第4話   怨念

        怨 念   秋


             糸


 けたたましい音が鳴り響く工場の雑音とともに、平川の声が電話口から漏れてきた。

表札事件からヒロは有川と鈴木のことが気になってしかたがない。 なぜ中学でもトップクラスの有川と非行を繰り返していた鈴木が、高校の三年間の時を隔て東京で親しげに会っているのだ。 どう考えても接点らしきものが浮かんでこない。

 鈴木が上京してから、今までのことを知りたいと思った。 そこで、鈴木と同じ中卒で就職した平川だったら何かを知っているかもしれないとふんだ。


 その日の夕方、ヒロは平川と高田馬場の駅前で待ち合わせた。 二人は平川の知っている飯屋に入った。 壁にぶら下がったお品書きが黄ばんでいる。 お茶が運ばれてきて平川は焼き魚定食、ヒロは生姜焼き定食をたのむと、お茶を飲みながら平川がヒロの顔をじっと見つめた。

「やあーずいぶん急だなぁ、何か困っているのか? どうしたんだ」

「実はさ、おれさぁー、街で鈴木を見かけてさ」

「あの鈴木か?・・うんうん・・同級生のあのぎょろ目の鈴木だろ」

 平川は、笑いながら、なんだそんなことかと鼻で笑うようにして話しはじめた。

「ヒロ、鈴木をどこで見た?」

「日暮里だよ」

「どんな様子だった」

「何だか暴走族のような奴と一緒で、ずいぶんぺったんこの車に乗っていたよ」

「あー、なるほど・・」

 平川は何度か頷きながら切り出した。

「鈴木も一緒でな、俺ら就職組は中学を卒業してから、就職を担当してくれた赤カブ先生がさー、心配して二年ぐらいは東京に出て来てくれてさ、その時は上京してきた連中で集まって飯を食ったりしていたんだよ。 でもさぁー、だんだん仕事が忙しくなって先生も転勤して来なくなって、集まりも途絶えてきてな」

「そんな中で、仲間の何人かが仕事を辞めて別の仕事に乗り換えたりしてさぁ。 そんな時、鈴木もそれまで務めていた板金屋をやめて、しばらくはぶらぶらしてたようだったよ、俺は何度か鈴木に前の仕事に戻ってもう一度続けるようにすすめたんだけど・・それからちょっとしたら連絡がつかなくなってしまって。 噂によると、何だか街の暴走族に入っているらしい」

「じゃー鈴木は本物の族って訳だ」  

「うーん、本人に確かめた訳じゃないから、本当のことは分からないけど・・」

 平川の話は、埼玉にある暴走族に入ったあたりまでは分かったもののそれ以降は、平川にも連絡のしようがないと言うことだった。 鈴木の話が終わると中学時代の話に花か咲いた。 今度は、時間のあるときに寿司でもつまみながらゆっくり会うことにした。 そして鈴木のことが分かったらすぐに連絡をくれることに約束した。


  *


 平川と会ってから二週間、ジャークでのバイトもあって、もう鈴木のことも忘れかけていた頃、突然の平川から電話があった。

「もしもし、ヒロ、おい、聞いてるか?」

「おー聞いてるよ・・どうしたのよ」

「うん・・鈴木から昨日、電話があってさ・・車の修理を頼んできたのよ、びっくりしたよ」

「おー、その鈴木の車って、前に話していたぺったんこの車か」

「そうだなぁ話からするとその車だ・・修理は仕事だからしょうがないけど、何だか事故って車のフロントがちょっとやられたようだって言ってたのさ、そして、できるだけ安く修理してくれっていう注文よ・・まあ、安くするのはいいとしても、こっちは事故が心配でさ、よくあるんだ事故起こして逃げてる奴が」

「そりゃ、いやな友達でも、一応友達の願いだからな・・まあ、しょうがないよな」

「そうなんだけど、奴ここ一年くらい連絡無かったんだぜ、それが急によ」

 どうも、平川は、鈴木がいきなり電話してきて、勝手なことばかり言う態度を気に入らないらしい。

「まあヒロよ、この間の話もあるし、明日の午後、鈴木が車もって来るんだ。 お前ちょっとうちの工場の方に来てみねぇ」

「おれは、鈴木には嫌な思い出はあっても、全く接点は無いんだけど‥」

「いいから、奴を見るだけでもいいじゃん、最近の奴のことが少し分かるかもよ」

 どうも平川は一人で鈴木に会うことが嫌そうだった、たぶん事故が気になっているのだろう。 ヒロはわざわざ電話をくれた平川の誘いを受けることにした。

「分かった・・じゃ明日の昼過ぎに工場の方に行ってみるよ」


 次の日、高田馬場駅から早稲田通りをひたすら歩いた。大学を過ぎるとやがて左側に間口の広い工場が見えてきた、中に五・六台の車がボンネットを開けて並んでいた。 声をかけて平川を呼び出した。 彼は二階の事務所兼休憩所から降りてきた。

「よーご苦労さん、まあこれでも飲んでや」

缶ジュースをほうり投げてきた。

「わるいなぁー」

「すごいな、工場結構大きいんだ、お前も実際修理やってんの」

「ああ、三年もしたらとりあえず一人前だよ、でもまだまだわかんねぇこといっぱいあるけどな・・もうすぐ鈴木が来るよ・・やろうどんな顔してっかな・・今回の修理は冬に滑った事故らしいぞ、それを今までテープで押さえてたんだってさ」

「その車って、鈴木の車かよ」

「まあ、来てみなきゃわかんねぇなぁ」

 二人でいろいろ想像していると、エンジン音をうならせ、さらに何かを引きずるような音を響かせて、遠くから近づいてくる車がある。「あれじゃねぇ」いち早く見つけて平川が店の前に出た。 テープでフロントバンパーが留められているが、車が揺れると小刻みに震えている。 傷だらけの車が爆音とともに入ってきた。 止まると同時に浅黒い顔にリーゼントの鈴木が窓から顔出した。平川が回り込んで運転席に近づいた。

「よー、久しぶりだなぁ、まあ派手に壊れているなぁ」

「なんとかなんねぇかなー、去年の冬に雪で滑ってやっちゃたのよ」

「どこでやったのよ」

「帰った田舎でさ」

「何で直ぐに持ってこなかったのよ、もう一年なるじゃん」

「・・金無くてな・・」

「お前、今何をやってんの」

「時々頼まれ仕事して、稼いでいるよ」

 どうもすっきりしない話し方だ。 平川が、反対の助手席側にいるヒロを指さした。 鈴木がゆっくりと振り向いた。

「お前、ヒロ知ってるよな」

 鈴木が、窓ガラス越しに手を挙げているヒロを見て。

「あーあー、弱っちい奴な・・覚えてる覚えてる・・たしかヒロだったな」

 そこで平川がちゃちゃを入れた。

「けっこうお前らは、みんなにいやがらせしたりして、きらわれてたもんなぁ」

「うるせーなー」

「ところで、この車エンジンの音おかしいぞ」

「そうかよー」

「ちょっと乗って走ってみせろよ」

 車に平川とヒロを乗せてエンジンの具合を見ることになった。 ヒロは後ろに載り、平川が助手席に乗ると鈴木は爆音を響かせて、うなり声を上げて走り始めた「もっと静かに走っていいから」と平川が何度言っても、鈴木はアクセルを空噴かししながら走行した。

