第3話 よろしくぅ♪
あの後、職を失った俺はバイトに勤しんでいた。朝に肉体労働、夜はコンビニバイトをして金を稼ぐと言うのを決めた。
それにしても......コンビニバイトというのは素晴らしいものだな。
覚えることは確かに多いが......余ったコンビニ弁当を食べても良かったり、それなりに給料ももらえるのだ。
今現在無職の俺からしたら、一食だけ浮くのは結構ありがたいのである。
当分はこのバイトでいいだろう。
「.......ん?」
目の前にお酒が置かれた。
ともなれば.......顔を見るのが優先か。
相手が未成年者であるならば、20歳になるまで飲ませてはいけないからな。
そして顔を確認すると.......見知った少女の顔があった。
「......お客様、当店では未成年者にお酒を売ることは禁止しております」
「.......なにしてんの?」
「未成年者にお酒を売ってしまうとこちらも問題になってしまうので.....出ていってもらいませんか?」
「......あたし未成年者じゃないんだけど」
「うそん!!??」
まじかよ.....俺より年下だとは思っていたが.....正直18とか19だろうと考えている自分がいた。
「というより!!なんでお前ここにいるんだよ!バイトしてるところにわざわざ来やがって!ストーカーか!?もしかしてストーカーなのか!?」
「ただの偶然だよ......やっぱり、会うべくしてあったんだよあたし達は」
「あ、ただの偶然なのね......」
自分のストーカーだと思ってしまう自意識過剰がとても恥ずかしい。
きっとあとで悶えるんだろうなぁ......とか考えていると。
「一体どこに行ったのかと思ってたけど......まさかこんな所にいるとはね」
「というかよぉ......お前の家からここのコンビニ。結構距離あるんだがやっぱりストーカーじゃない?」
「違うよもう......あたしは友達の所に遊びに行ってただけだよ」
「歩きで?」
「うん」
「お前夜中に1人で歩くなよ......」
普通に危ない橋をわたる少女である。
「大丈夫だよ、あたしそれなりに強いよ?柔道黒帯だし」
「そりゃすげぇ......でもそんなことするなよ、お前だって1人の少女なんだからな」
「........」
少女の動きがいきなり固まった......いや、微妙に動いているのか?でも一言も話さなくなったなこいつ.......。
一体なんなのだろうと考えていると、少女は再び喋り出した。
「......あっぶねぇ....双葉好き好きパワーが溢れ出す所だったぜ......」
「怖いわお前.......」
いきなり俺の信者に逆戻りした少女に思わず俺はドン引き......だってしょうがないよね。怖いんだもの。
「全く、そういうことはあまり女の子に言わないほうがいいよ。濡れちゃうから」
「そんな異次元の話しないでくれない??せめてもう少しわかりやすい日本語で話してくれよ」
濡れるってなんだよ濡れるって.......あ、もしかしてそういうこと?.......無視に限るな、うん。
「というより......だ」
「というより......?」
普通に忘れていた、危ない危ない。
「悪いが俺仕事中なんだわ......お喋りはまた今度でいいか?」
「シフト終わるのはいつ?」
「今は23時半だから......ちょうど30分後だな」
「じゃあその辺で待ってるよ」
「暇だろ、やめとけやめとけ」
「スマホで電子書籍でも読んでるよ」
なんやかんやそいつは酒を戻しに行き、人の邪魔になら無さそうなところでほんとにスマホを弄り始めた。
「.......あれ、そういえば」
ずっと俺はあいつのことを「この少女」と呼んでいたが.......俺、名前知らなかったなと、ふと思うのだった。
「YouTuberって、悲しい職業だとも思わないか?」
「ん?なんで??」
俺はさっきコンビニで買った肉まんを食べるそいつにそんなことを聞いた。
「YouTuberっていう文化は確かに浸透した......でもそういう動画を見ない人たちからしたらどうあがいても印象が変わらないというところだよ」
「なるほどねぇ......まぁしょうがないよね、どうしても社会人に比べて人と接する機会が少ないのは事実だしね」
「実際問題どうなんだ?」
「人それぞれ.....だと思うよ」
「というと?」
人それぞれ......というとYouTuberの種類の違いのことだろうか。企画系とゲーム系ではまた違う.......みたいな。
「人を信用できるかどうか.....ってところかな」
「......ん?」
「確かに動画をとるのにも労力を使う......だけど大変なのは編集もなんだよ」
あぁ......なるほど、俺は言いたいことを理解した。つまりこいつは
「編集者を雇えるかどうかの違いってことだな??」
「そゆこと.....あたしは自分でやってるけど結構大変だよ。字幕入れるところから時間がかかるからね」
「へー.......そうなんだ」
正直言って.......俺はそういうのがあまりよくわからなかった......だって、集中していたら気づいたら数時間で終わっていたのだから。
「だからこそ......あたしはあなたが怖い」
「怖い?」
「あのクオリティーの動画を毎日投稿なんて、人間業じゃない」
「まぁ......俺にはその才能があったってことだろ」
「そう思うのなら再開しようよ!動画投稿!」
「嫌だよめんどくせぇ.....」
全く......この少女もこりないもんだよな、ほんとに。
まぁ......それほど思われてるんだって思ったら、結構うれしいんだけどな
「というよりも......お前は編集者は雇わないのか?」
「なんかこうさ.....あたしの場合見ず知らずの人に頼るのが嫌というか......多分あたしの希望に添えないと思うからさ」
「希望?」
「あたし自身も編集は凝るほうだからさ、それなりの腕を持ってる人じゃないと信用出来ないというか.......いや、でもそうじゃん」
「どしたよ、急にそんな見開いて」
少女はいきなり何かを思いついたのか、目を見開いた顔をしていた
「あなたは前.....プライドが許さないという理由で私の援助を断った....だったら、私が雇えばいい話じゃないの?」
「どういうことだ?」
「あたしが....あなたを雇うんだよ、編集者として」
「それ、は.....」
「それだつたら罪悪感を沸かないよね?だって私が雇ってるわけだから」
「でもなぁ....申し訳ないじゃん」
少女は詰め将棋のように俺をどんどん追い詰めてくる。
「そんなこと思わなくていい!あたしの動画全てを編集するんだから!楽なんてもんじゃないんだよ!!......どう?申し訳さなんてなくなると思うけど?」
「はぁ......分かった。いいよ、やるよ」
「ほんと!!??」
「あぁ.....ホントだよ」
俺のプライドより彼女の思いが勝った.....ただそれだけの話だ。
「ちゃんと.....俺に給料を支払えよ?」
「安心しなよ、絶対に不満がないお金をあげる」
全く......あぁ、そういえば聞いておくか。
「お前の名前は?」
「輪廻!あたしの名前は輪廻だよ!!よろしくね!」
「そうか、じゃあ輪廻.....よろしくな」
「うん!!よろしくぅ!♪」
こうして俺らは硬い握手をした。
まさかこんなことになるとは......でも、悪くないなと、俺はそう思うのだった。
─────1人のヤンデレによって逃げ道が断たれたことも知らずに
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