エッセイ デンマークカクタスのつぶやき
阿賀沢 周子
第1話
私は多くの人に「デンマークカクタス」と呼ばれている。「シャコバサボテン」とか「クリスマスカクタス」と言う人もいる。
学名は「シュルンベルゲラ トルンカタ」。サボテン科だ。原産地はブラジルの高山で多年草。
花の大きさ、形、色はさまざまである。私は大振りで花冠の直径は手のひらを上回る。深紅とショッキングピンクの花弁を持ち、自分で言うのもなんだが、華麗で艶やかだ。
この家の10号鉢で生かされている。女主人は、植物を育てるのが大好きだ。お陰で毎年、初夏に豪華な花をたくさん咲かせる。
実は私は、隣の家の玄関アプローチにいた。株分けされたのでも花泥棒されたのでもない。
20年以上前、台風が過ぎ去った翌日、この家の玄関先に落ちた一片の葉っぱ(茎節)だったのだ。
拾った彼女は、名前も知らず、そもそも上下がわからない私を、興味津々、小さな植木鉢に植え(寝かせ)た。逞しさが取り柄の私はなんとか生き延びて、数年後に初めて花をつけた。
彼女は私に見惚れ、図鑑で名前を調べた。育て方も勉強していたが、子育てをも過保護にしない性格が合っていたのかもしれない。水遣りを忘れる。剪定しない。植え替えしない。忘れた頃にがっつり手入れをされる。
冬の間は、階段の踊り場にいる。女主人は、水の加減を見るためか、生きているのを確かめるためなのか、下り上りに茎節に触る。
このところ私の頭からは、根詰まりや水不足の合図であるひげ(気根)が出ているが、気づいているのかどうか。
エッセイ デンマークカクタスのつぶやき 阿賀沢 周子 @asoh
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