 ヒロは後部座席で、蛇行を繰り返す度に前後左右に振られた。 その度につっぱたり、引き寄せられたりとシートや天井など触れるところをひっぱたり、押さえたり、足をつっぱたりと終始、乗らなければよかったと後悔しっぱなしだった。 そのうち、さっき食べたラーメンが戻ってきて、口の中が酸っぱくなった。

 もうすぐ工場というところで、急ブレーキがかかったと思ったらタイヤがロックして車の尻が大きく振れた。 ヒロは思わずシートと背もたれの間に指先をぎゅっと突っ込んで足を突っ張って体を支えた。 体が右前に遠心力で振られ、さらに深く突っ込んだ指先がシートと背もたれの間の奥まで差し込まれた。 すると何かに触れた。車は大きく右に蛇行した。その弾みで指先のものが出てきた。 つかみ上げると灰色の砂が絡まったような五センチくらいの棒だった。 思わず何かシートの部品を引きちぎったと思い、尻のポケットに入れた。何とかごまかして無事に工場に着いた。

 停止すると、ヒロは具合が悪くなって顔色が真っ青になった。 平川と鈴木に吐きそうな顔を向けると、鈴木がにたにた笑いながら、馬鹿にしたように「お前帰ったら」と吐き捨てた。 急発進、そして蛇行運転にヒロは酔ってしまった。 平川は真っ青になったヒロを見かねて、「ヒロ、お前帰ったら・・後で電話するから」と心配してくれた。

 鈴木は「なさけねぇーっ」とつばを吐くように言った。

 ふらふらしながらヒロはアパートに戻った。夕方、平川から電話があった。

「大丈夫だったか・・あんな運転しなくてもいいのになぁ・・お前が乗ってたからいいとこみせようと思ったんじゃねぇのかなぁ・・免許取ったばっかりらしいから。 それより、奴を見てどう思った?」

「かなりいかれてんなぁ・・奴は今何かやってんのかなぁ」

「何だか先輩っていう奴と、主に土建屋でバイトしてるんだって、それに時々頼まれた仕事をして暮らしているらしいぞ」

「土建屋のバイトであんな車をもてんのかよ」

「あーそうそう、あの車、鈴木のじゃなくてその先輩の車らしいぞ、事故ったのもその先輩だって」

「それからさ、暮れに鈴木の実家に二人で行ったのは、去年の冬のことでつまり一年くらいもあの傷をテープで貼っていたんだ」

「ふーん、奴中学の時は悪でもあまり目立たなかったよなぁ、どっちかと言えばあの当時はSが頭でさぁ」

「そうそう、YとNが二番手だよな。他に取り巻きもいたよな、その中でも鈴木の奴はどんケツの使いぱしりってとこかなぁ‥」

「そうそう、奴、昼飯のおかずいつもYとNにとられていたなぁ・・時々おれの隣で目に涙ためてたくせによー・・それがあんな偉そうに」

「でもよ・・今一緒にいるその先輩っていう奴がすごい奴で、その道じゃかなりのものらしいぞ・・だから奴もいばってんのよ」

「おい、ちょっとまて、さっき去年の冬って言ったよな」

「そうだよ」

 その話を聞いてヒロの頭の中で繋がるものがあった。 『そうだ、グレーだ、おれたちがノーマークだったグレーな奴がいた』・・平川にはまた後で都合を合わせて会うということで、その電話は切った。


     *


ヒロは興奮していた。置いた受話器をまた取り上げてP介に電話した。 五回コールがあってP介がでた。 ヒロは何だかどきどきして、何か大きな意味をもつ物にぶつかったような気持ちになって、前置きなしに唐突に話し出した。

「雅人が春に来た時に、鈴木が先輩っていう奴と田舎の目抜き通りを流してたっていってたよなぁ・・これでばっちり合う、あの車の事故はおれらの田舎で起こしたんだ」

 ひょんなことからヒロは、しばらくぶりで、お蔵入りしていた放火事件のS・Y・Nの名前に触れた。

「もしかしたら鈴木も平川もSと同じクラスだったのかなぁ」

「今日さ、平川に呼ばれて彼の自動車工場に行ったのさ・・そしたらびっくりだよ、春に雅人が来たとき言ってた・・中学の時に不良だった鈴木のことを」

「あー、あのぎょろ目の使いぱしりの鈴木な」

「平川の工場で、あいつと会ったのよ。奴は族の車を運転していてな」

「なに・・それで鈴木はどんなだった」

 P介はあまり興味がなさそうに、素っ気ない返事を繰り返していた。

「何だか、族の先輩の車がいかれて平川の所に修理にに来たようなんだよ。何だか変にいばっていてよ・・・・」

「そしたらさ、平川がさあ、中学の時の話をしてな、そん時おれ、ぴんときたのよ」

「何がぴんときたんだよ、お前の言っていることさっぱり分かんねぇよー、もうちょっと分かるように話せよ」

「だから、前に言っていたグレーだよグレー、おれたちがノーマークだったグレーを見つけたんだよ・・中三の時、平川と鈴木とS・Yが同じクラスだった。て分かったのよ」

「そんなの雅人にアルバムで確かめたら分かることじゃん」

「お前なぁ、おれたちの中学じゃ卒業アルバム無いんだよ・・知ってたか?」

「うへぇ、そうだったけか・・」

「おれが中三の時、親父が学校の父母会に行って、先生達に「卒業アルバムはありません」って言われて、親父が何で無いんだってただしたら、先生達にあっさり流されて、えらい腹を立てて帰ってきたことを覚えているよ」

「そう言えば、アルバム見たこと無いもんなぁ・・」

「だから、記憶とか、残っている名簿とかしか確かめる術がないのさ」

「分かった・・すると、放火事件の名簿のパズルがまたはまったわけだな」

「そうそうそう言えるかもな」

「でもよ、それがどうしてグレーなわけよ・・何も事件が進展した分けじゃないよな」

「確かになぁ」

「たださー、放火のあった冬の時期に田舎をうろうろしていた奴がいたってことだけでも進展したんじゃねぇーか」

「ただ田舎に用事でその時だけ行ったかもしれないじゃん」

「それもそうだね・・」

「こじつけたい気持ちは分かるけどなぁ、今いち弱いんじゃないか」

 ヒロの中でぐーっと前進したような気持ちになっていたことが、空振りだったことに力が急に抜けてきた。 それからは上の空で話すP介との電話を切った。 そしてまた糸口をさがしてパズルをはめ直した。 しかし何も発見できなかった。


               花 火


 銭湯から帰ると、アパート一階に住む山本さんが、さっき田舎から電話があったことを伝えてくれた。 急ぎの用事かと思い急いでかけ直すと、母が出ていろいろと親父や弟の話しをした後に。

