第2話 一緒に暮らそうよ、りとさん
その日の夜、俺はその少女の家を尋ねていた。
「まさか、当日にくるとは......」
「暇だったんでな......それにしても、1人で暮らすにはデカすぎるんじゃないか?この家」
尋ねたのはなんとタワーマンション.......そして部屋が俺の家の3倍ぐらいでかい.......こんなの、どっからどう考えても広すぎるだろう。
「お金が有り余ってるんですよ、私結構金持ちですし」
「ふーん......その年でか?」
実際に年齢を聞いたわけではないが......おそらく大学生くらいの年齢だとは思う。
少なくとも俺よりは年下の.......はず。
「あぁ......言ってなかったね。あたし、YouTuberなんですよー?」
「YouTuber!?親が大富豪だったとかそういうわけでもなく......!?」
「はい、その通りですよ。」
おいおい......まじかよ。親が大富豪とかそういうわけじゃないのなら、自分でこの家を買うぐらいの金をYouTubeで稼いでるっていうことになるんだが......
「.....数年前、あなたが動画投稿をしていた時。あたしは精神が落ち込んでいる時にあなたの動画を見つけて、そして尊敬した。それをきっかけに始めたんですよ」
「ガチかよ.......人生、何が起こるのかわかんないもんなんだな」
まさか俺に憧れてYouTubeを始めた結果がバズってしまったということか.......とんでもないな。
「そういえば......さっきから無理に使ってるような敬語だが大丈夫なのか?俺は一向にタメ口でも構わないんだが」
「あれ?そう?じゃあタメ口で接することにするよ」
「あぁ、そっちのほうが接しやすい」
見た目的に敬語合わないんだよな.......失礼だけど。
「それで?十中八九予想がつくが俺に何を聞きたいんだ?」
「じゃあ遠慮なく聞くけど.......なんで動画投稿をやめたの?」
「単純な話、俺が動画投稿をしていたのは趣味な訳だったが......単純に飽きただけだ」
俺は......嘘と真実を織り交ぜて話す。そうするのが一番上手い嘘のつき方だからだ。
「動画投稿をしていたら広告がつけれるようになったからつけたし、そうしたら予想以上にお金が入ってくるようになった。」
そう......動画投稿をしていたら自然とそうなる......が、とある事情で続けられなくなる。
「それで、高校、大学を終わらせて社会人という立場になった。それで俺は動画投稿する時間がなくなったから投稿をしなくなった......それだけの話なんだよ」
「......そうだね、あなたの動画は凝ってた。今のYouTubeには動画の編集で、スタイルだった......その当時の流行にのるわけでもなく、本当に自分のために動画を作ってて、本当に趣味でしかないんだなという感じだった」
そうだ......俺の動画はそういう感じだった。仕事でやってる人だったら、お金を稼ぐために、人気を得るためにその当時の文化にのろうとするだろう......だけど俺はそれをしなかった。ただの趣味でしかなかったから。
「でもそんな凝った動画でも.......あなたは投稿ペースも早かった。できるだけ毎日投稿で、遅くても3日に1日程度だった......でも、あの高すぎるクオリティーであれを作るのは....すごいとしかいえない」
「そんなに高クオリティーだったか」
「うん.....まるで映画みたいだったよ」
今をときめくYouTuberにそんなことを言われるのは少し嬉しいものがあるな。
「お前は一体どんな動画を作ってるんだ?」
「うーん......色々かなぁ。ゲーム実況だったり、あなたのようなにもチャレンジしてるって感じかな」
「ちなみに顔は出しているのか?」
「顔は出してないよ。実写とる時も隠してるし、Vtuberもたまにしてるよ」
うへぇ......ガチでいろんな分野に手を出してるなこいつ。俺だったら絶対に無理だな.....頭こんがらがるし。
「......ちなみに登録者数は?」
「101万人」
「......!?......!?」
「いや顔だけで会話しようとしないでね??伝わるけどやめてね??」
「伝わるんだったらいいだろ」
「あたしはあなたのかっこいい声も聞きたいのよ」
うわぁ......目が完全に信者のそれだぞ。
「というより、すごいなそれは.....俺なんて3万人程度。そんな人が俺のファンだったなんて......感慨深いよなぁ」
「なに今はもうあなたのファンじゃない言い方をするのさ......あたしはいつまでもあなたのファンだよ。あたしが好きになった人なんてあなたぐらいだしね」
「えぇ.......」
「でもそれと同時に.....あなたの動画も好きなんだよ。だからあたしはあなたに動画を作って欲しい」
こいつのその思いに......俺はもう応えることが出来ない。
「無理だよ.....それは」
「なんで?その理由は?」
「もう何もかもないからだよ.....金も、時間も、じゅ......何もかもがないんだよ」
そう.....本当に今の俺には何も残っちゃいなかった。そもそもとして、あんな昼間に外を出歩いていたのは.....
「俺が行ってた会社はブラック企業だった.....でも、その会社は先日倒産した。どこからかな圧力を受けてな」
「それは......」
「でもまぁ......スッキリしてるんだよな。俺を散々苦しめた会社がなす術もなく倒産になって」
そう......本当に清々しかった。だって、あの会社はずっと俺をあそこに閉じ込めたんだからな。
「......生活はどうするの?そんな状況になって」
「まぁしばらくの間はバイトを掛け持ちするしかないよな......お金ないし」
まぁだからたくさん面接を受けに行かなきゃいけない......正直めんどくさいが、飢え死にするのも嫌なんでな
「まぁもう聞きたいことは聞いたろ?じゃあ俺はもう行くから」
俺はそう言ってその場を去ろうとすると
「ま、待って!...あたしが、あなたを養ってあげる!」
「......養う、というと?」
「さっきも言ったけどあたしには金が有り余ってる!だからあたしが養ってあげる!」
少女は興奮しているのか顔を赤くしながら、声を荒げながら言った。
「そしたら時間があるし、お金をわざわざバイトで稼ぎに行く必要なんてない!だからあなたは動画に専念することができる!だから.....また動画を作ってよ!!りとさん!」
「.......正直ありがたい申し出だ.....だけど年下の女の子に養われるなんて俺のプライドが許さない.....そんじゃあな」
そうして俺はその場を去った......あのままあそこにいたら誘惑に負けそうだったからな。
「もし......俺がYouTubeを続けていたら、あんなふうになれたのかな?」
まぁ.....それは無理だな。
もし続けれたとしても.....あぁなれるのはごく一部の人だろう......と、俺はそう結論つけて、とぼとぼと歩くのだった。
「想定外だった......いやでも、あなたらしいともいえるのかな、りとさん」
少女はベランダから光のない目でとある少年を見つめていた。
「珍しく計画通りだったんだけどねぇ......あなたが通ってた会社を潰して、会った時もまるで偶然かのように演じた」
家に連れ込むまでは完璧だった......だが、彼の人が良すぎるところが逆にダメだったのだろう。
「さてと......あたしから逃げれると思わないことだよ?......双葉おにーーーさん?♪」
あとがき
こいつら嘘しかつかねぇぞ.......
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