25話「怪奇現象の真の意味とは」
深月が服を脱ぐところを大人しく眺めていたらやはりそれは駄目ということで、当の本人から後ろを向いているように言われると俺としては指示に従うしか道はなく、教会の出入り口でもある扉に視線を向けながら相方が服を脱ぎ終えるのを待つこととなった。
しかし後ろを向く際にブレンダが見るからに呆れた表情を浮かべていたことが妙に気になるのだが、こちらとしてはかなり真面目なことであり深月の下着姿……いや同年代の薄着姿は普通に拝みたいのだ。
まあでも彼女は同じ女性であることから、そういうことに関しての理解は得られることはないだろうけども。だが恐らくこれがシスターではなく神父であれば、可能性としては無きにしも非ずだったかもだな。同じ男という性別ならば思考の理解は容易いということだ。
けれどそんな事を考えている間にも深月は服を脱いでいるようで、時折だが布が擦れる音が微かに聞こえてくる。しかもこの教会内は今や静けさに包まれている状態であり、そういう微かな音が響くだけでも一際まして目立つのだ。
つまりトイレとかの音を気にする性格の人が仮に深月と同じ立場ならば、確実に赤面は免れず羞恥心に耐えられることなく今頃は逃げ出している事だろう。しかし心配しなくとも相方は、そういうことに関しては気にしない性格の人間の筈だから大丈夫。まあ実際のところは知らんけど。
けれど改めて思うと静かな教会内で服を脱ぐという行為すら、なんとも冒涜に近いそれを感じてしまうのだが、それでも布が擦れる音が聞こえてくる度に背後では深月が段々と裸体に近付いているのかと想像してしまい、妙に興奮というか形容しがたい感情が込み上げてきて仕方がない。
「……だが忘れてはならないが、俺は決してホモではないということだ!」
そう力強く断言しようとしたのだが静かな教会内では反響すること確実だとして、肺から空気を抜くように小さな声量で静かに呟くと握り固めた拳だけがその場で震えていた。
だが事実そうで、これは言い訳なんぞというものではなく、今は相方が女体化しているからこそ、女子が服を脱ぐという純然たる行為に興奮しているのだ。ここで更に付け加えて言うのならば、今の深月はアニメキャラのような容姿をしているから尚更である。
それから色々と考え事をしている間に深月は服を脱ぎ終えたのか、
「はい、下着姿で大丈夫ですので恥ずかしがらずに堂々と立っていて下さいね」
シスターブレンダから間接的に相方が全ての衣類を脱いだことを知らされた。
「は、はい。……く、くぅぅぅっ! やっぱり想像以上に恥ずかしいぞこれ!」
またもや小動物のような唸り声が深月の方から聞こえてくると、どうやら羞恥心が限界突破したらしく恥じらいの篭る声が盛大に教会内に木霊していた。
そしてブレンダの言葉と今の相方の羞恥心にまみれた声色を聞くに、下着姿という事は既に確定している訳で、それはつまり限りなく裸体に近いということでもあり、俺としては……いやこれは男の感情として物凄く振り向いて女体を眺めたいところではある。
だがしかしそれをしてしまうと一時の幸せと引き換えに、確実に何かを失うことになり最悪の場合これから一人で冒険をすることになるだろう。
だから現実的なことを考慮して理性を保つことで今を耐え忍ぶことにする。
「あっ、本当に男の方だったんですね……」
今更ながらの言葉がブレンダの声で聞こえてくると、それは多分だが深月の下着姿を見て納得したことなのだろう。
「え、ええまあ……ははっ。ああ、もう本当に無理。恥ずかしい。いっそのこと僕を殺してくれ」
彼女の言葉に対して相方は未だに下着姿ということに羞恥心を抱いているようなのだが、段々と違う方向に精神状態が傾いているようで死すら懇願し始めている始末だ。
よほど下着姿というものが深月からしてみれば耐え難い事象なのだろう。
しかしあれで本当に元々の性別が男なのだろうか。
少しずつ怪しく見えてくる部分があるな。
まあそれでも相方と一緒に銭湯に入ったことがあるが、その時にはちゃんと息子が付いていたのを確認しているから間違いはないけど。
「それでは今から聖水を浴びせますので、その場から決して動かないようにお願いします」
深月に対して再度注意事項をブレンダが伝えていくと、いよいよ今から聖水ぶっかけという中々に難易度の高いプレイが行われるようである。
「は、はい! いつでもだ――」
何やら返事をしたあと別の言葉が途中まで聞こえた気がしたのだが、それよりも先に水を浴びせられる音が背後から聞こえてくると、深月の声は上書きされるようにして水音で消されたのだが、そのあとに短く『うっ』という苦悶とした鈍い声が発せられていた。
「ミツキさんの体を蝕むエルド王の呪いを払いたまえ! かの創世神アステラに仕える大天使トゥゲエル様の神秘をっ! 今ここにっ! パニッシュメント!」
そして彼女は相方に水を浴びせたあと何事も起きていないような態度で、そのまま詠唱のような言葉を述べていくと途中でアステラという名の不穏な言葉が紛れていたが気にしないことにした。
それからシスターブレンダが『パニッシュメント!』という、魔法の言葉のようなものを叫ぶと再び教会内に不可思議な現象が起き始めることとなった。
「なんだと!? ま、またなのかよ!?」
怪奇現象の再来により思わず声が喉から飛び出していくが、それも無理はないことだとして自分自身思う。何故なら風も靡いていないのに全てのカーテンが自然と揺らめいていたり、教会の四隅からは何かが這いずるような奇妙な音まで聞こえる始末だからだ。
まさにホラーノンフィクション映画の完成だと言わざる他ないこの現状なのだが、その怪奇現象の数々に遭遇したあと突然として蝋燭の火が音もなく一斉に消えると、教会は唯一の明かりを失い一瞬にして建物内全体が漆黒の闇へと包まれて、自分の足元すらも満足に見えない状況へと変貌するのであった。
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