巨砲轟打

 「何なんだ?」


 〈廃都〉に入ってすぐに異変を感じた。

 まず、お目当ての野良エネミーを一匹も見かけない。


 そして、そこかしこに集まっているプレイヤー。

 〈荒野〉エリアでもそこそこ見かけたが、ここはその比じゃない。

 〈セントラルタウン〉近辺のエリアで一番プレイヤーが集まっているんじゃないかと思うほどだ。


 「もしかして何かのイベントでもあるのか?」


 現在地はそこそこ高いビルの屋上。

 その下に見える大きめの道路に30人位のプレイヤーが集まっている。

 道中、確認した限り、大きめの道路はどこも似たような感じだった。

 ちらほら、ビルに登っているプレイヤーもいるが、ほとんどは下の道路に仲間がいる感じで、つまりソロプレイヤーじゃない。

 

 野良エネミーはこいつらが一掃してしまったのだろうか?

 だとしたら、他のプレイヤーのことも考えろと言いたいが、なら、なんでまだこのエリアに留まっている?

 深夜のコンビニに群がるヤンキーみたく駄弁ってるのか?

 だとしたら、マジで通報もんだが・・・。

 ・・・たまにビルの屋上に上ってくる奴の様子を見るに何かを探している?待ってる感じか?


 「うー・・・ん・・・。」


 どうしよう。

 野次馬根性で、しばらく俺も待機するか?

 何かのイベントだとして・・・、何時から始まるのかわからんし、野良エネミー暇つぶしもいない。

 〈セントラルタウン〉に戻るなり、別のエリアに行くなりした方が有意義かもしれない。

 ただ・・・、


 「気になるよなぁ・・・」


 仮に、ここを去ったとして、俺は後でこのエリアで何があったのか調べるだろう。

 その時、「あー!やっぱ残れば良かったー!!」とか、後悔するのはごめんだ。


 ・・・いっそ聞いてみるか?

 いやぁ・・・、聞きに行くと言うことは、自分も聞かれるということだ。

 ただでさえ奴等も暇を持て余している様だし、新規プレイヤーがこんな奇抜な機体で降りていったら、暇つぶしに絡んで来る奴が絶対出て来る。

 フレンド登録なんて、せがまれたら面倒なんてもんじゃない。



 「・・・10分くらい待ってみるか。」


 とりあえず、そう結論づける。

 メニューウインドウでも弄ってるか・・・、と思った時、


 「やっと、追いついた!!えーと・・・〈スケルトン〉っていう機体の君!」


 げっ!まだ、追いかけて来てたのかよ!!

 着地音に振り返ると〈荒野〉エリアで声を掛けてきて、〈廃都〉の入り口で撒いたと思っていた〈ジード〉だ。

 

 考えたくは無かったが、ここまでしつこく付きまとって来ると、もう確定だろう。

〈スケルトン〉は、普通のロボットと違ってコックピット内のアバターが外から見える。

 そして、俺はギャングとはいえ、女のアバターを使用している。

 つまり、ナンパだ。

 無粋だなぁ・・・。

 ネットゲームに出会いを求めるなよ・・・。

 

 「初めまして、僕はジーク。すごい機動力だったけど、目立つ機体で助かったよ。」


 俺は助かってない。

 逃げ切れないことは無いと思うけど、この距離まで接近されて、しかも相手はライフル飛び道具を持っている。

 PvPも未経験だし、揉め事になったら旗色が悪い。


 〈バープラ〉にHPという概念は無い。

 四肢が全て欠損しても機体の性能や制御に大きな影響は出るが、大破したことにはならない。

 核の部分、つまりコックピットだったり制御系に致命的な損傷を与えて、敵機を撃破する仕様なのだ。

 何が言いたいかというと、このゲーム、当たり所が悪ければ一発で死ぬ。

 特に俺は今、一体型で〈スケルトン〉を操作しているから、コックピット(丸見え)のある胸部に加えて、頭も一発貰ったら即死だ。


 正直、相手にしたくないが、ここはなるべく穏便に・・・。

 

 ゴゴッッッォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッ!!!!!

