14話「冒険者の証と初期投資」
受付へと並んで順番が来ると深月は慣れた手つきで冒険者登録を申請を頼み込むと、受付のお姉さんは事務的な口調と共に俺たちに人数分の紙とペンを渡してきた。
どうやらこの紙に自身の氏名を書けばいいらしいのだが、それよりも相方の手馴れた行動を目の当たりにすると唖然としてしまい手が動かないでいた。
「み、深月……お前もしかして二周目なのか!?」
そして堪えていたが等々驚愕の声が漏れ出てしまう。
そう、余りにも手馴れたその一連の動きを見て疑わずには居られなかったのだ。
これは確実に一度経験している者の動きだと。
でなければこんなにも流れるような軽やかな動作はできないはずだ。
「こんなの異世界物のラノベでは王道の展開だよ。だから二周目とか関係ない」
すると深月は紙に自分の名前を書きながら冷静な口振りで返してくる。
「そうなのか? まるでラノベってのは異世界の攻略本だな!」
相方の言葉を聞いて思いついた事を口にすると、自分の中ではそれなりに上手いことが言えたのではないだろうかと自画自賛してみたり。
「はぁ……。てかそんな事はいいから早く雄飛も書いてよ!」
ペンを走らせていた手を止めて顔を向けてくると、深月は書き終えたのか僅かに怒りを顕にしながら睨んできた。しかしその容姿で睨まれても可愛いもので特に威圧を感じることはない。
だが何か癪に障ることでも言ってしまったのだろうか。
うーん、思い当たる節は数あれど逆に分からない。
けれどこれ以上は怒られなくないので書くとする。
それからペンを握ると渡された紙の空欄部分に名前を書き込んでいくのだが、
「ふふっ、仲がいいんですね。お二人は恋人同士なんですか?」
唐突にも受付のお姉さんが屈託のない笑顔で大きな爆弾を投下してきた。
これは恐らく接客業故にコミュニケーションが大事という観点で本人に悪気というものは一切ないのだろう。だがそれが時に人を貶めることもあるのだと忘れないで欲しい。
しかし刹那の間にそれだけのことを思うとペンを動かす手が自然と止まるが、これは一体どう返すべきかと次に思案を繰り広げると、こういう時にこそ異世界知識博の深月の言葉を待つべきだとして視線を向けた。
すると相方は口を大きく開けて呆然としながら目が点となり軽い放心状態であった。
多分だが受付のお姉さんに言われた事が衝撃的過ぎて頭の処理が追いついていないのだろう。
だがこれであの知識博の深月でさえ駄目となると、ここはもう残された俺しか答える道は残されていないだろう。
「つ、付き合ってないですよ! ただの友達っす!」
脈打つ鼓動を抑えながら何とか否定することは出来たが、童貞の自分には些か付き合うという言葉を使うのは気恥しい限りである。こんな言葉生まれて初めて口にした気がするぐらいだ。
「あら、そうなんですか? ……あっ、あれですね! 最近流行りの友達以上、恋人未満というやつですね!」
何を考えているのか否定した筈なのに受付のお姉さんは、再度満面の笑みで燃料を補給して爆弾を投下してきた。しかも今度は小さく両手を叩いて妙に乗り気な様子でだ。
「は、はぁ……」
もはや俺には乾いた声しか出せない状況である。
だがそこで漸く深月は冷静な思考を取り戻すことに成功したのか、
「本当にただの友達ですから! 決してそういう関係ではな・い・で・す!」
受付のお姉さんに鬼気迫る表情を見せて言い切っていた。
「は、はい……」
そして受付のお姉さんは相方の気迫に押されたのか弱々しい声で返事をすると、その場に静寂の間が訪れたが俺たちは気にせずに氏名を書き終えた紙を彼女へと差し出した。
「そ、それでは冒険者の証を発行致しますので少々お待ちください!」
それから受付のお姉さんが紙を受け取ると、そう俺たちに言い残して後ろの方へと姿を消した。
これから事務的な手続きやら何やらがあるのだろう。
ということはまた暫く待つことになりそうだ。
「はぁ……この姿だとああいう誤解を生むことがあるのか。うーむ、美少女というのは難儀なものだ」
深月が溜息を吐きながら両腕を組んで険しい表情を浮かべて言うと、それは別に美少女は関係ないのではと一瞬思えたが敢えて言わないことにした。別に言ったところで何も変わらないしな。
だがそれはそれとして俺としては別で言いたいことがあるのだ。
「確かにお前は見た目は美少女だけど、その格好だといまいちな気がする。取り敢えず金稼いだら、この世界に合う服装をした方がいいかもな」
そう、深月は容姿は良いのだが現状が学生服でしかも男物なのだ。これは些かアンバランスと言う他なく、一部のマニアにしか受けないであろう。そして俺はそのマニアではないので一刻も早く似合う服を着せたいところだ。
無論だがそのことを相方に悟られてはいけない。もし気づかれようものなら『僕はお前の着せ替え人形ではないっ!』とか何とか言われそうだからな。けれどこれだけ容姿が最高ならば色んな姿を見たくなるのは一男として当然の感情ではないだろうか。
「そうだね。その方がこの世界の人たちに怪しまれないかも知れない。でも問題はどうやってお金を稼ぐかだね」
何やら深月は俺の言葉を真摯に捉えたらしく上手く噛み合うと自身の服装を見て頷いたあと、受付のカウンターに手を乗せてお姉さんが戻るのを待っているようであった。
しかし相方の言う通り冒険者登録を済ませても武器や防具がないことから、意気揚々とクエストを受けたとしても攻略することは不可能であろう。
それから俺達は初期投資をどうするべきかと金の稼ぎ肩を模索していると、
「お待たせ致しました。ミツキ様、ユウト様、こちらが冒険者の証となります」
受付のお姉さんが再び姿を現すと二つのカードを手渡してきた。
どうやらこれが冒険者の証と呼ばれる物らしいのだが見た目は名刺のそれに近いだろう。
だけど名前を書くだけで発行出来るとは流石は異世界だ。
日本ならば住所やら電話番号やらで身元を明かす物がないとまず不可能だしな。
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