15話「ステータスとスキルは冒険者にとって」
受付のお姉さんから無事に冒険者の証と呼ばれる名刺のような形をしたカードを受け取ると、俺としては証を発行する際の身分確認が緩すぎて驚いたのだが、まあなんとか目的を達する事が出来て満足である。
それから渡された冒険者の証を眺めていると、その名刺のようなカードの表面にはステータスやスキルという奇妙な項目欄があることに気が付いた。
だがそれを見て脳内に浮かび上がるは苦い思い出であり、某RPGでは経験値を貰うたびにスキルを獲得したりできる訳だが後半になるにつれて全然貰えなくなり、結局序盤で適当に選んだスキルが外れで後悔するというのが毎度のオチだ。
そのせいで大抵の場合はRPG系というかスキルゲーは二周目から本気を出すことになる。
「そのカードは冒険者の証と同時に一種の身分証明となりますので、くれぐれも紛失させないようにお願いします。再発行する際には別で料金が発生してしまいますので」
ふとそんな事を考えていると受付のお姉さんは俺と深月に視線を交互に向けながら言うと、どうやら冒険者の証を無くすとそれは日本でも同じで再発行は有料らしい。
しかしそれを言われると何だが懐かしい気分となる。多くの場合子供の頃に作ったカードは何処かで一度無くすから二度目で金を取られる事が多い。俺も市民プールのカードを一年事に紛失させて、毎年夏の時期に二百円取られていた思い出がある。
だけど今の俺はもうすぐで高校生となる年齢の男だ。受付のお姉さんに言われた通りに、しっかりとこの冒険者の証は制服のポケットに入れて大切に保管しておこう。
それに現状で無くしたら再発行する為の金がないからな。普通に詰むことになるだろう。
「「分かりました」」
意図せずとして同時に返事をする俺たち。
「それでは次に冒険者の証について詳しい説明を行います。まず最初に――」
そう言いながら受付のお姉さんは胸ポケットから一枚の冒険者の証を取り出すと、それを見せながらこのカードがどんな役割を持つのか、またはどんな事が出来るのかを事細かに話し始めた。
そしてそれを聞いていくとこの冒険者の証には個人の能力がそのまま反映されるらしく、新しく取得した魔法などが次々と記載されていくらしいのだ。だが俺たちが渡されたカードは白紙の状態であり、ステータスやスキル欄には何も書かれていなかった。
それから隣で深月が冒険者の証を見ながら不思議そうな顔をして首を傾げると、
「あのー? このカードには何も書かれていないんですけど?」
疑問の声を受付のお姉さんへと向けていた。
これは俺も気になっていた事だから聞いてくれたのは正直助かる。
「はい、問題ございません。あちらの魔道具にてカードをセットして頂き、手を水晶に翳しますと現状のステータスやスキルが反映されますので。初回は皆さん白紙の状態となっております」
受付のお姉さんは右手を横へと向けて魔道具やステータス反映やらと新たに説明をすると、それは要約すれば最初は全員同じ白紙だから気にするなということであろう。
さらに魔道具とやらに手を翳すことで初めて冒険者の証に情報が書き込まれるらしい。
そして深月の質問に答え終えた受付のお姉さんがカウンターから出てくると、
「今からあちらの魔道具についての説明を行いますので付いてきてください」
今度はステータスを反映させる為に必須の魔道具とやらの説明を始めるらしく歩みを進める。
恐らくこれはしっかりと聞いて一度で理解しないと今後に困るやつであろう。
「では魔道具の前へと、お立ちください」
受付のお姉さんの後ろを付いて歩くと急に振り返りざまに言われて驚くが言われた通りに魔道具の前へと立つ。どうやらその場の雰囲気的に俺が最初に行うようで相方は後ろで見学しているようだ。
それと正面を見れば魔道具とは言い得て妙で、見た目としては木製の置物に青色の水晶玉が乗せられていて、下に僅かな空間があるのだが明らかにカードを設置する場所だと思われる雰囲気を醸し出している。
「それでは最初に冒険者の証を水晶の下に置いて下さい」
「は、はい」
彼女に支持された通りに冒険者の証を水晶の下に置くのだが、やはり想像通りで水晶下の空間が決め手のようである。だが一体この僅かな空間とカードを水晶の下に置く事にどんな意味があるのだろうか。些細な不安と好奇心が入り乱れて緊張してしまい手汗が滲んで気持ち悪い。
「そのまま手を水晶に翳して下さい」
すると再び受付のお姉さんから指示が出されると、俺はラジコンのように従うのみで手のひらを水晶へと向けた。
――そうすると水晶が途端に光り輝きだして設置した冒険者の証に次々と文字が書き込まれ始めた。
「うわっ!? な、なんだこれ!?」
その異様な光景に思わず驚愕の声が漏れ出る。しかし一体どんな原理で動いているのか、どうやって文字が記入されているのか皆目検討も付かない。
だがこれがこの世界の魔道具と呼ばれる物ということだけは理解できた。
「……えっう、うそ!? 始めての登録なのに、どうしてこんなにも多くのスキルが!?」
先程まで冒険者の証を眺めていた受付のお姉さんが、突然手を口元に当てながら目を丸くさせて甲高い声を出す。けれどそれと同時に水晶の光は次第に収まり完全に消えると、多分だが書き込みは全て終わったのだろう。
しかし隣では受付のお姉さんが依然として呆然と立ち尽くしているのだが、
「これはもう終わったってことだよな? えーっと、どれどれ?」
水晶の下に置いてある冒険者の証を手に取り何が書かれているか確認する。
するとそこには【自動筋力増強】【初撃の加護】【創世神の祝福】という何がなにやらの意味不明な文字が大量に刻まれていた。これらの他にもまだまだ多く書かれているのだが、解読というか意味が理解できないので割愛する。
そして冒険者の証のステータス欄には筋力や知力や器用などというRPGみたいな細かい項目があるのだが、そこの筋力や体力の項目が既に半分以上も取得している状態であることに気が付いた。
つまりまだ何もしてない状態で俺のレベルは四十五ぐらいあるということ。
厳密にはレベルという概念は存在しないみたいで分かりやすい例えとしてだ。
けれど体力と筋力にステータス全振りは些か脳筋が過ぎるんじゃないだろうか? というか初めて冒険者の証を発行したのにも拘ず、なぜステータスが既にこんなにも荒れているのか。
もしかして俺こそが二周目という存在なのかも知れない……。
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