「ヒロちゃん、沢田君のお父さんがね・・どうも亡くなったようなのよ」

「どうしたの、沢田君のお父さんのうわさは聞いていたけど、その亡くなったようなのってどういうこと」

「去年の五月の連休に釣りに行って岩場から足を踏み外したらしい・・そのことはお前も知っているよね、それで海に落ちたままなんじゃないかって・・それでね、もう一年以上になるけど沢田君のお父さんが見つからないのよ・・それで警察も消防も捜索をあきらめてね」

「そうなると、どうなんの」

「ご遺体が無くても、家族から死亡届の願いが出されると、亡くなったてことになるようなんだって・・お前は沢田君と小学校から仲良かったでしょう、沢田君のお父さんからもいろいろ世話になったじゃない、帰ってきて線香上げて沢田君を励ましてやりなさいよ。 こんなことだから正式なお葬式はしないようだしね。 先日、沢田君を八百屋で見かけたんだけど、なんて声かけていいものか・・かわいそうになってね」

 剣道部で額に滝のような汗をかいて練習していた沢田の顔が思い出された、小学校の頃に沢田のお父さんにキャッチボールを教わったことがちらついて、親父を失ない、それもその遺体に会いたくてもどうしようもない沢田が急に哀れに思えて切なくなってきた。

「ヒロちゃん、特急で帰っておいで、香典代だと思って特急代出してあげるから」

「分かったよ」

 次の日の朝、ヒロは田舎に向かった。 とりあえず急いで帰省したためか、気持ちも田舎に戻ったような感じはしなかった。 家で夕食をすませると、沢田の家に向かった。 玄関に立つと線香の臭いが家の中に広がっている。 戸が開いて沢田のお母さんが顔を出した。

「このほどは、なんと言ったらいいか・・」

 沢田のお母さんは、少しやつれて見えた。 奥から沢田が顔を出して。

「やあー、遠くから来てくれてありがとう」

「なんて言ったらいいのか」

「ヒロ、気を遣わなくていいよ、おれたち家族もどうしたらいいのか分からないでいるんだから」

 家に上がって、写真が立てかけられ、その前に線香立てだけがあるテーブルに向かうと(どこかで生きていますように・・)と合掌した。

 沢田と話すと、彼はもう就職していて、それだけが親孝行したようなものだと涙目で言っていた。 沢田の潤んだ目を見ているとヒロも目頭が熱くなってきてたまらなくなった。 ポケットからハンカチを取り出すと、溢れた涙を拭いた。 でも次から次から涙はあふれ出てきた。 長くいればいるほど涙は止まらなくなる。 言葉少ない沢田に挨拶をして帰った。

 その夜遅く、沢田からお返しというのも変だけど、返したいものがあるから明日会えないかと連絡があった。

 次の日の朝、沢田が家に来た、お茶の入った小さなお返しの品を取り出すと昨日のお礼を言った、そして、彼はお茶を啜りながら言いにくそうに切り出した。

「おれ今、警察官なんだ」

 彼は、そう言うとヒロの顔をじっと見た。 ヒロは (さすが警察官、鋭い目になったなぁ)と思いながら。

「えー、すごいじゃないか、良かったな・・親父さんに親孝行ができて」

「うん」

 彼は、まだヒロの顔をじっと見ている。 ヒロは顔をなで回しながら。

「おいおい、おれの顔、変か」

「聞いてもいいか?」

「いいよ」

「お前がさ、昨日家に来て落としていったものがあるんだ」

「えっ、何も落としてないんだけど」

「本当か・・・・これだよ」

 ヒロは、彼が白いハンカチを開いてそこにのせているものをじっと見つめた。 そして思い出した。 平川の自動車工場で鈴木の後部座席で思わず手に掴んでポケットに入れたものだった。

「あっ・・これ・・」

「そうだよ、お前がハンカチを出すときにいっしょにポケットの中から出てきたもんだよ」

「それがどうかしたのかよ」

「これ、柄の長い花火を折ったものだぞ・・知らなかったのか」

「知らないよ」

「じゃどこで拾ったんだよ」

 そこで、ヒロは平川のことや鈴木のことを話し出した。 彼はその話をじっと聞いていた、そして、そのあとで。

「一応お前を信じるとしてだな・・実は、この花火なぁ、この街で冬に起こる放火の時に使われたものとうりふたつなんだよ」

「・・嘘だろう、鈴木の車から拾ったこれが・・放火とかかわりがあるっていうのか」

「まあ、まだわからないし、断定もできないし、世の中には同じものがたくさんあるし、ましてや鈴木が放火の時期にこの街にいたとは限らないしなぁ」

そう言ってから、沢田の目がほんの少し緩んだ。

「うんじゃ沢田、俺どうすればいいのよー」

「うーん・・とりあえずだな、この花火を手にいれた車を明らかにすることだ。 それが唯一の手がかりになるからな・・俺は、この花火を分析して、放火に使われたものかが明らかになれば捜査は進展する」

「なるほど‥」

「おい‥これお前のポケットから出てきたものなんだからな。 本来ならばお前が一番疑われてもいい状況なんだぞ」

「うー・・へー・・」

動揺しているヒロを見て沢田が手の平を下に向けて。

「悪かった、おれもつい興奮してしまってな、疑ってしまうようなことを言っちゃって、ごめん、ごめん」

 沢田の顔はいつものように優しい友達の顔に変わっていた。

「まあまあそう怒るなよ」

「今更そう言われてもなぁ」

「まあまあ落ち着け」

 ヒロは深呼吸して気持ちを切り替えた。

「沢田・・この花火とほんとに同じもなのか?」

「違うものなら何でもないけど、同じものだったら大変なことになるだろうな」

「だって同じものだって、世の中にはたくさんあるだろうが」

「でもよ、わざわざ長い柄を折っているものなんてそう無いよ」

「柄だって折ったのか、折れたのかもわからないだろう」

「だから、そう言うことって、これからの捜査なんだよな」

「うんじゃ・・これからどうするのよ」

「・・・・まず、これを手に入れたときのことを詳しくもう一度話してみな」

 ヒロは平川の自動車工場に呼ばれたところから詳しく話し出した。 時々、曖昧な部分をより詳しく聞こうとして、沢田は話の途中で何度か言葉を差し挟みながら結構長い時間がたった。 ヒロの話が終わると沢田は考えをまとめるようにため息をつくと。

「まず、その車の持ち主の族の先輩の名前と顔写真だな、あとは車の傷が分かるものだ、ヒロ今言ったことどうにかなるか?」

「難しいな、おれが直接接触していることじゃないからな」

「こっちも、放火事件の手がかりが見つかりましたなんて何の確証もない段階で、しかも、ペエペエのおれが本部に言えるわけ無いしな」

「おれは、田舎から動けないし、お前がやるしかないぞ」

 沢田は、ヒロがこのことにしっかり応じるものと思いこんでいる。

「待って、待って、待って、おれは捜査員でもない、警察官でもない、ただの学生だぞ」

「そこは、お前、お前の故郷を荒らす、放火魔を捕まえると思って一肌脱ぐのよ」

「ばかやろう、そんな、それだけやっているくらい暇じゃないって」

「じゃ、この事件の糸口は埋もれたままかよ」

「そう言う分けじゃないけど、できるだけやれるときにやるっていうことなら、協力してもいいよ」

「んじゃ決まりだ、できるだけ動いて、連絡を取り合って進める。 それからこの花火はおれに任せろ、でいいな」

「そして、もう一つ、族の先輩なぁー、こわれたところの修理をかなり時間がたってからやっているところを見ると金が無くてやらなかったんじゃない。 よほど警戒心の強い奴だってことだ、十分に気をつけな」

