巨砲轟破
「〈バスターゴリラ〉?」
「正式名称は・・・確か、〈
バスターってのはあの左腕の大砲から来てるのかな?
名前からしても、本領はあの左腕の砲撃なんだろうし・・・。
「〈レイドボス〉の中でもかなり嫌われてる部類の奴でね…かなり動くし、攻撃は多彩だしで…」
ジークの〈バスターゴリラ〉について説明をまとめるとこんな感じだった。
何がヤバいってゴリラというデザインがヤバい。
まず、パワフル。
さっきビルをぶん投げたことからもわかる通り、一発当っただけで普通に即死できる。
加えて、左手は大砲になっているが、右手は五指がしっかりあるため、投げる、掴む、振り回すといった拳以外の攻撃方法が多彩であること。
さらに、獣としてデザインされたが故の俊敏性。
決して早いという訳では無いが巨体にしては、かなりよく動く。
実際、ビルの残骸に飛び上がったりして、プレイヤー達の集中砲火は長く続いていない。
そしてこれが一番ヤバいのだが、左腕から放たれるビーム大砲、通称〈ゴリバス〉は大出力で範囲が広く、これは運営がプレイヤーを完全に殺しに来ているとのこと。
多彩な攻撃・俊敏性・切り札、〈レイドボス〉であることを加味しても許されるかはギリギリな性能だ…。
ただでさえ、〈レイドボス〉は大人数での攻略を前提とするため、耐久値も多めに設定されているから、確実に戦闘が長引く。
ハッキリ言ってクソボスの類じゃないか?
「…無茶苦茶だな、そんなのどうやって倒すんだ?」
「〈ゴリバス〉を撃つ直前と撃った後に硬直があるから、そこで集中攻撃する感じ。今、戦闘しているのはヒット&アウェイが得意な人達で、多分どっかに砲撃とかアタッカー役の人達が気を伺っているはずだよ。」
「なあ、あれは?」
「あれ?」
俺が指さしたのは、先程ゴリラがぶん投げた、〈廃都〉で一番デカいビルがあった場所の上空。
そこに、如何にもワームホールっぽい穴が空いている。
そこから、長い腕がニュッと生えたかと思ったら、ゴリラより一回り小さいテナガサルが落ちてきた。
それも二匹。
テナガサルは、ゴリラと違い完全な機械って感じではなく、大きさと腕以外は普通のサルだ。
その、銀色の腕を鞭の様に振り回し、辺りをなぎ払っていく。
「え?何あれ?知らない…。」
「おい、あれ、まずくないか?」
ゴリラの左腕が光だし、動きが止まった。
「〈ゴリバス〉が来るぞ!!攻撃いけるか!?」
「無理!無理、無理、無理!!サルに追いかけ回されてる!!」
「何あのサル!?ゴリラに随伴機ついたら勝ち目ないだろ!!」
「つーか、あのサル見たことねえぞ!?新種か!?アプデで〈レイドボス〉にもアッパー入ったのかよ!!」
「とりあえず、逃げろぉ!!サルもヤバいが〈ゴリバス〉はカスッただけでも即死だぞ!!」
「〈ゴリバス〉しのげたら、サルから処理するしかねえけど…!ゴリラ討伐までにどれだけ生き残れるか…!」
「来るぞぉ!!!」
〈
狙いは付けていない、何となく
音は無い。
猛烈な光で、視界が一瞬だけ白く染まると、射線にあった全てが消える。
抉れた地面から煙が上がっている。
遅れて烈風が辺りに巻き起こるが、自身に影響は無い。
重要なのは、どれだけ対象を殲滅できたかだ。
まだ、消さなければならない喧噪は…ある。
自身の〈最大〉からも煙が上がっている。
もう一度、〈最大〉を使うには時間がいることを理解。
以前の交戦データから、この瞬間に甚大なダメージを伴う攻撃が来るはずだが、此度はそれが無い。
一機での出撃ではないからだ。
勝率の大きな向上。
新しいデータ。
戦術や戦略の重要性。
様々な数字が駆け巡り、己に課された
殲滅。
ただそれだけが、己の使命。
「…危っぶねぇ…!」
俺の〈スケルトン〉と、ジークの〈ジード・フリート〉は〈ゴリバス〉の射撃動作が見えた瞬間、ゴリラの正面から全力で移動した。
距離を取っていたこともあり、危なげなく〈ゴリバス〉の射線から逃げられたのだが、その威力に唖然としてしまう。
〈バスターゴリラ〉の正面はほぼ更地だ。
あまりの高熱だったのか、地面は抉れて溶け、煙が上がっている。
「まずい…あのサルのせいで、反撃がほとんどできてない…。」
ジークの声色が厳しい。
見てみると、確かに〈バスターゴリラ〉の方にはほとんど攻撃が向いていない。
というより…、
「前線張っていた連中が明らかに減った感じだな…。」
先程まで主に前に出て戦っていた奴等、が見えない。
たぶん〈ゲーム内機体〉が多かったから、古参プレイヤー達だろう。
「…恐らく、〈リアルプラモ〉で来てるプレイヤー達を後方に誘導して、〈ゲーム内機体〉の古参プレイヤー達が前に出てたんだろうね…。新規プレイヤーを守りたかったのか、ボス戦で、〈リアルプラモ〉を目立たせたく無かったのか…わからないけど…。」
「なら、そろそろ後方に控えていた〈リアルプラモ〉の連中が出て来るんじゃないか?」
体感だがアップデートによって〈リアルプラモ〉の性能は〈ゲーム内機体〉を越えられる様になったと思う。
もちろん、プラモの完成度とか、セットされているスキルにもよるだろうから、必ずしも〈ゲーム内機体〉を越える性能が出せるわけじゃないのだろうが、全く戦えない性能からは脱却できているはずだ。
「そうだね…、古参プレイヤーの中にも〈リアルプラモ〉で来てる人はいるだろうし、新規プレイヤーを率いて、前線の援護に向う頃だろうけど…。」
「けど?」
「…あの二匹のサルはたぶん、今回のアップデートで追加されたエネミーだ。…サイレントで。」
サイレント…って前情報無しってこと?
