巨砲轟滅

 銀腕の鞭が〈スケルトン〉を粉砕せんと迫り来る。


 詰めが甘かった。

 これは避けれない、当る。

 無様をさらした。

 大間抜け自分

 

 頭の中で後ろ向きな言葉が飛び交う。

 

 もうすぐ鞭が〈スケルトン〉に追いつく。


 撃墜は免れないだろう。

 仮に生き残ったとしても、作戦は失敗だ。


 「ちきしょうがぁ!!」


 撃墜を覚悟したその時、


 バチィィィィィィィィィィ!!!!!!


 一閃


 光が、煌めく。


 直線を空に刻んだ光は、俺を撃墜せんと迫っていた銀腕とぶつかり、狂鞭を弾き飛ばす。


 ・・・ビーム!?狙撃!?


 






 「ふう・・・。」


 スキル〈ノックバック・ショット〉


 ダメージはほぼ無いが当った相手を弾き飛ばして距離を作るスキル。

 スナイパーにとっては命綱に等しい距離を作る自衛のためのスキルだ。


 「〈オロロ〉!!何してんだ!?早く逃げないと巻き込まれるぞ!!」


 「私の機体のスピードじゃ逃げ切れないわよ」


 〈チェイサー・ドロウ〉は狙撃に特化した機体。

 長大な射程を有する代わりに、その他のステータスはかなり低い。

 今から移動しても〈ゴリバス〉の攻撃範囲から逃れることはできないだろう。

 そしてそれは、〈すね毛〉の〈大剛毛〉も似たような物のはずだ。


 「・・・ゴリラの方には別の人が仕掛けるって〈ジーク〉さんが言ってたでしょ?たぶん、あの硝子みたいな機体がそうなんじゃない?」


 「っ・・・それがどうしたんだよ。」


 〈すね毛〉も逃げられないと悟ったのか、隣で動きを止める。


 「いつまでたってもゴリラに仕掛けるそれらしい人が現れないから、不思議に思ってたのよ」

 

 〈オロロ〉は落ちついた様子で続ける。


 「それがこのタイミングで現れた。プレイヤーが後退する中、逆に突撃する機体。わざわざこのタイミングで〈ゴリバスあれ〉に向おうとしているってことは、何かあるんでしょう」


 今さら、あの一機だけが何かしたところで何かが変るとは思えない。

 その思いは〈オロロ〉も〈すね毛〉と同じだろう。

 だが、どうせ負ける死ぬなら・・・


 「・・・視野の広いことで」


 「スナイパーですから」











 テナガサル門番は突破した。


 あの狙撃によって、狂鞭は弾かれ、次の一撃が来る前にテナガサルの攻撃範囲から脱することに成功したのだ。


 他プレイヤーからの援護は期待できない。

 そう〈ジーク〉は言っていたが、そうでもなかった。


 そういえば確かあの機体って〈ジーク〉がサルに向った時、一番最初に話しかけに行ってた人じゃなかったか?

 ほとんどのプレイヤーが倒れたサルか、〈ゴリバス〉を放とうとしているゴリラに注目している中、もう一匹のサルと俺に気づき、サルの腕を狙い撃った・・・。


 「スッゲェ・・・マジもんのスナイパーじゃん・・・」


 後でお礼を言いに行けるかな?・・・いや、その前にこっちを成功させなきゃか。


 俺はすでに目的地に到達している。


 ゴリラの正面。

 プレイヤー達の一番前。

 〈ゴリバス〉が放たれた時、最初に焼かれる位置。


 「さぁて・・・!後は、がボスだけ例外、とかじゃないことを祈るだけだな」


 〈バスター・ゴリラ〉の左腕の光が強まり、ゆっくりと持ち上がっていく。

 

 〈スケルトン〉はその銃口に向って真っ直ぐ進む。

 

 〈バスター・ゴリラ〉の左腕巨砲が水平になった。

 

 「オオ・・・・・・、」


 発射は秒読み。

 自分を殺すための銃口を真っ正面から見て、内から恐怖が沸いてくる。


 「オォォォォォォォォォォ・・・・・・!!!」

 

 雄叫びを上げながら、進む。

 

 ビビるな!


 光。

 

 「オォォォォォ!!!〈リアクティブ・クリア・ミラー〉起動ぉぉぉ!!!!!」


 〈バスター・ゴリラ〉の最大が放たれるその瞬間。

 叫ぶ様に、条件付きで発動可能なスキル、超必殺ウルトスキルを起動する。


 まず、超必殺ウルトを起動した〈スケルトン〉の外装が

 硝子の外装がフレームから数センチだけ離れ、滞留。

 滞留した硝子の外装が光り輝き、すぐに光は収束する。

 すると、まるで硝子の様だったクリアの外装は鏡の様な表面に変っていた。


 〈ゴリバス最大〉が発射された。

 

 〈スケルトン〉が光に呑まれる。

 

 しかし、死な消滅しない。


 鏡の外装が光の奔流を吸収している。


 パキッ!と軽い音を発てて、外装にヒビが入る。


 まるで、正面から滝に打たれているみたいだった。

 身体が後方にブッ飛ばされない様に、必死にバーニアを噴かす。


 パキキキキッ!


