巨砲轟突

 「クソっ!!どうしろってんだよこんなの!?」


 「サルから倒さないとまともにゴリラとやれねえって!!」


 「逆だろ!!ガンガン人数減ってんだから、ゴリラに集中しないと倒せなくなるぞ!!」


 「このサル共の攻撃避けながらゴリラと戦えってか!?無理に決まってんだろうが!!!」


 「討伐目標はあくまでゴリラの方だ!!サルじゃない!ゴリラさえ倒せば、勝ちなんだ!!」


 「サルのせいでゴリラとまともに戦えねえって話してんだよ!!!」


 「サル共倒しても新しくリスポーンするかもしれないだろ!!その場合結局ゴリラに集中するしかないんだから、ゴリラだろ!!」


 戦場は混沌を極めていた。

 プレイヤー同士の連携など全くできていない。

 各々が好き勝手に動き、少しずつ敵機にダメージを与えていくが、それはダメージが分散されているだけに過ぎない。

 〈レイドボス〉はプレイヤー達が協力して、やっと倒せる様にデザインされたボス。

 それでも、数がいればどうにかなったかもしれない。

 最初の時点で、全戦力を向けていれば、力押しも通じた。

 失策だったのは、〈ゲーム内プラモ〉を使う者達が〈リアルプラモ〉のプレイヤーを後続にしたこと。

 結果的にテナガサルイレギュラーの登場で経験豊富な古参のプレイヤーは早期に退場し、ほとんどが新規プレイヤーの残り半数が残った。


 新規プレイヤーである〈オロロ〉と〈すね毛〉も薄々と諦め始めていた。

 二人は他のプレイヤー達が戦っている後方で、援護射撃を担当している。


 スキャンした〈リアルプラモ〉の装備が長距離狙撃銃と背部にマウントされた大型キャノンだったので自ら援護射撃に回っていたのだ。

 前に出るタイプの機体ではないし、二人ともリアルで車の免許を取得していることから、運転型の操縦方法を選択していた。

 感覚としてはコックピットに座ってボタンを押しているだけなので、落ちついて駄弁っている。


 「これは…ダメかしらね…。」


 「なーんか、古参の奴等も鼻についたけど、新規っぽい奴等も口喧嘩始めたしな。」


 「さすがの治安よねー。やっぱりこのゲーム、穏やかにプレイするには向いてないのかしら。」


 「親切な奴もいたろ?〈荒野〉で話したプレイヤーとかさ?」


 「まあ、あの人に情報貰ったうえで参加したからね…、あのエテ公共のことは聞いてないけど、どうやらイレギュラーっぽいし…。」


 「ん?あの後方から飛んで来る機体、あの〈荒野〉であった人じゃないか?」


 「あら、本当ね?こっちに来るわ。」


 〈オロロ〉と〈すね毛〉は正直、あの親切なプレイヤーの名前を覚えていない。

 自己紹介はお互いにしたが、フレンド登録をしたわけでもないし、もう会わない公算の方が高いと思っていたからだ。

 いわば、通りすがりに道を聞いただけに近い。

 だから、あちらも自分達のことなど覚えていないと思っていたのだ。



 「〈オロロ〉さんと〈すね毛〉さんでしたよね!?ちょっと協力してくれませんか?」


 「あ、ああ…!えーっと?」


 「あ、〈ジーク〉です!〈荒野〉エリアで話した!」


 〈ジーク〉と名乗ったプレイヤーはこちらを覚えていた。

 二人は名前を忘れていてバツが悪かったが、大して気にした様子もなく察して、名前を教えてくれる。

 

 「失礼しました、〈ジーク〉さん。それで、協力とは?」


 狼狽えた〈すね毛〉を見かねて、〈オロロ〉が聞き返す。

 さも自分は覚えてました、と言わんばかりの態度だが、今までしっかり忘れていた。


 「あのサルをどうにかして引きつけたいんです。僕が前衛で出ますから援護をお願いしたくて。」


 「あ、〈ジーク〉さんもサルから倒したい感じですか?」


 「そうですね…、ゴリラを倒さない限り無限沸きリスポーンするかもですけど、一体でも処理できれば、格段に戦いやすくなりますし、処理できるかの確認ができるだけで、他の人達の行動もある程度、揃うはずですから。」


 〈オロロ〉も〈ジーク〉と同じ方針で先程からエテ公共を中心に狙撃していた。


 「…引きつけるって言うのは?倒すんじゃなくて?」

 

 逆に〈すね毛〉はゴリラに集中して砲撃をしていた。

 だから〈ジーク〉の目的が撃破よりも注意を引くことを優先していると気づく。

 

 「〈バスターゴリラ〉の方には別の人が仕掛けます。サルとゴリラのどちらを先に倒すにしても、まずは引き離して分断しないと、各個撃破は無理だと思います。」


 確かに、この戦況だと各個撃破は難しい。

 それは二人も感じていたことだった。

 サルは二匹でゴリラをガードしているし、サルを狙って隙のできたプレイヤーを逃すゴリラじゃない。

 あの類人猿共はプレイヤー達よりよっぽど連携している。


 「全員じゃなくて良いんです。ある程度まとまって攻撃しないとヘイトが分散して気も引けないので…、前に出てるプレイヤーにも声を掛けながら行きますんで、僕が相手をしている方のサルに攻撃してほしいんです。」