「分かったよ、気をつけて・・ちょっとだけ協力する」

 警察官の友達の沢田は、その他にちょっとしたアドバイスをして、お茶を三杯もがぶがぶ飲んで帰って行った。

 昼頃、雅人と会って、沢田のことは伏せて、世間話をしながら田舎で族の車に乗ったとき見た鈴木と族の先輩の顔の特徴や気がついたことを聞いた。 車は車内が見えないようにスモークが張られ、車内はきれいなのにやけに足下が汚れていて、すごくたばこ臭かったと言った。 その後部座席に乗っていた族の先輩は、乗ってからはじめて居ることに気づくくらいに外から見えない状態だったらしい。 重要な先輩の特徴は細身で目が異常に細くて鋭い奴だったとかが分かった。


                  足


 その日の午後、ヒロは母から多めに小遣いをもらって夜行で上京した。 寝不足のまま例によって持てるだけ持たされた食料類をアパートに置くと、P介に電話した。 話が長くなりそうなので昼に新宿で会うことにした。

 新宿のトップスははいつものように人でごった返していた。 そして、いつもの席に落ち着くと沢田に疑われたことを話した。

「すると、その花火が放火の細工に使われたと沢田は踏んでいるわけだ」

「そう、そうー」  

「その火薬の成分が放火に使われたやつと同じだったら、鈴木達ってことになる分けだろう。警察で調べたら直ぐに分かるんじゃねえの」

「だけど・・沢田が言うには、まだ自分はぺいぺいの警察官だから、おこがましくも確証もないのに、これを調べて下さいって上の者にはなかなか言えないらしいんだ」

「それで、お前がある程度調べることになったわけな」

「一つは鈴木と族の先輩の写真、もう一つは先輩の名前、さらに事故車のナンバーやぶつけた部品のかけら、それから花火をなぜ持っていたか、ぐらいかな」

「名前とかは、平川に聞けば分かるだろうけど、どうやって写真取るのよ」

「そこでP介の出番よ、お前カメラ持ってたじゃん、何たって高校時代ちょっとだけ写真部にいたじゃんか」

「分かった、分かった、それはそれでいいよ・・でもよーその族の先輩が現れないと取りたくてもとれないじゃんか」

 ・・・・二人はとりあえず、鈴木とのとっかかりを付けてくれた平川にまた合うことにしたにした。 ヒロもP介も何だか、誰かの役に立つ仕事にありついたような気持ちになって、心の奥底では何かが燃え始めた気がした。 しかし、二人には今までの放火の被害にあった名簿との関連についての疑問がまだ残ったままだった。 ただ平川と会ったことでも、パズルの方の進展は特になかった。


 次の日、P介と高田馬場駅で待ち合わせをして、平川のところに足早に直行した。工場につくと、平川は運よく見えるところで仕事していた。

「よっ・・おはよう」

「おうー、どうした」

 平川はP介を見て珍しそうな顔をした。 知らない中ではないけどそれほど親しいとは言えない。 P介も平川もぎこちなく挨拶を交わした。 それでも、平川は目立たない存在だった自分のところに、二人も友達が尋ねてきてくれたことでまんざらでもない様子だった。

「ところで平川、あの鈴木の車、修理終わったの?」

「終わって裏にあるよ・・・・今日の三時頃、取りに来るって言ってたな」

 それを聞いて思わずP介とヒロは顔を見合わせた。 (チャンスだ)平川は工場裏に導いて鈴木の出来上がった車を指さした。 壊れてぷらぷらしていたバンパーがきっちりとついていた。

「きれいに直ったね・・」

「バンパーそっくり取り替えただけだよ・・ガ゙ードレールにぶつけた事故だっていってたから、中のほうには歪みがあってな直すのに結構お苦労したよ」

「壊れたバンパーなんかどこに捨てるの」

「はら、あそこの大きなごみ箱に、ぽいだよ」

 P介が巨大なゴミ箱に近づいて中を覗いてい見ると、中に車のバンパーが無惨にもいくつかに破壊されて捨てられていた。 そうしている間にもヒロは平川から族の先輩の手がかりを探ろうとしていた。

「中学の時、頭だったSとかYとかNは今どうしているの?」

「Sは、中学卒業してしばらくこっちには来なかったようだけど、ちょっとしてから築地の方の料理屋に修行に入ったようだぞ」

「なんていうところよ?」

「よくわかんねぇけど、川崎に就職した秀樹が知っていると思うけど、今はもういそこにはいないらしいよ」

 ヒロが、きれいに仕上がったボディーを撫でながら。

「ところで、このきれいになった ×6-△3 の車は、やはり族の先輩のもの?」

「そうらしいなぁ」

「その先輩のなんて言うの?」

「なんで」

「この間、あんな運転を鈴木に教えた先輩、どんな人かなって興味あるじゃん」

「そりゃなぁーすごい運転だったからな」

 平川も興味がわいたみたいで。

「どれっ・・どうせ手渡すときに本人を確認しなきゃならんからな」

 そう言うとダッシュボードから車検証を手に取ると、確認した。思わずヒロもP介後ろから覗き込ん。

「星川昭人、埼玉県川口市××西○○・・」

「先輩、星川さんって言うんだ」

 P介は、さっとその場から離れて後ろを向くと、ゴミポイの中をのぞき込むようしてメモした。 そしてヒロに目であいずした。その時、工場から平川に声がかかった。 それを潮時に帰ることにした。

 二人は高田馬場まで急いで戻ると、P介と、とりあえず住所と名前が確認できた成果を確かめた。 しかし写真とバンパーの回収がまだなことをどうするか考えた。 あのゴミ箱に捨てられたバンパーが回収業者に持って行かれたら終わりだ。 二人は午後にもう一度平川君の工場に行くことにした。するとP介が。

「おれ、部屋に戻ってカメラ持ってくるよ、今日、星川が車を取りに来るんだよな」

「でも、来るの鈴木だけかもよ」

「でも、もし来るのが族の先輩だったらカメラなきゃどうにもならないじゃんか」

 二人は、P介のアパートのある三鷹へ急いだ。



               確 信


 P介とヒロは、作戦をたてた。まず工場の裏に隠れる場所を探す、車を取りに来たところをそこから写真に撮る。 その後工場の休憩時間にバンパーを回収することに決めた。

 二人はさらに細かな打ち合わせと準備に入った、カメラに感度の高いフィルムをセットしたり、バンパーを持ち帰る大きめのゴミ袋を用意したりして、気持ちを高めると再度高田馬場に向かった。