 もうすぐ硝子の装甲は砕け散る。

 〈ゴリバス〉の照射中にこの外装が砕け散れば、さすがにゲームオーバーだ。

 装甲が砕け散る前に〈ゴリバス〉の照射は終わるのか・・・?

 


 「オオォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!」

 


 正面から来る光の奔流に抗う。

 抗う。

 抗う。

 抜けた!!

 

 バキィィィィィィンンン!!!

 

 光の奔流を抜けた瞬間、甲高い音を発てて硝子の装甲は砕け散り、破片から無数の光が飛ぶ。

 光は一つの束にまとまると、膨れあがり〈バスター・ゴリラ〉へと一直線に返っていく。


 ガッッッッッッドォォォォォォォォォォオォォォ!!!!!!!


 〈バスター・ゴリラ〉の左腕の巨砲が抉れて消し飛び、胴体から爆炎が吹き出す。


 ゴァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!


 ドォォォォンンン!!!


 と〈バスター・ゴリラ〉は苦悶の叫び声を上げながら地面にひっくり返る。

 


 超必殺ウルトスキル〈リアクティブ・クリア・ミラー〉

 発動に条件が付く代わりに強力な効果を持つ超必殺ウルトスキル。

 〈リアクティブ・クリア・ミラー〉の効果は、ビーム攻撃限定の

 使用条件は、

 スキル欄に〈リアクティブ・アーマー〉と〈装甲パージ〉をセットしていること。

 敵の攻撃がビーム系統であること。

 自機のクリア外装が99%以上残っていること。

 セットしているスキル全てにリキャストタイムが生じていないこと(全スキル使用可能状態であること)。

 の4つ。

 

 要は全快状態の時のみ、ビーム攻撃を一度だけ全反射できるのだ。

 一度でも被弾したら使えなくなるくせに、いつ使うんだよ!と叫びたくなる様な仕様。

 この一歩間違えれば産廃確定の様はまさしく、超必殺ウルトに相応しい浪漫を感じる。

 

 そして、これだけではない。

 〈リアクティブ・クリア・ミラー〉を使用すると強制的に〈リアクティブ・アーマー〉と〈装甲パージ〉が発動する。



 それはつまり、機動力特化機体〈スケルトン〉の最高速度の実現を意味する。



 「〈ハイ・マニューバ〉!!!!」


 外装がなくなり、内部フレームだけの文字通りスケルトン剥きだしの骨となった俺は、今までにない、早さでトップスピードへ加速、突進する。


 パッシブで発動している〈特注ブースター〉に加えて、〈リアクティブ・アーマー〉と〈装甲パージ〉の全開方+〈ハイ・マニューバ〉、機動力を限界まで引き上げる。


 〈バスター・ゴリラ〉の腹は〈リアクティブ・クリア・ミラー〉によって〈ゴリバス〉を反射され、大きく抉れているのが見えた。


 「〈ブレード〉展開!!〈一刀入魂〉!!!」


 右腕部のエネルギーブレードとスキルを展開。


  〈ハイ・マニューバ〉は限界まで加速して、効果が切れるまでは止まれないスキル。

 〈一刀入魂〉は近接攻撃の威力が一撃だけ上がるスキル。


 〈スケルトン〉全スキルブッパの一撃。


 「もう十分暴れただろ!!!そろそろ消えなぁぁ!!!!」


 〈バスター・ゴリラ〉に刃を入れて、加速のままに駆け抜ける。

 一斬。


 倒れた〈バスター・ゴリラ〉の左脇腹から、右肩にかけて線が走る。

 

 右肩を抜け、〈スケルトン〉がそのまま地面にも線を引きながら着地、制止する。


 ドォオォォォォォッォォオッォォオォォォォォオォォォォ!!!!!!!!


 振り返ると、〈バスター・ゴリラ〉にのいた場所は爆炎に包まれ、レイドボス〈自律強襲砲機獣じりつきょうしゅうほうきじゅう轟型ごうがた〉は跡形もなく砕け散った。



 眼前に映し出された『レイド討伐・完了クリア』の文字と共に生き残ったプレイヤー達から歓声が上がる。 

 


 「ミッション・コンプリートだ。」



 こうして、白い女ギャングと〈スケルトン〉は『バーチャル・プラモデル・オンライン』に鮮烈なデビューを果たしたのだった。


 


 

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