12話「ギルドは好奇心が満ち満ちる」
街中を徘徊して漸くギルドを見つけることが出来ると俺と深月は気分を上げながら中へ入ろうとしたのだが、運が悪いのか間が悪いかは分からないが中から勇者一行が出てきて危うく鉢合う所であった。
しかし間一髪の所で放置されていた荷馬車の後ろへと隠れることができると、俺たちは勇者一行がギルドの前から離れるまで身を潜めながら向こうの様子を伺うこととなった。
「この世界に来てまだ間もない雄飛様の身が心配です! 下手したら今頃は奴隷商人に拉致されている可能性も……」
勇者一行の魔術師担当のエルザが両手で頭を抱えながらそんなことを言うと、この異世界には奴隷商人なる者たちも居るという情報を得ることが出来た。しかし俺の身だけを案じるのであれば、やはり勇者一行と行動を共にしなくて良かったと思える。
仮に深月が勇者一行に加わることが出来て行動を共にしたとしても、エルザが口にしていた奴隷商人に拉致されても助けることは愚か探すこともしないであろう。そういう口振りにしか俺には聞こえないのだ。だからそこに深月の名前が加わるまで一行に関わることは決してないであろう。
「や、やばいじゃないですか! でしたらこの街の商人を片っ端から尋問しましょう! 抵抗したら、その人が犯人だということです!」
そして盾役のカトリーヌがエルザの横で驚愕の声を上げながら物騒な事を言い出すと、もしかして彼女は物腰の柔らかい口調とは裏腹にゴリゴリの脳筋なのだろうか。
まだ奴隷商人に拉致されたという確証もないと言うのに。
ああ、これから勇者一行に尋問されるこの街の商人たちに謝罪の念を捧げておこう。
本当にごめんなさい。非力な今の俺に出来ることはこれぐらいであり、どうかその身を犠牲にして俺達を守ってくれ。
「ふむ、ならば急いで商人たちから話を聞かないといけませんね」
「ええ、そうね。全員を締め上げて生まれてきた事を後悔させてあげるわ」
カトリーヌの言葉にエイダとエルザが反応を示すと、それはもはや決定事項なのだろうか二人からは命すらも奪いかねない雰囲気が垣間見える。
果たして勇者一行とは本当に魔王を討伐する専門のパーティーなのだろうか。
俺からすれば向こうも充分に魔の存在に見えて仕方ないのだが。
「まじかよ。やっぱり俺の判断は正しかったな。あんな連中と一緒に居たほうが危険な目に合いそうだ」
勇者一行が全員脳筋なのかは知らないが、少なくとも真面な連中ではないことを明確に知ることが出来た。
「この世界の勇者を手助けしてくれってアステラが頼んできた理由は、もしかしたらこういうことなのかもね」
そして隣から同じく一行の様子を見ていた深月が乾いた笑みを見せつつ口を開くと、それは確かにあり得る話かも知れなかった。
だがまだ実力のほどが未知数であるが故に何とも言えない部分もあるのだが、今のあの状態の連中を目の当たりにして魔王を討伐できると言われれば間違いなく疑問が湧くだろう。
しかしこれだけは明確に自信を持って断言できる。あの勇者一行はまじでやばいと。
「……はぁ、漸く移動してくれたな。これでやっとギルドに入れるぜ」
勇者一行という名の危険因子がギルドの前から移動して姿を消すと、何故か不思議と溜息が出るのだがこれは安堵からきているのか自分ですら分からない。
「そうだね。んじゃ、いよいよギルドへとレッツゴー!」
深月が甲高い声を出しながら右手を空へと突き出すと、そのまま俺達は荷馬車から離れてギルドの扉前へと移動した。そして初めてゲーム以外のリアルでギルドという場所に足を踏み入れようとすると、それは思いのほか気分が上がるもので否応なしに心臓が高鳴る。
それから恐らく隣に居る相方も俺と同じく気分が向上しているに違いない。
それは表情を見れば一目瞭然であり、異世界大好きの深月のことなら尚の事であろう。
「入るぞ! 雄飛!」
「ああ、行こう!」
深月が木製の扉をゆっくりと開けると俺達は高鳴る心臓を抑えつつ中へと足を踏み入れた。
「おお……! これがギルドってやつなのか!」
建物内へと足を踏み入れて直ぐに相方が周囲に物珍しそうな視線を向けると、それに釣られて俺も同様に顔を至る方向へと向けていた。
まるで気分は初めて遊園地に連れて行ってもらった子供のような感じだ。
「ははっ、すごいな。ゲームとはちょっと違うけど、どこを見てもファンタジー系の顔をした人しか居ないなっ!」
視界に映る光景は剣や杖を携えた冒険者たちが酒を酌み交わしていたり、クエストを選んでいるのか木製の提示版を只管に眺めている人たちが多く、まさにここがギルドという場所だということをまざまざと思い知らされる。
そしてギルドの中は意外と広くて飯を食べる所などもあり、やはり某ゲームと同じ作りをしているようである。だがこれなら逆に親しみやすそうな雰囲気があって、特に困ることや不安になることもないだろう。
なんなら実家のような安心感まである。そう、なんせ俺はモン○ンを小学生の頃からプレイしていて、機種が変わろうと文句を言わずに続けてきた男だからだ。ちなみに好きな武器は太刀だぜ。
「ああ、この周りから絶えず止まずの話し声が聞こえてくる騒がしい感じ! 実にいいな!」
ふとそんなことを考えていると横から深月が興奮しているのか瞳を輝かせて呟いていた。
確かに冒険者たちの声は野太いものから、か細いものまで数多にあり色々と混ざり合って騒がしいのは事実だ。だけど不快と聞かれればそうでもないのだ。
「色々と気になるところではあるが、今は当初の目的をだな……っと? あれは受付か?」
視線を凝らすと前方に受付らしき場所を発見する事が出来たのだが、隣では未だに興奮冷めやらぬ状態の深月が口を半開きにして棒立ちしている状態であった。
しかしこのまま立ち尽くしていても意味はなく、取り敢えず当初の目的を遂げる為に受付へと移動するべく、意識が飛んでいるかも知れない相方の腕を掴むと無理やり足を進ませ始めた。
けれど深月は自ら歩こうとはせず依然としてなすがままに引きづられていて、異世界のギルドという場所に意識が溶けているようであった。
まさにオタクというのは純粋な性格の持ち主だとは思うが、少々自分の世界に入りすぎな面があるところは否めないだろう。
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