24話「少女よ。服を脱ぎたまえ」
俺達以外の謎の声が耳元で木霊すると、それは教会内に居る全員に聞こえていたらしく、深月とブレンダは明らかに動揺していた。
しかしその中でも最も焦りの色を見せていたのはシスターであり、彼女は静かに呟くようにして「エルド王……そんなまさか……」と声を震わせていたのだ。
しかしそれでも呪いを払うという行為は続いていくとブレンダは徐に、事前に聖餐卓の上に置いて用意していた透明な水が容器一杯に満たされた小瓶を手に取り出した。
そして彼女は小瓶を手にした状態で深月へと視線を向けると、
「今からこの小瓶に注がれた聖水を全てミツキさんに浴びせますので服を脱いでください」
という驚愕の言葉を言い放つと同時に教会内の雰囲気がまた別の意味で変化した気がした。
「は? 脱げと? 裸になれと……?」
ブレンダから唐突に放たれた言葉に耳にして、相方は高速で何度も瞼を閉じたり開いたりしては困惑の反応を色濃く見せていた。
だが何を考えたのか深月は目を丸くさせた状態で俺の方へと顔を合わせてくると、それは恐らくこの女性は一体何を申しているのかという疑問と困惑の答えを求めてきたのだろう。
しかしそんな答えが齢15の俺に分かる訳もなく、
「深月! 男ならばやるしかあるまいっ!」
取り敢えずここはブレンダに全て任せておいた方がいいとして口を開く。
その際に親指を力強く上げて主張することも忘れてはいけない。
こうすることで多少なりとも相方の内側に蔓延る言い知れない不安を取り払うことが出来る筈なのだ。……多分恐らく可能性的にだけど。
けれど考えてみれば今の深月は女体化していて女子だということもあり、これは自分で口にしていて何だか混乱しそうになるが元々の性別が大事であろう。
「ふ、ふざけるな! 人前で脱ぐことなんて出来るか! 恥ずかしすぎて死ぬわ普通に!」
途端に相方は顔全体を赤く染め上げていくと怒鳴り散らしながら人差し指を向けてきた。
どうやらあくまでも怒りの矛先は俺のところにあるらしいが、
「いえ、服は脱いで頂きますが下着は別に大丈夫です」
ブレンダは業を煮やしたのか真面目な口調で補足を付け足していた。
確かに彼女は脱げと発言はしていたものの、全裸になれとは一度も口にしていない筈だ。
……つまり深月は勝手に話しを解釈して全裸になるという前提の考えを築いていたということか。だとしたら相方は意外とむっつりすけべな思考をしているのではないだろうか。
まあそのことを本人の前で言おうものなら殴られること必須だから言わないけど。
「そ、そういう問題じゃなーい!」
だがしかしブレンダから下着姿で大丈夫だと言われても、深月は未だに赤色の頬を見せながら駄々を捏ねている様子であった。
まるでその姿はおもちゃコーナーで癇癪を起こしている幼子にすら見えて仕方がない。
「早く脱げ深月。じゃないと呪いは消えんぞ」
相方の様子に僅かに苛立ちが込み上げてくると、多少強引だが強めの口調を使いつつ近付いて行く。このまま深月のわがままで時間だけが過ぎていくのは現実的ではないとし、更に俺だけではなくブレンダの貴重な時間すらも減らす事に繋がり結果迷惑を掛けることになるからだ。
「うっ、うぅぅ……」
すると相方は唸り声のようなものを出し始めて依然として抵抗を続ける意思を見せてきた。
「はぁ……しょうがないな。俺が脱がしてやるよ」
ため息を吐きつつもこれ以上ブレンダを待たせる訳にはいかないとして、指先の運動を兼ねて艶かしく動かして更に距離を縮める為に近づくと、深月の顔は一瞬にして赤面から青ざめた表情へと変貌していた。
「わ、わかったよ! 脱ぐ! 脱ぐからそれ以上は近づくな!」
まるで変質者を見るような視線を向けながら相方は声を荒らげて言うが、俺としては脱がせること自体については親切心も含んでいたのだが恐らくそれが伝わることはないだろう。
何故なら今の深月はただの変態を見るような、そんな冷たい視線と共に明らかに嫌悪の雰囲気を漂わせているからだ。だがそれでも相方が服を脱いでくれるのならば、喜んで変態という名の称号を受けると共に嫌われ役を演じるとする。
――――それから深月が聞き取れない程の声量で何かを呟きながらブレンダと俺が見守る中で服を脱ぎ始めると、そこでふと自分はこの光景を眺めていてもいいのだろうかと考えてしまうが、それと同時に相方が制服の上着を脱ごうとしてボタンに手を触れさせると途端に動きを止めていた。
「おい、さっきから何を見ている雄飛。僕は見てもいいなんて一度も言ってないぞ」
そう言いながら目を細めて変態を見るような視線を相変わらず浴びせてくる深月だが、やはり先程思案していた通りに脱ぐところを見ていては駄目なようである。
まあそれも至極当然のことではあるけどもな。
「あ、ああ悪い悪い」
取り敢えず謝罪の言葉を口にしておけば何でも許される風潮はある。
だけどそれでも俺としては同年代の女子の下着姿には普通に興味があり、故に深月から明確に尚且つ怒声で『見るな!』と言われるまでは視線を向け続けることにする。
「……チッ、さっさと回れ右して後ろ向いてろ! この変態筋肉野郎!」
だがそのあと直ぐに相方が両目を閉じながら握り拳を作り震わせると、明らかに怒りの色を孕んだ声で叫ぶようにして注意の音葉を吐き捨てていた。
「はいはい、わかったよ。そんなに怒らなくてもいいじゃないか」
そしてこれ以上の時間消費は流石に痛手だと思い、大人しく言われた通りに回れ右をして後ろを向く事にした。視線の先には大きな木製の扉が見える筈なのだが今は暗くて微かにしか見えない。
それから話しは多少変わるのだが、先程まで真剣な表情を見せていたシスターブレンダが、急に呆れたように両の眉を下げていた事が地味に気になるのだ。こちらとしては凄く真面目なことだと言うのに。
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