぽい何かの関節技の刑に処した。

 このバカはしばらく立てなくしてやる。


 「お前が!何も!知らせねえから!こっちの対応が!困!るん!だよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


 「ぎぃ!ぎゃ!ご!ちょ!!ま!ギブ!ギブギブゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 動かなくなった豚を床に放り捨て、眼鏡をかけ直す。


 「ふう、それで?〈ゲーム内プラモ〉の強化の件は伏せたままで行くとして、〈リアルプラモ〉に関しては手を入れないのですか?」


 「い、犬飼ちゃん・・・、関節技をかける時はおっぱいを堪能できる余裕をだnべぇ!!」


 頭を踏みつぶす。


 「今回のレイドボスが良い例ですが、〈リアルプラモ〉のスキル、ちょっとやり過ぎではないですか?あれでは、レイドイベントは存在意義を失います。」グリグリ


 「きょ、強力なスキルには・・・それ相応の条件だったり・・・制約が付いてる・・・からぁ言うほど・・・便利なもんじゃあ、な・・・い、よ・・・」


 「しかし、ほぼ単機でボスの装甲を削りとってしまうのは、ゲームバランスが崩壊してませんか?」(靴の裏が汚れるなぁ)


 「『ほぼ』、単機でしょ?本当に一機だけだったらあれはできてないよ。そのためにボスとかの強化もしたわけだし」


 「そうですか」ゲシっ


 「上司が立ち上がろうとするのに蹴り入れる秘書がいるってマジ!?」


 「ではあれは、当ればデカいロマン砲が奇跡的に当った結果、という認識で良いのですね?」


 「超必殺ウルトスキルについてはその認識で合ってるよ。ただ、まあ・・・」


 「何です?」


 「僕はあの〈アファム〉なら面白いことができると思ってたんだ、始めて見た時からね」


 「?」


 「ああ、そうだ、犬飼秘書!そこにまとめてあるプラモの箱、〈エンジョウ模型店〉って所に送っといて!僕からもお礼の電話いれとくから」


 「はぁ、了解しました。開発主任」

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