 

 突然の爆音と烈風。

 衝撃が周囲を駆け抜けたと共に、足場の感覚が消える。

 

 今の衝撃でビルが真ん中から折れ、屋上から投げ出されたのだ。

 

 「おおっ!!〈ブース・・・!!」


 慌ててバーニアを吹かし、落下に抗おうとするが、視界に飛び込んできた光景に言葉が詰まる。

 落下しながら、衝撃の震源地を見る。

 

 

 ゴリラ。

 デカいゴリラだ。

 左腕が巨大な大砲になっている。

 その身体は銀色に輝き、生物的な構造のはずなのに確実に生物じゃないとわかる。

 ゴリラは〈廃都〉の中心に聳え立つ一番大きなビル、自身の10倍はあろうかという大きさのビルを持ち上げていた。

 なんのために?

 決まっている。


 「〈ハイ・マニューバ〉ぁぁ!!!!!」

 

 ゴリラに背を向けて、〈ハイ・マニューバ〉を起動。

 全力で距離を取りにかかる。

 ゴリラは槍投げでもするかの様に、振りかぶり・・・

 ビルを真っ直ぐこちらに

 投げた。


 「おぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 〈ハイ・マニューバ〉で一直線に加速しだすと、導線にさっきのナンパ男の〈ジード〉(確かジークだったか?)が俺と同じ様に逃げようと飛んでいたので、勢いはそのまま、足を捕んで、攫う。

 

 その速度じゃ、たぶん逃げ切れない。


 「うわぁぁ!!!!」


 急な加速で、悲鳴を上げているが構ってられん。

 俺に話しかけに来て死なれたら寝覚めが悪いし、あのゴリラについても情報が欲しい。

 悪いが、一緒に来てもらう。


 俺はそのまま、弾丸の様にカッ飛ぶ。

 背後でドゴシャッァァァァァァァァ!!!!

 と、爆音がすると同時に粉塵と突風が巻き起こる。

 一瞬、粉塵にのまれたが、すぐに抜け出す。


 「〈スケルトン〉!!距離は十分だ!止まってくれ!あいつがいる間は〈廃都〉からは出れないんだ!!」


 「なにぃ!?」


 出れない?

 明らかにボスなのはわかるけど、逃走不可かよ!!


 しかも、そろそろ〈ハイ・マニューバ〉が切れる。

 〈スケルトン〉のバーニアはまた20秒間使用不能だ。


 「・・・離すぞ!着地は自分でしてくれ!」


 「ちょ!待っ、あ・・・!!」


 そう言って〈ジード〉の足から手を離す。

 思ったよりも、加速しすぎてる。

 後方に〈ジード〉が流れて行くが、気にしていられない。

 自分の着地に集中しなければ、最悪クラッシュだ。


 バーニアが止まり、慣性に従って進みながら、ゆっくりと地面が近づいて来る。

 体勢を整えて・・・接地!

 ギッガァァァァァァァァァァァァ・・・・・・・・・・・・!!!!!!!!


 かかとがアスファルトを削るが、それでも勢いが止まらない。

 

 「〈ブレード〉!!」


 右腕部からエネルギーブレードを展開して、道路に突き刺す。

 アスファルトに踵とブレードで三つの線を引きながら、なんとか停止する。


 「・・・・・・ふぅぅぅぅぅ・・・。」


 ・・・着地、できたぁ・・・。

 学校行事で行ったスキーの経験が役に立った。

 ストックの使い方間違ってるけど・・・。


 〈ハイ・マニューバ〉の稼働時間はバーニアに熱が溜まっているほど短くなる。

 例えば、直前まで、ぶっ通しで〈ブースト〉を噴かしてから、〈ハイ・マニューバ〉を起動すると、その熱の分だけ〈ハイ・マニューバ〉は早く終わるのだ。

 今回はビルに止まっていて、バーニアに熱が全く溜まっていない状態だったから〈ハイ・マニューバ〉で出せる最高速度だったろう。

 

 〈スケルトン〉が着地したのは、先程、プレイヤー達が集まっていた様な大きめの道路。

 あのゴリラはここからでも暴れているのがよく見える。

 恐らくプレイヤー達の攻撃であろう轟音も聞こえる。

 どうやら、あのゴリラを討伐するためにプレイヤー達は集まっていた様だ。

 

 ・・・一番近くにいたからか、それとも屋上にいて目に付いたのか、あのゴリラは明らかに俺に向ってビルをぶん投げてきた。

 そもそも、どうやって現れたのかもわからない。


 「おーい!〈スケルトン〉!!」


 先程の〈ジード〉がこちらに近づいて来る。

 どうやら、あちらも無事に着陸できたようだ。


 まずは、あのゴリラについて聞きだそう。

 〈廃都〉からは出れないらしいし、〈ハイ・マニューバ〉のせいで、しばらくまともに動けないしな。

 

 

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