 高田馬場駅で時計をみると午後二時、ゆっくりと自動車工場に向かった。 表通りをさけて、工場の裏手に出ると修理を終えた車が見えた。 周辺の状況を確認すると工場の裏手にかなり敷地の広い古い家があって、大小様々な庭木が植えられている。 しかも生け垣に壊れている所があり、植木の隙間に紛れ込めるところを発見した。 工場の隣の事務所の非常階段の下に古くなった家電が積まれており、そこからは車の見えるがあまりに狭く人一人が隠れることができる場所だと分かった。 生い茂った庭木の間からシャッターを切るには最適に思われるところでP介が待つことにした。 それとは対面し、工場の隣の非常階段の下でヒロは隠れることにした。

 待つこと十分がたったが、工場の裏からは時々人が出てきて、車の廃棄物を捨てに来るのが続いた。 二人は位置の確認を終えると、そこを離れて二時四〇分過ぎにスタンバイすることに決めた。 二人は少し離れたところで待った。

 二人は通りの端に出て、行き交うW大学の学生を何気なく眺めた。

「P介、やっぱりW大はあこがれか?」

「あー、でもよ今は大学の名前じゃなくて、今の自分のフィールドで何を頑張るかだと思っているんだ」

「自分の中にW大という存在があるから、頑張れることがあると思うんだよな。」

「いいよな、おれなんかそんな思い無いから自分の考えがふらふらしてんのさ、うらやましいよな」

 何気ない話とともに時間はやってきた。 「時間だ、ぬかりなくやろうぜ」と声を掛け合う。 二時四五分、二人は工場裏手の所定の位置にスタンバイするとじっと待った。 何度も時計を見て長針の動きがやけにゆっくり感じる。

 工場裏のドアが開いた。 「来た」と緊張がマックスに達した、と思ったら従業員がゴミを捨てに来るところだった。 何事もなく過ぎ去ると、またドアが開いた。身を乗り出して確認すると、今度も従業員だった、P介の方を見ると、右手を振って「違う」と顔をしかめて合図してきた。 時間は三時を五分過ぎたがまだ現れない。 いらいらがつのって気持ちが崩れそうになったとき、ドアが開いてジーパンにスカジャンを着た星川が平川と共に現れた、そして後から黒いトレーナーを着た鈴木がついてくる。 車の周りを何度か回って正面で角度を変えて何度か見ていた。 P介の目にはファインダーごしに見る星川は、拡大して見え、その一挙手一投足をとらえることができる。星川の埋もれてしまいそうな細い目がどこを見ているか分からない。 一度切れると手がつけられなくなりそうな凶暴な表情が見え隠れする。 笑っても笑っていない表情、時々右の口をつり上げる癖が彼をさらに凶悪にする。

「かんぺきだなぁー」

「よし・・いくら」

「会計は事務所で、書類作ってあるから」

 ヒロのところには会話が断片的に聞こえる。 三人はドアに消えて行った。ヒロはP介の所に急ぐと。

「撮れたか?」

「あーなんとかなぁ・・ほら戻れよ、またすぐ戻ってくるぞ」

 ヒロは急いでもとの所に戻った、程なくしてキーを振りながら彼らは戻ってきた。

「何かあったらまた頼むよ」

「こんな事そう何度もあったらだめだよ」

「でもよー、ほんとまた何かあったら頼むよなー」

 ヒロの所に、車の側に立っている三人の会話が聞こえてきた。

 二人は、車に乗るとエンジンをかけ、何度かふけ上がりを確認すると、平川に手で軽く合図して出て行った。平川まもなく工場裏のドアを閉めると消えた。

 ヒロは急いでゴミ箱に駆け寄ると、捨てられたバンパーを取り出しにかかった。 結構、いろんな物の下敷きになっていて、なかなか取り出せなかったが、ゴミ箱の中に体ごと入れると何とか取り出した。

 そこにP介が来て、ゴミ箱の中の写真を撮り始めた。 思い切って引っ張り出した。テープの貼られたバンパーは二つに折られて捨てられていた。 急いでゴミ袋に入れると、P介とその場を立ち去った。 その後ひたすら目白のアパートへ急いだ。


 その晩、沢田に電話した。調べるのにP介の力を借りていることを付け加えながら、ことの詳細を報告すると、直ぐに写真とそのバンパーを送ってよこせということだった。  「暮れの放火のあった日にガードレールにぶつけて逃げた車があったらしい」その事故との関連をも含めて後はおれの仕事だとも言っていた。 おれたち二人は直ぐに送ることを約束した。 そして、沢田にかねてからの疑問をぶつけた。

「おい、ところで沢田はこの事件の動機はなんだと思っているのよ」

「んーっ、んーっ、それもこれからだなぁ」

「やはりお前も分かんねーのか」

「そうだよな・・」

 電話をP介がヒロから奪い取ると。

「おーいしばらくP介だ。 ここ数年放火された家の共通点なんか調べて無いのかよ‥そんなことから何かわからねーかーなぁ」

「おれたちは、まだそこまで調べてないよ・・これからだな」

「んじゃ、バンパー送ってやるよ、よーく調べてくれよ・・おれたちが調べ上げた成果だからな、頼んだぞー」

「あー分かった、お前達の汗の結晶をせいぜい参考にさせてもらうよ、これからお前達からの物が着いたら、仲のいい警察の先輩にアドバイスもらうよ」

「じゃ頼んだぞ」

「オッケー任せなさい」

受話器を置くと、肩の荷がすっかり下りたような、力が抜けていく気がした。

 それから数日、写真の現像が上がって、きれいに写っている星川と鈴木を封筒に入れると、古いシーツでぐるぐる巻きにしたバンパーの間に挟むと、段ボールで不定形にぐるぐる巻きにしてテープで留め、さらにビニールひもで縛り上げた。 目白駅のそばの日通から発送した。 すると「後は待つだけ」という気持ちが広がり、ゆったりした気分に全身が包まれた。



           Sを探して (しんじ)


「もしもし、ヒロか、おーい何だか昨日、田舎の警察が来て、例の星川と鈴木についていろいろ聞いていったぞ、何か奴等やばいこと起こしたようだな」

 受話器の向こうから聞こえてくるのは平川の声は興奮した声だ。 どうも沢田がついにしっぽをつかんようだ。

「何聞かれたのよ」

「壊れたバンパーを修理したのかとか、いつ、どこで起こした事故で壊したのかとか、何か修理して気がついたことはないかとかだったかなぁ・・その通りを言ってやったよ」

「奴等やっぱり、何か悪いことしてたんだな、警察が来るんだから」

「車が工場に入ってきたとき、お前もいたからって言っといたから、警察、お前の所にも行くかもよ・・それによ不思議なんだけど、壊れたバンパーの写真を見せられたのよ」

 P介が撮った写真だ。

「かなり前から警察、動いてたからなんじゃないの」

「うーんそうかなぁ」

「まあ、これからどうなるんだか」

「そうだな、あまり気にしないで・・なんたって仕事やめて族に入ってしまった鈴木の責任だからなぁ」

「まじめに仕事して、まじめに生きてらいいのになぁ・・」

「まあ・・ヒロ、まじめなおれと今度寿司でも食いに行こうよ」

「そうだなぁー、奴のこと考えていてもしょうがないからな」

「じゃ、うまいもの食いに行くぞー」

「そう言えば、お前が聞いていたSのことな。・・他の店から引き抜きにあって、今はどこにいるか分からないらしいよ」

「そうなんだ」

「でもよ、どこか繋がりのある料理屋にいることだけは確かかもな」

「何か不良やってた奴等のその後って、何だかかわいそうだな」

「そんなこと無いよ・・一生懸命にやってたら、いつか良い目に出会えるし、そうでない奴は自業自得だな」

「そんなもんか」

「まあ、今度、焼き肉でも食いに行こうぜ」 (あれ寿司じゃなかったっけ)