「つまり…どう対応するか戸惑ってる?」
「サルを優先して叩くのか、ゴリラに集中するべきなのか、両方に戦力を向けた方が良いのか…、前線が完全に崩壊してるのに援護砲撃の一つも無いって事は意見が割れてるのかもしれない…。」
もしくは前線を捨て駒にして、サルのモーションを観察してるとかかな?
どちらにしても、沈黙は長く無いだろう。
なぜなら…、
ドドッオオ!!!
「ギギャァァァァァァ!!!!!」
どこから撃ったのか、サルの背中に砲撃が命中する。
それを契機にそこかしこから、〈リアルプラモ〉と思われるロボット達が飛び出して、テナガサルとゴリラに襲いかかる。
だが、予想通り狙いはバラバラ。
目に付いた方、攻撃が当りそうな方に銃口を向けてる感じだ。
「なんだ?均等に戦力を切り分けたのか?」
「いや、たぶん違う。新規プレイヤー達がしびれを切らしたんだ。」
「なんだって?」
だって新規プレイヤーだろ?
ゲームを始めたばかりで、どっかのチームに所属していない奴なら、好き勝手に動いて当然だ。
今まで集団の近くに集まって集団っぽく振る舞っていたのは、なんとなく、その方が上手く行きそうだから、という理由以外無い。
実際、攻略経験のある奴が近くにいた方が確実だしな。
「古参勢が狼狽たのか、はたまた口論でもしたのか、その姿を見た新規プレイヤー達は自分の
俺も新規プレイヤーだから気持ちは良くわかる。
何か後方に配置されたと思ったら、前線が崩壊して、いよいよ出番かと思ったら、「ちょっと待って」と止められる。
まあ、飛び出すわな。
「!…でも、それじゃ…!」
「そうだな、前に出た奴等は全滅する公算が高い。」
戦いに加わったプレイヤーの中には、かなり性能の高そうな機体もいて、善戦してはいるが、ほとんどのプレイヤーはサルに行くか、それともゴリラに行くかと目移りしているうちに被弾して、順調に数が減ってきている。
「…僕も前線に行くよ。」
「戦力が残っている内に突っ込みたいのはわかるけど、何か考えはあるのか?」
「…今見えた機体達の中に〈荒野〉で話した新規プレイヤーが何人かいた。僕は〈荒野〉で〈レイドボス〉の情報を彼らに教えて回っていたから、もしかしたら即興の小隊くらいは作れるかもしれない。」
「…派手なナンパしてんな…、あんまり感心しないぞ?」
「ナンパじゃないよ!?…君に声を掛けたのだって遠距離武器を持って無かったから、危ないと思って…。」
「…お節介とか余計なお世話って言われたことは?」
「…それでも、好きなゲームを第一印象だけでクソゲー扱いされるのは嫌でね…。」
加勢に行くのは勝ち目が無くなるからじゃなくて、新規プレイヤー達のためか。
理不尽なボス。
先住プレイヤー達の指図。
この〈レイドボス〉戦がこのまま終わったら、新規プレイヤー達は「やっぱり〈バープラ〉はクソゲー」と考えるかもしれない。
こいつはそれが嫌なんだな。
ただでさえ、今回のアップデートで評価が一転するかもしれないのだし。
「…小隊が作れたなら、サル共を引きつけてくれないか?」
「…?もちろん、先にゴリラの護衛をしている二匹から落とすつもりだけど…?」
「試したいことがあるんだ。上手くいけば、あのクソゴリラに一泡吹かせられるかもしれない。」
〈スケルトン〉の〈とっておき〉を試すならあのゴリラはちょうど良い。
今は姿が〈スケルトン〉だから表情は伝わらないだろうが、俺はニヤリと笑った。
ふと、自分の胸部。
コックピットを見ると、白い女ギャングもニヤリと笑っている。
…無駄に細けえな…。
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