 「…了解しました。どっちにしろこのままじゃ敗色濃厚ですし、〈荒野〉で〈レイドボス〉のことを教えてくれたのもあなたですし。」


 「…ゴリラに砲撃するのも無駄玉撃ってる気がしてたしな…俺も了解だ。」


 〈オロロ〉と〈すね毛〉はパーティ申請を送り、〈ジーク〉もそれを受領する。

 後方から支援をする二人が〈ジーク〉を見失わない様にするためだ。

 

 「助かります。僕の〈ジード・フリート〉の火力だけじゃどうにもならないので…。それでは、よろしくお願いします。」


 そう言って、〈ジード・フリート〉は最前線へと飛び立った。


 「…良い人もいたわね…。」


 「…だな。」




 



 「このサルをゴリラから引き離します!!協力頼みます!!」


 〈ジーク〉はサルの一匹に接近しながら回避優先の立ち回りでヘイトを稼ぎつつ、周りのプレイヤーに声かける。

 

 目論見は概ね成功している。

 このサルはゴリラから距離を取りつつある。

 心なしか、ゴリラにやられて被弾するプレイヤーも減った。


 周りのプレイヤー全てが協力していくれてるわけではないが、〈ジーク〉と共に引き離そうと動いてくれたプレイヤーが一人増えると、それに押されて、少しずつ協力者が増えていく。

 

 ありがたい、集団心理というやつだろうか…?なんて考えながらも、やはりどうしても、目に付いてしまうのが〈リアルプラモ〉の性能。


 例えば、〈オロロ〉と〈すね毛〉の援護射撃。

 〈オロロ〉の機体〈チェイサー・ドロウ〉は狙撃スナイパーで遠隔から、的確にサルの頭や関節を狙い、ヘイトが他所に行くのを防いでくれている。

 驚くべきは、その狙撃位置が先程、話した場所から変っていないこと。

 

 …この距離でここまで正確な狙撃は、〈ゲーム内機体〉では実現不可能だ…。

 

 これは単なる性能か?それともスキルによるものか?


 〈すね毛〉の砲撃も同じだ。

 さすがに〈すね毛〉の機体〈大剛毛だいごうもう〉は移動しているが、それでも遠い。

 それでいて、威力はしっかり出ている。


 周りの機体も同様だ。

 〈リアルプラモ〉は実用性の乏しい〈ロマン機体〉ではなく、ちゃんと〈一芸に秀でた機体〉としてブラッシュアップされている。


 もう〈ゲーム内機体〉では…、総合性能とバランスだけで勝てるゲームでは無くなったことを痛感せざるを得ない。


 いよいよ〈ジード・フリート〉はプレイヤーを同じ方向に向かせるための拡声器と攻撃の目印マーカーとしての役割しか無くなっていた。

 要は誘引装置だ。

 

 1on1トーナメント大会ベスト8ナンバー・エイトのゲーマーである自分が、この体たらく。

 本当に時代の変化アップデートとは恐ろしい。


 だが、オンラインのゲームでアップデートは良くあることだ。

 そもそもがプラモゲーとして発売されたゲーム。

 なら、これは本来あるべき姿だったのかもしれない。

 

 〈ジード〉を愛機として使って、今まで勝ってきた自分としては、やるせない気持ちもあるが、こればかりは自然の摂理の様なモノで、受け入れるしかない。

 誰が言い始めたのか知らないが、〈環境〉とはよく言ったモノだ。


 しかし、それにしたって…、

 思い浮かぶのは、硝子の装甲に身を包んだ鋼の機体。

 その胸部に居座る白い女ギャングの笑み。

 

 「彼女のは、やり過ぎじゃないか…?」

 

 思わず、声に出てしまう。


 ドッオオオオオオオオ!!!


 「ギャィィィィィィィィィィ!!!!」


 突然、サルの背中に特大の爆炎が立ち上り、叫ぶ。

 今の砲撃は、〈大剛毛〉か…?

 

 周囲のプレイヤー達が沸き立つ。


 「良いのが入ったぁ!!」

 

 「動きが止まったぞ!チャンスだ!!」

 

 「畳みかけろ!!」


 厄介なサルの一匹を落とせる。

 ゴリラを攻撃していたプレイヤーでさえ、膝を着いたサルへ一瞬、意識を向ける。

 

 一早く気づけたのは、彼女の狙いを事前に聞いていたおかげに過ぎない。

 

 「下がれぇ!!!〈バスターゴリラ〉の動きが止まった!!〈ゴリバス〉だ!!!」


 プレイヤーが満身創痍のサルに集まり始めている。


 全てを消すゴリラの〈最大〉


 その左腕が光輝き、プレイヤー達へ向けられる


 その時


 硝子鋼の骨が走る。

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