11話「ギルドを発見するが、勇者一行も再び」

 深月が自慢気に人差し指を立たせながらギルドという言葉を発すると、どうやらそこで情報やお金が得られるらしいのだが、ギルドと言われると俺の中ではこれしか思い当たる節はなかった。


「ぎ、ギルド? それってあれか? モン○ンとかでお馴染みのクエストを受注したりする場所のことか?」


 相方の言葉を聞いて直ぐに独自のゲーム脳で翻訳すると、頭の中で導き出された答えはこういうものであった。


「……へ、へぇ意外と詳しいじゃん。殆ど当たりだよ」


 すると僅かな間が空いてから深月が目を丸くさせて口を開くと何故かその声は震えていた。

 しかし俺の答えは見事に的を得ていたようで、


「おっ、それなら良かったぜ。そのまま話を続けてくれ」


 相方の言いたいことが汲み取れると意外と気分が良くて自然と声が弾んでしまう。

 だがそれとは対照的に深月の表情は少し沈んでいるようにも伺えて、どうやら察するに相方はギルドとは何かという知識を披露したかったのかも知れない。


 とどのつまり俺は深月の仕事を横取りしたということ。

 この異世界において相方から知識を先取りしてはいけないらしい。


 今度からそういうことに関しては気をつけることにしよう。

 この場で深月の機嫌を損ねると普通に死活問題となってしまうからな。


 ……にしてもそういうところで気分の落差が垣間見れると相方はやはり可愛いと言える。

 だが勘違いしないで欲しいのだが俺はホモではない。


 今現在の深月の女体化の姿と性格が合わさり、そういう結論に至っただけのことだ。

 そう、だから俺が深月を見て可愛いという感情が湧いても何ら不思議ではない。


 全ては女体化の魔法を相方に施した例の魔女が悪いのだ!

 己、絶対に許さんからな魔女アマ!


「そ・れ・で! ギルドでならクエストも受けれて報酬が貰える上に、酒場で屯している冒険者たちから色んな情報が得られると思うんだ!」


 気を取り直した様子で深月が口を開いて話を続けていくと、最後は腰を落ち着かせていた酒樽から降りて急に顔を近づけて言ってきた。


 その際に女子特有の甘い香りが漂うが、女性というのは標準で皆いい匂いを持っているものなのだうか。これは男の俺からすれば永遠に答えが出ることのない疑問だ。


 しかし深月は自身の甘い香りに気づいていなさそうで、これはもしかして体臭なのではないかという説が浮上した瞬間でもある。


 だが仮に体臭で甘い香りであるならば、女性というのは随分と優遇されているように思えてならない。やはりこの世は不条理ばかりなのではないだろうか。

 けれど今は深月の香りに悩殺されている訳にもいかず、


「お、おう。それは所謂あれだな。まさに一石二鳥という言葉がぴったりだな!」


 今度は相方の気分を良くするように親指をぐっと上げて答える。

 それでも深月のアニメキャラのような顔が近くにあると、なんだが気恥しくて視線を合わせることはできなかった。これが童貞の悲しい部分なのかも知れない。


「ああ、そういうことー。ってことで取り敢えず、この街のギルドを先に探しに行こう!」


 そう言いながら深月は歩き出して路地裏から出ようとすると、今の相方からは全身から自信という覇気に満ちたオーラが滲み出ていて、それは神々しく見えると共に凄く頼りになる存在だと改めて実感させられる。


 まさかここまで深月が頼れる存在になる時が訪れようとは全く想像していなく、俺はもしかたらこの異世界で相方なくしては生きていけないのかも知れない。


 というか異世界知識なんて皆無だから間違いなく野垂れ死に確定だ。

 深月には悪いが一緒に異世界に来てくれて心の底から感謝している。

 ……まあ殆どアステラの気まぐれで巻き添えを受けた被害者だがな。


 しかしそれとは別に深月の自信に満ち溢れた背中を見ていると妙な不安が込み上げて、

 

「……なあ、水を差すようで悪いんだが前提としてこの街にギルドってあるのか?」


 そもそもこの街にギルドという場所があるのかと根本の部分が気になり尋ねていた。


「ふふん、大丈夫さ。大抵ギルドってのは何処の街にもあるんだよ。……まあでも仮になければ僕たちはここで詰みだね」


 俺の言葉をそよ風のように深月は受け流すと得意気な声色で返事をしていたが、後半の部分は聞かなかったことに出来ないだろうか。


「詰みって……。異世界生活まだ一日も経過していないぞ」


 相方から詰みとかいう不穏な言葉が口から飛び出すと急激に不安に駆られて仕方がない。

 異世界知識博の深月が諦めたら本当に終わりな気がするのだ。

 

「まあまあ、いつまでも話していてもしょうがないから早く行くよ!」

「はぁ……やれやれ」


 好奇心が赴くままに歩いているような深月の背を追うようにして歩き出すと俺達は人気のない路地裏から出て、この街にギルドという建物が存在することを願いつつ街中を再び歩き始めるのであった。



◆◆◆◆◆◆◆◆



 それから街中を歩き始めて三十分ほどが経過すると、運が良い事にギルドと思わしき建物を発見することができた。


 だがこれは本当に運が良いと言うほかなく、街中を歩く人々に場所を尋ねることも出来ずに歩いてたのだが、たまたま冒険者と思われる格好をした男を見つけることが出来ると、あとはその人物の後を追うことでギルドを見つけることができたのだ。


 つまるところ運が良いから見つけることができたということ。

 うむ、何も間違いなことは言っていない筈だ。

 そして俺達今現在、ギルドの前で様子を窺っている最中だ。


 まあギルドを見つけたのならさっさと中に入れと言われるかも知れないが、いざ実際に当事者となると存外上手くいかないものなのだ。

 何故ならギルドの出入り口前には先ほど別れた筈の、


「うーん、ここに来ると予想したんですけどね」


 勇者一行のエイダが仁王立ちして周囲の様子を確認している状況だからだ。

 しかし状況の整理を行うとするならば俺達がギルドの中に入ろうとした所で、勇者一行が建物内から姿を現して今に至るということ。


「あ、危なかったな……」

「ああ、まったくだ。運良く荷馬車が放置されていて助かったぜ」


 額に滲む変な汗を手の甲で拭いながら返事をすると、隣では深月が荷馬車の隙間からギルドの方を確認していた。けれど俺達は何の運命の悪戯か幸運の女神に好かれているようなのだ。


 その証拠に勇者一行と鉢合わせになりそうなところで道の端に置かれていた荷馬車を発見すると、光の速さで荷馬車の後ろへと隠れることが出来て最悪の展開は防ぐことができたのだ。


「ああもう……早くどっかに行ってくれないかなぁ……」


 深月が様子を伺いながら独り言を呟くと、どうやら勇者一行に対して完全に苦手意識が芽生えているようだ。だがそれも無理はないだろう。初対面であんな対応されたら俺でもそうなる自信がある。

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