 受話器を置くと、事件の大きな進展に心が躍った。 その勢いで直ぐにP介に電話した。

「もしもし、平川の所に警察が来たってよ、いよいよ沢田が動き出したぞ」

「おー、いよいよか、これで放火事件の真相が明らかになる分けか」

「平川がさー、バンパーの写真見せられたってよ、お前の撮ったやつさ」

「おー役に立ったか・・やはり事件の切り口は、ガードレールの事故か」

「そうだよな、花火は、はじめから出せないよな」

「後は、しょっ引いて、年末年始の行動を追求するんだろうな」

「たぶんな、あとは警察が掴んでいる情報を屈指して追求するんだろうな」

「まあ、良かったな、お前が沢田の親父さんの供養に行かなかったら、こんなこんなことになってないよな、それに平川のところで奴等の車に乗ってなけりゃなぁ」

「偶然が重なったようなもんだよな」

「お前、いつも変なところにいるよな」

「おれ、行きたくて行っている分けじゃないんだけどな」

「偶然って、お前の運命なんじゃないか、あるいは、沢田の親父さんが引き寄せたのか」

「まあ、どうかな、いいことも、悪いこともあるからな」

「まあせいぜい気をつけなよ。巻き込まれたりしないようにな、結構お前って瀬戸際にいるからな」

「ああ、とにかく今回の件は、かなりの進展があったよ。直に解決に向かうでしょ」

「後は結果待ちか」と期待を込めて短い電話を終えようとしたとき。P介が続けた。

「おい、それでもよー、動機が何だか分からないままじゃんか・・それじゃ解決したことにならねぇなぁー」

「それもそうだよな・・何かすっきりしないのはそのせいだよな」

「やっぱさ・・この際、鈴木に近かった奴に会うしかないんじゃないか」

「うううん・・・・Sか?」

「Sのこと、築地の料理屋で修行していたらしいって平川がいってたよな」

「ふふん、そうすると今のところ、どこにいるか比較的わかりやすい状況にあるのはSだけになるだろうなぁ」

「でもよーSってあの当時、頭(ヘツド)だぞ・・踏み出し辛いし、話しづらいような?」

「そんなこと無いと思うぞ、一応料理屋に務めていたんだし、もう大人だしいきなり殴るなんてことはないと思うぞ」

「そうか・・今回は・・まずP介が最初な」

「ああ、いいよ」

「よし、こうなったらからには・・探してみるか」

 P介とヒロは、線の薄い手がかりに、光を求めてSを探すことにした。

 一週間後の午後、P介とヒロは新橋にいた。 目指すは周辺の老舗日本料理屋だ、歩き回り何件かの店を見つけた。 しかし、二人が思っていたような、直ぐにのぞけるような店ではなかった。 入ったこともないような構えや格式の高さに圧倒されてしまったからだ。

 二人はどうしたものか途方に暮れた。 しばらくは歩道にたたずんで打開策を考えはじめた。 目の前では黒塗りの車から降りて料亭に入る身なりのいい人達が行き交う。 二人はとりあえず一軒の料亭の建物の前で中から誰かが出てくるのを待った。 しかし、客の出入りはあっても、女将さんのような人以外の従業員は一切出てこない。 「困った」二人はあきらめ気味に門から離れて、それでも誰か出てくるんじゃないかとふり返っていると、突然、門から離れた、全く別の裏の方の塀に空けられた小さな扉が開いて、白い調理衣に前掛けの若い従業員が出てきた。 どこかに行くようだ。P介とヒロは顔を見合わせると追いかけて声をかけた。

「あのすみません、お聞きしますが、ちょっと前までこの辺の料亭で働いていたSっていう人を探しているんですが、ご存じありませんか」

 若い板前さんは、同年代と思うと期待がふくれてくる。

「申し訳ありません、おれ今年入ってばかりだから、前のことは分かりませんよ」

「あー、どうもありがとうございました」

 がっくりした二人は、急ぐ若い板さんの後ろ姿を名残惜しそうに見送って、また裏口に視線を戻した。

「おい・・P介、裏口だよ」

「どうもそのようだな・・さっき確かめた店に戻ってみないか」

 二人は、先ほどの店よりもさらに古い構えの店の前に立った、店の脇を回って裏木戸を見つけ出した。 しばらくその木戸口で待っていると、中から調理衣姿の中年の板さんが出てきた。思わず駆け寄って声をかけた。

「あのすみません、お伺いしたいことがあるんですが?」

 突然声をかけれておじさんは、びっくりした顔している。

「すみません、ちょっと前までこの辺の料亭で働いていたSっていう人を探しているんですが、ご存じありませんか」

「ああーところで君たちは?」

 二人をじっと見ながら警戒でいっぱいの目を向けている。

「あーすみません、僕たちはS君の同級生です。彼に伝えたいことがあって尋ねてきました」

「あー同級生の人達ね‥そうか、S君のね‥もう彼はここをやめたよ。いい奴だったよ」

 おじさんは昔を思い出すかのような懐かしい顔をして。

「近頃には珍しい、いい若者だったよなぁ、言っておくけど自分からやめたんじゃないよ、他の店に、請われてしかたなく移ったんだ、いい奴だったよ」

 P介とヒロは、おじさんの言葉に、これがあのSの評価かと耳を疑った。

「あのー今はどこにいるかご存じありませんか?」

「あー、知ってるよ‥そうそう今は人形町の『田菊』って店にいるよ」

 二人の顔が喜びに気色ばんだ。思わず口をついて二人そろって「ありがとうございます」

「どうもありがとうございました」

 調理衣の板さんは二人の丁寧な受け答えに微笑んでいた。


 日が傾きはじめた。二人は急いで人形町を目指した、地下鉄の駅から地上に上がると人形町は夕闇に包まれ、すでにのれんを出した店からは明かりが漏れてきていた。

 とりりあえず、目についた不動産屋に入ると「田菊」という店をきいてみた。オウム返しに返事があって、一本裏通りの角にあるらしい。 路地を曲がると店の看板が見えた。 思っていたより意外と大きい店で、ガラス戸ごしに中を覗くと広く長いカウンターにはすでにお客が数名座っていた。 どうも寿司屋の雰囲気があったが、お品書きには寿司以外の品も貼り付けてあった。 そんな白木の清潔なカウンター中で、てきぱきと働くS(しんじ)がいた。 他に3名の板さんが見えた、P介とヒロはガラス戸越しに中の様子をうかがった。

「よー、あの顔見たか‥昔のしんじとは大違いだよな、あんな笑顔どこに隠してたんだ」

「びっくりだな」

 すると、暖簾をくぐろうとする客がヒロ達に向かって「この時間だったら席、開いているよ、入りなよ」と声をかけてきた。 その勢いでP介とヒロもお客と一緒に暖簾をくぐった。

「いらしゃい」「いらっしゃいませ」「へい、いらしゃい」

 中から威勢のいい声が帰ってきた。カウンターで顔を上げた、しんじと目があった。 しんじが声のトーンを落として、しばらく珍しいものでも見るような顔してカウンターの中で呆然としていた。 親方がしんじとP介とヒロを交互に見ていたがしんじに何か声をかけると、カウンターからしんじが出てきた。 手にはビールとグラスののったお盆を持って彼は微笑んだ。

「やー、いらしゃい・・P介にヒロだったよな」

 別人のような彼に何が起きたのだろう? 不思議な気持ちで、ぼーとしていると、しんじは親方にまた何かささやくと、P介とヒロを奥の影になった小上がりに案内した。

「おい、まずあがってゆっくりしな・・ビールでもやりな」

「うん。まあーな」

 P介とヒロは顔を見合わせて、ばつの悪いような間があった。 しんじは絶えず笑顔だ。

しんじは、二人の動揺を見透かすように。

「お前達が尋ねてくるなんて思ってもいなかったよ、いったいどうしたんだ」

 見透かされて、まるで先輩のような話し方だ。

「いや、その、なんだな」

「どうした、言いづらいの分かるよ‥おれが、お前でもそうだと思うから‥」

 ヒロはめんどくさいいろいろなことを一気にはしょって、今感じている疑問をぶつけた。

「うん、しんじ君いったいどうしたの」

「いや‥ただ目覚めたっていうか、やり直ししているだけよ。そんなに深い意味はないよ」

「だって、昔はあんなだったのに」

「そんなに俺ってひどい奴だったかな・・・・わるかったなぁ」

 しんじは二人に軽く頭を下げた。 下げられた二人は、なんだかすごく居心地が悪くて。

「いやいや、そんな・・昔のことだし・・気にしちゃいないから・・大丈夫だよ」

 彼と昔話をすれば (あの時は殴られて、金とられたよなぁーとか、脅されてやった数々の悪事が思い出されるばかりだ) だから会話にならない。 P介とヒロはこっちも気を入れ直して、ずっと昔の友達と偶然会ったような気持ちで話しするしかないと思えてきた。

「実は今日来たのはさー」彼はP介が話す言葉を、じーっとしてゆっくり待っている。

「実は‥鈴木のこと聞きたくて来たんだよ」

 彼の顔がちょっと曇って、眉が片方が上がった。P介は思い切って話し出した。

「最近分かったことなんだけど、鈴木がこの暮れに田舎で、車の事故を起こして、逃げているらしい。 だから奴を警察が追っているようなんだよ」

 ちょっと間があってしんじが。

「そうか奴は警察から逃げてんのか」

 しんじはちょっとP介から視線を外すと、壁に視線を移して、深呼吸ほどの間を取って。

「奴な、一週間程前になるかな、ここに来たよ‥それもえらいこわい奴と一緒にな」

 こんな所で鈴木の足取りに触れようとは思わなかった二人は、思わず前のめりになった。

「何しに来たの?」

 一瞬、息を止めてから、しんじは胃の中から吐き出すように話し出した。

「その時は、店のおもてで話したんだけど、奴、金を貸せって言うのよ。 それもなあ‥  しんじはその時のことを話し始めた。



        「鼻 骨」  (しんじの話)  ***


 はじめは、店の外に呼び出されてな。外に出るといきなり鈴木が話し始めたよ。

「しんじさんよー、元気ですか?」

 はじめは、懐かしい思いもあったが、話し方がおかしかった。

「昔は、いろいろと世話になりましたねー、よく使いっ走りをさせていただいてありがとうございましたー」

「でもよー、昔と今は違うんだよー‥しんじさん、えー逆転だよ逆転。少しは自覚しろよ。 あの頃、おれは悔しかった。 あんたらに、つくしても、殴られて、蹴られて、痛かったよー」「ああー、サブだったN(ナオト)のところには、もう行ってきたよ」

「奴は、ちょっとこの木刀で脅したら、泣きながらすぐにおれらの言うこと聞いてなあ。 あんな弱っちいナオトを見たのはじめてだよ・・気分、良かったねー」

「なあーしんじさんよー、あんたにはすげー貸しがあるんだよー、分かるかーだからさ、二・三十万円でいいよ、用意できねえかなー」

「鈴木、お前、誰にもの言ってんだ、あー」

「しんじさんよー、今のおれは昔とは違うんだよー・・あのナオッころ(N)はさ、顔を腫らして泣きながら許しを請うて、金を持ってきたよ・・こちらの先輩もおれも、今金に困ってのよ、あんたこんな立派な店で働いて羽振りも良さそうだし・・少しめぐんでくれよ」

「お前らに渡すような金はねぇーよ」

「そう言わずに出せよ。昔こき使ったくせによー」

 そう言って、鈴木は持ってきた木刀を握りしめて、しんじに向けて威嚇の一振りをくり出した。 奴の後ろには、目の細いあぶないやろうがひかえている。 (こりゃ、この粋がった鈴木をたたきのめさないと、次もその次も何回も来るなと思った。 とりあえず、斜め右上から振り下ろされた木刀を数センチでかわした) がら空きになった奴の顔面に踏み込んで腰を回しながら一発をたたき込んだ。

 するとバキッって音がして、奴は鼻から血を出してもんどり打って路上に倒れた、そして両手で顔面を押さえてうなりはじめたよ。

「いてーよー、いてー、許さねー、絶対許さねーぞ。いてーよーおれを馬鹿にした奴等を・・ふっぇふっぇ・・覚えてろみんな・・燃やしてやるからなー」


 すると目の細い奴が前に出てきてな、そいつの目を見たときは寒気がしたよ。 こいつ喧嘩慣れしてんなって思って、おれも真剣に構えたね・・にらみ合いがしばらく続いたよー。 奴の細い目が開いてなぁ、気持ちが悪く光って、蛇のような目があらわれたよ。 ぞーっとしたぞ。 鈴木が大声で騒ぐもんで、店の中からおやっさんが出てきて止められたわけよ・・あの目の細い奴はいったい何者だ?

                  * 

 しんじの話はおおよそこんなものだった。「いらっしゃいませ・・へい、いらっしゃい」カウンターの方から景気のいい声がしてくる。

「奴って、この男か?」

 P介がポケットから写真を出した。しんじはびっくりした顔して。

「なんで写真があるんだ。お前ら何してるんだ」

「鈴木とこいつは一緒に、警察から逃げてるようなんだよ」

 ヒロは、今まで放火のことを調べていたら、どうも友達の家が多くて狙われていたことに気づいたこと、そして、ほぼ一年前の暮れ田舎での車の事故で放火の疑いがかかったことなど、車の修理から足が着き、警察が調べ始めていることをかいつまんで話した。

 それを聴いたしんじは、納得したような顔して、話しの続きをはじめた。。

「ふーんなるほど、たぶん奴らに間違いないな」

「まあー、関係あるか分からんけど、俺の話しを聞いてくれ」

「さっきの続きだけど、ナオトが心配になって、直ぐに連絡すると『鈴木が行くぞ』っておれに電話をいれるところだったとかでな・・その前に、ナオトはめちゃくちゃにやられて、ここ数日間寝たきりだったらしい」

「お礼参りって言うやつ・・」

「そんなカッコいいもんじゃないなぁ」

「その後はここに来たのか?」

「そうだろう」

「やろうが連れてきた、さっきの写真のあいつは誰だ?」

「こいつは、暴走族でもかなり危険な奴らしい・・星川って言ったかなぁ」

「鈴木って、星川のバックがあるからいきがってんのさ、奴は昔の同級生にそんなに恨みをもってたのか?」

「ありゃーすげえなぁー何かがのりうつったみたいで、とてもまともじゃなかったぞ・・気違いだなありゃー、でもよぉ俺には何となく鈴木がああなるのが分かるような気がするところがあるのさ」




             **  回想 鈴木 **


「あの頃なー」

「なんてったって見つかった悪事は、みんな鈴木のせいにしたりしたしな」

「中三も最後の頃な、おれはさ、周りのみんなが高校進学だとか騒ぎ始めたときに、このままつっぱていていいのかって疑問がわいてきてな。 表面上はナオトやY(ユキヤ)や鈴木と悪してたけど、実際の気持ちはナオト達とは薄くなってな、どっちかっていう一人でいることが多くて・・学校休みがちだったんだよ」

 しんじは話しながら、額に汗をかき始めた。

「だからおれが外れてからは、ナオトやユキヤが鈴木をめちゃくちゃ使って好き放題していたと思うぞ・・・・卒業してしばらくはおれは左官屋にいたけど性に合わなくて辞めたよ・・それから上京して、おれは今のところに落ち着いたわけ」

「ナオトはおれより遅れて上京して、はじめ建設現場で働いてな、後は職場を転々としていたはずだ。 住んでいるところは錦糸町だったはず、行ったことも無いし、滅多に電話もしなかったし。ユキヤは先生のお情けで私立に進学したけど途中で退学してさ、野郎も後から上京して来たけど、今は、建築関係の仲間をたよって、たぶん北陸の方にいるんじゃないか。 奴については電話もわかんねえよ」

「今回、鈴木がおれの所に来たのは、ナオトに聞いて来たのだと思うぞ」

「じゃ、次はユキヤじゃねー」

「ユキヤの居所は、はっきりしてねえからな・・心配いらねーと思うけどな」

「でもさ、野郎は逃げるために金が必要だから、結構必死で追いかけると思うよ」

「鈴木達はまだ警察に捕まっていないんだ、奴等はたぶんかなり追い詰められているんだろうから」

「しんじの所に来たということは・・・・あっ、わりぃー、しんじって呼び捨てでもいいか?」

「かまわねーよ、おれもう気質 (かたぎ)だからな・・」

しんじが照れ笑いを浮かべた。

「それで、鈴木と星川が自分の知り合いという知り合いを全部歩いて、しんじのところが最後だったと思うよ・・」

「そうだろうよ・・奴等もぎりぎりのところで逃げ回っているんだろうからな・・これからは何やるかわんねぇなぁ」

「ところでしんじの実家も火事になったんじゃないか」

「そうだよ・・ついこの間なー、・・んっ・・えーっ・・あれ、鈴木の仕業かよ・・」

「おっと忘れるところだった・・あぶねえーあぶねなー」

「しんじくん、火をつけられたのはお前の家だけじゃないのよ・・調べてみたらナオトもユキヤもTもその他にもな」

「本当か? こうなったら、奴を・・早く捕まえないとな・・奴は病気だぜ・気違いだ」

「やはり、次に行くとしたら、ユキヤのところじゃねぇ」

「さっきも言ったけどユキヤは、今は行方不明で北陸方面に行ったところまでは覚えているけど、誰もわかんないのよ・・」


店の方からまた「いらしゃいませ、こんばんは・・今日は早いですね」と声がしてきた。しんじは居心地が悪そうに。

「あまり長くも話せないから・・また今度な、なんか進展があったら電話くれよ、ほとんど夜はこの店にいるから、それ以外はここに電話くれ」

と言って、ささっと連絡先を書いて仕事にもどった。

 しんじの話は迫真に迫っていて、P介とヒロは、つがれたビールにも手をつけられずにいた。積み上げられた事件の大きな何かが崩壊しはじめていくような気持ちになった。P介がグラスをもって、ため息混じりにさらりと言った。

「放火が中学時代の『鈴木の恨み』だったとはな」

「奴の中で、深く、強い憎しみに変わったんだな」

 P介にもヒロにも、本当の鈴木は分からない。それに、鈴木だけでなく星川との関わりもはっきりしない。しかし、何かが動き出したことはひしひしと感じた。

 しんじは変わった、別人を演じているうちにいつかそんな別人が本当の自分になっていく。平川君が言っていた「一生懸命にやってたら良い目を迎えるし、そうでない奴は自業自得だな。頑張るしかない・・」ここにその通りの現実があった。

 ここは、しんじの大事な仕事場、長居もできないので、親方に礼を言って「今度また来る」って彼の新しい顔に別れを告げて店を出た。

 帰り道、P介とヒロは警察の捜査はいったいどこまで行ったんだろうか、疑問を持った、もうすでに逮捕されてもいい頃だろう。 動機はつかんだのか? 恨みの強いユキヤへの関与も気になる。 まずは沢田に電話して聞いてみることにした。


               *


 次の日、沢田電話すると。

「もしもし、沢田もう鈴木達を捕まえたのか?」

「まだだよ・・そっちの警察とも連携して動いているけど、あいつらのアパートに踏み込んだら、もぬけのからだし」

「星川や鈴木の暴走族仲間の家もしらみつぶしにつ当たったけど、三日前まで居たとか、昨日まで居たとかで、みんなタッチの差で取り逃しているよ、まあ立ち寄りそうな所を張っているけど、今のところ引っかからないな」

「なんだ、奴等の田舎での足取りは分かったのか」

「今、目撃者なんかを捜して確認して詰めているところだよ」

「お前、何か参考になるようなこと分かったのか?」

「放火は凶悪犯罪だから、お前の方でも何か分かったら、直ぐに教えろよな」

「分かった。とりあえずそっちで逮捕したら教えてくれよなぁ」

「ばかやろう、警察が一般人に言えるか、とりあえず警察の新聞発表待ってろ・・んまぁ・・注意して頑張ってくれ。おれも何かあったら電話するから」

 そういって電話が切れた。沢田達、警察は中学時代の交友関係や「恨み」を問題にしていないようだ。 でもナオトやしんじのところに行ったのは、逃走に使う金だけだろうか? 「恨み」だったら鈴木達は必ずYを探し出すはずだ。 やはりYの居所がポイントになるだろう。それにしんじのところにもう一度来るだろう。

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